機関誌「観光文化」

平城遷都千三百年 (観光文化 198号)

平城遷都千三百年 (観光文化 198号) 全文無料公開中

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特集 : 平城遷都千三百年
    ―日本の歴史と未来を考える

 明年、藤原京から「奈良・平城京」に遷都して千三百年を迎えます。奈良では今年末から来年一年間、「平城遷都1300年祭」として記念イベントが予定されます。今号では、「平城遷都千三百年―日本の歴史と未来を考える」をテーマに、東アジアと交流した国際都市・平城京の歴史と文化を振り返ると同時に、未来に伝えるさまざまな取り組みを紹介します。

発行年月
2009年11月発行
判型・ページ数
B5判・32ページ
価格
定価1,540円(本体1,400円 + 税)

※本書は当サイトでの販売は行っておりません。

[巻頭言〕平城遷都1300年祭に寄せて 財団法人文化財保護・芸術研究助成財団 理事長  平山 郁夫

 万葉の歌人・小野老は赴任先の太宰府で遠い都を想い、誇らしげに
 「あをによし 寧楽の京師は 咲く花の 薫ふがごとく 今盛りなり」
 と歌い上げました。この都こそ平城京です。持統女帝に続く三人の女帝が君臨したのも、この都です。その意味では平城京は、日本史上では特異な都だったかもしれません。しかし、人々は国造りに燃えていました。中国をはじめとする大陸からの文化を取り入れ、これを消化・吸収し、新たな国家の基礎とすべく努力していたのです。その裏にはさまざまな人間ドラマがありました。そうしたドラマを見つめてきたのが、東大寺であり、薬師寺であり、唐招提寺など今日に残る古寺です。歴史の証言者たる古都の寺院は一九九八年にユネスコによって世界遺産とされています。
 私は戦後間もない一九四七年に東京美術学校(現・東京藝術大学)に入学しました。当時は、せきを切ったように押し寄せてきた欧米文化の波に誰もが翻弄されていました。質・量ともに圧倒的な力を誇る外国の文化の前に自己の行く先を見失っていたとも言えるでしょう。美術の世界も例外ではありませんでした。
 このような世情のなか、二年生の時に研修旅行で私は初めて奈良を訪れました。古寺の境内の超然とした静寂なたたずまい、そこで仰ぎ見た御仏の御姿は歴史の語り部としての矜持そのものにも見えました。飛鳥、天平、白鳳の仏教美術の粋に接し感銘した私は、祖先の築き上げた美意識を継承し、それを発展させ後世に伝えることこそ自分たちの使命だと思ったのです。すべてが今では懐かしい思い出ですが、若い駆け出しの画学生に奈良が大いなる勇気を与えてくれたのは事実です。
 その奈良で「はじまりの奈良、めぐる感動」を合言葉に古の都をしのぶ祭典が開かれます。私も日本の礎を築いた祖先への敬意を込めて、今から祭りの輪に加わることを楽しみにしています。しかし、祭りの華やかさに浮かれてばかりはいられません。開発という名のもとに進められる破壊、年とともに進む文化財の風化や劣化……等々、古都の抱える問題は山積しています。平城京遷都千三百年という記念すべき年にあたり、私たちは叡智を出し合い、この難問に取り組むべきだと思います。
 私自身、おののきにも似た感情を持って古寺の御仏に接した画学生の気持ちに戻り、奈良へまいりたいと思っています。

掲載内容

巻頭言

平城遷都1300年祭に寄せて P1 平山 郁夫

特集 平城遷都1300年 ―日本の歴史と未来を考える

特集1 東大寺大仏と東アジアの平和 P2 保立 道久
特集2 正倉院宝物と大仏
  ―聖武天皇・光明皇后の愛と悲しみ P6
西山 厚
特集3 「平城遷都1300年祭」の開催に向けて
  ―はじまりの奈良、めぐる感動 P9
福井 昌平
特集4 「なら国際映画祭」を通じて奈良の魅力を世界に発信 P14 河瀨 直美
視点 MICE推進アクションプラン
  ―都市・観光地とMICEのかかわり方 P18
朝倉 はるみ

◆連載

連載I あの町この町 第36回 三叉路の知恵
  ―長崎県佐世保市 P22
池内 紀
連載II 風土燦々(9) 町住みのリアル・ハンター(後編)
  ―静岡県浜松市天竜区 P28
飯田辰彦
連載III ホスピタリティーの手触り 57
  インターネットと宿 P30
山口由美
新着図書紹介 P32