アメリカの生んだ偉大な都市学者ジェーン・ジェイコブスが1961年に出した『アメリカの大都市の死と生』は、都市計画の専門家や学生たちに革命的といってよい大きな影響を与えた。ル・コルビュジェの「輝やける都市」に代表される近代的都市の考え方に対して、その問題点をするどく指摘して、新しい、人間的な都市のあり方を私たちの前に示したのである。
この書物の題名で、大都市の死が最初にきて、生があとにきているのはつぎのような意味である。20世紀初め、アメリカには、魅力的な大都市が数多くあったが、それから半世紀経って、1950年代の終わり頃には、このような魅力的な大都市がほとんど死んでしまった。なぜ、アメリカの大都市の魅力が失われ、住みにくい、非人間的な都市となってしまったのか。ジェイコブスは、アメリカ中をまわって歩いて、アメリカの都市のなかには、人間的な魅力をもった都市が数多く残っていることを発見した。そして、住みやすく、文化的香りの高い、人間的な魅力をそなえた都市すべてに共通した特徴を4つ取り出して、新しい都市をつくるさいの基本的な考え方として提示したものである。
ジェイコブスの4大原則の第一が、都市の街路は必ずせまくて、折れ曲がっていて、一つ一つのブロックが短くなければならないという考え方である。幅がひろく、まっすぐな街路を決してつくってはいけない。つまり、人間的な魅力をそなえた都市は路地を中心としたまちからつくられているということである。
ジェイコブスの第二原則は、都市の各地区には、古い建物ができるだけ多く、残っているのが望ましい。まちをつくっている建物が古くて、そのつくり方もさまざまな種類のものがたくさん交ざっている方が住みやすい。第三の原則は、都市の多様性についてである。都市の各地区は必ず2つあるいはそれ以上の働きをするようになっていなければならない。第四の原則は、都市の各地区の人口密度が充分高くなるように計画したほうが望ましいということである。人口密度が高いのは、住居をはじめとして、住んでみて魅力的なまちだということをあらわす。
ジェイコブスの4大原則が人間的な魅力をそなえた、住みやすく、文化の香りの高い都市をつくるために有効な考え方であることは、『アメリカの大都市の死と生』が出てから半世紀近くの間にはっきり示された。そして、世界の多くの国々で、路地をキーコンセプトとして、数多くの魅力的な都市がつくられてきたのである。
(うざわ ひろふみ)