全国各地で観光振興の取り組みが展開されているが、地域内外の人たちの支持を得ながら、まちが持続的に
発展するためには「地元力」が欠かせないといわれています。そもそも地元力とは何なのか。いかに力を引き出し、
それをどのように発展するのか。今号は、地域を支える原動力「地元力」に焦点をあててみます。
【181号 PDF版】
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「地元」には不思議な行動力があった。鎮守社の御輿を担いだり、巡礼者をご接待した り、朽ちた木橋を架け替えたり、ときには一揆を決起した。
昨年、春から秋まで実施された「長崎さるく博」は、まちをぶらぶら歩く(長崎言葉で 「さるく」)という、ただそれだけの博覧会だったが700万人もの人々が長崎を歩いた 。地元の人々が率先して案内したり、まちを挙げてご接待したのが喜ばれたらしい。 長崎では地元民をジゲモンといい、そのなかにノボセモンという血気盛んなリーダーが 何人もいて、いまでも地元力を発揮している。旧正月のランタン祭りから重陽のおくんち に至るまで、まちなかの大小の行事はジゲモンがやり、ノボセモンが引っ張っている。「 まち歩き」もそのようにやった。
「さるく博」では100名近いノボセモン(市民プロデューサーと呼んだ)が結集し、 400名の案内役(ガイド)が4700回のツアーを引き受け、市民劇団がまちなかに繰 り出して演技を披露し、商店は来訪者に「さるきよっとですか」と声をかけ、市民は接待 所を設けて湯茶をふるまい、総数延べ3万人の地元力がこの博覧会を成功させた。
地元力は、土地に沁み込んだ先人たちの気魂が磁力を発し、ジゲモンがそれに感応して 生じるのであろう。その地に腹ばいになったり、自分の足で歩きまわると強く感応するら しい。その所為か、「さるく博」で自分のまちを歩きまわって、長崎の地に感応して地元力を得たジゲモンがわんさと増えた。長崎には、いま、地元力の分厚い層ができている。 ジゲモンのほかにも長崎に十数回通って歩きまわり、長崎に感応してしまったヨソモンも 数多く現れた。地元力の他国応援団である。
近頃は、都市に高層ビルが建ち、道路がアスファルトに蔽われて、人々は土地の磁力に 感応しにくくなっている。いままで都市の近代化は地元力を無視することで促進されてき た。多様性の上に成り立っている地元力は非効率な存在なのだ。しかし、地元力が失われ ると、まちは行動力を失くして急速に衰微する。この事態はすでに多くの都市で進行して いる。 これをなんとか食い止めるには「まち歩き」が有効だと、わかってきた。
(「長崎さるく博’06」コーディネート・プロデューサー)