次世代継承 (観光文化 182号)

2007.03.23

観光文化182

特 集 :次世代継承

高齢化や人口減少などの影響が特に大きい地方では、その経済的な基盤が脅かされ、困難に直面しています。
地域の活力低下をいかに克服し、地域固有の文化をどのように伝え、活用していくのでしょうか。そのキーワードは「継承」。
今号は、歴史的景観・町並み、伝統文化、地域の組織・人といった視点から「継承」を考えます。

発行年月
2007年3月
判型・ページ数
B5判・32ページ
価格
本体価格 1,400円 + 税

【182号 PDF版】
PDF版の転載はご遠慮ください。

[巻頭言]不退の心・・・お水取りの危機救う 奈良大学名誉教授 水野正好 P1

 大和はいま静寂、強まる寒気の中、春日野の鹿も人とともに白い息をはく。その中、またれてきた東大寺のお水取りが始まった。天平勝宝4年(752)4月、娘の孝謙天皇に導かれ聖武上皇と光明皇太后は念願の大仏開眼式に臨まれる。まさに日本に仏教が伝わって以来の大盛儀である。この少し前の2月、大仏建立を授けてきた良弁上人の弟子、実忠和尚は法華堂の北に二月堂をつくり、十一面観音を祀りお水取りの行事を始める。思わしくない聖武の体調の恢復、人々の除災を十一面観音に懺悔することで果たそうという想いで始まったこの「修二会」の儀式は、1年として途絶えることなく今日まで伝えられた。読まれる神名帳や過去帳、音高い走りと五体投地。燃え盛る篭松明の炎と光、華麗の一語につきる達蛇松明の加持跳躍、神秘の若狭井のお水取り。それぞれが人の心に訴え身体にしみる激しい行である。
 1256年つづく長い長いこのお水取り行事にも中絶を思わせる事態は何度かあった。1180年、平重衡が南都を襲撃し大仏殿など主要建物は焼失。年中行事全てが廃絶・中絶の憂き目にあう中、幸い焼け残った二月堂で同心11人が「哀しきかな不退の行法断絶の期来る、たとひ後年に修するも更に何の甲斐あらん、若し寺、本に復せば後、悔いなむ」と立ち上り実修。この「不退」の信念は以降長く寺に息づくことになった。三好・松永の兵火で大仏殿などを焼失した翌1568年もお水取りは行われている。最近の危機は昭和19年、お水取りの最中に練行衆11人の中の3人、援助の人々にも召集令状が来るという前代未聞の事態。8人掛け持ちで辛うじて事態を収束したと筒井寛秀師は記す。敗戦の虚脱感とともに大きな危機だった。
 こうした1256年間の修二会の行事は東大寺のいろいろな記録の中に記されているだけでなく、『二月堂修中練行衆日記』などに連年、参加練行衆の名や人数が書き継がれて今日に至っている。昭和21年の記録者は筒井寛秀師。記録はこの昭和21年までの293冊が重要文化財となり、連年の長い伝統、不退の心を伝える。書き継がれる記録もまた「不退」の心そのものである。時には参詣の人が極めて少ない年が相次ぐ時代も、行事は万民の願いをこめて実施されつづけた。今日の「変化・改革」の声、参加者数を問う社会とは全くの別世界。人のために永世不変、宗教者として時勢におもねない不革護持のつよい「不退」の心が大きく輝く、それがお水取りの行事である。今春1256年、不退の行法に 相まみえる幸せは何ものにもかえがたい私の拠りどころである。

(みずの まさよし)

  • 観光文化 182号
  • 巻頭言
    不退の心・・・お水取りの危機救う 奈良大学名誉教授 水野正好 P1
  • 特集1 歴史的景観・町並みの継承・・・真の先進国となるために 岡崎篤行 P2
  • 特集2 「おわら」の保存振興と次世代継承 三橋重昭 P7
  • 特集3 長浜の次世代継承はイベントで実現 ・・・メンバーを増やし、リーダーを育てる 北川賀寿男 P11
  • 特集4 次世代へつなぐこころ・・・伝統文化の継承を考える 栗田香穂 P15
  • 視点  日中韓三カ国の観光研究機関会議の開催 岩佐吉郎 P19
  • 連載
    連載I あの町この町 第20回 大利根のほとり・・・千葉県・銚子市 池内 紀 P22
  • 連載II 岩倉使節団に嵌まって30年 第5回 国内の歴史ツアーと国際交流パーティー 泉 三郎 P28
  • 連載III ホスピタリティの手触り41 ひとり歩きを始めたスシ 山口由美 P30
  • 新着図書紹介 P32

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