機関誌「観光文化」

仏教ルネッサンス (観光文化 184号)

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特集 :仏教ルネッサンス -お寺と社会の縁起復興

 高度経済成長の果てに心の拠り所を見失ってしまった今日。仏教、お寺さんと私たちはいかに向かいあっていくべきでしょうか。
 「葬式仏教」というイメージを打破すべく寺の活力回復を目指した「仏教ルネッサンス」という動きが始まりつつあります。
今号では、お寺と社会の縁起再生で日本仏教の復興に取り組むさまざまな活動を紹介します。

発行年月
2007年07月発行
判型・ページ数
B5判・32ページ
価格
定価1,540円(本体1,400円 + 税)

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[巻頭言]寺の鐘の音 宗教学者 山折哲雄  P1

 私は今、京都の洛中に住んでいる。早朝や暮れ方に、寺で鳴らされる鐘の音に耳を澄ますことがある。だがそれも、このごろはだんだん間遠になっている。京都でさえそうなのだから、ほかの土地では寺の鐘の音を聞くことなどほとんどなくなっているのではないだろうか。
 童謡の「夕焼小焼」に、
 夕焼け小焼けで 日が暮れて
 山のお寺の 鐘がなる
 ・・・・
の歌詞が出てくる。鐘の音が聞こえてくれば、子供たちよ、カラスと一緒に家に帰ろう、という呼びかけのメッセージである。
  考えてみればわれわれの社会は、近代の幕が上がるまでの千年の間、寺で鳴らされる鐘の音を聞いて毎日の生活を営んできた。起床や労働がそれで始まり、集会が行われ、市場が立った。勤行や作務、そして食事がそれを合図に始められた。
 子供たちの遊び場だった寺の境内も、夜が近づき時を刻む鐘が響けば去らなければならない場所だった。闇の訪れとともに、そこは森と樹林に覆われる静寂の別天地に変貌したのである。
 事情は西欧においても同じだった。どの土地を旅していても、都市や村の中心に教会が建ち、その前が広場になっている。教会が鳴らす鐘の音によって祈りと労働の時が刻まれ、行事や商売の話が始まる。時に犯罪人の刑場へと転換することもあった。京都においても、六条河原などで処刑が行われるときは鐘の音が響いていたのではないだろうか。
  縁日や祭日ともなれば、寺の門前は市をなし、時に喧騒の渦を巻き込んで晴れの舞台に変貌する。ファッションとグルメを競い合う交流の場となった。盛り場の拠点がそのようにしてつくられ、その寺の参道が門前からはじまる巡礼路へとつながり、さまざまな旅のルートが出来上がっていったのである。
 寺院の歴史をはるかに眺望すれば、そんな姿が浮かぶ。寺の上空には、いつでもゴーンという鐘の音が響いていたのである。人々の心にしみ入る、美しい宇宙のこだまだったと言ってもいい。暮らしの中のさまざまな営みを、生き生きとよみがえらせる時の刻みだったのである。
 その寺の鐘の音が、今日、いつのまにか途絶えようとしている。これからの時代、果たしてどんな新しい鐘の音を響かせるのか、寺院には思い切った知恵と工夫が求められているのではないだろうか。

(やまおり てつお)

掲載内容

巻頭言

寺の鐘の音 宗教学者 P1 山折哲雄

<h4特集

特集1 お寺と慈悲ある社会の再生を考える P2 上田紀行
特集2 お寺の原点回帰・・・
  社会に参加する仏教の実践 秋田光彦 P6
山口洋典
特集3 現代に生かす常照寺の伝統と精神 P10 奥田正叡
特集4 語り部歌手と仏教 P14 高岡良樹

連載

連載I あの町この町 第22回
  秘境の発見・・・福島県・檜枝岐村 P18
池内 紀
連載II 明治のジャパノロジスト F.ブリンクリーの「美しい国ニッポン」(1)
  武士道で“入亜脱欧”した若き英国騎士 P24
沢木泰昭
連載III ホスピタリティの手触り43
  社交のきついリゾート P26
山口由美
視点 知られざる南大東島 P28 安達寛朗
新着図書紹介 P32