瀬戸内海とは、本州、四国、九州に挟まれた内海。古来から、畿内と九州を結ぶ航路として栄えた。複数の島しょ群で構成された瀬戸内海は、シーボルトをはじめ数多くの欧米人から絶賛された風光明媚な景勝地でもある。今号では、瀬戸内海の風土、文化的な魅力や、再生に向けたさまざまな取り組みを紹介する。
【189号 PDF版】
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瀬戸内海をこよなく愛する人は多い。皇太子徳仁親王殿下も、そのお一人だ。殿下は水運史がご専門で、国際経済史学会や世界水フォーラムなどで成果を発表され、研究者としても著名である。たまたま私は経済史を専門とし、海洋史観を提唱した研究上の縁があって、殿下の研究から多くを学んできた。
殿下は、中世後期の瀬戸内海の津々浦々を結ぶ舟運の研究でデビューされ、オックスフォード大学では、テムズ川上流のオックスフォードを中心にした一八世紀の水運を研究された。その成果は、御著書The Thames as Highway ― a Study of Navigation and Traffic on the Upper Thames in the Eighteenth Century(Oxford, 1989)にまとめられている。「なぜ、テムズなのか」が話題になったとき、御研究のふるさと「美しい多島海(瀬戸内海)」をイメージしながら、「テムズの水は日本に通じています」と応じられた。
「多島海」といえば、我々はおのずと瀬戸内海を思い浮かべる。西洋人ならばエーゲ海だ。しかし、グローバル化で世界の津々浦々が結ばれるようになった現代、「多島海」は、地球を形容するのにふさわしい。人類史上初めて大気圏外に出たガガーリンは、宇宙の漆黒の闇に浮かぶ美しい星を「地球は青かった」という印象にまとめた。地球が青いのは表面積の三分の二が海だからだ。残りの三分の一は大小さまざまな陸地から成る。どの陸地も海に囲まれており、宇宙から見れば、地球は、青い大海に大小さまざまな島々が浮かぶ多島海である。
エーゲ海も、瀬戸内海も、その意味で、地球=多島海の縮図である。では、どちらが、未来の理想をはらんでいるだろうか。かつて緑の森林に覆われていたエーゲ海の島々は、現在ははげ山だ。古代文明の遺跡とは、文明の墓場の別名である。エーゲ海は過去の文明の海なのだ。一方、瀬戸内海は緑の島々から成る「ガーデンアイランズ」であり、未来の地球文明の理想をはらむ豊饒の海である。
ポスト東京時代に向けて、地域分権が課題である。多島海=瀬戸内海は、大きな島(ユーラシア)の対岸を流れるテムズのみならず、多島海=地球に通じている。瀬戸内海を取り囲む九州・中国・四国・近畿は「海の洲」構想を掲げてはいかがか。「海の洲」づくりは、「水(海)の惑星」地球をガーデンアイランズ(美しい多島海)にするモデルになり得る。
(かわかつ へいた)