八十年以上の歴史を持つ英国に比べると、日本のオープンガーデン活動は始まったばかりです。オープンガーデンは、ガーデニングの楽しみという側面のほか、まちづくりの手法としても広がりつつあります。今号は、オープンガーデンの魅力とまちづくりの可能性を探るとともに、「花と緑のまちづくり」をテーマにした国内外の活動を紹介します。
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【207号 PDF版】
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僕が小さいころは、大きな庭の中にある家が町全体にあったような気がします。
六月くらいになると空が明るくなるほどのホタルが飛び交い、八月になると赤トンボの羽で、空が銀色になっていました。所々に大きな樫の木や桜の大木などがあり、一軒一軒の家が町の中では大切な風景の一部になっていたように思えます。
そして、あちこちには小川のせせらぎがあり、メダカやナマズやいろんな魚がいました。隣同士の人間関係も、僕の家ではたくさんのキュウリがなったらどうぞ、とお隣にプレゼント。そうしたら代わりにトマトがいっぱいあるからともらったり。
また、学校では誰かが先生の机に花を持っていって、僕も家に咲いた花をよく先生に持っていっていました。僕は今の時代だからこそ、もう一度あの風景、あの人間関係を取り戻せたらと思っています。たくさんの花や緑の中で生活することで、きっとみんなが笑顔になると思っています。
そのためには、まずはみんなで木や花を植えようというより、自分自身が花や緑に夢中になって植え、楽しくて楽しくてたまらないと思うこと、それが一番大切だと思います。そうしたら植える所がなくなり、増えた植物を隣近所にお裾分け。そうすることで、花と緑が町に伝わっていくのです。その輪が広がっていくことで、各家庭に庭ができてきます。そうすると、隣の庭が気になります。そして「庭の見せ合いっこ」が始まっていきます。そこから町全体に庭の輪が広がっていくと思っています。家に花や緑があふれることで、地域の景観は美しさを増すのです。
僕の生まれ故郷、長崎県にある雲仙は日本で初めて国立公園に指定された観光地です。あの坂本龍馬も新婚旅行に足を運んだというほど由緒ある場所です。それが火山噴火という自然災害により、一気に客足が遠のいてしまいました。紅葉の季節になると広大な広葉樹林や落葉樹林の森は、それはそれは見事です。そんな手つかずの大自然が残る素晴らしい景色を持つ町を眠らせないために、僕は商店街の一軒一軒の小さな店頭に庭を作るプロジェクトを始めました。そこで暮らしを営む人々の自然への意識を足元から改革しながら、見せる庭の発想を取り入れることで、かつてにぎわったあの時代を取り戻す考えです。
今、日本は災害による未曽有の被害に見舞われ、息をのむほど美しい、日本の自然景観はその姿を失ってしまいました。僕は花と緑が持つ底知れないチカラで、町を復活させていきたいと思います。
(いしはら かずゆき)