機関誌「観光文化」

東日本大震災からの復興に向けて、人の動き、ツーリズムを創造する (観光文化 209号)

東日本大震災からの復興に向けて、人の動き、ツーリズムを創造する (観光文化 209号) 全文無料公開中

※転載はご遠慮ください

特集  東日本大震災からの復興に向けて、人の動き、ツーリズムを創造する
    ―東北の持つ潜在的な「文化の力」を探る

 東日本大震災で被災地では、各地域で育んできたコミュニティーや伝統的な文化を維持していくことの大切さを実感しています。今号では、東北の文化に精通された方々から復興に向けて、“東北の持つ「文化の力」”についてさまざまなご提言をいただき、「文化の力」に潜む今後のツーリズムの可能性について紹介します。

発行年月
2011年09月発行
判型・ページ数
B5判・36ページ
価格
定価1,540円(本体1,400円 + 税)

※本書は当サイトでの販売は行っておりません。

〔巻頭言〕東北の「文化の力」のベクトルを「復興の力」に向ける
~地域文化とコミュニティーのアイデンティティーは人の動きを生む~
 文化庁長官  近藤 誠一

 三月十一日の大震災は、東北の持つ地味だが深い味わいを表面化させた。それは中央の支配を受け続けた歴史であり、貞観の大津波など、三陸を繰り返し襲った巨大津波の考古学的痕跡であり、東北に点在する縄文遺跡である。そして厳しい歴史と自然のなかで伝えられてきた豊かな郷土芸能、とりわけ季節の祭りである。
 これらは、今の日本人の毎日の生き方の表層が、明治維新や戦後の枠組みのなかで設定された、極めて最近の、西欧的な思想に基づいていることを気づかせてくれる。また日本の正史によって描かれてきた古代以来の日本国の奥に、縄文文明という別の日本が重層的に存在することが垣間見えてくる。
 縄文人は一万年間にわたり、狩猟・採集の移動生活を送っていた。やがて大陸から伝わった稲作を基礎とする弥生文化が、中央政府による統一とともに、畿内から東西に広がった。それに最後まで抵抗し、「まつろはぬ(従わない)」人々と呼ばれていたのが、東北の蝦夷である。芭蕉が「光堂」と呼んだ平泉中尊寺の金色堂を建て、百年の平和を達成したのも、蝦夷の流れをくんだ奥州藤原氏であった。その栄華は頼朝によって葬り去られた。近代では戊辰戦争での会津藩の敗北と、白虎隊や二本松少年隊による勇敢な抵抗が思い浮かぶ。
 辺境の人々とされてきた蝦夷がこの間にどうなったのか分からない。しかしそれは、いつの間にか表舞台から姿を消した縄文人と重なってくる。百五十年間で見事に西欧化し、科学技術によって自然を制御しながら快適な生活を送っている現代の我々が、森や海と一体となった縄文人の生活に何か郷愁や憧れに近い感情を抱くことと、これはどう関連するのだろうか? それは日本人とは一体何者なのかという根源的な未解明のテーマに我々をいざなう。
 東北の文化が持つ力は、単なる自然や伝統芸能にあるのではない。西欧文明導入や弥生文明の成立以前から続く、自然と一体になりながら困難を乗り越えてきた歴史がそこに刻み込まれているところにある。そしてそれが東北人の生きざまと日本人にとってのアイデンティティーとを深いところでつなげてくれるところにある。それは我々を日常性から解放し、時空を超えて、二一世紀の人類の在り方について、新鮮なインスピレーションをも与えてくれる。これが復興の原動力になるだろう。
 東北は今、歴史上初めて世界の表舞台に立っている。東北の復興は単に東北だけの復興ではない。それは人類の再生につながるものとならねばならない。


(こんどう せいいち)

掲載内容

巻頭言

東北の「文化の力」のベクトルを「復興の力」に向ける
 ~地域文化とコミュニティーのアイデンティティーは人の動きを生む~ P1
近藤 誠一

特集 東日本大震災からの復興に向けて、人の動き、ツーリズムを創造する
 ―東北の持つ潜在的な「文化の力」を探る

特集1「文化力」を「復元力」につなげる東北の震災復興 P2 北原 啓司
特集2都市文化の力―紡ぎ、つながり、復興へのパワーを生む P6 奥山 恵美子
特集3「絆」で広げる温泉の可能性 P10 遠藤 直人
特集4地域に守られ飲み手に支えられる日本酒の文化
 ―地産多消から地産地消を目指して P15
菅原 昭彦

連載

連載Ⅰあの町この町 第45回 聖と俗 ―和歌山県高野町 P28 池内 紀
連載Ⅱホスピタリティーの手触り 66 真夏のヴェネチアにて P34 山口 由美
新着図書紹介P36