昨年二〇一一年は国際森林年で、国内でも国民一人ひとりが森林の重要性について考える機会が多くありました。日本の国土の六割以上を占める森林は、現在も日本人の生活、文化に大きな影響を及ぼしています。今号は、森の文化に精通された方々と、森と文明、自然と森と人間の関係、体験交流などの視点から、森との共生による魅力ある地域づくりやツーリズムの可能性について考えます。
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【211号 PDF版】
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二〇一一年三月十一日。東北地方を千年に一度といわれる大震災が襲い、一瞬にして二万人近い人のいのちを奪っていった。今や私たちは物もエネルギーも、かつて人類が夢にも描けなかったほど豊かで、また最高の技術を持ち、地震国日本では災害に対しても十分な対応をやっていたはずである。しかし私たちの予測の範囲を超えて、陸中海岸国定公園地域の海岸沿いの港も病院も観光ホテルもあっと言う間に流され、廃墟と化した。私たちはこの不幸な現状をただ悲しむだけではなく、かつて人類が五百万年の地球上のいのちの歴史でおそらく何百回以上もあったであろう地域から地球規模の大変動に耐えて生き延び、発展してきた実績を踏まえ、再び襲うであろう自然災害に耐える“いのちの森”を未来に向かって今すぐできるところからつくることが重要である。
災害に耐える森は地球温暖化の原因となるカーボンの固定にも役立つ。瓦礫を莫大な予算をかけて焼いて、地球温暖化を助長するよりも、生き延びた人たちの思いが詰まった瓦礫のなかで利用できるものは使う。毒は排除する。しかし九〇%以上は廃木、廃材など木質瓦礫であり、地球資源である。この地球資源を土と混ぜてほっこらとマウンドを築き、その上に生態学的な調査を基にして決定したタブノキ、シイ、カシ類などの樹種を選定し、みんなで植樹する。生態学的な本物の森はいのちを守る。そして本物の防災・環境保全林を南北三百キロつくる。年月がたてば個体の交代はあるが、森のシステムとしては次の氷河期まで九千年持つ森は、再び襲うであろう地震、大津波、台風、大火にもいのちを守る防災機能を果たす。また地球規模ではカーボンを固定してCO2削減に寄与する。三百グラムの根群が充満したポット苗をタブノキ、シイ、カシ類を中心に植えて、大きくなって、例えば乾燥重量が二トンだとして、その五〇%は温暖化の元凶のカーボンである。土地本来の主木群を中心に多くのその森の構成樹種を混植して生物多様性を維持する。
同時に森のなかに避難路の機能を持った小道をつくれば南北三百キロ続く自然遊歩道になる。環境省の南川秀樹事務次官らが共鳴してくださっている世界に誇る「三陸復興国立公園」として二一世紀のいのちの森をつくる。地域固有の森は世界に誇る観光資源としてアピールできる。内外から多くの観光客が訪れ、危機をチャンスにつくられた世界で初めての“森の万里の長城”を見習い、学び、さらに癒やし、憩いの場となるであろう。
新年にあたり、昨年の不幸な危機をチャンスに変え、前向きにいのちの森をつくろう。私たちのいのちを守るため、世界に誇る観光資源として今すぐどこでもできるところから。今年こそ足元から確実ないのちの森、九千年残る“二一世紀の森の万里の長城”をつくっていこうではないか。
(みやわき あきら)