②株式会社エイチ・アイ・エス

機運醸成のために、いち早く海外旅行を再開

CMやリアルイベント開催で海外旅行再開の機運を醸成

相澤 昨年5月に、かなり早い段階で海外旅行パッケージツアーを再開されて今に至る状況かと思いますが、これまでの取り組みと今の状況をお話しいただけますでしょうか。
山野邉 HISは海外旅行が基幹事業ですのでコロナ禍はかなり苦しみました。国内旅行や違う事業にシフトしていたのですが、海外に行ける環境になった瞬間には、最初に声を上げたいと、会社の誰もが思っていたのではないでしょうか。
 海外旅行に行っても大丈夫という機運を作ることが大事だと思い、広告も先駆けて再開しました。自社の告知というより、海外旅行に再び行けるようになったことを周知いただきたいというメッセージを発しているイメージでした。
 いち早く欧米を中心に他国では旅行が普通に行われていて、コロナ前と何ら変わりない状況を目の当たりにし、我々旅行会社の役割は正しい情報をしっかり伝えて、安心してご旅行いただける状況に戻していくことが大事だと思いました。
 HISは、海外旅行はまだまだ憧れの時代に、一人でも多くの人に世界へ飛び出してほしいといって始まった会社です。まさに、今は海外に出ていくことの意義を、もう一度感じていただく、そんな時期ではないかと思っています。
相澤 昨年、いろいろなイベントをされてきたのもその一環だったのですね。反応はいかがでしたか。
山野邉 2月のリアルイベント「海外旅行大感謝祭」では、航空会社、ホテル、政府観光局の方々にもご協力いただきました。皆さんも海外旅行が早く戻ってほしい、日本のマーケットを戻したい、しかし、どうしたらいいかという出口を探されていました。どこまで反応してもらえるか分かりませんでしたが、ふたを開けてみると、2日間で延べ一万人以上のお客様にいらしていただきました。
 HISのメインのお客様層だけでなく、50〜60代の方や、週末ということもあって、お子さま連れの方も多くいらっしゃいました。これだけの方が海外旅行の再開を心待ちにされていたのかと我々も体感し、自分たちもうれしい瞬間でした。
相澤 反応が良くなってきたのは、やはり今年に入ってからなのでしょうか。
山野邉 そうですね、大きく動き始めたのは最近ですね。今年に入ってからも、もちろん動いてはいるのですけれども、2〜3月は大きく動き始めました。
相澤 去年の9月にも「リベンジ旅」を展開されていましたが、その頃と比べると反応は全然違いますか。
山野邉 全然違います。昨年5月にハワイツアーを再開したときに動かれたのは、やはりリピーターで旅慣れていた方。そういった方は、ツアーがなくても航空券でご予約されていたという層でした。

 なので、ツアーを再開したといっても、年に一回、海外旅行に行けたらいいというお客様は、そのタイミングで動く気配はなかったですね。その後、いろんな方面を再開しましたがフライトが戻っていなかったこともあって、金額が想定していたより高い。
燃油サーチャージの高騰も相まって経済的ハードルが高く感じられたのかもしれません。
 ただ、昨年の年末ぐらいからテレビでも海外ロケをした映像が流れるようになりました。海外ではコロナ前と同じくイベントが開催されて、マスクもなく集客もほぼフルで入って楽しまれている映像が流れるようになって、徐々に海外旅行に対してのマインドが戻ってきたのを感じました。
相澤 オンラインツアーやオンライン説明会を積極的に行われていたのも安心感醸成のためだったのでしょうか。
山野邉 そうですね。オンラインでの説明会や疑似旅行体験は、リアルに行けるようになる前に、現地を見てもらうことで旅行への意識の醸成や学び、現地を理解いただく用途にもなります。
 あと、説明会では純粋にお客様も現地がどうなっているのか知りたがっていました。現地はマスクをしていないとか、人の往来も始まっていたとかの声は聞こえているけれど、日本はその気配がまるでなくて、目の前で起きていることと世界で起きていることのギャップというのは相当あり、その時期はやっぱり人もたくさん集まりました。期待感と、あと、情報がなかったということかもしれないですね。
 行けるのか行けないのか、ビザは要るのか、ワクチン接種は何回打たなければいけないのか、出国時、入国時で何をしなければいけないのかというのは、日々変わっていったことで混乱が相当あったので、説明会は非常に有効だったのではないかと思います。
相澤 現地に強い御社でなければ、なかなかできないことですね。
山野邉 伝え聞いて話すのではなくて、現地とつないで、現地をそのまま見せて、人が往来し賑わっている所も見せる。それを怖いと感じるか行きたいと感じるかは別として、リアルを見せるというのは、現地に人やネットワークが残っていないとできなかったので非常に大きかったと思います。

コロナ禍で変わる旅行会社に期待される役割

山野邉 もしかしたら、旅行会社の使われ方は変わる可能性もあるかもしれないと思っています。これまでは旅行会社を使うよりも、個人で手配する流れがあって、現在もその傾向はあると思いますけれど、今、現地はどうなっているか知りたいとか、もしくは安心・安全が必要とか、現地で対応してもらいたい要望は、前よりも多い気がします。旅行会社を使う意義は、以前よりも明確にあるのではないでしょうか。
以前の代理店としての使われ方から、旅自体を安心・安全に過ごすために、新しい情報をアップデートしてしっかりまとめて、お客様にタイムリーに出していけるキュレーション的な役割もあるのではないかなと。
 お客様がどれぐらい需要が戻ってくるだろうかという期待と不安みたいなものは、旅行会社にもそれぞれあったと思いますが、思っているよりも旅行会社を頼って来ていただけている感触があります。
相澤 相談方法もいろいろ用意されていらっしゃいますが、ビデオチャットは、コロナ禍でやはり増えていらっしゃるのでしょうか。
山野邉 そうですね。以前もやっていましたけれど、コロナ禍以降は店舗は来店予約制になりました。それでもご存じなくてご来店いただく方もいらっしゃいますので、例えば別の店舗で手が空いているスタッフがいればご対応するという状態にすれば、スタッフはうまく時間を活用できますし、お客様も待っていただく必要もなく相談いただけます。もしくは、例えばハワイに精通したスタッフに聞きたいということであれば、そこでマッチングさせていただくことも可能です。
相澤 これからはそういったところが頼られるようになっていきそうですね。
山野邉 ビデオチャットを始めた頃はなかなかご利用いただけていなかったのですが、今は自然にご利用いただく機会が増えていますので、もしかしたら、旅行会社の店舗の在り方自体も変わっていくかもしれません。店舗に行って予約するスタイルから、家にいても予約ができる、もしくはスマホがあれば、どこにいても接客されているのと同じような環境にできるかなと思っています。お客様のニーズにマッチングしたスタッフが対応できれば、お客様にとってもメリットがありますね。

価格を抑え種類を揃えて今夏の本格回復を目指す

相澤 4 月から「RE:START」が展開されたのは、さらに加速するというメッセージが込められているという認識で合っていますでしょうか。
山野邉 そうです。フライトもまだ戻ってきていないですし、日本自体もまだ壁があるので、これがもう少し開放されるような機運醸成になればと、その意味も込めてですね。あとは、新型コロナウィルス感染症の5類への引き下げが発表されたことを踏まえて、「RE:START」は特に夏の海外旅行を検討していただきたいということで始めました。
相澤 予約は好調でしょうか。
山野邉 コロナ前と比べると、まだまだと思いますけれど、戻っている感触はあります。
 本当はもっと戻ってほしいのですが、フライトと価格の問題は大きく、我々が見てもまだ少し高い感じはあります。それでもこれだけ動いているのは、旅行需要の高さの表れだと思っているので、フライトが戻れば強く戻ってくる予感がします。
相澤 フライトの影響が大きいですね。宿泊施設はいかがでしょうか。
山野邉 以前はフライトもホテルも、日本人マーケットの優位性みたいなものがあったように思いましたが、今は完全に日本対他国です。日本路線はインバウンドの比率が高くなりホテルも海外の方々は早めにブッキングし入金するのに対し、日本は遅い。あとは、滞在日数が短いというのもある。ただ、現地のホテルの方に話を聞くと、マーケット全体のバランスもあるので、必要以上に悲観的に見てはいないです。
相澤 日本人のアウトバウンドが出遅れたことで今は存在感が薄いですが、戻るにつれて交渉力も上がることを期待するといったところでしょうか。
山野邉 そうですね。日本人が海外に行こうとしたときでも全く行けない状況は考えづらいかなと思っています。
相澤 ありがとうございます。ただ、ホームページを拝見すると、思ったより価格を抑えたツアーが出ているので、相当ご努力されたのではないでしょうか。
山野邉 やはり、HISには安さを期待されて来ていらっしゃる方もいらっしゃいますので、できるだけ努力して価格にこだわった商品を出そうとしています。今で言うとLCCが飛んだところを提案させていただきながら安くする行き方もあるし、レガシーキャリアを使う方法もあるということで、商品の出し方自体が変わってきて、思ったよりも高くない価格帯のものも出せていると思います。
相澤 LCCでツアーとして仕立てられるということは価格的にも魅力的に見えます。特に御社は若い方の利用が多いと思いますので、この状況で若い方が海外旅行に行ける機会が得られるというのはすごく重要だと感じます。
山野邉 なによりも、コロナ禍以降、主催旅行は催行していませんでしたが海外旅行は販売し続けていました。そういった取り組みを見て、弊社に期待をしていただいて、お声掛けいただくというケースもありました。
相澤  今のところ難しい方面はございますか。
山野邉  中国ですね。ただ、弊社は5月7日出発以降からは全ての方面がツアー再開になります。

海外旅行市場の復活には業界内での連携が重要

山野邉 我々がいち早く動いたのは、海外マーケットが戻ることで業界自体がしっかり回っていく流れを取り戻したいと思ったため。海外旅行を基幹で取り扱う会社だからこそやるべきことと思っていました。
 それと同じことで、他社とは競争するだけではなくて、旅行マーケットを戻すために、協力できるところは協力すべきと思っています。例えば、JTBさんが走らせている欧州域内でのバス、ランドクルーズという商品を、HISは積極的に販売させてもらっています。一社一社が単独でやるよりも効率的でデスティネーションのためにも海外旅行のためにも、協力すべきと思っています。
 旅行業は相当傷んでいて、人材も不足しています。今こそ協力をしながらマーケットを早く戻す。
 そういう非競争の部分をしっかり共有していくことは、コロナ禍の効能なのかもしれないです。

 

山野邉 淳氏(やまのべ・あつし)
株式会社エイチ・アイ・エス
取締役 上席執行役員
1993年株式会社エイチ・アイ・エス入社。
関東海外旅行営業本部長、準社内カンパニーであるHIS JAPANのヴァイスプレジデント、関西営業本部長、法人旅行営業本部長など歴任。
2016年より取締役として同社の経営に参画。
2018年より同社取締役上席執行役員 法人
営業本部長(現職)