5月8日より、新型コロナウイルスの感染症法上の分類が「2類相当から5類」へ見直しされ、空港や海港における検疫体制がコロナ前の姿に戻ることにより国際交流がさらに活性化することが期待されています。
しかしながら、海外旅行に関して言えば、旅行需要の回復が思うように進まず、世界の潮流から大幅に遅れているのが実態です。その外的な要因としては、円安や旅行費用の高騰、あるいは国際航空便の回復の遅れなどが挙げられていますが、観光産業としては、より本質的な課題を克服すると共に将来的な成長へ繋がる具体的アクションが求められています。
 先ず必要な取り組みは海外旅行復活への「機運醸成」です。3年以上に渡るコロナ禍により、国際交流が制限され、海外旅行に行かないことが当たり前といった状況になっています。世界の旅行者の往来が急速に復活している中、日本人だけが旅行しない状態が続くことは、航空便をはじめ、これまで築き上げてきた受入地域における日本市場のプライオリティが著しく低下することとあわせて、海外修学旅行や語学留学が行われないことにより、今後のグローバル化に必要な若者の国際感覚の習得の遅れも懸念されます。
 海外旅行の環境が整いつつある今、海外旅行へ誘うテレビ番組やCM、新聞広告やSNSによる具体的海外旅行商品の露出拡大など、複数のチャネルからの情報を通じて、旅行者のマインドを呼び起こすことが求められております。
 続いて中長期的には、持続可能性への挑戦が重要です。この言葉には3つの観点が包含されています。1つは脱炭素など環境への配慮や、サスティナブルツーリズム等への取り組みです。具体的な対応方に悩んでいる事業者も多いでしょうが、個人情報保護と同様に、遠くない未来に当然の価値基準となるでしょう。訪問地における持続可能な環境を保全するためには事業者のみならず、旅行者にも一定の責任を求めるレスポンシブルツーリズムも追求すべきテーマといえます。
 2つ目の観点は、高付加価値化です。高い付加価値を創り出し、お客様の琴線に触れる旅を提供し続けることが我々旅行会社の普遍的な存在価値であり、同時に高い収益性を実現し、持続的に社会に貢献し続けることが求められているのです。今年秋、アドベンチャーツーリズム(以後ATと記載)ワールドサミットが初めて北海道でリアル開催されます。コロナ禍で注目された密集を回避した旅行形態は今後も一定の価値を持つと予見され、訪問地における自然・文化の本質をより深く体験・体感し、精神的な充足感の高いATは、海外旅行においても満足度向上と消費額増加に繋がることが期待されます。
 最後3つ目は、双方向交流の定着です。コロナ禍で延期されていた新たな観光立国推進基本計画が今春発表されました。その中で訪日インバウンド拡大に加えて、日本人の海外旅行の重要性についても明記され「アウトバウンドの本格的な回復に向けた政策パッケージ」も策定されています。国際交流は貿易と同様、自国だけに偏ったメリットを望んでも持続的な発展は見込めません。相互に交流人口が拡大してこそ、航空路線を中心とした観光インフラも発展定着し、安定的な訪日インバウンド需要の享受に繋がります。英語のGive & Takeの語順通り、まずはGive(日本人の海外旅行促進)から始める経済的なメカニズムを官民共に理解・実行することが肝要です。
 これらを実行するにあたり、我々観光産業を取り巻く環境は、年々大きく変化しています。これまでの各社による「個別対応型」から、業界全体で知恵を絞る、「協調共創型」へ移行することが、変化に順応できる切り札となります。観光産業が共に手を携え、国内旅行、訪日旅行、海外旅行三位一体での復活を成し遂げた時、日本のツーリズムの更なる発展と観光立国への大きな一歩を踏み出すこととなると考えています。