No.151 観光財源セミナー2024を開催しました(8月21日)
(公財)日本交通公社では、宿泊税をはじめとする観光財源の導入や活用の手法を考え、自立的な観光地域づくりの支援を行うために設置している「観光財源研究会」の活動の一環として、8月21日(水)に「観光財源セミナー2024」を開催しました。
今年度のセミナーは、各地で「宿泊税」に対する注目が高まり、「どう導入するか」から「どう活用するか」というフェイズに移りつつあることから、観光財源導入後の「使途」を中心に取り上げました。外部より5名、当財団から3名の登壇者と、全国から自治体及びDMO等の計18団体にご参加いただき、盛況のうちに閉会いたしました。
セミナー開催の様子 |
講演概要
第1部 基本編「観光振興財源の導入と使途決定のガバナンス」
観光振興財源について:(公財)日本交通公社 上席主任研究員 菅野 正洋
宿泊税をはじめとする観光振興財源の導入に関して、技術的な問題はあまりなく、所定のプロセスを経ることで、導入可能となることを前提に、宿泊税の「導入」に関するプロセスを改めて整理しつつ、導入済み地域の現状や実効性を担保するための法的な技術論にも触れながら、観光振興財源の「活用」に関するプロセスと、観光地としてのガバナンスのあり方について共有しました。 |
第2部 事例編「観光振興財源の充当が期待される使途」
宿泊税導入後に期待される使途について、会場(セッション)を2つに分け、各地の事例を交えながら紹介しました。
①観光財源の使途決定のガバナンス:長門湯本温泉まち(株) 代表取締役 伊藤 就一氏
山口県長門湯本温泉では、入湯税の超過課税を導入し、超過分を「長門湯本温泉みらい振興基金」に繰り入れ、基金はエリアマネジメント事業と景観インフラの維持・修繕の費用として充てています。基金の使途についてモニタリングを行う外部有識者を交えた「長門湯本温泉みらい振興評価委員会」をはじめ、長門湯本温泉での様々な取り組みについて紹介しました。 |
②観光地経営におけるマーケティング・データ利活用:(公財)日本交通公社 主任研究員 蛯澤 俊典
有限な観光市場において、地域の持続的な成長のためには集客競争に勝つ必要があり、その手段として体系化された概念こそがマーケティングであること、その実行のために必要な課題や仮説の設定の方法や必要なマーケティングの能力・人材・体制について共有するとともに、具体的なデータマーケティングの事例の紹介を行いました。 |
③DMOとしてのGREEN MICEの試みとニセコのMICRO MICE戦略:(一社)倶知安観光協会 事務局長 鈴木 紀彦氏
ニセコエリアを形成する北海道倶知安町におけるグリーンシーズンの誘客戦略であるMICEの取り組みとして、施設利用プランやエンターテインメントプログラムなどのコンテンツ造成について紹介しました。あわせて、国内で唯一定率制(2%)で導入している宿泊税をはじめ、旅先納税やデジタルサイネージ広告なDMO主体の様々な取り組みの原資となる観光財源について紹介しました。 |
④人材確保のための奨学金制度及び外国人材の受け入れ:TMI総合法律事務所 弁護士 池知 貴大氏
宿泊税等の観光財源があることを前提に、地域の「質的な」観光人材を確保する手法として、奨学金を用いた人材確保の手段について事例を交えて紹介するとともに、外国人材の確保についても、近年創設された観光産業で活用可能な在留資格「特定技能」の概略とDMOやDMC等での実施可能性について共有しました。 |
⑤阿寒湖温泉地区の観光財源活用の10年:釧路市 総合政策部長 菅野 隆博氏
入湯税の超過課税を導入している阿寒湖温泉を抱える北海道釧路市において、制度設計に関する議論など超過課税を導入した当時の経緯や、かさ上げ分を基金として積み立て、無料循環バスの運行などに使われていることを紹介しました。あわせて、入湯税の超過課税の恒久化や宿泊税など新たな観光財源確保に向けた検討について共有しました。 |
⑥環境対応・脱炭素対応:(一社)白馬村観光局 事務局長 福島 洋次郎氏
日本有数のマウンテンリゾートエリアである長野県白馬村において、年間降雪量の減少、平均気温の上昇により現在のライフスタイルが維持できなくなることへの対応として、これまで産学官が行ってきたサーキュラーエコノミー推進やゼロカーボンに向けた様々なアクションについて共有するとともに、「サステナブルを遊ぶ、企む、つくる。」をビジョンとした白馬村の環境対応のビジョンについて紹介しました。 |
意見交換
各参加者の自地域における観光財源確保の状況や課題について、意識共有や意見交換を行いました。
現在、全国各地で宿泊税の検討が行われ、数年後には、宿泊税等による観光財源の確保が「当たり前」になる世界が迫ってきています。無論、宿泊税の導入は当然「目的」ではなく、手段となります。導入する宿泊税が有効に活用されるためには、「地域としてどういうビジョンを描き」、そのために「どのように宿泊税の徴収をして」「徴収した宿泊税をどのように管理・運用するか」を関係者間で議論し、その結果を条例やマスタープランといったアウトプットの枠組みに落とし込むこと、またその活動を通じて地域としての独自のあり方を共有し、制度設計をすることが重要となります。
観光財源研究会は、上記の考え方をもとに、今後も議論や各地での実践を行っていきます。