特集④ 【座談会】国内ビーチリゾートの可能性

石垣島
石垣島の滞在魅力を育み続ける

〜地域主体のリゾート形成へと向かうこれからの歩みを描く〜

「自然」と「人」の魅力で人々の心を惹きつける石垣島。
2026年度中の宿泊税導入という転換点を控え、これまでのビーチリゾートとしての歩みを振り返るとともに、地域が主体となる持続可能なリゾート形成に向けた未来へのビジョンを多角的に語り合った。

圧倒的な自然と人々の暮らしが共存している

山田 国内において沖縄県は圧倒的な観光の魅力を放っていますが、その中でも石垣島は、ビーチリゾートとして非常に勢いのあるエリアです。地理的に見れば、本土からは「はるか彼方」であり、物理的な距離やアクセスという点では不便な場所といえるでしょう。にもかかわらず、なぜ多くの観光客を惹きつけ、一度ならず二度三度と訪れるリピーターを生み出し続けているのか、現地で長年、事業や行政に携わっておられる皆さんの視点から、石垣島の魅力の核心についてお話をお聞きしたいと思います。
高橋 私は約30年前に東京から移住してきました。石垣島の魅力といえば、やはりすばらしい風景が最たるものだと思います。では再訪する方々にとってはどうだろうと考えると、実は「人」に魅力を感じておられるのではないかと長年の経験から感じています。というのも、リピーターの方々に旅の目的を伺うと「今回の旅には特に具体的な目的はない」と答える方が少なくありません。普通、旅行といえば「きれいな海でダイビングをしたい」、「あの絶景を見たい」といったアクティビティや観光を楽しむための目的があるものですが、石垣島のリピーターの場合は、例えば「あの居酒屋の親父さんと話がしたい」、「あの土産店のおばあに顔を見せに来た」といったように、人に会う、島のコミュニティと関わるためにいらっしゃる方が多いのです。
 もちろん、石垣島の豊かな自然やそこで育まれる食材、受け継がれてきた伝統や文化といったいわゆる観光資源は日本屈指のものです。しかし、それらを包み込む「人」の温もりや、外から来た人を自然に受け入れる懐の深さこそが、何度もこの島に足を運ばせる最大の磁力になっていると実感しています。
赤城 私は石垣島で育ち、高校卒業後に進学のために上京。20年前に島に戻ってきました。島を一度離れたからこそ、改めて感じたのは、石垣島は自然との距離感が圧倒的に近く、日常と豊かな自然が共存しているということでした。
 高橋さんがおっしゃるように、「人」とのつながりが再訪の決め手のひとつになっていると私も思いますが、その背景には、最たる魅力である自然を満喫するために、高い山に登ったり、遠出をしたりと特別な行動をしなくてもいいという、八重山エリア特有の自然との距離感があると感じています。
我那覇 私たち八重山ビジターズビューローでは、「島色、無限大∞」というキャッチフレーズのもと、石垣市、竹富町、与那国町の魅力を、海洋、自然・動植物、文化・芸能、食、島の人たち・島々の個性、風情、工芸・陶芸、そして星という8項目で表現しています。
これほど多種多様な資源がひとつのエリアに凝縮され、かつ住民の意思によって大切に保護されている場所は、国内で八重山だけではないでしょうか。

非日常と日常が交じり合う土着感という魅力 

西銘 ビーチリゾートという観点で考えると、石垣島のリゾート感は、沖縄本島とは少し毛色が違うように感じます。例えば本島の西海岸には巨大なリゾートホテルが立ち並び、その敷地内で非日常の空間が完結していますが、石垣島の場合は、リゾートがもっと住民のライフスタイルに近い場所にあります。つまり、観光と人々の暮らしがレイアウトとして混ざり合っていて、その土着感や生活感といったものが独自の魅力になっていると思います。南(ぱい)ぬ島(しま)石垣空港開港時のPRソングに「おかえり南ぬ島」という曲がありましたが、この「おかえり」という言葉がこれほど似合う島はありません。
我那覇 そのライフスタイルを支えるインフラについていうと、石垣市は人口約5万人に対し、年間でその30倍近い観光客を受け入れています。常に1万人ほどの観光客が島内に滞在していることになり、宿泊施設は500を超え、その収容人数は1万9000人に上ります。さらに飲食や物販の施設も充実しています。
 つまり、観光のおかげで実質的には約6万人の都市としての機能をもっていることになり、離島でありながら市街地は那覇市にも引けを取らない都市としての利便性と、手つかずの自然が隣り合わせになっている。こうしたインフラの厚みが、単なる観光地ではなく、長期滞在やIターン移住の候補先として、石垣島が選ばれる大きな理由になっていると思います。
赤城 また石垣島では、観光の土台をかたちづくる際、Iターン移住者の新しい感性が欠かせなかったと思っています。地元の力だけで育てた観光ではない分、発展的で非常にオープンである一方で、地域の方々がいるからこそ、石垣島独自の魅力も守られてきました。そして今、その両方のバランスが非常にうまく機能していると感じています。
山田 時代とともに都市サービスや観光インフラが進化している一方で、根底にあるコミュニティの心地よさや自然との距離感が損なわれずに、ストックとして積み重なっている。それが今の石垣島ならではの総合的な魅力につながっているということなのですね。

フェリーネットワークが生むリピート性

我那覇 宮古島と比較すると、それぞれのよさが見えてきます。私は、宮古島の観光は「ブリッジネットワーク」だと考えています。年齢を問わず、天候に左右されずに、車で橋を渡って島々を回れる利便性がある。その一方で、一度の旅で主要なポイントを回れてしまうという側面もあるかもしれません。
 これに対し石垣島は、竹富町の島々を船で結ぶ「フェリーネットワーク」。
天候や船の時間を調べ、海を越えて島に渡る。このプロセス自体が旅の醍醐味であり、一度の旅行ですべての島を回ることは難しいため、「次はあの島に行こう」と「新たな楽しみ」が生まれる。これがリピーターを増やす要因になっているのではないでしょうか。
 景観についても、透き通った海や白い砂浜のグラデーションに象徴される宮古島の「地平線に広がるアクア・ブルー」に対し、八重山は「立体的なディープ・ブルー」。石垣島には沖縄県最高峰の於茂登岳がそびえ、西表島には世界自然遺産に登録されている豊かな森林があり、石垣島と西表島の間には日本最大級のサンゴ礁海域「石西礁湖」が広がっている。その自然が希少な動植物を育み、多様な生態系を守っています。この奥行きと幅広さが、何度訪れても新しい発見がある、飽きのこない魅力につながっていると思います。私は宮古島の自然も大好きですので、八重山も宮古島も含めて、先島諸島全体で観光を盛り上げていきたいですね。
山田 車で簡単に回れないという不便さが島の人とのタッチポイントを生み、リピートの動機になっているということですね。

観光客と島民がお互いを受け入れ尊重し合う 

山田 皆さんから多層的な魅力を伺いましたが、石垣島の場合は「訪れる」方だけでなく、「移住する」方が多いのも特徴だと思います【図❶】。

西銘 自然環境や独自の生活風習、そして多様な背景をもつ人々が交ざり合うことから、石垣島の風土は「チャンプルー文化」や「八重山合衆国」などと表現されることもあるくらいですからね。
山田 実際、国内の多くの地域が人口減少に悩む中で、石垣島は移住者によって人口が維持されています。人々が「この島で暮らしてみたい」と思うのはなぜなのでしょうか。
高橋 私自身が約30 年前に移住してまず感じたのは、ライフスタイルが都会とはまったく異なるということでした。言葉も食べ物も考え方も違う。そこに都会の日常とは違う解放感がありました。また地元の方々は、島の外から来た私に対して構えることなく、受け入れてくれました。その適度な距離感も非常に心地よかったですね。また、都会では始発や終電、分刻みのスケジュールなど、つねに時間を気にしながら生活していましたが、石垣島ではそれとは違う時間が流れています。そこに心の安らぎを感じました。
 観光で島を訪れる方にとっても、そうした精神的なゆとりや、都会的な価値観からの解放を体験することが再訪の理由となり、「暮らしてみたい」という想いにつながっていくのではないでしょうか。
山田 利便性といった機能的なサービスだけでなく、島の人々の飾らない日常にふれることで、心が豊かになる暮らしを擬似体験できることが人々を引き付ける力になっているということですね。
赤城 私が面白いなと思っているのは、石垣島には伝統行事がたくさんあって、それらが閉鎖的ではないということです。豊年祭にしても海神祭(ハーリー)にしてもメインの神事はだれでも見学できます。もちろん、そこには守るべき一線がありますが、石垣島に来てくださるお客様たちは、地元の文化に敬意をもって尊重してくださる方々で、それが地域のウェルカムな雰囲気につながっていると感じています。
 そうした大切なものを守るという想いが長年、自然と共有されてきたおかげで、これまで大きなトラブルもなく共生できてきたのだと思います。さらに2024年には、島の自然と暮らしを守りながら、これからもこの島で旅を楽しんでもらうためのマナーとして、石垣市が「ツーリストシップ石垣島4ヶ条」*を策定しました。そうしてマナーやルールを明確にしていくことも未来のために大切なことだと思います。

高橋 地元の人たちが観光を商売としてだけでなく、自分たちの日常の延長としてオープンに見せていることが、結果として島を訪れる方々からの強い共感を生んでいるのでしょうね。
赤城 そういう意味では、観光が動き始めたときに、山田さんが最初におっしゃったアクセスの不便さが実は大事なポイントだったのかもしれません。
私の祖母はよく、「せっかくここまで来たのに」と言っていました。観光客には「不便なところにせっかく来たんだから」という想いがあり、地元民には「遠いところにせっかく来てくれたんだから」という想いがあって、それが相まってお互いを受け入れ、尊重し合う風土につながってきたのだと思います。

移住の鍵となる自然と都市機能の調和

我那覇 私は、石垣島へのUターン、Iターンが多い理由は、グランピングに近い感覚にあるように感じています。
キャンプをするように大自然を体験したいけれど、寝る場所や食事、ネット環境といった日常の快適さは手放したくないという層がグランピングを選ぶように、圧倒的な自然を身近に感じたいけれど、仕事を含め、日常生活は不自由なく送りたいという層がいると思います。その方々にとって、極上の自然体験と質の高い都市生活のバランスを自在に選択できる石垣島は絶好の環境です。それが若い世代や子育て世代を惹きつける最大の要因かもしれません。
西銘 実際、観光が発展し、観光客が増えたことに伴い、リゾートホテルでの雇用はもちろん、独自の視点でビジネスを始める個人事業主が増えています。そうして観光で食べていける島になったことも若者の定住やUターン、Iターンを後押ししていると考えられます。
赤城 ただ、開業も多ければ閉業も多いのが現状です。なぜ事業を継続できなかったのか。単なる集客不足なのか、人材確保の問題なのか、あるいは島特有のコスト面の問題なのか。こうした課題をデータに基づいてひとつずつ紐解いていくことが、これからの持続可能な観光と地域形成に不可欠だと感じています。

山田 観光の安定的な集客が大型商業施設を含めた企業からスタートアップまで、さまざまなビジネスの進出を促し、それがまた生活の利便性を高めて移住者を呼ぶという、都市としての自立に向けた好循環が生まれているわけですね。
西銘 そうですね。また、そうした経済循環の中にチャンスがあると思って島にやってくる方がいる一方で、逆に仕事の成功だけを追い求める都会的な価値観ではなく、「家があって、海があって、自分らしく暮らせればいい」という、南の島らしいライフスタイルに豊かさを見出し、移住を決める方がいるのも石垣島の特徴だと思います。
そうした石垣島ならではの空気感が島全体の幸福度を支えている気がします。

石垣島のブランド力をさらに高める 

山田 ここまで、石垣島の観光が積み重ねてきたものと、その中で育んできた独自のコミュニティの強みについて伺ってきました。こうした中、石垣市では2026年度中の宿泊税導入が決定しています。これは、自治体が自らの意思で独自の観光政策、地域づくりに取り組み、未来を描くための大きな原動力になるはずです。
 そこで、この財源をどのように活用し、観光客と住民の双方が「観光があってよかった」と思えるような地域主体のリゾートをどうかたちづくっていったらよいとお考えでしょうか。
西銘 宿泊税によってブランド力をさらに高め、滞在日数を延ばすことで、いわゆる「数の観光」から「質の高い観光」への転換を目指していきたいと考えています。そのためには、宿泊税を単なる行政予算として消費するのではなく、地域に循環させることが鍵となります。

 例えば、ビーチリゾートの核心である海の活用です。実は、石垣島では夏場に一般市民や観光客が安心して泳げる公共ビーチは限られています。それは常駐のライフガードを雇用するのが難しいなど、人件費の確保や維持管理の負担が大きいためですが、宿泊税をこうした公共インフラの安全と質の向上に充てることで、だれもが安心して海を楽しめる環境をととのえられると考えています。
 ほかにも、地産地消の食材をBBQで楽しめる公園の整備やリピーターの多いダイビング業界への支援、さらには二次交通の整備など、観光客、事業者、住民の三者が宿泊税導入のメリットを感じられる施策の実施も考えられます。
赤城 私たち宿泊事業者の視点からは、宿泊税導入を機に、世界に選ばれるビーチリゾートとしての立ち位置を改めて明確にしたいと考えています。それは「アイランド」として石垣島単体で完結するのではなく、周辺の島々を含めた「アイランズ」としての魅力をグローバルな基準で発信していくことにつながります。そのためには、自分たちの足元にある伝統文化を守りながらも、外からの専門的な視点や客観的な評価もしなやかに取り入れる必要があると考えています。

誇りを育む教育が島の未来を守る財産になる 

赤城 また、子どもたちの教育に宿泊税を活用してはどうかと考えています。島の子どもたちが、地元のすばらしい観光資源を実際に体験し、プロの仕事にふれる。その経験が、自分の故郷に対する誇りを育み、将来的なUターン率の向上や伝統芸能の継承の鍵になると思います。地元で育った感性豊かな若者が外の世界を見てから島に戻り、新しい観光をかたちづくる。この「人」の循環こそが、石垣島の独自性を未来へつなぐ投資になるはずです。
我那覇 確かに、観光に興味をもつことは、自分が生まれ育った島の魅力を深く知ることと同じ意味をもちます。
魅力を知れば、誇りと自信が生まれます。島を出ていく際には、その誇りを胸に飛び立ってほしい。そして、戻ってくるときには、「この島の観光を面白くしたい」という志をもって帰ってきてほしいと願っています。
 将来のビーチリゾートを考えるとき、最大の財産であり競争力の源泉は地元の若い人材です。宿泊税という安定的な財源をこうした長期的な人づくり、そしてそのための仕組みづくりに充てていくことが石垣島の強みをさらに確かなものにすると思います。
高橋 皆さんがおっしゃるとおり、観光はホスピタリティ産業ですから、最終的には「人」がすべてだと思います。
AIがどれほど進化しても、人と人とのふれあいにとってかわることはできないでしょう。宿泊税を活用して、まずは観光業に携わる人々が誇りをもち、心豊かに島で暮らし続けられるように、所得水準の向上や生活基盤の整備にも取り組んでいきたいと思います。

地域主体で持続可能な観光を未来へつなぐ

高橋 また、石垣島の発展を考えると、さきほどのUターン率の向上と合わせて、石垣島の魅力を打ち出すプレイヤーとして、若い世代が島で活躍できる環境をととのえておくことも大切だと考えています。
赤城 そのとおりだと思います。観光の未来のためには、お客様にどうしたら喜んでいただけるかを考えると同時に、地域をどう発展させ、地元の方々にどう還元していくかということもしっかり考える必要があると思います。
我那覇 そのときに大切なのは、観光客だけに合わせたまちづくりではなく、石垣市民が自分の島を最高だと思えるためのまちづくりだと思います。
多様なルーツをもつ住民同士がネットワークを広げ、観光の利益が自分たちの生活や文化の向上に直結していると実感できる。そんな信頼に基づいた地域づくりこそが、真の持続可能性を生むのだと思います。

西銘 宿泊税の導入は、地域社会全体のガバナンスを強化し、共通の戦略をつくるチャンスだと考えています。いきなり完璧な循環は無理かもしれませんが、狙いをもって施策を打ち出し、その結果を検証して次へつなげる。そのプロセスに、市民や事業者の皆さんを巻き込みながら、一緒に取り組んでいきたいと思っています。
高橋 観光は単一の事業者では成り立ちません。石垣島には、行政や事業者の枠を超えた八重山ネットワークという強力な協力体制があります。宿泊税という共通の原資を得ることで、八重山全体がひとつのチームとして「どんな島でありたいか」を真剣に話し合い、ブランディングを共有していく。宿泊税の導入をきっかけに、そんな未来をつくっていきたいですね。
山田 自分の故郷がリゾートとして世界から高く評価されることを、子どもからお年寄りまでが素直に喜び、誇りに思える。
そして、その評価が住民の暮らしの質や、子どもたちの未来の選択肢を豊かにしていく。石垣島が取り組もうとしている地域主体のリゾート形成は、日本の、そして世界の離島観光が目指すべきモデルになるだろうと思います。本日は、石垣島の新たな歩みを描く示唆に富んだお話をありがとうございました。