
かつて日本の旅は「一宿一飯」の宿場町文化に象徴されるように、目的地へ、いかに早く着き、疲れを癒して翌朝には発つという「周遊型」が主流であった。古い歴史を持つ湯治や明治以降の別荘滞在などの「滞在型」の系譜はあったものの、戦後の高度経済成長期における都市化・工業化の波の中で、それらは急速に影を潜めていった。1970年代の新全総、1980年代の四全総という二度の大きなうねりの中で、日本でも本格的な滞在型観光地、すなわち「リゾート」開発が志向された。
特に1980年代のリゾート法制定時は、国民の余暇活動の充実のみならず、円高不況下における内需拡大という経済政策の側面が強く打ち出されていた。しかし、純粋な観光政策ではなく経済政策から派生したリゾート開発は、結果としていびつなものとなった。ハード優先、利益優先の開発が進み、巨大開発や自治体の誘致合戦などの社会問題を引き起こした。バブル崩壊後、その反動から「リゾート」という言葉自体が使いづらい「失われた30年」が長く続き、日本の学術領域でもリゾート研究は停滞を余儀なくされた。
一方で海外に目を向けると、「リゾート」という言葉が忌避されることはなく、社会の需要に応じたリゾート開発や投資が着実に進められてきた。かつて私たちが北米のスキーリゾートなどを視察した際にシステムや施設水準の高さに圧倒されたが、日本が歩みを止めている間にも、世界のリゾートは着実にさらなる進化を遂げていたのである。
そして現在、日本の観光が本格的な国際化の時代を迎え、インバウンドを含めた多様な旅行者が長期滞在を楽しむための受け皿づくりが急務となっている。かつてバブル崩壊の象徴とされた国内リゾートが再び脚光を浴びているのは、歴史的な必然と言えるだろう。これからの日本のリゾート形成においては、過去の教訓を活かしつつ、失われた30年の空白を埋めるべく、改めてリゾートに関する研究と実践を深めることが求められる。これからは施設を造るだけで人が集まる時代ではなく、かつて私たちが取り組んだような、データに基づく科学的な需要予測や計画策定の視点が再び重要となる。さらに、ハードの整備だけでなく、長期休暇制度の拡充といった需要を安定させるソフト面の制度づくりという「両輪」を忘れてはならない。
観光立国を標榜し、国際水準の観光地づくりが目標とされる中、これからの日本のリゾートに最も期待したいのは、「空間の質」を飛躍的に高めることである。それは優れた宿泊施設の建設にとどまらず、外部環境の整備や地域全体を快適な空間へと昇華させる取り組みだ。具体的には、植栽や景観、公共サイン、照明などの洗練されたデザイン、あえて古く見せるエイジングの手法、そしてその土地が持つ固有の風土(バナキュラー)を活かした雰囲気づくりなどが挙げられる。それらが特に求められるのは、日本を代表する滞在型観光地である温泉地である。
世界で評価される普遍的な価値を持つリゾートとは、地域に根差した本質的な豊かさを、提供する場所に他ならない。過去の知見を現代の文脈で再構築し、日本の観光地が真の意味で国際的かつ持続可能な滞在型観光地へと進化していくことを心から期待している。

