活動報告2

【研究懇話会】第5回

アーバニスト/アーバニズム論からの現代観光考

当財団では2025年度、研究顧問を招いてさまざまな角度から話題を提供いただき、研究員と対話する研究懇話会を実施している。
全6回の開催を予定しており、1月22日に行われた今回は、都市計画を専門とする中島氏から、アーバニスト及びアーバニズムという概念から、現代の観光及び「ツーリスト」の概念について捉え直すという趣旨で話題提供が行われた。

中島直人(東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻教授・一般社団法人アーバニスト代表理事)

アーバニストは単なる「都市計画の専門家」ではない

 私が専門とする都市計画は実践と研究が分かちがたく結びついていることから、研究室で学生たちと多様な地域でまちづくり支援のプロジェクトに携わってきた。
 例えば、東京都の上野で2019年に始めた「アーツ&スナック運動」は、スナックや街路などに芸術や文化を挿入し、文化的な歓楽街を創出しようという取り組みであった。2021年からは、上野恩賜公園の不忍池と上野のまちをいわば分断している不忍通りを、両者を「つなぐ場所」として再編する社会実験に取り組んでいる。
 山梨県の富士吉田市では、観光を地域の活力に転換するビジョンとアクションをデザインする取り組みを学生たちと10年以上行ってきた。私個人としては、ふるさと納税を原資として空き家や空き店舗の改修に助成し、まちの賑わいを生み出す仕組みの運営に関わっている。このほか、特定のまちに限定しない二地域居住を都市と地方双方の再生の原動力にする研究も行ってきた。
 また、私は一般社団法人アーバニストの代表理事も務めており、2021年にこの団体の仲間と共同執筆した『アーバニスト―魅力ある都市の創生者たち』1)という書籍を上梓した。
ここから本題に入り、最初に「アーバニスト」という言葉が誰を指すのか?について論じたい。
 オックスフォードやコリンズなどの英英辞書でurbanist という言葉を引くと、どの辞書でも「都市計画の専門家」といった説明が書かれている。
だが、都市計画に関するアメリカで最も有名なサイト「プラネタイズン(Planetizen)」の特集記事「最も影響力のあるアーバニスト100選」の人選を見ると、その多くは都市計画の専門家、特に技術者に限らない。
 例えば『アメリカ大都市の死と生』を著した著述家のジェイン・ジェイコブズや、ブラジルのクリチバ市長として都市再生を行ったジャイメ・レルネル、都市批評家のルイス・マンフォードなどの名が挙げられている。こうした状況を見ると、アーバニストを単に都市計画の専門家と称するのは、現実に即しておらず齟齬が生じると言える。

「生きる」「つくる」が共生するアーバニズム

 アーバニストとは誰かを考えるにあたり、アーバニストと深く結びついている「アーバニズム」という概念について考えたい。都市社会学的には、20世紀前半の社会学者ルイス・ワースが唱えた「都市における生活様式」を意味し、これは都市を「生きる」という「事実概念」に基づく。一方、都市計画学的には、都市計画家のエミリー・タレンが整理した「ある確立された原理に沿って展開される、最良の居住地を実現させるためのビジョンと探究」を意味し、こちらは都市を「つくる」という「規範概念」に基づく。
 ワースが定義した「生きる」という事実概念は、1990年代のニュー・アーバニズム運動を経て、「都市はどうあるべきか」というビジョンや探究を示す「つくる」規範概念へと拡張されてきた。
 つまり、アーバニズムという概念は「生きる」と「つくる」の両義性を内包しており、アーバニズムを実践するアーバニストの中にも「生きる」と「つくる」という二つの役割が重なり合い、共生し融合していると言える。

 話をまとめると、アーバニストとは都市計画の専門家であり、都市に住み、その魅力を楽しむ生活の実践者でもあるという両面を併せ持つ主体を指す。アーバニストの存在は、つくり上げられた都市を使い続けていく今の時代において重要な意味を持ち、都市の再生や成熟の原動力として不可欠と言える。都市が魅力的であり続けるには、将来のアーバニストを生み続け、育む環境を創り出すことが必要で、これは都市の持続可能性に深く関わる課題でもある。

ツーリズムとツーリストの「非対称性」

 ここからはアーバニスト/アーバニズムの文脈に呼応する形で、ツーリスト/ツーリズムという概念についての再考を試みたい。
 世界観光機関(UN Tourism)は、ツーリズムを「社会的・文化的・経済的現象であり、個人または業務・職業上の目的で、人々が日常の環境外にある国や場所へ移動することを伴う」と定義している。一方、ケンブリッジ英英辞典でtourism という言葉を引くと、「休暇中の人々に、輸送、宿泊施設、または娯楽などのサービスを提供する事業」と説明されている。
 このことから、ツーリズムという言葉には日常の環境外にある国や場所へ「移動する行為」と、日常の環境外にある国や場所への移動を支えるさまざまなサービスを提供する「産業や事業」、二つの意味が内包されると考えられる。すなわちツーリズムという言葉もアーバニズムと同様に、「生きる」と「つくる」の両義性を持つと言える。

 では、ツーリズムの実践者にあたるツーリストの定義についてはどうだろうか。ケンブリッジ英英辞典ではtourist を「特に休日において、楽しみ、関心に基づいてある場所を訪れる人」と説明している。
 ツーリズムが「生きる」「つくる」の両義性を持つのに対し、ツーリストは「ゲスト」という受動的な消費側面のみを指し、観光を支え、資源を創り出す「ホスト側」の主体性は含まれていない。現状では、ツーリストという言葉は単義的であり、共に両義的な意味合いを持つアーバニズム/アーバニストの関係とは異なる点が特徴と言える。
 ツーリズム/ツーリストの関係を図式化すると、右下の部分が欠落している状態で、「この部分を埋めるものは何か?」を考えることが、これからの観光についての議論につながるのではないだろうか。

「日常化する観光」から考える新たなツーリスト像

 近年の観光は関心が日常化し、「非日常から異日常へ」とよく称される。2000年代になるとAirbnb などの民泊に代表されるように、日常の中にツーリズムが入っていくための様々なインフラが登場してきた。観光の対象が「日常の環境」そのものへと移行したことによって、「誰が日常という観光資源を創り出しているのか」という、つくり手の主体性が極めて重要になっている。
 例えば観光を意識していないまちづくり活動や、アーバニストが個々の日常的な実践で創り出した都市の魅力などが観光対象となっているが、このように「日常化する観光」において、ゲストとホストの関係はもはや固定的なものではなくなっている。そうした中で、ゲストとホストの関係をどう捉え直すかが、今問われていると考える。
 近年の観光研究では、地域住民の旅行履歴と観光に対する意識には強い相関関係があり、ゲスト(生きるツーリスト)としての経験が、ホスト(つくるツーリスト)を育む可能性があると示唆されている2)
 また、地域を訪れたゲストと、ホストとして迎える地域住民が、共に新たな価値を創造するクリエイティブ・ツーリズムでは、ゲストは単なる消費者にとどまらず、ホストと「共創」する存在であることが求められる3)。観光を通じて地域社会や環境にプラスの影響を与えることを目指すリジェネラティブ・ツーリズム(再生型観光)では、ゲストとホストはいわば「統合」した存在と言える4)
 このように、近年のツーリズムは、ゲストとホストの境界の変化や立場の転換などが生まれ、ツーリストという言葉の持つ意味が広がってきている。
これまで、ゲストという役割のみだったツーリストは「それぞれの楽しみ、関心に基づいて、日常の環境を生み出し続ける」ことで、ホストにもなり得ると言える。
 アーバニストが「生きる」「つくる」の二つの役割を行き来する存在であるように、ゲストにもホストにもなり得る「新しいツーリスト」をどのように生み出していくかが、今後の観光で大事なポイントではないかと考える。