特集② 米国のマウンテンリゾート
〜コロラド州への視察を重ねて〜
公益財団法人日本交通公社
観光研究部研究員
工藤亜稀
マウンテンリゾート研究会の発足
JTBFでは、自主財源を用いた事業として、特定のテーマについて官民の垣根を越えて関係者を募り、議論や交流を行うことを目的とした研究会をいくつか展開している。そのうち、「マウンテンリゾート研究会」は、スキーリゾートの国際化の中で、その競争力や持続性を高めていくことを目的に2019年度に創設された研究会である(発足当時の名称はスキーリゾート研究会)。2020年には、新型コロナウイルスの感染拡大がスキー場をはじめ観光産業に大きなインパクトをもたらしたほか、その後も気候変動に伴う雪質の変化や小雪・年較差、人々の価値観・ライフスタイルの変化等、スキー場をとりまく環境は変化し続けている。こうした状況の中、研究会では、これからの時代の山岳リゾートとしての再興、ひいては日本の山岳リゾート文化を創造していくことを目指し、具体的な情報提供、実践的取り組みを行いながら、地域、事業者の支援を行っている。
研究会では、活動の一環として、会員有志メンバーにて海外先進地への視察を毎年行っている。特に米国コロラド州については、2017‐2018シーズン以降(パンデミック期を除き)継続的に視察を実施しており、研究会として着実に知見を蓄積してきた。(図1)本稿では、これまでの視察成果に基づき、米国におけるマウンテンリゾート発展の背景を紐解くとともに、日本国内でも今後共通の論点となるであろう課題について考察したい。

コロラド州スキーリゾートの発展史と顧客セグメント戦略
コロラド州におけるスキー場開発の歴史は、20世紀初頭の娯楽的な萌芽期から、戦後の爆発的な産業化へと至る変遷を辿っている。戦前から一部の地域でスキー文化は存在し、1930年代にはすでに小規模なリフトの設置や森林局による開発計画が始まっていた。
しかし、現代に繋がる大規模開発の決定的な転機となったのは、第二次世界大戦中にコロラド州キャンプ・ヘイルで訓練を積んだ第10山岳師団の存在である。復員した師団の兵士たちは、欧州で目にしたアルペン文化と高度なスキー技術を米国へ持ち帰り、アスペンやベイルといった世界的なリゾートの礎を築いた。1950年代から60年代にかけては、戦後の経済成長とモータリゼーションの進展を背景に、州西部の高冷地が急速に開拓される「スキーブーム」が到来した。1970年代に入ると、急速な開発に対する環境保護の機運が高まり、1976年のデンバー冬季五輪開催を住民投票で返上するという歴史的事態を経て、開発の在り方は一変した。以降、州の公式文書や開発指針は、単なる斜面拡大から、国家環境政策法(NEPA)に準拠した自然との共生へと舵を切ることになった。現在では、かつての拡大路線を継承しつつも、歴史的な文化的遺産と脆弱な山岳生態系の維持を両立させることが開発の絶対条件となっている。
歴史的には右記のような変遷を辿りながら発展してきたが、マーケティングの視点から見ると、現在の米国のスキーリゾートの視察から顕著に感じられる特徴は、「顧客階層別のリゾート」が文化として根付いていることである。主に所得によって顧客セグメントを切り分け、それぞれに最適化した体験価値を構築することで、リゾートと顧客の関係性がより強固なものとなっていると考えられる。
11〜13ページにかけて、研究会で定点観測を続けている7スキー場(タウンを含む)の開発の過程と、現在の顧客セグメント等について、それぞれ特徴をまとめた。

次世代の育成
コロラド州のスキーリゾートは、日本のファミリー向けスキー場と比較すると非常に標高が高く(ベイルはベースで2476m、山頂は3527m)、上級者向けのスキー場が集積していると捉えられることがしばしばある。しかし実際に足を運ぶと、初心者や小さい子供連れのファミリーが多く、その顧客層の圧倒的な厚みが印象に残った。この背景には、世代を超えて蓄積される顧客層形成に対するリゾート側の積極的な投資がある。子供や初心者は消費単価の大きさと数年後のロイヤルカスタマーとなる可能性、さらには次世代を育む可能性を十分に持っており、顧客生涯価値(LTV)最大化の観点からも重要な顧客として捉えられている。
例えばベイルでは、初心者向け斜面はリゾートの中心エリアに存在しており、大人向けの初心者スクールの客も多く見られる。初心者に対し、景色や斜面の質、アクセスなど、全てにおいてリゾートの中で「最良の条件」を提供している。ゴンドラ降車場はロードヒーティングによって雪が積もることはなく、ブーツの装着や移動にストレスを感じることもない。

また、カッパーマウンテンでは、ファミリー層を重要顧客と位置づけ、大人用チケット1枚に対し、15歳未満の子供用チケットを無料で付与するなど、チケット料金による囲い込み戦略を取っている。スキー場内にはキッズスクール専用の棟(ロッジ)が設けられ、休憩スペース、おやつやランチ用の飲食スペース、専用のレンタル・フィッティングスペース等が完備されている。

従業員を含む地域住民との関係
前述のように所得階層別に別れているリゾートエリアとは異なり、町(タウン)にはリゾート顧客と住民とが混在し、混雑・渋滞や生活スタイル・階層の違いからも各種問題が生じやすく、両者にとって居心地の良い環境を創出することは、多くのリゾートにおいて課題となる。コロラド州のスキーリゾートにおいては、ブリッケンリッジやフリスコが従業員の住宅需要を賄う町となっている。このうちブリッケンリッジでは、20年以上にわたりタウンで働く従業員向けの住宅施策を取ってきた。特にコロナ禍での休眠期間を経たことで、行政にとってもその重要性がより強く認識されるようになり、2024年には2800万ドルを超える予算を安価な住宅供給計画に支出、結果として2023年比で住宅戸数が3倍に増加している。
また州単位の施策としては、2022年に、これまで観光マーケティングや観光促進施策のために限定していた宿泊税の使途を、従業員住宅や保育サービス等に拡大させる法律が成立した(HB22‐1117)。さらに、この法律をベースに2025年には宿泊税の上限を2%から6%に拡大し、その使途として、インフラ整備、環境保護、公共安全対策を新たに追加している(HB25‐1247)。これらの動きからも、持続的なスキーリゾートの運営には、行政も関与した従業員向け・地域住民向けの施策が重要であることがわかる。

スキーリゾートにおける環境対策
スキー場経営において、コントロールが難しい外部要因であり、脅威になり得るのが温暖化による天然の降雪量の減少である。そのため、気候変動対策は引き続き全世界共通の重要課題である。米国のスキーリゾートでは、環境配慮は当然の取り組みとなっており、ビジネスリスクとして捉えた適応策が展開されている。例えば、ベイル・リゾーツでは、基本戦略である「Epic Promise」において、「地域コミュニティへの社会的責任」、「多様性の推進」、「ガバナンス強化」と並び、「環境保全」を明確に掲げている。また、具体的な環境対策として「Commitment to Zero」(2030年目標)を掲げており、①CO2 排出実質ゼロ、②運用廃棄物100%転換、③森林・生態系への運用影響ゼロ(スキー場運用で失われた森林面積の復元・植林)を3つの柱としている。また、スキー場として取り得る気候変動への適応・緩和策としては、人工降雪設備への投資(大規模投資による早期シーズンの品質保証)や、複数地域でのリゾート運営による地理的なリスク分散、人工降雪用水の大部分を春の雪解けで流域に還元する等による水資源の適切な管理などがなされている。
まとめ
本稿では、主に米国におけるスキーリゾートの開発や現在の顧客階層別のマーケティングについて、これまでの視察をもとにとりまとめた。また、スキーリゾートとして持続的な運営を行っていくための視点として、将来市場への投資、従業員を含む地域住民への施策、環境対策について記述した。
引き続きコロラドでの定点観測を続けるとともに、カナダや欧州における動向についても、研究会として知見を蓄積していきたい。
<参考文献>
Hitting moguls:The bumpy history of Colorado’s ski industry and its potentially problematic futurestory and podcast by Stacy
Nick published March 23, 2023 | updated Nov. 13, 2024(アクセス日:2026年2月23日)
https://libarts.source.colostate.edu/the-audit-the-bumpy-history-of-colorados-ski-industry-and-its-potentially-problematic-future/
Our History : A Legend in Colorado Ski History Since 1946(アクセス日:2026年2月23日)
https://www.arapahoebasin.com/our-history/
Breckenridge’s 2024 affordable housing boom: What $28 million achieved, summit daily, Jan 15, 2025(アクセス日:2026年2月23日)
https://www.summitdaily.com/news/breckenridge-affordable-housing-inventory-cost/
Vail resorts annual reports(アクセス日:2026年2月23日)
https://investors.vailresorts.com/static-files/d2d0cd59-4274-433f-8a12-46b67ad4bab9
