わたしの1冊 第39回『Their Eyes Were Watching God 彼らの目は神を見ていた』
Zora Neale Hurston
(ゾラ・ニール・ハーストン)・著
1937年発行
原 忠之
セントラルフロリダ大学
ローゼンホスピタリテイ
経営学部准教授
英語版で初めて読んだ時に、ショックと開放感を覚えた小説でした。男女差別・人種差別が強かった時代の米国南部で黒人女性として生まれ、社会的制約が多い中で、一人明るく自立自由を求めて振る舞う黒人女性の視点から見た当時の米国はこう見えるのかという、社会の少数派ながら、それら制約への直接の不平不満を述べずに自由に生きる女性の心意気を感じる小説です。
・あらすじ
今から100年前、20世紀初頭のフロリダ州が舞台です。
かつて奴隷であり、トラウマと恐怖に苛まれた祖母ナニーに育てられた主人公ジェイニーは、年配の農夫ローガン・キリックスとの結婚を強いられます。キリックスからは安心感は得られますが、愛情は得られません。ジェイニーはすぐに、愛のない安定では満たされないことに気づきます。
ジェイニーは、カリスマ性と野心を持つ黒人実業家男性ジョー・スタークスと駆け落ちします。ジョーは彼女をフロリダ半島中部のオーランド郊外に連れて行き、白人地主より土地を購入、売主の名前をとってイートンビル町と命名して自らが初代町長に就任します。しかし、彼の支配欲は二人の結婚生活を別の檻へと変えてしまい、彼はジェイニーを黙らせ、パートナーではなく自分の地位の象徴として扱うのでした。長年の精神的監禁の後、ジェイニーは彼の死の直前に彼と対峙し、自分の声を取り戻します。
ついに自由になったジェイニーは、自立した生活を満喫して、その後、若く、明るく、冒険好きな黒人男性ティーケーキと出会います。彼はジェイニーに真の友情と愛情を与えてくれ、二人の関係は彼女をエバーグレーズ(フロリダ半島南部)へと導き、そこで彼女はコミュニティになじみ、笑いに包まれますが、壊滅的なハリケーンの苦難が二人の絆を試すことになります。ハリケーンによる大洪水中に野犬に噛まれたティーケーキが狂犬病を発病し、やむを得ずこの愛した年下の夫を射殺したジェイニーは、刑事裁判で、陪審員から正当防衛を認められ解放されます。
悲劇に見舞われた後、ジェイニーは市長夫人時代からは想像できないほどのボロボロの姿で故郷に戻りますが、もはや人々の噂や非難など気にしておらず、彼女は生き、愛し、苦しみ、そしてついに自分自身の内に平穏を見出します。
・コメント
地元人口140万人の通称オーランド(行政区分はオレンジ郡)は、年間7500万人という全米の市区町村郡で最多の来訪客が訪れる観光地です。中心部から10キロほどの場所に、1887年に全米で初めて黒人自治町であるイートンビル町が設立されたという歴史があります。この小説は、圧政者である白人への非難や対峙の姿勢がないという理由で黒人社会から批判された経緯もありますが、著者ハーストンの死去後、20世紀後半に再評価され、毎年ゾラの名を冠した黒人女性文化追悼祭りがイートンビル町で開催されています。私はその黒人非営利団体の副会長を務めていますが、この本に影響を受けた一人です。
※『彼らの目は神を見ていた』(新宿書房・刊)は現在絶版となっています

原 忠之(はら・ただゆき)
セントラルフロリダ大学ローゼンホスピタリテイ経営学部テニュア付准教授。九州産業大学地域共創学部客員教授、宇都宮共和大学、立命館大学客員教授兼務。UNESCO CSA、ICAOASA(文化、航空の国連統計サテライト勘定)の技術諮問委員会委員。上智大学法学部卒。日本興業銀行、外務省を経て、米国コーネル大学ホテル経営学部博士号取得。他、ホテル経営、経営、地域科学の3修士号を持つ。専門は観光産業の経済効果、ホスピタリティ・マネジメント。担当授業はファイナンス、応用統計学、経済効果計算、国際イベント経営等。琉球大学、一橋大学、京都大学、早稲田大学など、毎年日本のいくつかの大学で集中講義を行っている。観光学の分野では大規模公開オンライン講座(MOOC)の先駆者でもある。米フロリダ州在住。
