観光を学ぶということ
ゼミを通して見る大学の今
第28回 帝京大学 経済学部観光経営学科
山下ゼミ
ゼミ長が振り返る1年間の歩み

山下晋一(やました・しんいち)
帝京大学経済学部観光経営学科教授。北海道帯広市出身、早稲田大学商学部卒業、日本航空株式会社に勤務、整備本部業務部長、台湾支店長、JALグランドサービス株式会社取締役東京支社長、釧路空港ビル株式会社常務取締役を経て定年退職。2015年NPO法人阿寒観光協会まちづくり推進機構専務理事を務め、2021年度から現職。2022年マサチューセッツ州立大学ローウェル校MBA取得。研究テーマは「持続可能な観光地域づくりとDX」。観光庁「アフターコロナ時代における地域活性化と観光産業に関する検討会」委員、台湾政府観光庁長官主催フォーラム「構築観光新未来フォーラム」基調講演講師などを務める。
⒈はじめに
山下ゼミを一言で表すと「仲間と共に、人として成長し合えるゼミ」である。
ゼミでの活動を通して「素直・謙虚・感謝」をモットーにゼミの信用ブランドを磨き上げることに共感する学生を募っており、書類選考と現役生との面接を経てゼミ生が選ばれる。
今年度はゼミ全体の研究テーマを「持続可能な観光地域づくり」とし、観光地域づくりに精通する山下晋一教授のもと「スマートシティ」「MaaS(Mobility as a Service)」「エアライン」の3つの研究グループに分かれて研究を行った。
21名の個性溢れるゼミ生と週に1回、1時間半の授業時間を用いて日々取り組んでいる。
⒉活動内容
主に研究報告のプレゼンテーションに向けたグループワークを行っており、ゼミ生が主体性を持って取り組んでいる。
4月〜7月の春季と9月〜1月の秋季それぞれに中間発表2回と最終発表1回を行うスケジュールのもと、年間で計5回プレゼンを行う。
限られた時間の中で精度の高い研究を行い、より良いプレゼンを作り上げるために授業外の時間も積極的に活用しているゼミ生がほとんどであった。
ゼミがない日も連絡を取り合い、必要に応じてオンラインで打ち合わせを行っている姿も多く見受けられた。
こういった数多くの発表の機会で毎回完成度の高いプレゼンを行えるよう、計画的な準備期間の過ごし方を求められる環境は山下ゼミならではの緊張感と成長実感に満ちている。
実際に多くのゼミ生がその忙しさに苦労したと話すが、全て自身の成長につながっていると全員が実感しており、私自身も非常に良い取り組みであったと感じる。
また、チームの進捗報告を毎週欠かさず教授に行っている。その週のゼミで行ったことやチーム内でのできごと、今後のスケジュール等をレポートにまとめ、見通しを持って研究活動ができるようチーム全員が毎週の課題として進捗報告書を教授に提出するのである。
この報告書を作成するにあたり意識していたことは、自分自身がプロジェクトのリーダーを担っているという当事者意識を全員が持つことである。
リーダーという立場でチームを俯瞰した際に見えてくる現状を把握した上で、上司と位置付けられる教授が何を知りたがっているのかという視点でレポートをまとめる必要がある。行ったことをただ書き連ねるのでは伝わる報告書にはならないため、工夫が必要であった。
報告書の中から、山下教授が良いと感じたものを全体に共有することで、ゼミ生同士が刺激し合いながら日々技術を磨き上げることができた。
このような相手に伝わる報告を行うという習慣をはじめ、山下ゼミでは社会に出てから役立つ取り組みを積極的に行っている。学生である今のうちから今後必要になるスキルを習得できる点が山下ゼミの魅力である。

⒊研究内容
先ほど紹介した各チームの研究テーマはゼミ生自身が選定したものである。
今年度は「スマートシティと地方創生」「日本国民の幸福度向上のためのMaaS」「地方空港を拠点とした持続可能な観光分散モデルの提案」というテーマを設定し、年度末の発表に向けて1年間研究活動を行った。
また二〇二五年度からは、最終発表のテーマだけでなく中間発表のテーマもゼミ生が選定した。中間発表では最終レポートを作成する際に材料となる知識や情報を得るため各チームで研究し、研究内容を報告するというものである。
ただ決められたことをするのではなく、全て自分達で選び、実行するという行為は非常に難しく、チーム内できめ細かい認識の統一が必要だった。社会課題に対して問題意識を持つことをはじめ、何を研究するべきか、どの方面にアプローチするべきなのかという0から1を生み出す思考力が試され、計画の作成で戸惑うチームがほとんどであった。しかし前向きな学生ばかりであったため、とにかくやってみることを大切に壁にぶつかっても手を止めることなく常に前進することができた。
特に悩んだ具体的な例として、日本の法制度をはじめとするDX(Digital Transformation)拡充の障壁となる基盤整備の不十分さである。日本が世界の中でも遅れをとっていることは認識していたものの、その詳細な要因に関してはゼミでの研究を進める中で初めて知り、触れる機会のなかった法律の知識と、 国レベルというスケールの大きな話題にどう触れるべきなのか悩んだチームがほとんどだった。
しかし、山下教授のアドバイスのもと、あるべき姿から逆算して今するべきことを考えるバックキャスティング、客観的データに基づき判断するEBPM(Evidence Based Policy Making)が強く求められ、さまざまな世界ランキング指標を調査する中で日本の現在地を理解し海外と比べるといかに遅れているのかという点に注目した。日本のデジタル競争力ランキングは30位、世界幸福度ランキングは55位、スマートシティインデックスが東京108位、大阪99位。他にも多くの指標で日本という国の立ち位置を知り、世界という括りだけではなくアジアの中での立ち位置も把握することで、危機感や日本が目指す姿の方向性が明確になっていった。
⒋プレゼンテーション
研究内容だけでなく、プレゼン技術の向上にも重きを置いてきた。人前で話すことが苦手な学生も、堂々と立派にプレゼンする仲間の姿に刺激を受け、さまざまな工夫を凝らして理想の姿を追い求めた。
全員が共通してチームプレゼンの際には原稿をなるべく読まず、真っすぐ前を向いて聴衆の表情を確認しながら自身の言葉で伝えることを目標にし、良いと感じる人の発表を真似たり、互いにアドバイスし合いながら磨きをかけてきた。
またパワーポイント資料も、人に伝わるものを意識して作り上げた。文字の大きさや配色、アニメーションの統一といった細かな部分まで気を配り、全てのスライドを同じ人が作ったと感じるレベルのものを追求した。
このような相手に寄り添うプレゼンを各チームが実現することで、発表内容の印象や聞き手の理解度が大きく変わることを聞き手としても話し手としても実感した。
⒌教授の魅力
山下教授は日本航空出身で整備本部業務部長、台湾支店長、JALグランドサービス東京支社長などを経験され、定年後、阿寒観光協会まちづくり推進機構(地域DMO)において持続可能な観光地域づくりを推進、2021年に帝京大学からの招聘により現在の観光経営学科教授をされている。
特に日本航空の経営破綻の経験の中で当時の稲盛和夫会長から学んだ「人として正しいかどうかで判断すること」、「人生成功の方程式(能力×熱意×考え方)におけるプラスの考え方(素直・謙虚・感謝・利他の心)の実践」、「時間を守る・約束を守るの積み重ね」による信用ブランドの磨き上げの大切さなどをゼミ生に求めており、ゼミ生も積極的に実践し、就職活動においてもとても大きな力になっている。
山下教授は自由に何事にも挑戦させてくれた。ただ見ているだけ、と自負している通り、本当に教授自身から口を出すことはないが「どうすればいいですか」という問い以外に対しては必ず答えて下さった。自分自身で考えることを放棄せず、自分なりの意見を持った上での疑問や考えに対しては親身に受け止めていただいた。
また、昨年の古稀のお祝いを盛大に行うほどゼミ生に愛されている教授である。紫のちゃんちゃんこを身に纏う教授に、大好きなビールを美味しく飲んでいただけるように、名前と〝Don’t drink too much〞というメッセージ入りのタンブラーをプレゼントした。
そのイベントが思い出に残っているというゼミ生も多く、日頃の感謝の気持ちを伝えられたことや教授に喜んでいただけたことが私自身も非常に嬉しく感じた。

⒍ゼミ生の雰囲気
社会課題に問題意識を持ち、より深く理解して現状を変えたいという思いを持つ人が多くいたと感じる。実際にグループワークの様子を見ていても、お互い素直に意見交換をして謙虚に受け止め、次の学びにつなげるというサイクルを体現できるゼミ生が多くいた。
もちろん全員初めてのゼミ活動であり、手探りな部分も多かったと感じるが、成長に対する前向きな姿勢は私自身も日々見習いたいと感じることが多くあった。
特にルーブリックという評価シートを用いたプレゼンの講評でゼミ生の向上心を強く感じた。ルーブリックは、プレゼン内容の充実度、プレゼンの構成、プレゼン資料の完成度、発表姿勢、発表時間の過不足の計5項目をゼミ生全員が評価し、次回のプレゼンにつなげるという評価方法である。
ルーブリックでの講評はゼミ生と相性が良く、自身の素直な感想や指摘を包み隠さず全て伝え合っている点が非常に良かったと考える。良い点は詳細に、具体的に伝え、改善点はシンプルにわかりやすく。時には自身の実体験も交えた講評をしてくれるゼミ生もいた。そういった姿を目の当たりにし、仲間が共に成長したいと思ってくれていることを実感した瞬間の心強さは、何物にも代え難い原動力になっていたと感じる。
そういう真面目な一面もありつつ、定期的に開催される懇親会を楽しんだり、ラグビー部やラクロス部などの部活動を行っているゼミ生の試合に駆けつけ応援したり、ゼミの研究以外も非常に充実した時間を仲間と共に過ごしている。
ゼミ生も教授も、大勢で盛り上がることが何より好きなため、ラグビー応援など集合がかかれば1期生の先輩方から現役の4期生まで集まり、2次会までほぼ人数を変えずに過ごすことが定番である。
52名の中から選抜された21名のゼミ生だが、やはり3年のゼミ生と教授が面接官になって選ぶゼミ生だけあり、仲間同士の結束力は強い。卒業後も我々後輩の面倒をよく見てくださる先輩方とのご縁の大切さを感じており、今後も変わらず集まりたいと常々感じる。
山下教授は日本航空の利光松男元社長から学んだミラーボール経営を心がけていて、ゼミ生が輝くことで山下ゼミと山下教授は輝くということを常におっしゃり、最終授業で「ゼミ生の皆が輝き、その結果として山下ゼミと私がとても輝くことができた」という感謝の言葉をいただき、とても達成感を感じることができた。

⒎ゼミの今後
山下ゼミには似たもの同士の明るく元気な学生が集まっている。初対面の仲間が多い中でもすぐに打ち解け、懇親会では大騒ぎ。その情熱はゼミの研究に対しても同様で、一度決めたことは最後までやり抜きたいという思いから活発な議論を何度も重ねて最終発表まで駆け抜けた。
山下教授は70歳という節目を迎え、一つの区切りとしてゼミ生募集を終了された。
大学の中でも惜しまれる声を多く聞くが、最後の経済学部ゼミ研究報告会で3チーム合同のプレゼンを行った後、山下教授に花束贈呈をした際に、「今年度のゼミは最後の集大成に相応しいものであった」と言っていただきゼミ生は皆とても嬉しく思っている。
山下教授からゼミ4期生へ宛てて以下の感想をいただきました。
「課題はかなり厳しいものを数多く提示してきた中で、この1年で各ゼミ生が大きく成長したことをとても嬉しく思います。また大切にしてほしいとお願いしていた素直・謙虚・感謝・タライの水(利他の心)の心構えをゼミ生の皆が実践し、とても明るく楽しい前向きなゼミの雰囲気作りを心がけていただきました。ラグビー部やラクロス部の応援、クリスマス懇親会、オープンキャンパスでのゼミ紹介、たま未来連携EXPO2025出展、経済学部ゼミ研究報告会などの数多くのイベントに皆さんが積極的に参加し盛り上げていただき、とても思い出に残る充実した1年間のゼミ活動であったと思います。ゼミ生の皆さん一人一人に心から感謝いたします。」
ゼミが終わり、4期生が卒業し、山下教授が退職されても、必ずこのご縁を大切にし続けたいと感じる。このゼミに出会えたことが人生の財産である。
(文:ゼミ長 上條芽生)

