観光資源の評価に関する研究
~第5 期研究を終えて~
観光研究部 上席主任研究員 五木田 玲子
観光研究部 研究員 工藤 亜稀
1. 観光資源研究の経緯
日本は魅力的な観光資源にあふれている。当財団における観光資源研究は、1968 年度に実施した自主研究「観光資源調査の手法」を端緒とする。以来、半世紀以上にわたり、観光資源の魅力の基準を整理し、その基準に沿って全国の観光資源を客観的・総合的に評価して「全国観光資源台帳」として体系化する取り組みを継続してきた。個人の嗜好や人気投票に依拠するのではなく、万人が美しいと感じる魅力の源泉を探究するという基本姿勢を貫いており、その変遷は大きく以下の5 つの段階に整理される。
第5 期は、取り扱う件数が膨大であったため、着手から約10 年間の歳月を要したが、このたび全都道府県の公開が完了に至った。そこで、本稿では、改めてその評価の枠組みについて整理しておきたい。
【第1 期:研究の黎明とリスト化】
1971 ~ 1973 年度にかけて、旧建設省道路局からの委託により「観光交通資源調査・観光行動調査」を実施した。これにより、約1 万件にのぼる全国の観光資源が初めてリスト化された。これが、客観的評価に基づく台帳整備の始まりである。
当時は高度経済成長期における道路網整備が進められており、国土の保護・保全・活用の優先順位づけや、観光資源の保全と効果的な活用の推進が強く求められていた。
【第2 期:研究成果の公表と活用】
低迷が続いていた国内旅行需要の喚起を図るべく、台帳の見直しを行い、その成果として写真集『美しき日本-いちどは訪れたい日本の観光資源』を1999 年に発刊した。これに伴い、それまで調査・研究用として内部活用していた評価の一部を一般に開示し、旅行需要の喚起へとつなげた。旅行の大衆化・大量化が進んだ時代にあって、日本の素晴らしさを見直し、観光の本質を問い直したのである。
【第3 期:今日的価値基準による再構築】
観光の多様化、海外旅行経験率の上昇、外国人旅行者数の増加といった社会環境の変化を踏まえ、評価対象とする観光活動および評価の視点の拡充、観光資源種別の再編など、評価の枠組みの再構築と観光資源の再評価を試みた。資源の魅力の本質を探究する方針はあくまで堅持し、2014 年に写真集『美しき日本- 旅の風光』として成果を発表した。なお、ここまでの詳細な研究の経緯は、『観光文化』222 号(2014 年7 月発行)の「特集:観光資源評価研究『美しき日本 旅の風光』」にまとめている。
【第4 期:特別地域観光資源の再整理】
我が国を代表する特A 級・A 級資源の再評価が進む一方で、各地方を代表しアイデンティティを示す観光資源の再評価が課題として残されていた。そこで、都道府県や市町村を代表する特別地域観光資源について、定義・評価基準の再整理および選定を行った。なお、第4 期の研究詳細については、『観光文化』234 号(2017 年7 月発行)所収の「観光資源の評価に関する研究~ “ 特別地域観光資源” の魅力と評価について」にまとめている。
【第5 期:ウェブサイト『美しき日本 全国観光資源台帳』の公開】
研究の集大成として、独自の「観光資源台帳」と、かつて詳細な観光案内として定評のあった『JTB 新日本ガイド』(現在は絶版)の全コンテンツデータ(約44,000 件)を統合・精査した。観光研究者・実務家による「観光資源調査委員会」での再評価や、地域の実情に精通した専門家による現地調査を経て、ウェブサイト『美しき日本 全国観光資源台帳』として、解説や見どころを含む詳細な情報を広く公開するに至った。
2. 観光資源評価の枠組み
①観光資源の考え方
観光資源の定義については、既存研究を継承している。
【観光資源の定義】
観光資源とは、人々の観光活動のために利用可能なものであり、観光活動がもたらす感動の源泉となり得るもの、人々を誘引する源泉となり得るもののうち、観光活動の対象として認識されているものである。
観光活動とは、見ることや、その場に身を置くこと、体験することにより、感性や知性を通して観光資源の「素晴らしさ」を感じることで、人生が豊かなものになり、人間的な成長を促される行為である。魅力ある観光資源とは、自然や人間が長い時間をかけて創り出したものであり、現在のお金や技術で容易には創り出すことができない「固有性」や「土着性」、「独自性」を持ち、他に代替がきかないものである。その資源が本来有している魅力に加え、その整備状況も評価の対象とし、資源の現在のあり様を評価対象とする。ただし、アクセスの容易さのように、資源のあり様と関係の薄い要因によって多くの観光客が訪れることもあり、多くの観光客が訪れているからといって観光資源の魅力が高いということにはならない。
【評価対象とした観光資源】
●観光資源の定義を満たすもので、スポーツのように特別な技能を要さない、ごく一般的な利用方法によって認識できる部分を評価対象とする。
●観光地は複数種類の観光資源や観光施設が集積して構成されている。今回の評価対象として取り上げるのは、あくまで個々の観光資源であり、観光地は評価対象とはならない。
●視点場は評価対象とならない。感動の源泉となり人々を誘引する源泉となるのは、視対象であるためである。
●一時期の社会的流行や風潮によらず、資源が本来有している魅力を評価するため、社会的に評価が定まっていると考えられる資源を評価対象とし、観光対象となってから原則としておおむね20 ~ 30 年程度が経過したものを中心に評価を行う。
②観光資源ランク
各地を代表する観光資源の中でも、特に強く私たちの心に響き私たちを惹きつける資源を、特A 級資源、A 級資源、特別地域観光資源として選定している【表1】。どのような観光資源に心惹かれるかは人それぞれだが、その中にあってもこれらの資源は、普遍的な力を持ち、より多くの人が素晴らしいと感じ、その資源と対峙したときに大きな感動を覚えるものである。
③観光資源種別
観光資源の性質に応じて、山岳や湖沼などの「自然資源」10 種類、寺社や郷土景観などの「人文資源」14 種類、計24 種類の観光資源種別を設定している【表2】。
④評価の視点
大きな感動を生み出す観光資源には、いくつかの共通する特徴があり、こうした特徴を14 の評価の視点として設定した【表3】。
ここには、美しさや大きさといった視覚的・直感的な要素だけでなく、住民や歴史的事象・人物とのつながりといった、深く知ることで初めて理解できる要素も含まれる。評価にあたっては、これら全ての項目を満たしている必要はなく、一つでも傑出した要素があれば高く評価している。なお、資源種別ごとの特徴を踏まえた評価のポイントについては、【表2】に整理している。
3. 観光資源の評価
①評価方法
事務局・委員および地域資源に精通した研究者・実務者による現地調査を実施したうえで、調査結果を委員会での審議に諮った。
評価にあたっては、これまでの評価方法を踏襲し、長年にわたって観光の現場を見続けてきた観光研究者・観光実務の専門家である溝尾良隆氏(立教大学名誉教授)、林清氏(元当財団常務理事)、志賀典人氏(元当財団会長)、寺崎竜雄氏(元当財団常務理事)による「観光資源調査委員会」を設置し、一つ一つの観光資源について議論し、総合的な判断を行った。
②評価結果
第5 期では全2,906 件の観光資源が選定され、その内訳は特A 級56 件、A 級421 件、特別地域観光資源2,429 件であった。
資源種別の資源件数は【表4】に示す通りである。自然資源では、「山岳」が172 件、「植物」が165 件、「海岸・岬」が131件の順に多い結果となった。人文資源では、「神社・寺院・教会」が突出して多く625 件、「年中行事」が245 件である。
地方別の観光資源件数については、【表5】に示した。自然資源の件数を見ると、中部地方が151 件と最多で、以下、東北地方(122件)、関東地方(111 件)、九州地方(110 件)と続く。人文資源については、近畿地方が474 件、関東地方が411 件で他地方より顕著に多かった。総数では関東・近畿が多いものの、資源構成を見ると、近畿地方が人文資源中心であるのに対し、北海道や沖縄県では自然資源の件数が人文資源を上回るなど、地域ごとに資源構成の特色が表れている。
すべての観光資源の一覧は【表6】に掲載している。
4. おわりに
本来、歴史や自然に裏打ちされた観光資源の評価というものは、そう簡単に変わるものではない。しかしながら、社会情勢や人々の価値観、観光を取り巻く環境は常に変化し続けている。普遍的な価値を尊重しつつも、評価の基準や個々の資源に対する評価そのものについては、時代に即した不断の見直しが不可欠であると認識している。今後も、変わりゆく時代の中で変わらぬ価値を見極め、日本の観光資源の魅力を正しく伝えていく取り組みに、真摯に向き合っていきたい。
最後に、本調査の実施にあたり多大なるご尽力をいただいた委員の皆様、現地調査および本サイトへの掲載にご協力いただいた関係各位、ならびに事務局一同に、心より感謝申し上げる。






















