特集2

自治体アンテナショップのインバウンドにおける役割
一般財団法人地域活性化センター・広報室長 畠田千鶴

 

畠田千鶴(はただ・ちづる)

一般財団法人地域活性化センター広報室長兼月刊「地域づくり」副編集長。 早稲田大学大学院公共経営研究科修了、公共経営修士取得。 1995年から2011年まで有楽町・ふるさと情報プラザを担当し、自治体と連携したプロモーション事業を手掛ける。現在は月刊情報誌「地域づくり」副編集長、「自治体アンテナショップ実態調査」、「ふるさとパンフレット大賞」等担当。

 

東京に居ながらにして、地方の特産品を手軽に購入でき、地元の食材を使った料理を味わえる飲食施設もある自治体アンテナショップ(以下、アンテナショップ)は、すっかり定着し人気を集めている。一般財団法人地域活性化センター(以下、JCRD)が、東
京都内にアンテナショップを持つ自治体を対象に毎年実施している「自治体アンテナショップ実態調査」(以下、実態調査)によると、2018年4月1日時点で、過去最高の58店舗(注)となった。また、年間売上額が1億円以上の店舗は、2010年度は20店舗であったのに対し、2018年度は35店舗に増加している。
首都圏の情報発信基地として設置されたアンテナショップは、特産品販売だけではなく、イベントの開催、観光案内など様々な役割を担っている。最近では、地域のブランディング、マーケティング、セールスプロモーションなどに力を入れ、外国人客へのサービス改善にも取り組みつつある。

アンテナショップ出店の目的と効果

現在のようなアンテナショップのビジネスモデルが出現し始めたのは、1990年半ばからで、その多くは銀座・有楽町エリアに集積し、実態調査によれば2018年4月1日時点で20店舗を数え、全体の34・4%に当たる。
また、アンテナショップ出店の目的は、「特産品のPR」「特産品の販路拡大」が常に上位にあげられ、その効果においても満足のいく結果となっている。
2018年度調査では、設立目的に「特産品のPR」をあげたのは58店舗中54店舗、「特産品の販路拡大」は58店舗中52店舗であった。その効果が高いと自己評価しているのは「特産品のPR」54店舗で100%、「特産品の販路拡大」は50店舗96%であった。
ネットショッピングで地方の食材を簡単に購入できる現在においても、わざわざリアル店舗に買い物に訪れるのは、アンテナショップという特別の「場所」が魅力となっているようだ。その理由として、商品の安全性や希少性、商品のストーリー性、地方へのノスタルジーなどが考えられる。

アンテナショップのグローバル化

2019年1月16日に発表された観光統計の推計値によると、2018年暦年の訪日外国人数は3000万人を超え、消費額も4・5兆円となり、過去最高を記録した。また、訪日外国人(一般)1人当たりの消費額は15万3千円であった。2018年7‐9月期の地域調査結果によれば、東京都は都道府県別訪問率が43・8%と最も高く、1人当たり旅行中支出額でも8万8千円で全国1位であった。今後、東京五輪に向けて、東京を訪れる外国人観光客がますます増加すると予想され、彼らが地方に興味を持ち、特産品の購入や旅行につなげてくれるかが、情報発信拠点であるアンテナショップの運営のカギになりそうだ。

❶ 現状把握のための調査開始

2013年頃から、円安、免税制度の改正などにより、アンテナショップが集積する銀座・有楽町エリアに外国人観光客が急増した。一度に大量の商品を購入する消費行動「爆買い」が話題になった時期である。アンテナショップへも、外国人客が訪れる機会が増えていたが、当時は、特別な対策はしていなかったため、接遇が課題となった。JCRDでは、状況を把握するために実態調査の項目に「外国人客への対応」(表1)を加えた。
また、同時期に決定した東京オリンピック・パラリンピック(以下、東京五輪)の開催は「通りがかりにアンテナショップを訪れる外国人」に対する接遇だけに終わらず、戦略的に、アンテナショップの存在を認識してもらい、足を運んでもらい、消費や旅行に結びつける運営に取り組む店舗が出現し始めた。

 

❷ 外国人も日本人も楽しめるショップの誕生

2016年に開設した富山県のアンテナショップ「日本橋とやま館」は、店舗の計画段階からハード、ソフト両面のインバウンド対策を盛り込んだ。
内装は地元木材をふんだんに使ったモダンな設えで、地酒が飲める「トヤマバー」は世界的に有名なガイドブック「ロンリープラネット」にも紹介され外国人がよく訪れる(写真1)。また、英語が話せるコンシェルジュ2名を配置し、観光案内、買い物や飲食のサポートをする。コンシェルジュは、毎日店舗で接客していることから、商品情報
にも通じており、売り上げにもつなげている。一方、有名ホテルのコンシェルジュ、外国プレス、大使館のスタッフを招いて懇親会を開催し、ファン拡大につなげている。
2018年に開設した徳島県のアンテナショップ「TurnTable(ターンテーブル)」(渋谷区神泉町)は、宿泊、飲食、販売施設を兼ね備えている。宿泊施設は、スイート、ツイン、シングルのほか、比較的低価格で泊まれるドミトリータイプ(相部屋)があり、外国人旅行客が多く利用している(写真2)。
両施設に共通しているのは空間デザインを意識したハードと、地域を体感できる魅力的なソフトである。

 

外国人客への対応

❶ 外国語の案内パンフレット作成

2013、2014年度実態調査の結果を見ると、アンテナショップを紹介する外国語パンフレットを作成している店舗は2店舗のみであった。この結果を踏まえ、JCRDでは各アンテナショップに呼びかけ、2014年度から毎年共同で英文パンフレットを発行。制作・発行は飲食のウェブサイトを運営する「ぐるなび」が行っている(写真3)。
パンフレットには、二次元コードを付加し、スマートフォンでスキャンすると、ぐるなびと東京メトロが共同運営するウェブサイト「レッツエンジョイ東京」とリンクし、中国語(繁体字・簡体字)、韓国語でも店舗情報が表示される。また、パンフレットは、銀座や上野など東京メトロの主要駅にある、外国人旅行客向けのコーナー「ウェルカムボード」、外国人観光案内所(TIC)、東京シティアイなどで配置してもらっている。
しかし、この英文パンフレットを作成する過程で、2つ課題が浮かび上がった。一つ目が、アンテナショップが普通の小売店ではなく、自治体がプロモーションのために設置した「特別な店」であることを理解してもらうこと、二つ目が、「アンテナショップ」の翻訳の問題である。英語のネイティブスピーカーは、パラボラアンテナなど物質的なアンテナの販売店と理解することがあるため表記を工夫する必要があった。
それを受けて、パンフレットに日本におけるアンテナショップの説明を掲載し、アンテナショップが地方の特産品を販売している店であることを強調するために「Antenna Shop」と「LocalSpecialty Shops」という文字を併記した。

 

❷ 免税販売

2014年に外国人旅行者向け消費税免税制度が改正され、10月1日から、従来免税販売の対象となっていなかった消耗品(食料品、飲料品、薬品類、化粧品類、その他消耗品)を含めた、全ての品目が消費税免税の対象となった。その目的は外国人観光客の地域への誘客により地域経済の活性化を図るためとされた。
当初、アンテナショップでは「システム導入が煩わしい」「免税対象の5千円以上を購入する外国人観光客はアンテナショップにあまり来ない」「外国人の来館がない」などの理由で、導入に二の足を踏む店舗が多かった。
JCRDでは、主催する「自治体アンテナショップ情報交換会」において、参加者に観光庁の担当者から入念なレクチャーを受ける機会を設けた。また、東京都が都内観光関連事業者(宿泊施設、飲食店、小売店等)を対象に専門家を派遣し、免税、接客、集客など多岐にわたるアドバイスを無料で提供する支援事業「TOKYOインバウンドセミナー、アドバイザー派遣」の情報も提供した。2015年度実態調査では3店舗であった免税店が、2018年度には14店舗に増加した。

❸ IT環境の整備

外国人旅行客の通信手段として、無料公衆無線LAN、SIMカード、モバイルWi‐Fiルーター等があげられる。実態調査によると、フリーWi‐Fiの整備を上げた店舗は徐々に増え、2015年度は10店舗であったが、2018年度には21店舗となり整備が進んでいる。

また、最近ではキャッシュレスシステムを導入する店舗も増加しており、入り口に案内シールを貼る店舗もある。

❹ 多言語での接客

多言語での対応や外国人とのコミュニケーションは、2013年度に実態調査を開始以来、課題となっている。
アンテナショップの中には、語学ができるスタッフが常駐している店舗もあるが、予算確保が難しいため、2018年度実態調査では58店舗中13店舗、22・4%にとどまっている。最近では、ITの飛躍的な発達で、対話型音声翻訳機や翻訳アプリなど便利なツールが浸透してきており、導入を検討するショップも出てきている。
外国語商品説明プレートの設置、レストランメニューの多言語化はまだ手が付けられていない店舗が多いが、改善を進めている店舗もある。
秋田県のアンテナショップ「あきた美彩館」は、品川駅高輪口の商業施設内に店舗を構え、周辺には複数のホテルが立地する。店舗運営者によると「インバウンド客がよく食事に訪れている」とのことである。レストランでは英語メニューを用意しており、日本人でもあまり馴染みのない秋田ならではの食材、「じゅんさい」「とんぶり」「ギバサ」が説明されている。このメニューは、アンテナショップの運営担当者と秋田県の複数課が連携して作成された(写真4)。

 

海外に向けての情報発信

前述したとおり、都内にあるアンテナショップの外国人客の受け入れ態勢は整備されつつあるが、まだまだ認知度が低い。外国人旅行客の多くは、来日する前に、ガイドブックやネットで情報収集をしているため、観光、買い物、食事のプランを立てていることも多い。
複数回来日、長期滞在、日本在住の外国人にはアンテナショップの存在を知る機会もあるかもしれないが、短期滞在の旅行客には情報が届いていないかと思われる。日本に到着する前に、存在を知ってもらう工夫が必要である。

❶ 広報プロモーション

アンテナショップにおいては、地域の魅力の発信、特産品の売上アップを目指すために広報活動がきわめて重要である。2018年度実態調査では、初めて「広報プロモーション体制について」の質問項目を設けた。最も多い取り組みは、メルマガ( 21店舗)で雑誌広告、インターネット広告、新聞広告が続いた。
しかし、海外に向けての情報発信はまだ試行錯誤の段階で、「海外メディアにどのようにアプローチして良いかわからない」、「海外プロモーションを代理店に委託すると高額になり、アンテナショップ単独では予算化できない」などの声をよく耳にする。
一方、海外向けメディアからはJCRDに、日本全体のアンテナショップの状況の取材がたびたびあり、それを読んだ外国人読者からも問い合わせメールを受けている。日本の地方やアンテナショップに関心を持たれていることがわかった。
それらの情報はウェブ版の英字新聞で紹介されることが多く、最近では、THE JAPAN TIMES、毎日新聞英語ニュースなどに紹介された。
また、ウェブサイト「nippon.com」では、日・英・仏・西・ロシア・アラビアの6カ国語で紹介された。

❷ SNSの活用

SNSを使って情報発信するアンテナショップは増加傾向にあり、特にフェイスブックは、実態調査では2013年度導入店舗は22店舗だったが、2018年度には45店舗と倍増した。また、インスタグラムの導入も増加しており2017年度7店舗から2018年度には17店舗となり、1年間で10店舗が導入した。旬の商品やイベントの最新情報を紹介でき誘客につながる。また、写真や動画を多用するため、言語が違う外国人に向けても、存在をアピールできるツールとして期待できる。

❸ 視察・調査の受け入れ

海外では、自治体が地域のプロモーションのために常設店舗を構える日本のアンテナショップにあたる存在が定着しておらず、JCRDには多くの国から日本独特のビジネスモデルの研究目的のために調査に訪れている。2009年から2018年の間に訪れた人々の国は47カ国にのぼり、JICA、自治体国際化協会、大使館、大学を通して申し込みがある。その多くは、JCRDでアンテナショップ全体のレクチャーを受けた後、各アンテナショップを訪問。中には、店舗を出している日本の自治体へも出向き調査研究を行う例もある。

今後に向けて

いよいよ、東京五輪が来年に迫ってきたが、特別な対応をしているショップは、まだ、わずかで2018年度実態調査では2店舗のみであった。今後、新たなプロモーション活動が進められるだろうが、今までに培ってきた強みを活かしてもらいたいと思う。
一つ目は、「連携」である。アンテナショップ同士、他自治体、公的団体、民間企業とのウィン-ウィンの連携である。
現在でも、アンテナショップ同士や東京都、中央区と連携したスタンプラリー、民間企業とのコラボイベントなどに取り組んでいるが、今後は外国人にも参加できるような仕掛けを作ることによって、アンテナショップや地方の認知度アップにつなげることを期待したい。
二つ目が、ITの活用である。昨今はネットショップで地方の特産品を購入することは当たり前で、ふるさと納税の返礼品も大変な人気である。しかし、まだネットショップでは十分得られない、商品の味、食感、肌触り、色合いの確認やフェイス ツー フェイスのコミュニケーションはリアル店舗でこそ得られる。アンテナショップは特産品のショールーム的役割も果たしており、贈答品などのネットショップ利用につなげている。海外に向けて、SNSや越境ECを活用することは、地方の魅力を発信し、消費者動向の把握ができる。
そして、アンテナショップのインバウンド対策は、地元との強い連携が不可欠だと思われる。
(はただ ちづる)

注)コンビニや商業施設にコーナーを設けて運営しているアンテナショップ18店舗を除いた数。
【参考】
●地域活性化センター ホームページ「自治体アンテナショップ支援事業」
●観光庁ホームページ 2019年1月16日発表
【訪日外国人消費動向調査】2018年全国調査結果(速報)
【訪日外国人消費動向調査】2018年7‐9月期の地域調査結果