特集4

訪日外国人による越境ECでの観光土産のリピート購買(連鎖消費)の可能性について

桃山学院大学・経営学部経営学科教授 辻本法子

辻本法子(つじもと・のりこ)
桃山学院大学経営学部経営学科教授。 大阪府立大学大学院経済学研究科博士後期課程修了、博士(経済学)。 株式会社近鉄百貨店勤務、桃山学院大学経営学部准教授を経て、2013年より現職。専門は消費者の購買行動分析・地域活性化のためのマーケティ
ング戦略。 主な著書に『地域活性化のための観光みやげマーケティング│熊本のケーススタディ│ 』(共著、大阪公立大学共同出版会、2017年)、『先を読むマーケティング 新しいビジネスモデルの構築に向けて』(共著、同文館出版、2016年)など。

 

年々拡大する訪日外国人旅行者の消費額

日本を訪れる外国人観光客数は年々拡大し、観光庁(2019)によると、2018年には過去最高の3119万人(前年比8・7%増)となった。同年の訪日外国人の旅行消費の総額は4兆5064億円で2012年の1兆1000億円以降7年連続で前年と比較して増加が続いている。旅行消費総額のうち、観光土産の購入とみなせる買物代は1兆5654億円である(注1)。
外国人観光客数のうち中国からの訪日客数は、648万人と前年と比較して21・8%増加しており、外国人観光客数の22・4%を占めている。また、中国人旅行者の買物代は8033億円と買物代全体の51・3%を占め、一人当たり買い物代は11万923円で、訪日外国人平均一人当たり買物代の5万880円を大きく上回っている。つまり、中国人旅行者は日本のインバウンド市場において主要なターゲットであるといえる。そこで本稿では、中国人旅行者に焦点をあてて論じる。
2018年の中国人旅行者の買物代は、旅行者数が増加しているにもかかわらず、前年の8777億円から減少している。つまり一人当たりの買物代が減少しているのである。これは、中国人旅行者の消費者属性が多様化し、従来の富裕層に加え中間層の旅行者が拡大している可能性や、リピーターの増加により観光土産に対するニーズが変化している可能性を示唆していると考えられる。
観光土産は、旅行時点における一過性の消費とみなされがちである。しかし、観光土産として購入された商品が、観光客の帰国後に再度購入(リピート購買)されれば、観光土産の消費拡大がはかられ、特に国を越えての購入が可能なEC(越境EC)は地域事業者が多い観光土産産業にとって有力なチャネルとなる可能性がある。つまり、地域の観光事業者の販路のグローバル化が実現できるのである。

消費者行動研究から見た観光土産の特徴

観光土産の注目すべき特徴のひとつは、自分のために購入(自己消費) するだけではなく、他者に贈与するために購入される場合が多いことである。これまでの消費者行動研究では日常における購買行動と比較し観光土産の特徴として以下の3点があるとされる (注2)。
❶…観光は、日常から離れるため責任感が低下し、理性的でない購買行動をとる可能性があること。
❷…観光地の独特な環境が消費者に刺激をあたえる「場所の消費」であること。
❸…旅行者が購入する土産物は、旅行の記憶という価値の象徴であり、また、他者との関係を維持するためにももちいられること。
つまり、観光土産は観光という非日常的な場に出かけることで、気持ちが開放的になり、普段は買わないような商品まで購入してしまいがちであること、さらに人間関係を良好に保つために他者への贈り物としての目的でも購入されるという特徴がある。特に、日本人は他者への贈り物として観光土産を購入する傾向にあるといわれ、中国人旅行者も日本人と同様に観光土産をよく購入することや、観光土産に食品を選択する傾向が強いことが、これまでの研究で明らかになっている。
観光土産として購入される商品にその地域の特産品を活用する試みが、多くの地域で行われている。特に農産品等を加工する6次産業で開発された観光土産に対する期待が高まっている。
特産品を使用した観光土産の消費拡大は地域事業者にとって重要な課題である。そこで本稿では、観光土産のリピート購買について、筆者のこれまでの研究で明らかになったものを紹介するとともに、外国人旅行者に対し、帰国後のリピート購買を喚起するための越境ECにおける課題について考察する。

観光土産の連鎖消費

「観光土産の連鎖消費」とは、観光地で購入した観光土産を気に入って、何度も購入することを指す筆者が提唱している消費者行動である。まず、この概念を説明する。図表1は、観光土産の購買意思決定モデルである。一般的な購買意思決定モデルは、購買後評価を「買い手」が行うと想定しているのに対し、このモデルは観光土産の「買い手」が行う場合と、観光土産の「受け手」が行う場合の2つのパターンを想定している。なぜならば、観光土産は自分のために購入する場合と、第三者に贈与する場合があるからである。
そのため、リピート購買は観光土産の買い手だけではなく受け手によっても行われる可能性がある。
意思決定のプロセスを説明すると、まず買い手が自分のためや、第三者に贈与するために観光土産を購入したいという動機が生じ(問題認識)、次に、旅行前にガイドブックやインターネットなどのメディアや家族友人などのクチコミなどにより現地や観光土産に関する情報が収集される(情報収集)。
さらに、旅行中の食事や観光施設でのさまざまな体験により収集される情報が追加され、これらの情報から買い手は観光土産の商品の選択肢を評価する自分なりの商品の評価基準を形成し(選択肢評価)購買にいたる。なお、評価基準は商品の見た目や機能性に関する「外的な特性」と、旅行に行った「場所の象徴性」と、他者との関係性維持に関する「内的な特性」の3つから構成される(注4)。購買後には、商品についての評価がなされる(購買後評価)が、買い手が自分のために購入した観光土産の場合は買い手による購買後評価がなされ、他者に贈与された場合は買い手に加え、受け手による購買後評価もなされる。

図表2は観光土産の連鎖消費モデルである。連鎖消費とは、観光土産を買い手から贈与された受け手がその商品を気に入った場合、自らも購入し、さらに受け手が第三者である知人に贈与するために連鎖的に消費が拡大していくと仮定するモデルである。Phase1は買い手が購入した観光土産を受け手に「おみやげ」として贈与すること、自己消費し気に入って売り手のECサイトなどでリピート購買することを想定している。Phase2は観光土産の受け手が商品を気に入り、自ら売り手のECサイトで購入し消費するとともに、購入した商品を「おすそわけ」などの名目で第三者に贈与することを想定している。Phase3は受け手から贈与された第三者が商品を気に入り、自ら売り手のECサイトで購入し消費するとともに、購入した商品を「おすそわけ」などの名目で贈与することを想定している。
もしも、このような連鎖消費が存在するのならば、訪日外国人旅行者に観光土産として購入された商品は、旅行者の帰国後に消費が拡大していくと考えることができる。また、一般的に観光土産を贈与目的で購入する場合、贈与対象は複数である場合が多い。そのため、連鎖消費は広く拡散していく可能性がある。

 

越境ECによる連鎖消費の可能性

筆者がこれまでに行った中国人旅行者(買い手)ならびに中国国内の観光土産の受贈者(受け手)に対する調査データ(注5)を用いて連鎖消費の存在を確認する。図表3は、買い手の日本で購入した観光土産のリピート購買経験である。日本への旅行で購入した観光土産(食品)を気に入って、帰国後にECで購入したことがあるかという質問に対し、21・5%が「よくする」、43・3%が「したことがある」と回答し、6割以上の旅行者にEC利用によるリピート購買経験があった。
次に観光土産の受け手についてであるが、図表4のように、「受け取った日本の観光土産を気に入ったので、後日自分でも購入したか」との質問に対し49・9%が購入したと回答し、「その商品を知人などの第三者に『おすそわけ』したか」の質問では、なんと購入者の92・5%が「おすそわけ」したと回答し、連鎖消費が生じていることが確認できた。筆者の日本人を対象とした調査でも、観光土産の受贈後に自ら購入する受け手は、購入した商品を第三者に贈与する傾向にあり、日本人の場合と同様に中国人の受け手にもその傾向が見られる。いわば、彼らは自ら購入した「試食付きのクチコミ」を拡散してくれる消費者である。なお、購入者の購入チャネルは、49・3%が日本にあるインターネットショップであり、購入者の半数が越境ECを利用している結果となった。
このことから、越境ECによる観光土産の消費拡大を企図する事業者は、買い手である訪日外国人旅行者に加え、観光土産の受け手を意識した商品開発、マーケティング戦略を実行することが重要だといえる。

 

訪日経験の程度とリピート購買

訪日中国人旅行者が増加するにしたがい、旅行者の消費者属性が多様化している。そのため訪日旅行者に対し観光土産のリピート購買を促進するためには、多様化する旅行者の特徴を捉えたマーケティング戦略を実行することが重要になる。そこで、調査データをもとに旅行者の訪日経験の程度によって、インターネットによるリピート購買に対してどのようなニーズがあるのかを考察してみたい。
回答者を初心者である初回訪日者、リピーターである2度目の訪日者、ヘビーユーザーとみなした3回目以上の訪日者に分類しECによるリピート購買意向の関係について分析した。図表5は買い手の訪日経験の程度と観光土産のECによるリピート購買の際に重視する項目で統計的に有意な差異がみとめられた項目である(注6)。
まず、インターネット購入についての意向であるが、3回目以上の訪日経験者の88・0%がリピート購買意向を示した。一方、初回訪日者は71・4%、2回目訪日者は82・7%であった。3回目以上がプラスの有意差、初回がマイナスの有意差を示していることから、訪日経験が高まるほど、リピート購買意向も高まっているといえる。
次に、インターネットショップに求められるサービスや機能であるが、ショップの中国語対応については、「サイトの中国語表記」について、3回目以上の訪日経験者の80・9%が購買意向を示した。一方、初回訪日者は68・0%、2回目訪日者は76・2%であった。「電話やメールによる中国語での問い合わせ」では、3回目以上の訪日経験者の73・8%がリピート購買意向を示した。
一方、初回訪日者は59・0%、2回目訪日者は67・3%であった。つまり訪日経験が高まるほど中国語表記へのニーズも高まる傾向にある。購入の利便性については、「返品などのアフターサービス」について、3回目以上の訪日経験者の76・5%がリピート購買意向を示した。一方、初回訪日者は62・1%、2回目訪日者は73・8%であった。「
送料の安さ」では、3回目以上の訪日経験者の79・8%がリピート購買意向を示した。一方、初回訪日者は62・6%、2回目訪日者は67・3%であった。サービスや機能については、3回目以上と初回訪日旅行者の間に明確な差異が見られ、訪日経験が高まるほど、インターネットショップに対する様々なニーズが高まる傾向にある。
では、彼らはどのような商品をリピート購買したいと考えているのであろうか。「生産者や製造者による直接販売」について、3回目以上の訪日経験者の83・6%、2回目訪日者の77・1%がリピート購買意向を示した。一方、初回訪日者は62・6%であった。「産地の明記」について、3回目以上の訪日経験者の77・0%、2回目訪日者の77・6%がリピート購買意向を示した。
3回目以上と2回目はほぼ同じ割合である。一方、初回訪日者は63・9%であった。
「日本からの直接発送」では、3回目以上の訪日経験者の77・6%、2回目訪日者の77・6%がリピート購買意向を示した。この質問に対しても3回目以上と2回目は同じ割合である。一方、初回訪日者は63・4%であった。2回目以上のリピーター旅行者は「日本製」「日本産」に対する関心が非常に高いことがうかがえる。商品の限定性については、「日本でしか手に入らない特産品」について、3回目以上の訪日経験者の77・6%がリピート購買意向を示した。一方、初回訪日者は66・5%、2回目訪日者は70・1%であった。「果物などの季節感のある農産品」では、3回目以上の訪日経験者の72・7%がリピート購買意向を示した。一方、初回訪日者は60・3%、2回目訪日者は67・3% であった。
「産地の明記」、「生産者や製造者による直接販売」、「日本からの直接発送」などの「生産者・製造者」に対するこだわりは、リピーター(2回目、3回目以上の訪日者)が強い結果となり、「日本でしか手に入らない特産品」、「果物などの季節感のある農産品」などの「限定性」に対するこだわりについては、訪日経験が高くなるほど強くなる結果となった。

 

受け手の越境ECの利用理由

前述の通り、観光土産を連鎖消費した受け手の半数が越境ECを利用している結果となったが、受け手が越境ECで購入する理由は、「取引の安全性が高い(偽物が少ない)から」が83・8%、「商品品質(消費期限が長いなど)が良いから」が77・8%、「ステータスが高いから」が45・3%、「中国国内では販売されていないから」が44・3%、「中国国内で購入するよりも、価格が安いから」が34・5%であり、突出して高いのは「取引の安全性」と「商品の品質」の高さであった。

 

越境ECによる消費拡大における課題と施策

インバウンドの最大のマーケットである中国人旅行者や観光土産の受け手による連鎖消費の存在が確認できたため、帰国後の越境ECでのリピート購買を喚起することは観光土産の消費拡大に重要である。筆者が考える越境ECでのリピート購買促進に関する課題は次のとおりである。
❶…リピーターは、気に入った観光土産をリピート購買する傾向にあるため、事業者は帰国後に購入が可能なインターネットショップを構築することが必要である。
❷…訪日頻度が高まるほど、インターネットショップにおける中国語対応へのニーズが高まるため、事業者はインターネットショップの中国語での対応が可能なシステムの導入や人材育成を行う必要がある。
❸…リピーターはインターネットショップでのリピート購買に際して「生産者」「製造者」に対する強い購買意向が見られた。そこで、リピーターに対し、「日本産・日本製」の訴求がより効果的である。
❹…観光土産の受け手が越境ECを利用する理由は、「取引の安全性」、「商品の品質」の高さへの信頼である。事業者は取引の安全性や品質の訴求を中国語で表記し、訴求する必要がある。
❺…リピーターが増加するにしたがい、地域の特産品への関心が高まると予想されるため、訪日経験の程度に対応した、リピーターが理解可能な言語による地域の特産品の情報発信を積極的に行う必要がある。その際は、観光土産の受け手までを意識し、パッケージやショッパー(買物袋)へのインターネットショップの誘導の仕掛け (URLやアクセス時の特典の表記など)を行う必要がある。

訪日経験の程度に対応したマーケティング・コミュニケーション

図表7は訪日経験の程度による地域産品のマーケティング・コミュニケーションのプロセスである(注7)。まず、新規の旅行者に対しては、地域特産品に対する興味を喚起するためのリーフレットの配布や特産品紹介のホームページへの誘導、2回目の旅行者に対しては、地域特産品に対する知識を深めるための、店頭やホームページでの情報発信や、リピート購買を促進するためのインターネットショップへの誘導や、購入した際のインセンティブ付与などのプロモーション、3回目以上の旅行者に対しては、地域特産品に対するロイヤルティを高めるための、生産者とのコミュニケーションを図れる場の提供、生産地や製造現場への招待などのイベント・プロモーションなどが考えられる。

 

 

訪日回数の把握とロイヤルティプログラム

わが国では、訪日観光客数6000万人を目標と掲げているが、その3分の2である4000万人をリピーターとして計画している。中国人旅行者の化粧品や電化製品の爆買いが沈静化しているといわれるが、リピーターは増加していくと思われ、彼らはより「生産者」「産地」などへの関心が高まると予想される。これからが、地域産品の消費拡大のチャンスであると筆者は考える。そのため観光地における対応とともに、旅行者の帰国後の対応をしっかりと構築することが、観光立国として今後経済成長を目指すためには重要なことである。
旅行者の訪日回数が視覚化できれば、事業者が旅行者にアプローチする際に大変有効である。理想を言えば、訪日回数を入国時に把握でき、行政と民間が一体となった訪日頻度によるロイヤルティプログラム(航空会社のマイレージプログラムのような訪日頻度による特典などの付与)が可能になれば、より訪日経験に対応した効果的なマーケティング戦略が実行できると考える。
(つじもと のりこ)

(注1)「訪日外国人消費動向調査2018年全国調査結果(速報、プレスリリース)」、2019、国土交通省観光庁、
http://www.mlit.go.jp/common/001268656.pdf、2019年1月30日ダウンロード。なお、観光庁の「訪日外国人の消費動向‐訪日外国人消費動向調査結果及び分析‐平成
29年年次報告書」(2018)において、買物代を土産品の購買とみなして分析をおこなっているため、本稿においても買物代を観光土産の購買としている。
(注2)Oh, J., Y-J., Cheng, C-K., Lehto, X., Y., O’Leary, J., T., 2004, “Predictors of tourists’ shopping
behaviour: Examination of socio-demographic characterristics and trip typologies,” Journal of Vacation
Marketing, Vol. 10, No.4, P.P.308―319
(注3)辻本法子・田口順等・荒木長照、2013、「贈与動機が消費者の購買行動にあたえる影響―熊本県における観光土産の実証研究-」『桃山学院大学経済経営論集』、桃山学院大学総合研究所、第55巻、第1―2号、225―255頁より引用。
(注4)観光土産の選択肢評価については、辻本法子・荒木長照・朝田康禎・田口順等、2015、「観光土産購買における売り手・買い手・受け手の商品評価に関するギャップ―地域活性化のための観光土産開発に向けて―」、『観光と情報』第11巻、第1号、57‐70頁を参照のこと。
(注5)買い手の調査は、2016年に日本を訪れた中国人旅行者(北京、上海、広州、深圳の20代から60代の居住者)を対象に、2017年2月16日から2月27日の期間で実施した。有効回答数は832(男性416、女性416)である。
受け手の調査は、2016、2017年に日本を訪れた中国人旅行者から観光土産を受け取った中国人(北京、上海、広州、深圳の20代から60代の居住者)を対象に、2018年3月14日から3月25日の期間で実施した。有効回答数は825(男性410、女性415) である。調査はインターネット調査会社(マクロミル)経由で実施。
(注6)質問項目の関連性は、カイ二乗検定により検証している。さらに詳しく訪日年度と要因ごとの差異は、セルの偏りを示す残差分析により測定している。
(注7)辻本法子、2017、「インバウンド観光における観光土産の購買行動‐中国人リピーター旅行者の特徴‐」、『甲南経営研究』57巻、第2号、17―37頁より引用。