観光研究最前線…②
新型コロナウイルス感染症流行下の日本人旅行者の動向2
JTBF旅行意識調査結果より

公益財団法人日本交通公社 観光地域研究部 地域計画室 研究員
安原有紗
市場調査室長/主任研究員
五木田玲子

 公益財団法人日本交通公社観光地域研究部 市場調査チームでは、新型コロナウイルス感染症の流行が旅行市場におよぼした影響把握を目的に、定期的に実施している「JTBF旅行意識調査(調査期間:2020年5月20日〜6月5日)」の調査内容を拡充し、分析を進めている。今回は、2020年5月下旬から6月初めにかけて、全国の日本人に新型コロナウイルス感染症収束後の観光・レクリエーション旅行(以下、旅行)に対する意識を尋ねた調査の結果を紹介する。

1.旅行に対する欲求

❶ 新型コロナウイルス収束後の旅行意向

 新型コロナウイルス収束後の旅行意向は、国内旅行に対しては7割近くが「行きたい」と回答し前向き・積極的であった一方で、海外旅行に対しては約4割が「当面(2年間程度)は行きたくない」と回答し消極的であった。「収束しても、もう行きたくない」も、国内旅行では0.9%だった一方で、海外旅行では6.2%であり、両者に差がみられた(図1)。性・年代別では、国内旅行・海外旅行ともに男女による差はみられなかったものの、若年層の女性の旅行意向が高かった(図2)。普段の旅行頻度別にみると、国内旅行・海外旅行ともに旅行頻度が高まるにつれ「行きたい」と回答した割合が高まった。あまり旅行に行かない層では国内旅行・海外旅行ともに「当面(2年間程度)は行きたくない」が「行きたい」を上回り、旅行に対して慎重な姿勢がうかがえる(図3)。




❷ 旅行の動機

最も回答の多い動機は「旅先のおいしいものを求めて」で、次いで「日常生活から解放されるため」となり、全体の6割以上を占めた。3〜5位には「思い出をつくるため」、「家族の親睦のため」、「保養、休養のため」が4〜5割で続く。前年と比較しても、これらの順位および割合に大きな変動はみられなかった(図4)。中長期的なトレンドにおいても上位の項目に大きな変動はなく、これらは感染症の流行に関わらず多くの人々が旅行に求める普遍的な動機となっている(図5)。



❸ 行ってみたい旅行タイプ

行ってみたい旅行タイプは「自然観光」が47.6%、「温泉旅行」が46.9%とそれぞれ半数弱を占め、以下、「グルメ」、「歴史・文化観光」、「海浜リゾート」と続く。これらの順位および割合は、前年からほぼ変動はみられなかった(図6)。中長期的なトレンドにおいても上位の項目に大きな変動はなく、これらは感染症流行の影響を受けず人気の高い旅行タイプとなっている。コロナ禍に伴い野外での活動への注目が高まっているが、「自然観光」はこの20年間、常に人気の旅行タイプであった(図7)。



2.今後の旅行にあたっての条件と行動の変化

❶ 旅行実施のために必要な条件

 どのような条件が満たされれば旅行を実施したいと思うかを尋ねたところ、国内旅行では「政府・行政が外出自粛要請を解除した(73.7%)」、「緊急事態宣言が解除された(70.9%)」、「治療薬やワクチンが確立された(68.9%)」、海外旅行では「治療薬やワクチンが確立された(74.2%)」、「入国制限が解除された(73.9%)」、「入国後の行動制限が解除された(72.2%)」と回答した割合が高かった。このことから、国内旅行・海外旅行ともに、移動に対する制限など公的な要請の解除、治療薬やワクチンという感染そのものに対処する医療技術の確立を旅行再開の条件と捉える人が多いことが明らかとなった(図8)。ただし、複数回答で選択した項目のうち最も重要な条件を尋ねると、国内旅行・海外旅行ともに「治療薬やワクチンが確立された」が1位となり、医療技術の確立がより重要視されていた(図9)。



❷ 政府や自治体の要請に対する意識

 政府や自治体の要請を意識する度合いは、「要請に従って判断する」が69.2%、「要請を気にしつつも、自分で状況を分析して判断する」が27.6%となり、合わせて96.8%が政府や自治体の要請を意識していた。前項同様、公的な要請が旅行実施条件として重要な位置を占める結果となった(図10)。


❸ 行きたい地域・あまり行きたくない地域

 新型コロナウイルス収束後に行きたい地域としては、3割以上が「これまでに旅行したことのない地域」、「元々予定していた地域」、「これまでに旅行したことがあり愛着のある地域」を挙げた。逆に、あまり行きたくない地域としては、4割以上が「公衆衛生が徹底されていない地域」、「人が密集している地域」を挙げた。「公衆衛生が徹底されている地域」、「あまり人が密集しない地域」は行きたい地域の上位ではないことから、これらは十分条件ではなく必要条件として捉えられている(最低限の条件であり、満たされてもプラスには評価されないが、満たされないとマイナスに評価される)と考えられる(図11)。


❹ 旅行先の選択・旅行先での行動の変化

 新型コロナウイルスの流行が旅行先の選択や旅行先での行動に変化を与えるかを尋ねると、「変化する」が34.7%、「変化しない」が15.4%、「わからない」が43.2%となり、約半数が変化の有無について図りかねているものの、残りの半数は何らかの変化を想定していた(図12)。「変化する」と回答した人を性・年代別にみると、総じて女性の選択率の方が高く、男性では30代・40代が比較的高く、新型コロナウイルスの流行に敏感に対応する傾向がみられた(図13)。変化の具体的な内容としては、「三密回避」、「マスク着用」などの基本的な感染予防策が多数挙げられた(図14)。




3.観光地に対する支援意向

❶ 支援意向

 新型コロナウイルスの流行によって観光客数が大幅に減少し経済的な影響を受けている観光地に対して支援を行いたいかを尋ねると、「支援したいと思う」が62.2%、「支援したいと思わない」が35.7%と6割以上が支援意向を有していた(図15)。性・年代別では、「支援したいと思う」が男性は57.9%、女性は66.6%となり、女性の方が支援に前向きであった。特に、60代女性は他年代と比べて旅行意向は低めではあるものの、支援意向は7割を超えた(図16)。普段の旅行頻度別では、国内旅行・海外旅行ともに旅行意向が高いほど支援意向も高かった。国内旅行についてみると、あまり行かない層では5割以上が「支援したいと思わない」と回答し、「支援したいと思う(44.4%)」を上回った(図17)。




❷ 支援の実施経験

 観光地への支援意向がある人に対し、2020年1月以降の支援実施経験を尋ねると、「既に支援を行った・行っている」は1割以下にとどまった。一方で、最も多かった回答は「支援をしたいと思うが具体的な方法がわからない(73.0%)」であり、支援意向がある人々へ具体的な情報が提供されていないことが懸念される(図18)。


❸ 支援の実施内容

 観光地への支援意向があり、具体的な支援の方法を知っている人および既に支援を行った・行っている人に対してその内容を尋ねると、「インターネットを通じて現地の商品を購入する」が50.0%、「新型コロナウイルスの収束後、現地に旅行する」が49.2%、「ふるさと納税で寄付する」が30.7%であった。感染拡大の状況下で現地への訪問が難しいなか、遠隔からでも行える地域産品の購入に関心が寄せられた(図19)。


おわりに

 本調査より、「なぜ旅行に行きたいか」、「旅行に何を求めるか」、「どのような旅行に行きたいか」という旅行に対する潜在的な意識を反映する「旅行の動機」、「行ってみたい旅行タイプ」は中長期的にみて変わっていないことが明らかとなった。一方で、具体的な旅行実施の場面では、感染リスクの回避が意識され、実施時期や旅行先、現地での行動が状況にあわせて変更されることが示された。コロナ禍を受けて従来の旅行のあり方全てが覆されるわけではなく、より直接的に影響を受け変わっていく部分とゆるがない本質的な部分とが存在する。
なお、今回紹介した「JTBF旅行意識調査」は、2020年5月20日〜6月5日を対象として実施した調査であり、当然ながらその期間の日本人旅行者の意識を捉えたものである。
2020年1月に日本国内で初の感染事例が報告されてから現在に至るまで、7都府県に対する緊急事態宣言の発出(4/7)、緊急事態宣言の全国的な解除(5/25)、「GoToトラベルキャンペーン」(7/22〜)など、各種の感染拡大防止策や経済振興策が打ち出されてきた。旅行に対する意識はこれらの社会状況の影響を受け刻一刻と変化するものと考えられ、感染症の流行が旅行者の意識にどのような影響を与えるかについて、今後も継続的な調査を進め、データを更新・蓄積していくことが重要である。