コロナ禍を経て取り組む、先行的研究…❶
JTBF旅行実態調査
〜日本人旅行者の動向・意識、変わらないこと・変わること

観光文化振興部 企画室長/上席主任研究員 五木田玲子

はじめに

 公益財団法人日本交通公社では、旅行市場の全体像や実態を把握するため、1998年から旅行者の行動や意識などに関する「JTBF旅行者動向調査」を開始、現在は「JTBF旅行意識調査」「JTBF旅行実態調査」の2つの調査に引き継ぎ、中長期的な統計データを社会に提供している。「JTBF旅行意識調査」は、国民の人口構成に近いパネルを確保して中長期的な国民の旅行に対する意識について把握することを目的とした調査であり、通常は年1回、コロナ禍においては調査回数を年2回に増やして実施している。一方、「JTBF旅行実態調査」は、国民の旅行実施内容を旅行目的、同行者、旅行先、旅行先での行動などで把握することを目的とした調査であり、四半期ごとに実施している。全体調査とトリップ調査から成り、トリップ調査は当該期間中に観光旅行を実施した人が対象である。
 コロナ禍においては、密を避けた行動や、旅行そのものを控えるなど、旅行のあり方が大きく変化した。日本人旅行者の動向や意識に関し、変わったこと、変わらなかったことは何なのだろうか。このことは、観光に関する研究のみならず、政策立案や事業展開などにおいても重要なデータになる。そこで、調査内容を拡充し、新型コロナウイルス感染症の流行が旅行市場におよぼした影響把握を目的とした分析を進め、その結果については当財団ホームページにて順次公開している。

コロナ禍における日本人の国内旅行の動向

 コロナ禍が国内観光旅行に与えた影響を図1に示す。コロナ禍による旅行のとりやめは2020年3月に急増し、初めて緊急事態宣言が発出された4〜5月には8割強がとりやめた。その後、徐々に減少し11月には3割強にまで下がったものの、12月から1月にかけて感染者数が急増した第3波下では再び7割に届くほどにまで急増した。その後は感染状況にともない、増減を繰り返している。2021年に入ってからの旅行とりやめのピークは2回目の緊急事態宣言が発出された第3波下の1月であり、同程度の感染者数であった第4波下、過去最大の感染者数となった第5波下では、第3波下ほどの高い割合には至らなかった。予定通り実施した旅行をみると、第3波下の1月と比べて第4波下の4月では10ポイント増加、第5波下ではさらに増加しており、いわゆる〝コロナ慣れ〞の傾向がみられる。

 観光庁「旅行・観光消費動向調査」によると、2020年の日本国内の宿泊観光・レクリエーション延べ旅行者数は9138万人(前年比46.5%減)となった。2021年に入ってからは前年に比べ回復傾向にあるものの、コロナ禍前と比べると5〜7割減が続く。では、どのような旅行者が減ったのだろうか。図2は、2020年の国内宿泊観光・レクリエーション旅行の経験率、延べ旅行者数、延べ旅行者数の前年比(コロナ禍前比)を年代別にみたものである。延べ旅行者数は全世代でコロナ禍前に比べて大幅減となっており、特に、10代及び80代以上では6割減、9歳以下及び60〜70代でもほぼ半減となった。その一方で、20代は前年比マイナス3割台にとどまり、かつ、延べ旅行者数、旅行経験率ともに最も多いことから、コロナ禍における旅行市場は20代が牽引していたと言える。

 次に、コロナ禍における旅行内容の変化をみていく。ここでは夏休みの8月の旅行内容を取り上げ、コロナ禍前の2019年と2020年、2021年を比較した(図3)。同行者については、2020年は他者との接触回避が強く意識され、同居する家族や夫婦での旅行が約7割を占めた。2021年もその傾向は続いているものの、その比率は6割強とやや落ち着いてきた。主な交通手段は、同行者同様、密や他者との接触を避けるために2020年は自家用車が7割を占め、2021年もコロナ禍前と比べて高い割合が続く。泊数については、コロナ禍にあっては近場の旅行が増えたこともあり、1泊率が増加した。1回目の緊急事態宣言が発出された2020年4月頃からすべての地域において地域内旅行比率が高まり、それ以降も底上げされたまま近場旅行が多い状態が続いている。その一方で、ボリュームは多くはないものの、5泊以上の滞在がコロナ禍前に比べて微増していることにも注目したい。出発日については、コロナ禍前に比べて平日利用が増え、分散化が意識されている。このように、〝密や接触を避け、短期間・同居の家族と、分散して〞の傾向は続くが、突如パンデミックに直面した2020年に比べ、ややコロナ禍前の状態に戻りつつある。

コロナ禍における日本人の旅行意識

 次に、コロナ禍における日本人の旅行意識についてみていく。新型コロナウイルス収束後の旅行意向を示した図4をみると、旅行に行きたいという層は2020年に比べて高まっていることがわかる。コロナ禍の長期化にともない、「自粛してきた分、旅行に行きたい」という思いがこれまで以上に増してきていると考えられる。旅行意向について性・年代別にみると、10〜20代は男女ともに「これまで以上に旅行に行きたい」という意向が他年代に比べて高く、積極的な旅行意向がうかがえる。一方、高齢層、特に女性70代は、他年代に比べて「これまでのようには・全く旅行に行きたくない」という割合が高く、旅行に対して消極的になっている(図5)。


 ここまで旅行意向についてみてきたが、そもそも、人々は旅行というものをどう捉えているのだろうか。そこで、「新型コロナウイルス感染という観点において、国内旅行は日常生活に比べて危険だと思いますか?」と尋ねた結果を図6に示す。この結果をみると、属性によって多少の増減はあるものの、〝国内旅行と日常生活は同程度危険〞と〝国内旅行のほうが危険〞が半々にわかれる結果となった。女性70代は旅行意向が低いと前述したが、このグラフにおいては他の年代とあまり差がないことから、旅行だけを特別に不安視しているのではなく、日常生活に不安があるから旅行にも消極的になっていると言える。この年代は、日常生活が安心できるようにならないと旅行が安全といくらアピールしても動き出すことが難しいと考えられる。国内旅行にあたり、危険だと思う場面については、全体的に、イベントや公共交通機関、街や都市を危険だと捉える傾向が強かった(図7)。地域や事業者として行っている感染対策をしっかり伝え、いかに安心してもらうかが重要となる。


 旅行動機をみると、「旅先のおいしいものを求めて」「日常生活から解放されるため」の2大動機はコロナ禍前から変わらない(図8)。これらの動機の選択率はコロナ禍前と比べて高まっており、自粛疲れから解放されたい、〝おうちごはん〞とは違う旅先の美味しいものを食べたいといった思いが増していると考えられる。今後1〜2年間で行ってみたい旅行タイプについても、「温泉旅行」「自然観光」「グルメ」の3大人気は変わらない(図9)。コロナ禍前からの増減をみると、ほぼ全ての旅行タイプがコロナ禍前に比べてプラスになっており、旅行に行きたい気持ちがうずうずしていることがわかる。特に、「温泉」「高原リゾート」「リゾートホテル」の伸びが大きく、コロナ疲れを癒やしたい、という思いが表れている。同じく伸びが大きい「テーマパーク」からは、コロナ疲れを発散したいという思いがみえてくる。


 では、コロナ禍・今後の旅行で行きたい地域、逆に行きたくない地域はどのような地域なのだろうか(図10)。コロナ禍に行きたい地域としては「あまり人が密集しない地域」が最も多く、次いで「公衆衛生などの感染症対策が徹底されている地域」だが、今後行きたい地域として多く挙げられたのは「これまでに旅行したことのない地域」「元々予定していた地域」「これまでに旅行したことがあり、愛着のある地域」であった。一方、あまり行きたくない地域としては、コロナ禍・今後ともに、「新型コロナウイルスによる感染者が多かった地域」「公衆衛生などの感染症対策が徹底されていない地域」「人が密集しやすい地域」が多く挙げられた。コロナ禍においては「密の回避」「感染症対策」がまず求められるが、今後の旅行においては、密の回避や感染症対策は魅力ではなく最低限満たしてほしいことであり、今後は観光地本来の魅力が求められる。

 最後に、新型コロナウイルスの流行によって旅行先の選択や旅行先での行動が変化するか尋ねたところ、直近の調査では8割が「変化する」と回答した(図11)。具体的には、「混雑する場所や時期、日・時間帯の回避」など密を避ける行動が上位となり、分散化が強く意識されている。また、ツアーへの参加を控える行動や、身近な人との少人数旅行も強く意識され、よりプライベート性の高い旅行・個人化が志向されている。

おわりに

 ここまでみてきたように、日本人旅行者が旅行に求めることや旅行でしたいことは、増減はあるものの大きくは変わらず、それを実現するための いつ・どこに・誰と・どのようにといった手段は状況に応じて変わっていく。この手段に対応する部分については、受入側も柔軟に対応していくことが求められる。
 本調査は当財団が長年継続して実施してきたものであり、調査自体は先行的なものではない。がしかし、本調査で得られる調査結果はこれまでも様々な観光研究の基盤となってきたものである。今後も、観光分野で予見される動きを適宜調査項目に反映したりトピックスとして取り上げたりするなどして、旅行市場の動向や変化を観測できるデータを提供していきたい。