〝体験観光を学ぶ〞ということ
ゼミを通して見る大学の今
第12回 帝京大学 経済学部 観光経営学科
金ゼミ
ゼミは3年次の必須科目で、ゼミ共通の研究テーマは「観光経営に関する諸問題」。理論研究を行い、理論の検証を現場で実践的に試み、その研究活動を深化させて4年次の卒業論文を作成することが奨励されている。
1.はじめに:帝京大学のゼミの特徴
筆者のゼミを紹介する前に、まず、本学のゼミの運用について説明しておきたい。多くの大学でのゼミ活動は、2〜4年次、3〜4年次のように複数年にかけて実施するケースが一般的と言える。それに対して本学のゼミは必須科目として位置づけられた上で、3年次だけの単年となっている。ゼミに関わる基本的な必須科目として、1年次のライフデザイン演習I/II、2年次の基礎演習I/II、3年次の演習I/IIと構成され、3年次の演習I/IIがいわゆるゼミに該当する科目である。ライフデザイン演習I/IIや基礎演習I/IIはプレゼミのような位置づけで、クラス単位の担任制として運用され、2年次の後期にゼミ選考を行っている。4年次になって、卒業論文の執筆を希望する学生のみ、3年次のゼミ担当教員から指導をうけられることになっている。右記のような制度設計になっていることにより、賛否両論はあるものの、単年になっていることから先輩から後輩への伝授効果(4年次が3年次のゼミに参加するということ)が期待しにくいという本質的な問題も抱えている。
2.ゼミの概要及び教育方針
私のゼミにおける共通の研究テーマは「観光経営に関する諸問題」であり、旅行業、宿泊業、飲食業など各種観光事業の経営、さらに観光地全体を一つの経営体ととらえる「観光経営」に関心を寄せる学生を対象としている。但し、企業経営に興味があるのであれば、その対象は観光関連企業に限らない。
具体的な内容は、教員の指導のもとに、研究テーマ及び研究対象を決めて、図書館での文献研究とインターネット情報検索を活用し、研究レポートを作成することである。研究レポートの作成においては、個人研究でも共同研究でも構わない。但し、共同研究に参加するメンバーの役割分担をはっきりさせることを条件とする。
本ゼミの到達目標としては、「自主的な研究テーマの設定の仕方が理解できる」、「文献資料の探し方や研究計画の立て方が理解できる」、「自主研究内容をまとめて発表することができる」、「建設的な批判を踏まえながら活発なディスカッションができる」などを設定しており、「前に踏み出す力(アクション)」、「考え抜く力(シンキング)」、「チームで働く力(チームワーク)」といった、いわゆる「社会人基礎力」を身に付けることを試みる。
即ち、右記の社会人基礎力を身に付けてもらい、社会人として相応しい人材に育成することが目標であり、「明るく、礼儀正しく、肯定的マインドを持ち、周りの人々と交流を深めながら、自分の夢に向けて前進する人材」を育成できるように、人間教育に尽力することが使命である。
そのためには、学生に自信を持たせ、少しずつ成長することの喜びを感じさせることが必要であり、ある時は厳しく叱り、ある時は褒めるなど、学生の性格や状況に合わせた方法を取りながら、教育指導を実施するつもりである。学生の成長は限界のない「∞(無限大)」であると信じている。
3.具体的なゼミの進め方
私のゼミ生は、個人、またはグループごとに自主研究を行い、3年次末までに研究レポートを完成させることを目標とし、3年次の研究成果を踏まえて研究活動を深化させて4年次の卒業論文を作成することを奨励している。
研究テーマの例としては、「ホテル産業におけるサービス品質向上に関する研究」、「バズマーケティングの有効性に関する研究」、「ファシリティマネジメントの手法と事例研究」、「日本のホテルアセットマネジメントにおける現状と課題」など、理論研究に基づき、現場での検証を実践的に試みることを勧めている。
本ゼミ生は、個人、またはグループで「問題意識から研究テーマの設定」、「文献研究などの先行研究による研究の必要性・目的」、「研究目的を達成するためのデータ・資料の収集」、「データ・資料の分析・解釈」、「研究レポートの作成」の順に研究活動を進める。研究レポートを作成することが最終ゴールとなるが、その前の段階として研究計画書を作成し、研究計画書に基づいて研究活動を進めることにしている。具体的な研究計画書の作成の流れは、図1のとおりであり、毎回2〜3個人・グループがプレゼンテーションを行っている。
4.おわりに
本ゼミは、「問題意識からテーマの設定、文献調査やヒアリング調査を通じてレポートを作成、プレゼンテーションの実施」の順に進めていくが、方向性ややり方、文書の書き方、プレゼンテーションの仕方など、学生の立場では慣れていないことも多い。従って、段階ごとに適切な指導や誘導が必要とされる。そのため、研究計画書を作成してもらい、それに基づいて先生と話し合い、研究の方向性や研究方法、さまざまな調査結果の解釈などについて適切なアドバイスをもらい、研究を進めていくことが重要である。研究計画書は、研究内容だけではなく、スケジュールに沿って進めることにも役に立つため、非常に重要性や活用性が高い。プレゼンテーションにおいては、与えられた時間内に自分の成果や考え方を発表することで、論理的かつ効果的に自分の意見を発言する機会となる。
ガイダンスで講義計画を説明した際は、「そんなことできない」、「むずかしい」等否定的な意見ばかりで、何からどこから進めばいいのかがまったく理解できない学生が多かったが、個人・グループ同士での議論、先生を交えての議論を重ねていく度に、少しずつ成長していく姿が見えてきた。特に力を注いだことは、研究計画書の作成である。自分がやろうとする研究のアウトラインが不明確な場合は、ゴールまで辿り着くことがなかなか難しくなる。この点を強調し、大学生活の計画設計や自分の夢や目標に向けての考え方を学ぶ機会としている。今後は、このような講義を通じて、より自分の夢や目標に至るまでの道筋が理解でき、さらなる成長の機会となりうる講義に臨みたいと考えている。
右記のような私の教育哲学や教育方針は、本学部の教育目的である「経済学部は、本学の建学の精神に則り、創造性あふれる経済社会とビジネスモデルを構築できるような、実践的、理論的な知識と技術を涵養することを目的とする」に明記されている「実践的、理論的な知識と技術を涵養」と密接に連動しながら、自立性の強い人材育成を目指している。社会人基礎力をベースに、より高い専門知識を身に付けてもらい、「創造性あふれる経済社会とビジネスモデルの構築」ができるような人材を育成するために、今後は、下記のような取り組みを実施したいと考えている。
計画❶ 社会現象を冷静に評価し、課題を抽出できる分析力の向上
→ ニュース・新聞記事の講読、調査方法・分析方法の熟知 等
計画❷ 鋭い分析力を基に、課題解決のための企画力の向上
→ 企画立案のためにプロセス、手順、方法についての実践的演習 等
計画❸ 実用的な計画に基づき、着実に遂行できる行動力の向上
→ 自らの企画を実行してみること 等
計画❹ 情報収集及び協力できる人的ネットワークの構築
→ 社会構成員としての自覚と、人間関係の維持方法 等
以上
金 振晩(きむ・じんまん)
帝京大学経済学部観光経営学科教授。1974年韓国江原道江陵市生まれ。立教大学大学院観光学研究科博士課程後期課程修了。博士(観光学)。㈱ツーリズム・マーケティング研究所(現、㈱JTB総合研究所)、帝京大学経済学部観光経営学科専任講師、准教授を経て2018年から現職。研究テーマはホテル業における経営戦略、サービスマーケティング、観光による地域振興・地域活性化。著書に『戦略的ホテル経営―戦略的志向性と企業の成果との関係』(学文社。2013)