①株式会社JTB
説明会でお客様の旅行への強い意欲を実感

社員出演のCMで海外旅行復活の機運を醸成

相澤 現在の状況はいかがでしょうか。
山田 一言で申しますと、心理的ハードルもあり、なかなか急回復は難しい状況です。昨年の今頃も同じようにいよいよ再開と言っておりましたが、結果としてそこにはもう一歩追い付いてないという状況であることは確かです。
 ただ、そうした現状ではありますが、いよいよここからということで、2月からCMの放映を開始しました。同時に私たちの創業の歴史を振り返り、JTBはなんのためにあるのかということをあらためて考えてみました。この3年間、子どもたちは学校行事の旅 行やホームステイにもに行けず、卒業旅行も完全に止まっています。10代・20代に海外を知る経験は非常に大事なのに全然行けない、これをどうしたらいいのだろうか。
 国際交流の在り方とか、海外との結び付きを促していくことこそ、私たちJTBの役割なのではないかという思いは常にありましたので、思いきって売れる、売れないは別にして、海外旅行そのものを盛り上げていこうと、CM放映に踏み切ったわけです。
 CMはタレントの方以外の出演者は実は全て社員です。社員が身ぶり手ぶりで海外に来てほしい、歓迎しています、というメッセージを全身で表すイメージで作りました。世の中にその意思は伝わったのではないかと思います。
 そうは言うものの、実際は全国旅行支援が再開し、国内旅行に注目が集まったのも事実です。
 5月8日には新型コロナウイルス感染症が5類に移行します。この先もう一度、海外旅行についてはCMを含めてプロモーションを強化し、旅行商品のラインナップも増やしていきます。
 為替や燃油サーチャージの状況が2019年と比べて全く異なりますので、そこは資金を投下してでも、まずはハワイからということでお得な値段の商品を出し、4月1日にそれを再び展開していきます。

ハワイと台湾を中心に展開

山田 デスティネーションでいうと、日本の海外渡航の回復が遅いことに加えて、地政学リスクの影響もあり、ヨーロッパにおける日本人マーケットのポジショニングが相当落ちてしまっています。
ヨーロッパの回復は、路線や価格の面でももう少し時間がかかると想定されるため、まずはハワイからと考えています。
 ハワイのサービス内容もだいぶ欧米の旅行者寄りに変わってきていますが、ホテルの設えは日本人向けの仕様が多いです。そういう意味でも日本人マーケットを一定程度、増やさなければなりません。こうした理由もありハワイは戦略的に力を入れるべき方面としています。
 旅行者区分でいうとファミリー層、ウェディングやハネムーンを延期していたカップル、そして久しぶりの海外旅行を楽しむシニアの方々を対象としてプロモーションをかける予定です。
 路線については、第一四半期には3分の2ぐらいの回復を見込んでいます。
ただ、航空会社の直前の運休もあり、予約のタイミングが非常に間際になっています。かつての安近短と言われた頃の間際の動きとは全く異なり、回復期特有のものと捉えています。
 今は回復期の途上にあるため、コロナ前のデータと比較してどうこうという状況ではありません。ついこの前まで海外旅行の4〜6月の回復は厳しいのではと思っていたら、ここへ来て増えてきていますので、諦めず取り組んでいこうと思っています。
相澤 ヨーロッパとハワイのお話がありましたが、アジアはいかがですか。
山田 そうですね。今は台湾を推したいですね。フライトも回復して料金もリーズナブルに設定できそうですので、価格訴求力のある商品をアピールしていこうと思っています。台湾以外のアジアは中国を中心に苦戦しています。
相澤 中国は厳しいですね。
山田 あと法人の領域については引き合いは多いものの、結局は国内に着地するケースも多かったです。一方でこの3年間は企業の節目である周年イベントや旅行ができない状況が続いていたので、多くのお客様が実施できる日を待ちのぞんでいらっしゃいました。
ここに来ていよいよハワイで周年事業を行うような事例が出てきました。
 また当初は個人旅行マーケットが先に回復すると想定していたのですが、会社の行事で海外にお出かけいただいて、そのあとで個人で渡航する。最近はこういった動きも出てきました。
相澤 インバウンドの影響はございますか。
山田 影響は大いにあるとは思います。もちろんインバウンドの方に来ていただけるのは日本経済にとっても、当社にとってもありがたい話です。ただ、日本行きの人気が高く一部の航空路線で予約が取りづらかったり、運賃そのものが値上がりをしたりといった話を聞きます。ただ4月に入って、一部リーズナブルな価格の路線も出てきていますので、そういったことも含めてこれまでとは異なる様相がしばらく続くのではと思っています。

若い世代の動きの変化

相澤 みなさん、海外旅行をがまんして、代わりに国内旅行に行ったけれど、やっぱり海外に行きたいという思いが爆発したということでしょうか。
山田 2月に札幌、広島、仙台で海外旅行の説明会を実施しましたが、すぐに満員になりました。3月には添乗員が同行して、まるでツアーのように羽田空港にお連れするという企画イベントを開催したのですが、なんと定員300名のところ、35倍の一万人を超える応募があったんですよ。
相澤 私も記事を拝見しました。
山田 説明会ですらこれだけのお客様にお越しいただいたということで、海外旅行への思いが膨らんでいることが良く分かりました。私も東京の会場に行ったのですが、意外にも若い方が多かったです。マーケットが変わりつつあるのかもしれません。海外へ出かけるきっかけに
なればと、当社では独自にパスポートの取得支援キャンペーンをやっています。パスポートの取得率も一時よりは落ちていますので少しでも社会貢献できればと思っています。
相澤 海外を見て日本を豊かにしていく若者を育てる社会貢献ですね。
山田 最近、宇宙への遊覧旅行の記事が出たりもしましたが、当社はかつて海外旅行が一般的ではなかったときを経て、誰もが気軽に海外旅行に行ける仕組みを、時の政府や航空会社などの皆さまと創り上げてきました。そういった意味合いも含めて、国際交流なくして国の発展はあり得ないと思っていますし、交流の創造こそがわれわれの社会貢献であるとあらためて思います。おっしゃるように、特に若い世代には海外に出て行ってほしいですね。
相澤 Z世代は安全志向があると聞いているのですが、それを感じられることはございますか。
山田 私たちの社業を通じてということでは、それほど安全志向のZ世代といった傾向は感じていません。ただ、今の若者の中にはそういう安全志向の方がいる一方で、先日のワールドベースボールクラシックで活躍された大谷選手のように、国境を超えた環境に自身を置いて、世界が驚く偉業をなしとげている方々がいらっしゃいます。
 実は店舗にお越しいただくお客様の中には、若くして金銭的に余裕のある方も割といらっしゃいます。当社の社員とコミュニケーションをとりながら、仲間4〜5人で女子会の旅行を予約されたりするのですが、かなり高価格帯の宿泊施設をご利用されます。そうしたお客様は1組、2組ではなく、いらっしゃいます。
相澤 本当に両極端ですね。
山田 そうした方たちは、お金を多少かけても手間をかけたくない。信頼のおけるスタッフにお任せしたとおりに行くとおっしゃられます。1回経験するとご満足いただけるのか、すぐに当社スタッフの大事なお客様(マイカスタマー)としてリピートしてくださいます。そういう層がこの1年ぐらいで生まれています。
相澤 それは興味深いですね。
山田 われわれもマイカスタマー戦略をリテールの社員に求めだしたことと、ちょうどタイミングが良かったのかもしれません。
相澤 そしてJTBにぴったりですね。
山田 当社がそのように理解されているのであれば本当にうれしい限りです。スタッフの接客のクオリティにステータスを感じて来店いただき、お客様の質問に対して、そのお客様が望むようなおすすめの場所を答えられる社員がいると、お客様とのエンゲージメントがどんどん高まっていく、という感じです。

旅行商品の展開について

相澤 一方で、ダイナミックパッケージ「My STYLE」ではコンサルティングしたサービスパッケージに力を入れていらっしゃるということですが、ポイントをお話しいただけますでしょうか。
山田 パンフレットの場合は6カ月ぐらいのリードタイム(完成までの時間)が必要ですが、ダイナミックパッケージでは時価で商品造成ができるため、お客様にとっては利便性が高いといえます。ダイナミックパッケージの場合、商品造成のタイミングはどこかというと、「店舗でお会いしたとき」になります。お客様のご要望により合致したものを提供していきたいということが、発想の根源になりました。
 例えばファミリーでハワイに行く場合、フライトの時間が少しでもお子さんの生活時間に合わせたものであったり、現地に着いてすぐに食事が取れるようにするなどのアレンジをしています。JTBではハワイでご利用いただける「ラウンジ」に力を入れているのですが、チェックインまでの間をゆっくり過ごしていただき、そこで食事も取れるサービスを付けるなどしています。社員がお客様をしっかりと見て対話し、そのお客様に合ったものを数あるラインナップの中からご提案するといった考え方で取りそろえています。
相澤 対話の中でお客様に合ったものをご提案するのですね。
山田 そういうことです。とは言うものの社員が全部を知ってるわけではないので、このようなお客様のタイプのときはこれをご案内してはどうか、といった「レコメンド」という仕組みを整えています。ハワイと台湾においては十分なラインナップが揃っているので、これからは他方面についても増やしていかなければいけないと思っています。
相澤 一方で、添乗員付きの上質なツアーについては、コロナ前とポストコロナで何か変化はございましたか。
山田 まずは単価が上がっています。来年ぐらいまでは航空座席の仕入れ上、このような状況が続くと想定されますので、安価で多くの人を集めるようなコースはいったん縮小し、戦略上のいわゆる縦軸の右上の「高額だが良質」の方向にシフトするような感じで今は計画しています。
 添乗員付きツアーであるエスコート商品は、これまでグループ各社に分かれて存在していたのですが、3月にJTB内に統合しました。すべてのエスコート商品が一元化されたわけではありませんが、これによりお客様情報の共有がぐっと進みます。これまでは
どちらかというとシニア向け、高額商品、富裕層向けといった分け方だったのですが、先ほどお話しした通り新しい層のお客様も出てきましたので、これまでの固定した考えではなく、異なる層へ向けたエスコート商品の展開も考えなければいけないのではないかと思っています。

丁寧な説明の大切さをコロナ禍で改めて認識

相澤 安心、安全は御社の大きな強みの一つかと思うのですけれど、お客様の反応はいかがですか。
山田 安心、安全とひも付くかは分からないのですけれど、コロナ禍に旅行するときの注意点や、海外から帰国したときに、どんな手続きや何をしたら良いのかという点ではお客様から重宝されたのではと自負しております。何をしたかというと、このようなお客様からの質問がとても多かったので、本社主導で統一のご案内文書を発信して店舗に貼り出してもらったのです。みなさま写真を撮っていかれたりしていました。そういう貢献は多少できたかと思います。
 安心、安全自体はわれわれの大前提になります。お客様も多分そこはもう聞かなくても当然と思っていただいているでしょう。JTBとして安心、安全は絶対に外してはいけない、一番のポイントだと思っています。
相澤 若い方は自分で予約できますが、親御さんが安心を求めて御社にお願いすることもあるのではないでしょうか。
山田 これだけウェブ予約が主流という風潮にもかかわらず、初めての海外旅行は、店舗利用が多いです。
相澤 若い方もでしょうか。
山田 若い方も多いです。卒業旅行のような需要は極めて多いと思います。
 初めての海外旅行は、対面で正しくきちんと説明してほしいというのが、当社に期待されていることと思っています。
相澤 コロナ禍でさらに明確になった感じがしますね。
山田 そうですね。回復ということで言えば、教育旅行は語学研修のように任意で参加されるのはいいですが、全員をお連れする修学旅行はワクチン接種の確認という点ですぐには難しいです。23年の修学旅行については、国内に振り替えるケースが多いです。

本格的な回復は2024〜25年を見据える

相澤 本格的にコロナ前の状態に戻るのはあと2年ぐらいかかるでしょうか。
山田 航空座席がなければ行けないので、座席供給量の戻りなどが落ち着くまでには2年ぐらいかかるのではと思っています。先ほど申し上げた教育旅行も、受注のリードタイムが一定期間必要なこともあるため、24年に少し先が見えてきて、25年ぐらいから具体的に商談ができるようになるのではと思っています。
川原 いつ頃戻るとは山田が申したとおりで、本格的には25年度だと思います。ハネムーンのように特定の需要が戻りつつも、マーケット的には少し差が出てくるかと思います。
相澤 そのあたりの意欲は衰えてないと期待をしても大丈夫でしょうか。
山田 それはもう説明会の集まり具合を見ると、皆さん行きたいのだろうというのは日々感じていますね。
相澤 楽しみにしたいですね。
山田 夏を前に暑い時季になってマスクの使用が減ったりすれば、今までの変わり方とちょっと違う、一段進んだ変化が見られるようにはなるのではないかと思っています。
(インタビュー日2023年3月29日)

 

 

山田仁二氏(やまだ・じんじ)
株式会社JTB 執行役員 ツーリズム事業本部 事業推進部長
入社後、店頭営業や法人営業を経験後、首都圏における個人旅行の販売を統括。その後、法人事業、スポーツマーケティング事業の責任者を歴任。現在は、JTBのツーリズム事業において、個人旅行、企業向けコミュニケーション、観光振興等の領域の事業推進を統括している。

川原政彦氏(かわはら・まさひこ)
株式会社JTB ツーリズム事業本部
事業推進部 国内海外政策チーム担当部長
入社後、法人営業、国土交通省航空局への出向、本社(当時)での航空政策推進を経験。その後、ルックJTBの航空仕入、社全体の海外航空政策の責任者を経て、現在は、JTBのツーリズム事業において海外旅行の政策立案・推進を担っている。