④株式会社ATI

今しか行けないという想いが早期再開を実現

2022年春に会社主催で教育旅行を再開

田中 一般的に教育旅行というと1年以上にわたる長期留学、それから、学期を利用したターム留学、これは長期留学すると留年しなくてはいけませんが、学期の留学であれば一緒に卒業できるメリットがあります。あとは、1週間から1カ月の海外研修、最近はインターンシップといって海外に行ってアルバイトをしながら、将来の就職活動に活かすことも増えてきました。海外修学旅行を含むそのような教育旅行を専門に弊社は50年以上取り組んできました。
 新型コロナ感染症によるパンデミックで2020年3月以来海外旅行の実施は不可能となり、緊急事態宣言が発令されると学校は登校禁止になり先生方とも連絡が取れない状況となりました。われわれは、先生方とのコミュニを絶対に絶やさないようにしよう、コロナが収束したらすぐに教育旅行を実施できるようにと、メールマガジンにて海外の情報をどんどん発信していきました。まさか3年も続くとは思っていなかったですけどね。先生方もそれで安心され、コロナ後の教育旅行を、スムーズに再開できた感じがいたします。
 昨年の春には海外に行きましょうという機運が少しずつ出てきました。ただ、この時期に学校主体では海外研修はなかなかできない。それであれば、われわれが長い教育旅行の経験を生かし責任を持って主催旅行という形でお任せいただけないかと、いろいろな先生方や学校と話をし、実施することに成功しました。22年春は、留学は少しずつ増えていましたが、それ以外で海外に送り出したというのはそれほどないと思います。それが経験値になったので、いろいろな学校からも実施についての問い合わせをいただきました。
相澤 22年の春に始められたのは、学校の方の声があったからでしょうか。
田中 そうですね。22年に関しては、われわれの方から各学校に安全安心を基盤として海外教育旅行の実施に向け説明を行なっていたところでした。その中で、学校としてはできないけれど、ATIさんの主催でよければ参加希望者を募ってみようか、みたいに始まったというところがありました。
相澤 現地で状況を見て、このタイミングだったら行けそうだという感触があったということでしょうか。
田中 そうですね。もちろん現地からの最新情報を入手し、病院、大使館、そういったところの情報を集め、PCR検査も含めて、何かあった場合でも、迅速に対応できるようにしました。
相澤 先生方の視察ではなくて生徒さんをお連れしたのでしょうか。
田中 そうです。何校か学校が集まって、学内で募集をし、引率の先生がそれぞれ1、2名付いて、語学研修をしてきました。帰国前のPCR検査で陽性反応が数名出て大変でしたが、そこでノウハウもできました。それが、その年の夏から主催の教育旅行をイギリス、アメリカ、オーストラリア、カナダと募集をしたところ、意外と満席になって驚きました。みんな行きたかったのですね。
 保護者の方々も子どもたちを海外に出してあげたいという気持ちがある一方で、学校としてはなかなか主催できない中で、弊社が主催で各方面に出しました。春に実施したという成功例を各学校に持っていって、理解を得、それならば計画をしようと夏休みに学校主催の教育研修をいくつか実施することができました。

現地に管理職を常駐させて、迅速な対応を実現

田中 具体的にどのような形で実施したかというと、学校も保護者の方もコロナ禍の中で心配事が多いので、まず現地の最新情報として感染状況や感染対策を提供しました。それから想定される非常事態に関しても、われわれで責任を持って対応をするという説明文書を作成し理解してもらい、また、北米、オーストラリア、イギリスの3拠点に部長以上の管理職を常駐させました。そして、添乗員も本来であれば1人のところを2、3人、場合によっては4人としました。何かあった場合に大使館に行ったり、PCR検査に同行したりするために人員を配置して、現地で指揮命令系統を整えた上で東京の役員とつないで、迅速に対応できる形にしたことがよかったという感じです。
 それから、保険会社との連携が非常に大事で、学校の旅行保険、学校旅行総合保険や、救援者費用の保険とかを必ずかけて活用しながら、陽性者の経済的な負担を軽減しました。
 陽性にならなかった人たちは、そのまま添乗員が付いて帰国し、陽性者には現地に残った予備の添乗員が病院に連れていくなどのケアをして、陰性になり次第帰国させ、保険会社にとっては大変だったかもしれませんが、保護者の方からは感謝されました。
 もう一つ、不安を感じている保護者と学校は、現地の情況が分からないことが多々あったので、現地の責任者や添乗員からほぼ毎日、SNSやメール、時には動画を送り、保護者も学校にも安心していただきました。
 そして、私も羽田空港や成田空港に見送りや出迎えに行っていたのですが、厳しいことを言われる先生もいらっしゃいましたが、最終的には共に全力を尽くしたという点で絆が生まれ、来年もぜひお願いしますという形で終われ、報われた気がしました。
 多分、昨年の夏休みは、ほとんどどこも海外へ出してない時期だと思います。教育関係の旅行会社が数社実施していたという話はありました。われわれは、結局、何十本か実施することができ、大変でありましたけれども、それだけの信頼関係ができたというところに関しては、大成功と言っても良いと思います。
 ただ、昨年の夏は社員にとっては大変な経験だったと思います。
相澤 本当に大変だったと思いますので、こんなことを言うのは失礼かもしれないのですけど、社員の方もやっと海外旅行の仕事ができるうれしさもあったのではないでしょうか。
田中 本当にそうだと思います。もともと海外しかやってこなかった社員たちなので。海外旅行ができない間、国内の教育旅行にシフトしたのですが、慣れないところもあり、何とかこなしてきたというところです。ですので、海外を再開したときは、いよいよこれからだという話で、社員一丸となった気がしました。そして、2023年に入った時点では社員には、積極的に考え、これからは専門領域である海外に特化することにしました。それはそれで大変ですけれども、目標が明確になりよかったかなという感じがあります。
相澤 明るいお話が伺えて安心いたしました。航空路線の制約もあり、厳しい部分もあるのかと思っておりました。
田中 われわれも、普通に海外旅行が始まって、最後に教育旅行かと思っていたのですけども、意外と最初に教育旅行が立ち直ったところがありました。なぜかといいますと、留学にしても、学生さんにとっては今しかないのですよね。
3年間のうちに海外を体験できないと、何のためにグローバル化を進めている学校に入ったのか、ということがあります。
学校側もグローバル教育を実施しますと言っているにもかかわらず、3年間、海外教育旅行をやらないというのは問題ではないかと、われわれに相談もありました。さらに保護者の方々が、2年も経つと学校になぜ実施しないのかと言い始めたことも海外教育旅行が観光旅行に先がけて早く回復してきた一因と言えます。

全員参加型の修学旅行は5月以降の見通し

相澤 会社主催の旅行は、順調に何十本もされたということですが、学校主催の方は動きだしていますか。
田中 ええ、昨年の春から半分以上は学校主催になってきています。学校主催の場合は、これまでの経験を活かして、行く前のオリエンテーションや保護者への説明を何があってもご心配要りませんというぐらい手厚くやりました。それでようやく学校側としても動いてくれました。(学校側としても)他校が動いてないうちに、特色を出したいという気持ちがあるので、途中からは本当に協力体制ができた感じがしました。
 ただ、修学旅行という全員参加型のものは現時点では難しい気がいたします。日本帰国時のワクチン接種が条件になっていますので。
相澤 そうであれば、回復が期待できるのは5月以降になりそうですね。
田中 そうですね。5月以降に入国制限の緩和が進んでいくと、また増えてくるかなと。コロナ前には、文部科学省がスーパーグローバルハイスクール、スーパーサイエンスハイスクール、あとスーパー・イングリッシュ・ランゲージ・ハイスクールや、留学制度「トビタテ!
留学JAPAN」などで、学校に対して補助金や助成金を出していて、グローバル対応が増えていたのがコロナで止まってしまいました。これからも緩和されればまた増えるのではないかと思います。

保護者は安心・安全を重視、価格上昇には理解を示す

相澤 物価や燃油サーチャージ高騰の影響は、教育旅行の場合はレジャー旅行より少ないでしょうか。
田中 そうですね。保護者の方々も、自分の海外旅行はやめても子どもの海外研修には出したいという気持ちが、説明会でもひしひしと伝わってきます。物価高も円安も、燃油も高いことは折り込み済みで、それより、安心・安全に行けるのか、海外研修先できちんと受け入れてくれるのか、そちらの方に親御さんたちは関心があります。
相澤 理由があって価格が上がっているからですね。
田中 そう。理由があるし、お子さんの一生において海外を経験することが貴重な体験であることは、分かっていらっしゃる保護者の方が多いです。
ただ、国際線が減便で航空座席が少ないと、行きたくても行けないですし、運賃が高くなり、予約が取りづらくなっているのでやりにくい状況です。
相澤 座席の取りにくさにインバウンドの影響はありますか。
田中 ありますね。インバウンドが増える事で航空運賃も高く、座席も取りにくいことは確かだと思います。だから、航空会社の方々には、1年後や6カ月後といった、なるべく長いスパンで予約してほしいということをよく言われます。3カ月や2カ月だとほとんど取れない状況になっています。
相澤 教育旅行の場合は、比較的そのスパンは長めというイメージがあるのですけれども。
田中 そうですね、長めです。修学旅行は、100名、200名、多いときは400名ですので、1年半から1年前から進めていくのでいいのですが、20〜30名や40〜50名の研修旅行とかは、学内での募集情況によって変わります。そのため、例えば30人で航空会社に運賃を出してもらいその後、学校と打ち合わせをして、旅行が決定後正式に予約を入れたら、値段が上がっているのです。以前は、この団体は毎年やっているし、ほとんどキャンセルもないと話をすると、では運賃も決めこれだけ席を出しますということがあったのですけども、今はほとんどない状況です。
相澤 どうやって解決していいのかが難しいですね。
田中 そうなのですよね。コロナ前にはあまりなかったことです。航空会社にとって修学旅行は、安い時期に100席、200席を埋めてくれる非常にいい顧客でありました。そして、早めに人数も含め実施が決まりキャンセルも少なかったのですけど、今はそうでなく人数が多く、早めの予約が運賃が高いという情況になってしまっているので、頭が痛いことの一つだと思います。

国際交流の再開にも期待

相澤 今後、特に強化していきたい方面はございますか。
田中 われわれは、教育旅行だけじゃなくて、国際交流、音楽交流の部門(ACCI)を持っています。高校生が2年に一度、ドイツのニュルンベルク辺りでオーケストラの演奏をしたり、フィンランドでの合唱コンクールに参加したりということも行っています。
ただ、コロナの規制がある時期は歌えないし、楽器演奏もなかなかできませんでした。
 コロナ禍がなければ、A T I とACCIの国際交流の二本立てで、国際的な交流をどんどん進めていければと思ってはいたのですが、なかなかACCIが動かなくなっているのが現状です。
 しかし将来に向けてどんどん活動していく計画ですので、これから忙しくなりそうです。
相澤 それは相互交流なのでしょうか。
田中 ええ。ACCIだけじゃなくて、語学研修も、日本と海外の学校と相互交流をやっています。日本の学校が行って研修をする。そして海外の学生が日本に来て、ホームステイをしたり、京都や広島に行ったりとか。そういうツーウェイツーリズムというか、それも実践できる非常にいい交流なのかなと思います。

業界全体で若者の国際交流を後押しすることが大切

相澤 ありがとうございます。ぜひこれは伝えたいというメッセージをいただけますでしょうか。
田中 教育旅行に限っていうと、われわれは私立が主体ですが、日本の中学、高等学校においては、公立学校が多数あります。大手の旅行会社の方々が公立の修学旅行を担当されていると思いますが、公立学校の修学旅行もぜひ海外に出てもらいたいと思います。近隣諸国であれば国内に比べ、そんなに費用も変わらないでできます。以前は日数や料金の縛りがありましたが、最近は少しずつなくなってきているので、私立も公立も一緒になって海外へ連れて行って将来を担う若者を育ててい
く、それを一緒にやっていきたいと考えています。
 それから、航空会社に対して、青少年のときにしかできない経験をさせるために、青少年割や修学旅行の特別包括運賃とか、いわゆる学割的な特別運賃などを業界を挙げて交渉していけたらいいですね。
 また、台湾や韓国のような近場であればチャーター機を利用し、教育旅行をやっている何社かが一緒に飛ばせたらいいと思っています。行く方と戻る方を、業界の中で調整できればいいと思います。
 そして、業界の動きの中では海外の危険情報なども1社でやるのではなくて、複数の会社が集まってやっていこうという動きがあります。そういった動きがあれば、海外の教育旅行にも全体で取り組めるような実現性が出てくるのではないかと考えています。
相澤 業界を挙げて、アウトバウンドを盛り立てることが必要ですね。
田中 はい、本当にそう感じます。海外旅行を扱う旅行会社にメリットのある施策を考えてもらえるとありがたいです。
その一つが例えば18歳未満のパスポート取得無料化です。そうすると若者が海外に出やすくなると思います。
 最近は若者を海外に行かせなければいけないと、国土交通省や観光庁も取り組まれているので、可能性はあるのではないでしょうか。今度始まるJATAの海外旅行促進プロジェクトでも、限定的ではありますがパスポート取得費用を補助する施策が出てきているようです。今はパスポートの取得率がだいぶ減っているのですよね。その辺から盛り上げていくということも大事かと考えております。
相澤 ありがとうございました。

 

 

田中國智氏(たなか・くにとも)
株式会社ATI代表取締役社長
株式会社アサヒトラベルインターナショナル(現株式会社ATI)入社。
海外専門の教育旅行を欧米、オセアニアを中心に担当。
日本旅行業協会講師、国際環境教育基金主催のブルーフラッグ認証委員を歴任し、現在は小学生から大人にいたるまで
海外教育旅行を幅広く扱う株式会社ATIの代表取締役並びに観光産業健康保険組合、観光産業企業年金基金の理事を務め、業界の発展に寄与すべく活動を行っている。