⑤日本航空株式会社

政策の節目に合わせた販促展開で機運を醸成

海外の乗り継ぎ需要と、業務需要が先行して回復

相澤 だいぶ路線も回復してきたかとは思いますが、現在はどういった状況になっていますでしょうか。
越智 まだコロナ前と比べると約6割の回復ですが、海外からのお客様がかなり多くなっている状況です。期待したい日本発の観光需要が、一番遅れているというのが現状で、私共も何か施策をして、少しでも全体を盛り上げて明るい雰囲気に持っていきたいと考えているところです。
相澤 具体的な取り組みはございますか。
越智 3月にキャンペーンを打ちました。さらに5月になると新型コロナも5類相当へ移るので、その解放感を味わっていただきたいという思いで、スマイルキャンペーンと称して、国際線は4月から7月の夏手前までの期間にハワイを中心にお求めいただきやすい運賃価格に設定してキャンペーンを展開し、それなりに効果を得ることができました。マスクを外すとみなさま笑顔が広がりますという思いを持ってスマイルキャンペーンを展開しました。
相澤 特に4〜7月で順調な時期はございますか。
越智 日本地区の観光でいうと、ゴールデンウイークなどお休みが重なる時期にお客様の需要が高まる傾向があり、年末年始や至近では春休み期間など、みなさまがお休みを取られて動かれる時期には需要が盛り上がり、特にハワイを中心に需要が高まるという傾向がありました。至近の動向では、3月が非常によくて、インバウンド需要も、お花見目的のお客様にたくさんご利用頂きました。この3、4月あたりは全体の路線で満遍なく増えています。特にお花見需要でいくと、アジア路線ですね。台湾、香港、韓国とか、バンコクなど東南アジアも好調でした。
相澤 日本から行く場合ですと、ハワイを中心に増えてきたのでしょうか。
越智 そうですね。やはり観光というのでハワイ、近場では、台湾とか韓国、こういったところは日本からの需要も動き出し始めている感じです。
相澤 ハワイとなると、ファミリー層が多くなっているのでしょうか。
越智 そうですね。ゴールデンウイークはファミリー層や、ご夫婦といった層が多いのではと思います。
相澤 レジャーも思ったより好調ということで、ちょっと安心したのですけれど、ビジネスとの比較という意味ではいかがでしょうか。

越智 そういう意味では、業務需要のほうが戻りは早いと思います。全体的に日本地区の戻りは遅いです。遅い中でも日本地区の業務は比較的戻りが早くて、遅いのは観光需要になります。
先ほど申しました6割はインバウンドも含めた全体の需要で、日本はもう少し低いレベルになっています。
 もう少し細かく申し上げると、いわゆる北米とアジアの通過需要がずっと存在していまして、そこから海外からのインバウンドが水際緩和で増えてきました。その後、日本地区の業務需要がじわじわ回復しつつあって、今は観光がいつ戻るのかを期待して待っている状況です。
相澤 今年1月のニュースリリースによると、羽田の便数がコロナ前の1・5倍に拡大したそうですが、こちらはビジネス路線や北米路線が順調ということでしょうか。
越智 北米路線が順調であったということと、日本からのお客様も少しずつ増えてきています。
 羽田を拡大したのが、ちょうどコロナ禍とバッティングしたところもありますので、日本のお客様が戻ってきている中で、その羽田の枠を先に使わせていただいている状況です。
相澤 羽田がここまで戻っているとは想定していませんでした。あと、成田はレジャーが多いとか方面的な違いもあると思いますので、成田が戻って、地方が戻って、という感じでしょうか。
越智 はい。成田は乗り継ぎです。北米から東南アジアとか、私どもとしても大事な路線になってまいりますので、そういう乗り継ぎ需要で成田をご利用いただきたいと思っています。
相澤 インバウンドで御社を利用する方は増えたのでしょうか。
越智 はい。まだ海外の航空会社が100パーセント戻ってきていませんので、その分、通過のお客様が海外の航空会社を使われていたのが、今は私共を使っていただけるようになっていますので、増えています。供給が戻ってきたときに、どれだけ残っていただけるのかというのはあると思います。
相澤 せっかくの機会なのでこのまま使っていただくのは、双方向のところでも重要になってまいりますね。
越智 日本の航空会社に初めて乗って頂いたお客様に次も使ってみようと思っていただけるように、私共も努めているところです。

政策が変わるタイミングの販促で相乗効果をねらう

相澤 まだ欧州ですとか、中国が不安定な状況にあるかと思うのですけれど、方面別の状況はいかがでしょうか。
越智 これはインバウンド、アウトバウンド両方でいくと、戻りが早いのは北米と東南アジアです。もともと通過需要もありますし、水際緩和が早かった国同士の動きは非常に堅調かと思います。それから水際緩和された後の韓国、香港、台湾、こういった東アジアの動きも急速に回復しつつあると思います。今申し上げた路線は、利用率もかなり高くなっています。一方、ヨーロッパはロシア上空が飛べないということで、迂回ルートを取っていることと、供給もかなり限られているので、まだ需要回復には至っていない感じです。
相澤 本格的な回復にはそこを待たなければいけないということですね。
越智 そう思います。あとは、残された大きなマーケットの中国です。ビザの解禁もまだされていませんので、ここが動き始めて、かなり回復が見込めるようになると思っています。
相澤 ヨーロッパと中国だと、どちらが早く戻ってきそうでしょうか。
越智 ロシアに関してはなかなか先の見通しがたたないとすると、中国は緩和の方向に動いてはいますので、戻り始めるとかなり早いペースで戻ってくる可能性はあると思っています。
相澤 ただ、短期間では難しそうでしょうか。この夏ではなさそうですね。
越智 少しずつ戻ってくるのだろうと思うのですけれど、例えばハワイとか、リゾート路線の戻りとは違うのではないかと思います。
相澤 そういったところは、費用面にも影響することがあるでしょうか。
越智 そう思います。例えばハワイに関しても、為替とか、燃油サーチャージの問題とかいろいろあって、総額で高くなっている部分は影響していると思います。そういう意味では、近場の台湾の様な路線に人気が集まっているのは、値ごろ感もあってというところでお選びいただいているお客様もいらっしゃると思っています。
相澤 観光に限ると、コロナ前の2019年の水準に戻るのはいつ頃になるとお考えでしょうか。
越智 IATAのデータなどでいくと、確か2025年だったと思います。そういう意味ではかなり先になると見ています。ただ、水際緩和がされていろいろな規制がなくなると、日本のお客様も必ず動かれると思いますので、その時期はもっと早いタイミングになると期待しているところです。
相澤 では、5月の5類に移行で一気に世の中の風潮も変わることが期待できるでしょうか。
越智 変わると思います。マスクを外すとか5類に変わるとか、世の中が変わる局面で、さあ、出掛けましょうという形で、いろいろなキャンペーンや販促をやらせていただいているところです。
 機運が変わる働き掛けは非常に大事だと思っています。私共は3月にキャンペーンを打ちましたが、予約の動きが全然違いましたので、政策が変わるタイミングで、私共も取り組みを実施することで、相乗効果により需要を戻していくことができるのではと考えています。
相澤 業界を挙げて会社横断的に取り組んで機運を醸成するというお言葉がJATAの方からもあったのですけれど、まさに今、それが必要なタイミングということですね。
越智 はい。ALL JAPANでやっていく必要のある取り組みだと思います。
相澤 観光庁が政策にアウトバウンドという文言を盛り込んだことは、影響として大きいと思われますか。
越智 すごく大きいと思います。路線というのは、まさに両方の発地で動いていただくのが一番いいと思いますし、来ていただくだけではなくて、発地先の国のみなさまも、日本人に来てもらうことを待っていらっしゃるところも多くあるので、国を挙げていろいろな取り組みをしていただけるのは非常にありがたいことですし、私どもも精いっぱい取り組みたいと思っています。
相澤 だいぶそういった機運が醸成されてきているのですけれど、もう一押し、こういうことをしてほしいとか、そういったものはございますか。
越智 全体の総需要を上げるという取り組みが今、非常に重要かなと思っていますので、まさに国が日本地区からの海外への渡航というものに注目をしている中で、私たちも航空事業者としてできること、個別でできることは精いっぱいそこに合わせながら、相乗効果を得られるような取り組みをしていきたいと思います。

現地を五感で感じるダイナミズムを味わってほしい

相澤 マーケットの主役が若い世代に変わりつつある状況ですが、若い方たちは費用面で厳しいということがあるかと思うのですけれど、御社としてはどう捉えていらっしゃいますか。
越智 今までは、ここへ行きたいと旅行をお選びになられていたものが、何をしたい、だからここへ行くというように、少し目的意識が変わってきている感じもしております。世代の高いみなさまは、少しずつ動いてくださっていると感じていましたが、若いみなさまも春休み期間には、動いていただきました。そういう動きがこれからも続くことを期待したいと思っています。
相澤 あとは両極化しているという話もありますね。海外で活躍される方はどんどん外に出ていく。一方で、国内にとどまってしまう人と両極になってしまうところが、若干心配なところで、そこをどう動かしていくかが、これからの課題と感じているところです。
越智 至近でWBCでの侍ジャパンの活躍をご覧になられて、テレビなどでも、メジャーリーグを見にきましたという、比較的若い人たちが報道されたりしています。大谷選手をはじめとした若い世代の人たちの、魂のこもった素晴らしい活躍を見て心が動かされて、それを見にいきたいという方は出てくるのではないかと思います。そういう活躍や実際の観光地を見にいきたいとか、何らかのきっかけで少しずつ動き始めていただける可能性を感じています。
相澤 おっしゃるとおりですね。その姿勢を見せるというのが、本当に今、重要なのかもしれないですね。
越智 行く目的がないと、なかなかみなさま動かれないと思うので、まさに何をしたいとか、あるいは憧れのこういう人たちの実際の生のプレイを見たいとか、音楽を本場に聴きにいきたいとか、そういうところで人の心が動いて、実際に移動につながってくるのかなという気がします。
相澤 動画で見ることはできるけれど、実際に体験することがより貴重になるということですね。
越智 そう思います。ウェブ上での体験はできるのかもしれないのですが、臨場感であるとか、五感でそれを感じるというのは、現地に行かないと味わえないことで、それこそ旅行のダイナミズムだと思います。そういう事を味わっていただけると、旅行って素晴らしいと再発見されて、ご移動いただけるのではないかなと。旅行はそういう力を秘めたものだと思います。

キャンペーンやイベントでレジャー需要を後押し

越智 航空会社として、日本地区観光は非常に大切だと思っていますので、私共でできること、キャンペーンなどはしっかり取り組みを続けたいと強く思っています。
相澤 具体的に計画されているものはございますか。
越智 3月のスマイルキャンペーンでは大谷選手を起用してコマーシャルを展開しました。これが比較的、好調だったので、4月のキャンペーンを間もなくリリース予定です。
 国を挙げての取り組みがベースにあって、各事業者がそれにのっとった形でやっていくとキャンペーン全体が広がりを持つと思いますので、まさにJATAさんがおっしゃっている旅行機運の醸成が実現できるのではないかと思います。
相澤 日本人はみんな行き始めたら動くということですよね。
越智 そうですね。国内の全国旅行支援の動向を見ても、行ってもいいと国のお墨付きがあると、みなさん動き始めてくださるのは感じていますので、海外も、みなさま3年間我慢されていらっしゃるので、動き始めると広がりが出てくるのではないのかと期待しています。最初はハワイ、そして次にハワイ以外の路線に広がっていくのではないかと期待しています。現地のみなさまも待ちかねていらっしゃるという気がします。
相澤 しばらく行かないうちに、日本人の存在感が薄くなってしまうのではという不安もありますので、なるべく送客してプレゼンスを上げたいですね。
越智 そういう意味では、私どももホノルルマラソンなどイベントは継続的にやらせていただいています。イベントも一つのきっかけになると思います。
この4月にハワイでハーフマラソンのハパルアマラソンもありますので、それぞれのイベントを通じて人脈を創っていきたいと思います。

 

 

越智健一郎氏(おち・けんいちろう)
日本航空株式会社
常務執行役員 ソリューション営業本部長
2019年4月より当社執行役員に就任し、同年6月に日本エアコミューター代表取締役社長
2022年4月に常務執行役員 旅客営業本部を経て、現在は2023年4月に発足したソリューション営業本部長に就任