ウェビナー…開催日:2020年6月17日
① withコロナ、postコロナにおけるDMOの取り組み

この記事は、2020年6月17日に開催されたwebセミナー「DMO情報交換シンポ20200617」をテキスト化し、再録したものです。その模様はhttps://www.youtube.com/watch?v=ZB5945ZNo54&feature=youtu.beでご覧いただけます。

 

山田(雄) 今日は実践的な活動をされているDMOの3名の方に情報を提供いただきながら、今後の展開方向を考える場にしたいと思います。まず、このコロナ禍の2〜3ヶ月でどのようなことを考え、気をつけてきたのかお話しいただき、そのあとに簡単なディスカッションを行いたいと思います。

プレゼンテーション1
〈佐渡観光交流機構〉
「地域の利益のためのプラットフォーム」でありつづける

清永 これまでの取り組みを踏まえ、今の取り組みをお話ししたいと思います。私は2年前に佐渡に来ましたが、その前はスキー場を経営していました。私は観光地経営であるDMOとスキー場経営は基本的に同じで、DMOの役割は行政と民間事業者をつなぎ、仲間を作って同じベクトルにし、旅行消費額を増やすことが目的だと思っています。そのために2年前から海外事例などを調べ、応用できるものを取り入れたマーケティングプランを作っていました。
 コロナは、収束後も付き合っていかないといけないと認識したのが2月中旬頃で、2月末には既に作っていたマーケティングプランにコロナ対策を入れました。
 コロナ収束の前後でステージを2つに分け、ステージ1は行政との情報共有、次に事業者に寄り添うこと、そして観光事業者の窓口にならないといけないと思いました。その後が収束に向けた環境整備、さらに反転攻勢に向けたブランド力のアップ、資源をデジタルで見せる、そして安心安全な島のブランディングです。佐渡はあまり感染者が出ないことが予測されたのでこれを強みと考えました。ステージ2は観光客へのヘイトが起きると思い、島内島外に向けてどう対応するかを考えました。

 コロナに関するDMOの役割は、きちんと方針や理念を作って他の観光地をベンチマークし、人を育てることであり、やることはコロナ禍前と変わらないと思っています。
 それに加え、観光協会が、地域でリスペクトされるチャンスだと思いました。また、バランスのとれたブランディングへの取り組みについてもチャンスだと。
 ちなみに佐渡ではオーバーツーリズムが1994年に起きており、この時に観光客ヘイトが生まれたためにホスピタリティが下がったと私は考えています。海外では今サステナビリティ(持続可能性)とレスポンシビリティ(地域への責任)が非常に注目され、観光客と住民と行政と事業者がどうバランスをとっていくか、インベストメント(企業誘致や投資)が重視されていることから、企業支援をしっかりやっていく予定にしていました。
 そのために2年前から「地域の利益のためのプラットフォームである」という経営理念を決め、地域にとっての価値を高める結果に対してコミットしています。また、カスタマー・リレーションシップ・マネジメント(CRM)を重視して「さどまる倶楽部」という島外ファンの会員組織を作り、2万1000人を超える会員を対象に、昨年12月からアプリと観光地域通貨を導入しました。
 コロナ対策の話に戻りますと、2月に宿泊施設におけるコロナ対策簡易マニュアルを作りました。大事なのは、事業者向けではなく「市民の皆様へ」と書いている点です。島内の事業者に対するヘイトが起きており、このままでは観光客に対するヘイトが起きると感じていました。
 観光客に対するヘイトをなくす、地元にDMOがリスペクトされるには地域の役に立ち、とにかく寄り添おうということで、3月中旬にバーチャル物産展を実施すると非常に好反応を得られ、4月下旬に出前とテイクアウトのリストを作りました。行政がやると一ヶ月かかるという話でしたが5日で実行できました。私も100店舗を3日間で回り、地元の意見を集められたのが大きかったです。もともとDMOは足で稼ぐのが大事だなと思っていました。

 4月22日にタイ国政府観光庁が観光業向け衛生安全基準を策定するというウェブ記事を目にし、すぐにタイやシンガポールでの対応事例の翻訳にかかりました。5月1日に行われた行政のコロナ対策会議で、佐渡でも公衆衛生認証をやろうと言いましたが、「補助金を出すのが大変だから今は協力できない」という話だったので、「では、うちでやります」ということで、満を持して5月14日にリリースしたのが「佐渡クリーン認証」です。
 実施にはデータと権威が必要だと思い、有識者ときちんと話しあって行政を納得させ、このクリーン認証を受けないと補助金が受けられない、キャンペーンに参加できないという形にすることができました。また、サクラクオリティの防疫クリーンマークと同等にしましょうという働きかけもしました。
 なお、5月1日には「島を守るために今はまだ来ないで」というメッセージの英語版と繁体字版の動画を作り、#stayhome #traveltomorrowというハッシュタグをつけたところ、1万回以上再生され、「いいね!」が海外から多く押されました。特に台湾からが多かったです。
 そのあとは、「来る人も住む人も安心安全」というブランディングを推進しようということで、5月27日から佐渡汽船に1万枚のマスクを配布して検温を実施しています。また、チラシやパンフレットなどの作成の意味が低下しているので、デジタルマーケティングに移行するチャンスであるとも思っております。
 コロナ危機とオーバーツーリズムは似ていると思います。おそらく観光業界の復活は早く、一度縮小したマーケットが再び広がるタイミングが大きなチャンスだと思います。世界を相手にした競合戦略やデジタルマーケティングに取り組み、住む人と暮らすように旅する人のバランスを考え、佐渡を世界に名だたる観光地にするのが今後の流れなのかなと思っています。

プレゼンテーション2
〈雪国観光圏と旅館ryugon〉
コロナは「非日常」から「異日常」へ変革するチャンス

井口 私は雪国観光圏を2008年に立ち上げて5〜6年経った頃から、旅館業が変わるだろうと思っていましたが、今回のコロナ禍という大きな変化によって、観光そのものが大きくシフトしていると思います。
 雪国観光圏は今までバラバラだった市町村を雪国文化でつなぎ、一つのエリアとして発信していこうという取り組みでスタートしました。徐々に注目される中で課題はそのブランド価値を体感させる場がなかったことで、事業者としての私は、越後湯沢駅前にある「越後湯澤HATAGO井仙」という旅館の経営に加え、2年前に南魚沼市にある「温泉御宿 龍言」という旅館を引き受け、昨年「ryugon」という宿にリニューアルしました。伝統的な日本旅館を、通年で雪国文化を体感できる古民家ホテルという形にリブランドしています。
 DMOがしっかりブランドを発信すると同時に、プレイヤーである事業者がしっかりそれを具現化すること、「沿っていく」が重要だと思います。しかしいろんなDMOを見ても、DMOの方針とその地域の宿泊事業者がマッチしていないケースはよくあり、雪国観光圏が作ってきた文化をここでどう体感させるかが重要です。
 そういう意味でryugonは雪国観光圏が作ってきた構想を家具や建物、食で表現する一つのモデルと考えています。さらに重要なのが地域の暮らしを体感させることで、それは旅館という空間だけではできないので、スノーピクニックや田んぼランチといったアクティビティと組み合わせています。

 ryugonにリニューアルしてからの売上状況ですが、7月のリニューアル後は対前年比平均140%で推移していました。冬はシーズン・オフだったのですが、特に冬が好調で、倍くらいに増えました。
 これで雪国文化が形になるな、行けると思ったタイミングでコロナが広まり、3月から売上は急激に減少しました。6月からは新潟県が宿泊補助券を出すなどしているため、少し戻り始めています。目標とする1月の水準にはまだまだ達するレベルではありませんが、最終的には昨年や一昨年の数字に戻るのではと思っています。なお、コロナ禍が本格化した2〜3月はもともとオフシーズンなので、まだ十分ではなかったサービスの質の向上やガイドツアーの作り込みなどの取り組みをしていました。
 コロナに関して話すと、今までの国内旅行は「非日常」だったと思います。
 1泊2日で観光名所を回り、商業サービスを提供するという画一的な対応になりがちでした。それに対して雪国観光圏が提案してきたのは「異日常」です。地域の暮らしや文化を体験したり、地域の人と触れ合ったり、いろいろなことを学ぶ旅を意味します。

 異日常型への移行というのは昔から言われていたことですが、プレイヤーである旅館などの設備投資がままならず、DMOにもそういう意識がなかったり、なかなかどこの観光地も苦戦している状況があります。幸い、雪国観光圏はそういうフレームを持っていて、いろいろな旅館事業者で、そういう活動をするところが増えてきたので、コロナはむしろそうした方向に変革をするいいチャンスと思って取り組んでいます。
 今後は本当に地域間競争が激化すると痛感しており、中途半端な「DMOごっこ」ならやらない方がいいのではと思います。DMOは本来、きちんとした財源と権限があって観光を推進する組織であるべきだと思いますが、日本でそれをやるのはなかなか難しいですよね。
 本来、DMOは方針を示すいわば監督的な役割であると思いますが、いくら監督が頑張っても、プレイヤーである旅館や飲食店がその意思に沿って動かなければしかたがないわけです。
 また、日本は行政が非常に強いので、自治体が監督をやりたがったり、場合によってはプレイヤーもやりたがったりするので、すごくややこしくなってしまうのですが、雪国観光圏ではプレイヤーをどう作って、仲間を巻き込んでチームにするかをずっと意識してきました。
 コロナ危機はそういう考え方をまとめるいいきっかけになったのではと思っています。

プレゼンテーション3
〈沖縄市観光物産振興協会〉
儲ける観光協会の作り方〜再生からDMOにむけて

山田(一) 沖縄市は那覇空港から車で約40分の距離に位置し、ビーチや有名な観光地はありませんが、沖縄最大となる嘉手納基地の〝門前町〞です。最盛期はベトナム戦争時代で、当時は那覇よりも最先端の街だったと聞いています。街中シャッター街ですが、商店主の皆さんは経済的には困っておらず実は富裕層です。カープのキャンプ地として長く利用されており、FC琉球というJ2チームがあり、エイサーなどの伝統芸能も盛んです。
 コロナ危機で、沖縄市観光物産振興協会が行っていた取り組みを時系列に記録したアーカイブがこちら(下)です。


 3月13日の経済産業省等のコロナ対策施策集ですが、分量が多いと読んでいただけないので、5枚くらいにまとめて全会員に送りました。3月16日のクーポンは協会の自主財源で急いで作りましたが、飲食店や施設に喜んでいただけました。
 4月21日の「医療従事者用エイ坊クーポンリリース」というのは、家族への感染を防ぐため病院で寝泊まりする医療従事者を支援したいということで、ホテルと医療従事者を1対1でマッチングしました。
 4月24日から始まった映画祭タイトルの「やーぐまい」とは家ごもりという意味で、沖縄市にはKOZAフィルムオフィスという撮影支援団体があるので、市内でロケが行われた映画のWeb無料配信をしました。また5月25日から、観光協会の財源で出したクーポンが支持されたということで、沖縄市が予算化して200万円で実施しました。

 また、協会の自主財源でドライブインシアターを実施したところ、25台の募集に対し、700名を超える応募・問い合わせがありました。この取り組みは好評につき7月後半から常設実施を予定しているほか、県内の他地域にも波及し、南城市では360台で実施しました。
 6月5日からは沖縄県の宿泊補助のキャンペーンに県内の観光協会として唯一参加しています。
 それまでの協会の取り組みですが、2019年12月からデジタルマーケティングチームを作り、毎日SNSの更新をしています。毎日更新を始めると同時に「いいね!」の数が大きく伸び、2020年2月から伸びが鈍ったので、1000円くらいの広告を月額2000〜3000円程度打ったところ、また伸びるようになり、ゴールデンウィークは巣ごもりにマッチしたコンテンツを配信して、再び増加傾向になりました。
 リーチを増やす方法の一つとしてはSNSで「乗っかる」取り組みがあります。例えばOfficial髭男dismは沖縄市のゲート通りでミュージックビデオを撮影したので、SNSで#Official髭男dismというハッシュタグをつけて発信したりしています。市内で撮影された映画やミュージックビデオ、さらにその映画に出演した俳優などのハッシュタグをつけ、積極的に「乗っかる」ようにしています。
 SNSの発信内容も最初は市内の公園や店の情報が中心でしたが、県民対象の施設や知る人ぞ知る沖縄市のお店情報など県内からの誘客を目的とした発信へと広げています。常に情報を発信し続けることで、自粛緩和とともに近隣市町村⇒県内全域⇒国内全域⇒インバウンドという形で、徐々に来訪の発地元を広げることが目的です。
 今後は修学旅行に対する営業を再開し、商談会を積極的に実施したいと思っています。沖縄市の修学旅行プログラムは、ここ3年で平和講話や文化体験の参加人数・団体数が減少傾向にある一方、中心市街地に90〜120分滞在するまちあるきが参加人数・団体数ともに増えています。2017年のまちあるきの参加は56団体3635人だったのに対し、2019年度は76団体7056人とほぼ倍増しています。ドルによる買物やランチの支払いによる高付加価値の商品開発と販売を行い、経済的な価値を市内の飲食店・商店街に提供したいと考えています。
 もう一つ実施したいのは、関係性が強かったり、共通項のあるエリアへの積極的な営業です。まず、大阪府豊中市、愛知県東海市、山形県米沢市、東京都町田市など兄弟姉妹都市からの誘客です。さらに昨年訪問して親交を深めたのが韓国の平澤(ピョンテク)市です。米軍基地がある街で、沖縄市と同じ様な通り・商店街があります。台北市の迪化街(デーフォアジェ)は商店街のプロデューサー的な方と週1回くらいLINEで情報交換しています。
 また、スポーツをきっかけにまちをPRするということで、地元のサッカーチームFC琉球の応援店舗リストのサイトを作ってSNSにリンクを貼り、そこをクリックすると店舗が見られるようにしています。スポーツで人を呼ぶだけでなく、まちの飲食店にお金を落とすための仕組みを作っています。

ディスカッション
〈今後の取り組みについて〉

山田(雄) コロナ禍の中で頑張っておられる3人の方にお話しいただきました。危機への対処は三者三様ですが、この2ヶ月いろいろな取り組みをされてきたことが伝わったかと思います。
 清永さんからは、佐渡のリブランドに取り組みつつ、コロナというクライシスをチャンスに変えていこうという動きが伝わったのではと思います。国際的な観光の潮流、特に欧州について把握し、うまく佐渡の観光にインストールしていきたいと常々考えられていた中、その思いと実態がなかなか地域で噛み合わなかったところ、今回のコロナ禍でリスクとクライシスに直面した時、それをうまく機会に変えながら動いてきたと言えます。「足で稼ぐ」という表現がありましたが、いろいろな関係者に交渉し、衛生基準など反対の声も大きい中で非常にご苦労されながら、動かれてきたと改めて感じました。
 井口さんは雪国観光圏というDMOを長くやってきて、そうした取り組みだけではなかなか地域を変えていくことができないという現実にも直面しておられました。ご自身の事業としてチャレンジしたryugonという旅館を通じて、雪国観光圏とはこういうものだというのを発信したいという取り組みをしてきたところに今回のコロナ禍があり、それをチャンスに切り替えていこうとされています。ポストコロナにおいては旅館の価値観や旅行に対する考え方が変わってくるということも想定し、着実にブランディングや商品づくりに取り組んでいると言えます。
 沖縄市の山田さんはコロナ禍の前に任期付きで事務局長となり、通常の沖縄観光のイメージで売れる場所ではないエリアで、各事業者と協力しながら取り組みを展開していました。コロナ禍では、それまで培ってきたネットワークをうまく使いながら、危機に対応してきたのではと思います。
 お三方の話から言えることは、今回のコロナ禍のようなリスクに対して「こうしなければいけない」という唯一無二の正解があるわけではなく、そうした状況に陥る前までのいろいろな伏線や取り組み、ネットワークなどが非常に大きく影響していることです。そして、こうした危機を早めに認識して行動されてきたところが、今の状況につながっているのではないかと思います。

 それでは、7月以降にどんな取り組みやチャレンジをしていこうと思っているか、それぞれお話しいただければと思います。
清永 コロナ危機は東日本大震災の原発危機と同じだと私は思っていて、そこでどれだけブレないで営業していくかが大事だと思っています。では何をやるかと言うと、やはりロイヤルカスタマーをどう作っていくかだと思います。
 そういった意味では佐渡では、CRMをずっとやってきていますので、その仕組み上でどんどん会員を増やしていく。
 さどまる倶楽部では、ポイントバックという仕組みを既に作っていますので、どんどん会員を増やし、顧客データが集まるほど今後の資産になり、そうすると広告が要らなくなるのではと思っております。
 またこれから多分、安心安全を非常に重視する人は観光地になかなか来ないのではとも思っています。信頼できる安全証が必要になってくるのではということで、さどまる倶楽部のアプリ会員にしっかりアンケートをとり、お客様が「私は安全だ」と思える仕組みを作りたいと思っています。
 スイスのツェルマットで行っている、何年も通った観光客にバッジを進呈する仕組みとほぼ同じかなと思っていて、先達のやっているモデルをしっかりキャッチアップしていくことが今後やるべきことなのかなと思っています。
井口 僕はコロナ後の世界を結構現実的な、厳しい目で見ています。そもそも旅館業は供給過多。多分、飲食店も旅館も3割くらいは廃業せざるを得ないだろうと思っています。社会構造が変化した時に、地域はどうシュリンクして落ち着くのかという落とし所をイメージすることがすごく大事だと思います。
 自治体主導の観光振興は広く薄くみんなで助かろうとしますが、現実的にそれは不可能ですよね。観光課が予算を持ち、観光協会にちびちび小遣いをあげるようなことをしていても、誰も助からない。「自治体も大変だろうから、この機会に行政から観光を外に出しましょう。そして本気で広域のDMOをしっかり作って、財源は宿泊税で賄わないとヤバいですよ」という話を自治体の関係者にしています。
 ここは正直、首長の判断しかないんですよ。政治を動かすしかないので、僕も自分のエリアでやっているのはそれだけです。DMOの事業というよりは、政治を動かすために自分が嫌われ者になっても言っていこうと思っています。それくらいの危機感です。
 勝ち組と負け組の地域がはっきりした時に、負け組の地域になったら、事業者の立場からすればいくら投資をしても無駄になってしまうので、そこは命がけで、いい格好しいの政治の観光振興はやめろと、はっきり経営者の立場で言っていかないといけないかなというのが正直な部分です。
 もう一つ重要なのは、コロナ対策は旅館にしてみたらコストでしかないわけです。対策をしっかりしたからといって、売上が上がるわけではないですが、人によっては非常に過敏に反応する場合もあり、そうではない人もいる。過敏な反応の人に基準を合わせてしまうと、慢性的に旅館がコスト高になってしまう。なので、僕は業界としてどこかで線を引くべきではないかと思います。
 サクラクオリティはそういう時に役立つと思うんですよね。「これ以上はしなくていいのでは」という線を業界で引かないと、ずっとコストを抱えてしまうので、そこはDMOの人たちも冷静に見てもらいたいですよね。コロナコロナと大騒ぎするのではなく、経営できる分岐点はどこなんだと。「やり過ぎないこと」というのも、僕は大事なテーマかなと思っています。

 旅館としては、今はチャンス以外ないと思います。ryugonは海外のお客様が地方を旅した時の宿の提案なので、今は海外旅行に行けないお客様がたくさんいて、海外旅行で旅慣れた日本のお客様に楽しめるのではというしつらえを用意しています。
 なので今まではやらなかったのですが、むしろ僕は今、積極的に旅行会社に営業に行っています。高級バスを使っている旅行会社で2泊ツアーを作ってもらっています。DMOと宿ではやるべきことに若干の違いはありますが、基本はそういうことかなと思っています。
山田(雄) 政治を動かすという話がありましたが、競争力を持ちながら観光振興を持続的にやっていくには、地域の観光振興の仕組み自体をもう少し変えていかないと難しいというのが、井口さんが感じていることだと思います。
山田(一) 2月下旬に僕は「無収入で生存できる期間ってどれくらいなんだろう」と考えました。決まっている補助金以外に収入がなかったら、どれくらいうちの組織で人をキープできるかと。計算してみた結果、1年くらいならなんとか無収入でも食わせていけるなと思ったので、職員みんなにそういう発表をしました。
 観光協会は地域の人を幸せにすることがミッションの一つだと思いますが、僕の半径10mの人が幸せでなければそれは不可能ということで、内側と外側の両方に対するブランディングを考えました。
 全職員に対しては4月に遡り、昇給を実施しました。うちの規定では契約社員は賞与がないのですが6月に一律で賞与を出し、パートの人にも一時金を出しました。みんなで頑張ろうというムードを作ることが大事だと思います。
 外に対しては、先ほど共通項や関わりのある地域に個別に営業していくと話しましたが、昨年は、油田があり、ホーチミンの倍の所得があるベトナムのブンタウの商工会議所と仲良くなり、1校だけある日本語学校でプレゼンをしました。「年に1度、日本に日本語を話しに来ます」という話になり、今年4月に校長先生が来日する予定がコロナで延期になってしまいましたが、ベトナムとの往来が再開しそうなので、再アプローチをしようと思っています。
 また、GoToキャンペーンは修学旅行も対象なので、旅行会社に対して「これを活用して沖縄市に来ませんか」というアプローチを考えているところです。ゲリラ的な形ですが、がんがん営業しに行こうと思っています。

山田(雄) 今回のコロナ禍では本当にいろいろなことが起き、4、5月は先が見えない状況でした。やっと明るさも見えてきましたが、今後もこうした危機が起きる可能性があるわけで、どういう観光地にしていきたいのか、中長期的に考えておく必要があると思います。今日のみなさんのお話で改めて重要だと感じたのは、日常的にいろいろな人たちとネットワークを作っておくことです。清永さんからはお客様に対するCRMの話、山田さんからは観光協会内の職員のモチベーションの話とともに、すぐ営業に行ける態勢を作っているということで、こういう状況では非常に重要と言えます。
 また、井口さんのryugonという施設が今のwithコロナの中で価値を発揮しているという話については、雪国観光圏のコンセプトに共鳴する方達と培ってきたつながりがやはり大きかったと思いますし、こうした危機では、ある種贅肉が落とされるような形で強みになると。平時ではなかなか見えないものが、強みとして展開される機会ではないかと思います。
 井口さんのお話にもありましたが、今回のような危機を迎え、日本版DMOについてある程度の機能や役割を見直していくことが重要ではないかと思います。今、日本だけでなく、全世界の観光局がこの悩みに直面しています。コロナ禍が落ち着いてきた暁には、海外での対応を見ながら、日本の観光地のレジリエンスを高めていく方法を引き続き考えていければと思いました。

 

 

 

 

 

清永治慶(きよなが・はるのぶ)
一般社団法人佐渡観光交流機構 専務理事。鹿児島県生まれ。慶應義塾大学卒。サントリーで6年間勤務後、郷里鹿児島でスーパーマーケットや飲食店の運営を3年。その後スキー場の再生を担うファンド等でスキーリゾート再生に12年携わり、黒字化。2018年、佐渡観光交流機構設立時から外部人材として現職。

 

 

 

 
 
 

井口智裕(いぐち・ともひろ)
一般社団法人雪国観光圏 代表理事。株式会社いせん代表取締役。新潟県南魚沼郡湯沢町生まれ。東ワシントン大学経営学部卒。旅館経営(「越後湯澤HATAGO井仙」)のかたわら、2008年に一般社団法人雪国観光圏を設立。2018年に国の登録有形文化財である温泉御宿龍言の経営を引き継ぎ、ryugonとしてリニューアル。雪国の文化や地域と共生する新しい旅館のモデルを目指す。著書に『ユキマロゲ経営理論―地域を活性化させた「雪国観光圏」の発想法と組織づくり』(柏艪舎、2013年)

 

 

 

 
 
 

山田一誠(やまだ・かずせい)
一般社団法人沖縄市観光物産振興協会 事務局長。大阪府生まれ。大阪府立大学工学部卒。リクルートで就職情報誌、中古車情報誌の後、旅行情報誌で沖縄を担当。人材会社、IT系マーケティング会社等を経て、2013年フリーランスとなり沖縄へ。企業の顧問・アドバイザーとして活動。2017年から現職。協会のDMO化、旅行業登録、協会オリジナル商品の開発、修学旅行向けプランの開発・営業など補助金に過度に頼らない経営を実践。

 

 

 

 
 
 

コーディネーター
山田雄一
(公益財団法人日本交通公社 観光政策研究部長)