現場型研究者の実践…① 札幌国際大学 観光学部 観光ビジネス学科 准教授 藤崎達也
④ アドベンチャートラベル担い手の危機

コロナ感染拡大に伴う北海道のアウトドアガイド事業者向け調査結果を踏まえ

観光事業者の経歴をもち、地域に根ざした実践的な研究に取り組む〝現場型研究者〞コロナ禍の最中、地域との協働に汗をかく、2人の研究者の奮闘に着目した。まずは北海道。藤原は、緊急アンケートを行い北海道のアウトドアガイド事業者が岐路に立っていることを明らかにし、業界への支援と、北海道ならではのアドベンチャー旅行の模索を訴える。

 

 北海道では来たる2021年、体験型観光の世界会議「アドベンチャー・トラベル・ワールド・サミット(ATWS)」の札幌開催が決定し(※1)、アウトドア事業者のみならず、観光事業者全体に盛り上がりが見られていた。そのような中でのコロナ禍が業界を襲っている。
 筆者は去る2020年5月21日から6月5日の期間で、「北海道アウトドアガイド・体験型観光事業者の事業環境緊急調査」を行った(※2)。この調査は(一社)北海道体験観光推進協議会、北海道アウトドアガイド協会、そして農業体験事業者など約130事業者にインターネットを通して行われ72事業者より回答をいただいた。この調査を通じて、アドベンチャートラベルの担い手として期待が寄せられているアウトドアガイド事業者に早急な支援が必要なことが分かった。同時に、北海道におけるアウトドアガイド事業の存続の危機を目の当たりにすることとなった。調査で回答を寄せた事業者たちが支える北海道のアウトドア観光は岐路に立たされていると言っても過言ではない。
 このレポートでは、調査の結果を概観し、日本の他地域にも通じる着地型観光や体験型観光の事業継承の問題について考えたい。

1.北海道観光におけるアウトドアガイド事業の意義

 北海道でのアウトドア推進の取り組みは1990年代後半から盛んになり、沖縄と並び日本国内でも有数のアウトドア体験観光ディスティネーションとして成長してきた。北海道は「北海道アウトドア活動振興条例」を2001年に制定し、北海道観光の特徴である自然を行政や地域が活かす際の指針が示された。同時に、知事によるガイドの認定制度が立ち上げられ、現在北海道内で約130の事業者や個人がガイドとして活躍している。一方、アウトドアガイド第一世代の事業継承時期に当たり、どのように経営委譲やいわゆる〝のれん分け〞をしていくことが最適なのかは、筆者をはじめ近年の研究テーマの一つである。

2.コロナ禍による「アウトドアガイド事業」の再定義と今後の議論

 この調査結果を参考としながら、アウトドアガイド資格制度を担う(一社)北海道体験観光推進協議会等がロビイ活動を行い、コロナによる影響に対して北海道経済部観光局ではアウトドアガイド事業者に対し様々な支援が検討された。特筆すべきは、北海道が道内の観光活性化のために打ち出した「観光誘客促進道民割引事業(どうみん割)」の商品群に「アウトドア体験商品」が加えられたことがあげられる。今回の道経済部による「どうみん割」におけるアウトドア体験商品は、この有資格ガイドを対象としたものであり、条例に基づいた対応として評価できる。
 一方で、この資格を有しない事業者も多く、これらの事業者からどうみん割への参入についての要望が筆者の元にも寄せられた。当初、アウトドア事業者に対しては北海道のガイド資格を持っている人のみが補助対象という原案が出されたが、それに対して対象とならないガイド事業者などから声が上がった。その結果、旅行会社等との共同商品とするなど様々な条件はあるものの対象が広げられた。これは「どうみん割」によるアウトドア事業の再定義とも言える議論として今もなお尾を引いている。
 アウトドアに限らず、特に、道の認定制度とは別に「これはガイド事業である」「これはガイド事業とは言えない」と担当者や関係者による選別が行われたことは興味深い。これは「アウトドアガイド事業」に対する再定義として今後議論を深めるべきであり、かつて安全や安心やクオリティを念頭に置いた北海道の条例に基づくガイド認定との整合を進めるべきと筆者は考える。ただしコロナによる影響が長引く中、自然資源を活かした北海道の観光振興を考えるのであれば、先ずはアウトドア事業者に店を畳まずに持続していける支援が必要である。
 観光は裾野の広い産業である。商品企画をする際に余計な制限がないことが理想である。同時に、アウトドア事業のパイオニア達は、北海道に憧れを抱き東京などから移住をした者も多く、北海道らしい田舎暮らしやアウトドアライフスタイルを作り上げてきたレジェンド的存在である。移住対策や地方でのビジネス創出など、今、各地で行われている観光まちづくりの取り組みを自立的に行ってきたという点で評価できるのではないだろうか。OTAなどの民間オペレーション側も含め、ライフスタイルの面で北海道らしいアウトドア事業を定着させてきた事業者らの要望も盛り込むことにより、いわば北海道らしいアドベンチャートラベルの姿を見出す良い機会になると思われる。コロナ禍が落ち着いた際には、大いに議論されることを期待したい。

 

 

 

 

 

 

藤崎達也(ふじさき・たつや)
札幌国際大学観光学部観光ビジネス学科准教授。明治大学商学部商学科卒。日野自動車販売、特定非営利活動法人知床ナチュラリスト協会代表理事、稚内北星学園大学准教授等を経て2018年から現職。「流氷ウオーク(知床)」や「サッパ船アドベンチャーズ(岩手)」をプロデュース。主な著書・論文に『「観光ガイド事業入門」立ち上げ、経営から「まちづくり」まで』(2012年、学芸出版社)、『NPOが北海道を変えた。―道州制と市民自治へのチャレンジ』(共著、インテリジェント・リンク、2004年)、「プレスコ方式の観光まちづくり」(2015年、稚内北星学園大学紀要第15号P161-170)などがある。

調査の詳細は下記のページでご覧いただけます。
Tatsuya Fujisaki Tourism LAB
https://tatsuyafujisakiblog.wordpress.com/

<参考資料>
「観光誘客促進道民割引事業(どうみん割)支援金交付要綱観光誘客促進道民割引事業(どうみん割)支援金交付要綱」北海道経済部

※1 アドベンチャートラベル・ワールドサミット2021北海道実行委員会ホームページ(2020年6月22日)
※2 札幌国際大学観光学部藤崎達也
期間:2020年4月19日~6月5日
方法:インターネットによるアンケート調査
対象:北海道体験観光推進協議会事業者、北海道アウトドアガイド協会事業者、その他農業体験等体験型観光事業者など 約130社
サンプル数:72
※3 年間売り上げの60%を占める月(複数回答)