新型コロナウィールス感染の拡大が続き人々の移動と交流への制約が長期化する中で、観光産業には人々の従来とは異なる行動様式や旅行スタイルに対応するための努力が求められている。その努力は、現在の苦境を凌ぐものであるとともに、with/postコロナの世界において通用するさらに高質の観光の展開につながっていくようなものであることが望まれよう。
 事業者や自治体の取り組みについては、昨年以降、多くの創意工夫や新機軸が見られている。オンラインツアーの開発、ツアーに先立つデジタルマーケティング、バーチャルなツアーへ土産物や学習などのリアルコンテンツを結びつける試み、ワーケイションやステイケーションの促進、さらには需要の閑散を逆用してのホームページのリニューアルと充実への注力、等々の多様な対応が広がりつつある。需要低迷に対応し、隠れた需要をも発掘しつつ将来の反転攻勢を目指すこれらの地道な努力は大いに評価されてよい。
 さらに、いくつかの新しい観光需要の高まりあるいは観光市場の広がりも注目される。いわゆるニューツーリズムの展開はその一つであり、エコ、ヘルス、スポーツ、グリーンなどのテーマ性を込めた体験型の観光スタイルは、これから一層の拡大が見込まれる。さらには、自然との触れ合いなどを中心に、開放的・少人数・清潔など、密の抑制と管理という要求をも満たすアウトドアレジャーとして、トレッキングやグランピングなどの新たな需要も育ちつつある。
 いまコロナ禍の当面の継続を念頭に置きながらも、今後の観光復興を展望するにあたってあらためて基本とすべきは、なによりも「持続可能な観光」という視点であろう。もとより、その視点と課題は地域の活性化や成長という課題と密接に結びついている。住む者と訪れる者の双方にとっての快適さの創出、自然環境と景観の維持、歴史の保存、地球環境問題への貢献、健康のアピール等々が地域の品格を生み、国際標準の観光の定着を導く。上に見たような近年注目を集めるようになった新しい観光スタイルの数々は、まさにそのような持続可能な観光の追求と方向性を同じくしている。そうした観点に立つとき、これらの新たな需要が、今後の観光復興の適切な足がかりともなり、また力強い牽引役ともなっていくことを大いに期待したい。
 期待を表明した上で蛇足ながら付け加えておくと、いうまでもなく、持続可能な観光の創造は事業者サイドの商品開発だけで達成される課題ではあり得ない。その育成のためには、観光に関わるすべてのステークホルダーの熱意ある参画と貢献が必要とされる。そこには、新しい観光スタイルの実践を後押しする働き方改革、効率的な移動を組み立てるMaaSの充実、目先の収益性には沿わない環境課題への取り組みを後押しするボランティア活動やファンディングでの支援など、まさに地域社会全体からの多面的な協力が不可欠であろう。