活動報告 第30回
旅行動向シンポジウムを開催
2020年10月27日(火)・28日(水)の2日間にわたり、第30回旅行動向シンポジウムを開催しました。ここ数年のシンポジウムは『旅行年報』の解説を中心に構成していましたが、今回は多くの方の最大の関心事である「コロナ禍における観光」をメインテーマとしました。
1日目はインバウンド、2日目は日本人旅行を中心に、当財団の独自調査結果を複数まじえつつ、テーマごとにゲストスピーカーをお招きして深掘りする内容としました。
今年のシンポジウムは初のオンライン開催となりました。参加者枠を大幅に拡充して開催し、遠方の方も含めて多くの方にご参加いただきました。
本稿では、1日目・2日目の各対談の要旨をご紹介します。
1日目(インバウンドを中心に)
【対談】インバウンド市場の再始動に向けて
インバウンド市場再開まで、高い訪日意欲の維持と喚起の方法、市場再開後にどの市場から受け入れていくかをテーマに、対談を行った。
柿島 JNTOの各海外事務所の取り組みで、効果があったものや反応が良かったものはなにか。また、現地ではどのような情報が求められているのか。
蔵持 過去に作成したコンテンツを再配信する取り組みが好評を得ている。なかには、数年間の累積再生数が100回程度だったものが、北京事務所がWeiboで取り上げたところ、1週間で7万回再生につながった事例もある。
全般的な状況として、桜や城など、日本らしい動画に対する反応が良い。ただし、市場ごとに状況は大きく異なり、たとえばオーストラリアの場合、自然よりも芸術の方が反応が良い。
柿島 旅行会社等に対して需要維持のために行っている取り組みはあるか。
林 これまでのプロモーション活動のネットワークを生かし、数カ国の旅行会社と相互の情報共有を行っている。旅行会社からの要望に応じて、訪日意向の強い客層に対する動画提供等も行っている。
柿島 アジアは不安感が非常に強い一方、欧州は不安感が低めである。日本と近い感覚を持っている国はどのあたりか。
蔵持 東アジアは傾向が似ている。中国、韓国、台湾、香港は新規の感染者がそれほど出ておらず、死亡者も少ない。水際対策が徹底され、国により状況は異なるものの、台湾や中国など、自由に国内移動できるところも出てきている。ヨーロッパは、水際対策はアジアほど厳しくなく、自国内で再ロックダウンとなる動きも出ており、日本とは大きく状況が異なる。
柿島 インバウンド市場再開にあたっては、国内世論や地域住民の意向への配慮が欠かせない。今後、地域住民のインバウンド市場再開への理解を得るために、高山市ではどのような対応を考えているか。
林 高山市では市民の約7割が第三次産業に従事しているが、観光に関わらない方もいるなかで、これまでもインバウンド受け入れに対して色々とご意見をいただいていた。GO TOトラベル事業の開始により、日本全国から日本人観光客が高山市を訪れているが、市内での感染者が出ていないこともあり、不安の声も聞かれる。しかし、高山市の産業構造上、観光客が訪れなければ高山市の経済や町そのものが受ける影響は非常に大きいため、住民の理解を得ながら、感染症対策と観光客受け入れを両輪で回している状況。
このような状況の中、インバウンド受け入れの再開に対して理解を得ることは、日本人観光客の受け入れ以上に難しいと考えている。よって、再開に際しては、受け入れ対象国の状況をきちんと説明すること、観光業に関係のない方たちにも国際交流に関わっていただくことで外国人に対する理解を深めるなど、少しずつ受け入れていくための地道な活動が必要だと考えている。
柿島 インバウンド市場の回復には時間がかかるが、お二人からメッセージをいただきたい。
蔵持 JNTOでは、当面の対策として日本が安全・安心であることをPRしていく。また、日本滞在中に何か不安なことが起きたときの対応方法、具体的な日本での過ごし方をきちんとPRし、受け入れにつなげていきたい。各地域と協力しながら、各地域が安心してインバウンドの観光を受け入れることができる素地をつくっていく。
林 高山市では、物事を全て止めてしまうのではなく、次の来訪時により高い満足を感じてもらえるよう、受け入れ環境の整備に取り組んでいく。ハード面の整備だけではなく、市民感情も含めたソフト面についてもきちんと対話を重ねながら、より質の高い滞在環境を整えていきたい。
【対談】コロナ禍に地域を支える観光地の取り組み
コロナ渦のなか、またコロナ後を見据えて、観光地ができることについて、株式会社島ファクトリーのリモートトリップを事例に対談を行った。
中野 リモートトリップのアイディアが実現するまでの時間が非常に短いことに驚いた。どのような議論があったのか。
篠原 人数も少なく仲の良いスタッフ同士なので、フラットに話ができる関係性だが、その時の会議はかなりシリアスなもので、観光を一度やめた方がよいのでは、再開は難しいのではという意見も出た。その中でも、何かできることはあるのではと考えて、その場で全てを決定した。翌日の社長決裁を待ってリリースした。
青山 かなり深刻な状況で重苦しい空気が漂う中、前向きなエネルギーを出してくれたことが非常に嬉しかった。開始当初はリモートトリップの前例もなく具体的なイメージができなかったが、何か打開策があるのではという手掛かりを感じた。
通信にはWi-Fiを使用。観光スポットの案内中、山道を移動する時など途切れることがあるが、その場合は別の場所にいるスタッフがつなぎ臨機応変に対応している。
海士町(あまちょう)の特産品である岩牡蠣を楽しむツアーは、牡蠣を食べることを含んだコンテンツであるが、参加者には同じ体験を提供したいと考えているため、ツアーは全て特産品付きで販売している。参加者の人数に応じてサイズは3種類ほど用意している。
中野 リモートトリップに関わっている、漁師や民宿など島民の反応は。
篠原 開始当初は、オンラインで現地の映像を見て面白いのか、島に来てもらえなくなるのではないかとの懸念があったため、初回のリモートトリップでは、島民の方も交えて参加者とのコミュニケーションを取ることに重きを置いた。「もっと現地を見たかった」という感想を受けて、2回目以降は現地案内をするようになった。
その頃から島民にも積極的に声をかけるようになり、民宿の方などはとても喜んでくれた。Go Toトラベル開始後、リモートトリップ参加者で実際に来島した方がいた。この動きが盛んになれば、島の方にもさらに喜んでいただけるだろう。
中野 島ファクトリーの組織概要やミッションについて伺いたい。「島を支える企業です」というキャッチフレーズが印象的だが。
青山 元々、観光協会と地元銀行が共同で設立した会社で、現在は地元の個人の方と観光協会が株主となっている。
海士町は純粋な観光事業者が少ない地域で、地域全体としても有機的な連携を重視する傾向がある。その中でも島ファクトリーは、特定事業を継続するというよりも、地域の中の必要なところに飛び込み、共に課題解決のために動くことを重視している。コロナ禍においても、なかなか身動きが取れない企業同士を結び付け、新たな企画立案ができたと感じている。
中野 あらためて、リモートトリップの手応えについて伺いたい。
篠原 参加者は、海士町に来たことがある人、来てみたかったが未訪問の人、海士町は知らないがオンライントリップに参加してみたかった人、と主に三つの属性に分かれている。参加者の海士町への来訪意向は非常に高い。
リモートトリップの終盤では、参加者の方と島民が少人数でコミュニケーションを取る時間を設けている。少人数で密度の濃い時間を過ごすことで関係性が生まれ、名残惜しそうにZoomを退出される方が多い。リモートトリップを通して現地の人と知り合いになれることが、高い来訪意向につながっているのだと考えている。
中野 収益性について伺いたい。
青山 島ファクトリーの事業性の面で考えると継続は難しいが、地域のマーケティングの一環としては非常に意義があり、海士町における観光産業の位置付けを明確にしたうえで、予算確保も含めて継続することが重要だ。また、他地域や他企業とのタイアップのオファーも非常に増えており、その中での収益性の向上にも可能性があると考えている。
中野 10月現在、コロナ禍も少し均衡状態にあるようだが、今後に向けて行政や各団体とはどのような議論をしているか。
青山 島で唯一のホテルの代表も兼務している。現在行っている大きなリニューアル工事を契機として、島の交流力を一段階引き上げるべく、島を挙げて取り組んでいる。海士町全体が過渡期を迎えている。観光と交流の新しいあり方をデザインし直し、一次産業も含めて海士町として地域の経済を回していく仕組みを、交流を起点につくっていきたい。海士町は「ないものはない」というキャッチフレーズを掲げており、ラグジュアリーばかりではない次世代の価値観を、ホテル、旅行業を通して実現していきたい。
また、広域的な視点を持つことも重視している。隠岐の島は4つの島から成り立っているが、コロナ禍において隠岐地域としての方針を一本化する重要性についても議論ができた。
中野 これからの島ファクトリーとしての取り組みの方向性について伺いたい。
篠原 海士町はつながりを大事にしている島。コロナ禍で分断されたつながりをリモートトリップで取り戻していきたい。収益を得る以上の意義がある取り組みとして継続していきたい。
多くの方に出会ってきたが、その中には根強いファンになってくれる方がいる。そうしたファンの拡大が、目に見える変化に結び付いている。これからも小さなつながりを大切にし、つながっている旅行を楽しんでもらいたい。
青山 これからの観光はよりシンプルになるだろう。本能として人が旅を欲するときには、余分なものをそぎ落とした素朴な観光地が選ばれていくと考えている。サードプレイスではなく、ゼロプレイスという、自分に立ち返る場所としても海士町は可能性があるのでは。ミクロネシアやブータンといった遠い国からもインバウンドが来ており、こうした需要は今後も消えないと考えている。その中で、原点に返る場所を求めてもう一度、人が旅をし始める可能性に賭けてみたいと思っている。
中野 最後にコロナ禍における観光地の取り組みについて、簡単にまとめてみたい。
普段から、地域の中で信頼関係を築き、リーダーシップが取れた自立的意思決定ができる組織があることが重要で、そうした組織が核となり、住民、観光客、観光従事者の不安を解消すると同時に、観光の可能性を「攻める姿勢」で議論を重ねた結果、収益があまり上がらないまでも、地域や観光客がつながりを維持できる取り組みが始まった。アクションを起こすことで、コロナ禍でも観光が役に立つことが示された。
リアルとオンライン、どちらか一方の観光が生き残るというものではなく、同じ時間軸の中で、それぞれの観光を通してコミュニケーションの機会が生まれ、観光地と旅行者がつながっていくのだろう。
2日目(日本人の旅行を中心に)
【対談】コロナ禍における日本人旅行者の動向
旅行者の年齢層、旅行・来訪の経験、旅行先、旅行先での行動、旅に求めることの5点について、変わらないこと・変わることの視点で考える。
五木田 近年、20代女性の海外出国者数の伸びが大きい。また、新型コロナ収束後の旅行意向は、10〜20代で高く、一部の高齢者は旅行を控えがちになるという結果が出ている。今後の旅行市場は若者のシェアが高まっていくと考えられるか。
羽生 若者の感染リスクの小ささが盛んに報道されることもあり、若い世代ほど危機意識が低く、Go Toキャンペーンによる割安感もあって、コロナ禍においても若い世代の旅行実施に期待は持てるだろう。一方で、情報が氾濫する社会において、若い世代は独自の価値観の確立が脆弱であり情報に左右されやすいため、マーケットとしての安定性は疑わしい。
なお、近年の海外旅行者増は、LCC増便による割安感や、国境を超えたポップカルチャーの流行により、国内旅行の延長のような感覚で東アジアへの海外旅行が増えていることに由来しており、昔の海外旅行ブームとは性質が異なっている。
五木田 普段の旅行頻度が高いほど新型コロナ収束後の旅行意向が高く、また、2019年と2020年を比較すると、ハードリピーターが増加しているという結果が得られた。今後は、旅行に行く層と行かない層との二極化が進み、ハードリピーターが増加すると考えられるか。
羽生 旅行に行けないというストレスは、普段の旅行頻度が高い人の方が強く感じており、その分、新型コロナ収束後の旅行意向が高くなっているのだろう。また、旅行頻度が高い人は旅行のテクニックや能力に長けているが、普段の旅行頻度が低く旅行慣れしていない人は、コロナ禍にあって旅行に対するハードルの高さをより強く感じている印象がある。
同一地域へ複数回訪れる人が増えていることについては、単にリピーターが増加しているというより、コロナ禍にあって旅行することに対して多少の後ろめたさや社会の厳しい目があるなかで、なじみの土地に旅行することで安心を得られるという側面が大きいのではないか。今後、日本人特有と言われる同調圧力と個人の旅行意向とのバランスの中で、どのように旅行目的地が選ばれていくのか注視が必要。
普段あまり旅行しない層でも、4割強が旅行意向を示しており注目される。テレワークやワーケーションなど、コロナ禍により働き方が変化している。休日取得の難しさや同行者と休みが合わないといった、これまでの旅行の阻害要因も変化していくと考えられる。
五木田 コロナ禍において自家用車を用いた近場への旅行が増えた。航空便も少しずつ回復しており、遠出旅行の復活も想定されるが、近場旅行は今後も一定程度、定着するのではないか。
羽生 遠方や未経験の土地を訪れ、未知のものを見たいというのが観光の動機付けの一つであり、新型コロナ収束とともに一定程度回復するのは確実だが、インバウンドの回復まで数年を要する中、安心安全に可能な範囲で活動することが、近場の再発見につながることを期待したい。目的地にたどり着くだけで満足してしまう旅ではなく、行った先で何をしたいのか、明確な目的意識を持った旅が好まれるようになると、近場であっても満足度の高い旅行が可能になり、近場旅行が定着するのではないか。
五木田 調査より、3密を回避し、衛生管理を意識した行動が取られるようになっていること、また、1回の旅行あたりの平均活動数が減少していることがわかった。3密回避や衛生管理を意識することによって、一つの場所をよりじっくりと味わい、一つ一つの活動の安全性や質を吟味して行動をするようになるのではないか。
羽生 ウィズコロナの間は、いろいろな場所に立ち寄る周遊型観光は減っていると実感している。観光客が、訪問先からの「感染対策を徹底しているのでぜひ来てください」という情報を受け取って訪れる場合、それほど不安感や後ろめたさはない。ただし、その道中にある施設への偶発的な立ち寄りについては、感染リスクの軽減や、観光客である自分に対して厳しい目を向けられるのではないかという不安感から、なるべく控えようという意識が働いているのではないか。
つまり、目的意識が非常に明確で、安全面の対策をきちんと取っていることを情報発信している場合は人が動いてくるが、何かのついでに訪れるような地域や施設は忌避される。自地域の価値や魅力、安心安全に関する情報を、エリア全体として発信する必要がある。
五木田 旅行の動機および行ってみたい旅行のタイプは、コロナ禍の前後で大きな変化はない。また、コロナ禍における旅行心理は、緊張・恐れ・不安は徐々に軽減しているものの、旅行はおそるおそる、といった状況が見て取れる。コロナ禍においては、観光客、受け入れ側ともに責任ある観光という意識を持ち、安心安全な観光のために様々な変化が求められる。
羽生 旅は高い買い物であり、個人の今までの経験から動機付けが生まれることが通常だと考えると、旅に求めること自体は大きく変わらないだろう。動機は一緒でも、バーチャル空間とリアル空間の併用による新たな体験の提供など、顕在化する現象が変化する可能性はある。
見えないウイルスを観光客が外部から持ち込んでしまうのではという負の影響が取り沙汰されることで、観光が迷惑をもたらすものであるという認識が大きくなり、改めて責任ある観光というワードを耳にするようになった。
これまでの観光地は、観光客の満足度を最優先してしまうがゆえに、観光客側に対する要求はあまりしてこなかった。コロナ禍をきっかけに、観光客が安心して楽しい時間を過ごしてもらうためには、受け入れ側だけでなく観光客にも求めるべきものがあると気づき、実践し始めている。
観光客にとっては、自分が移動することにより、その地域に対して何かしらの正の影響・負の影響を与える可能性があることを認識する機会だと考えている。
旅の恥はかき捨てという言葉は、現代社会にあっては通用しない。マスツーリズムが成長し、観光がここまで大衆化したのは、パックツアーという旅行スタイルが、コミュニケーション能力や旅をする能力がない人の旅行を可能にしていたから。現在観光客に求められているのは、旅行先の人や環境に自分が影響を及ぼす可能性を自覚し、自らコミュニケーションを取っていくこと。そうした認識の拡大に期待したい。
【対談】過去の経験に学ぶ復興への展望
観光を取り巻く様々な困難な状況から、地域はどのように復興に向けて動き出していったのか。沖縄と釜石を事例に対談を行った。
中島 最初に沖縄と釜石のコロナ禍の現況について情報共有してもらいたい。
久保 2019年、釜石市はラグビーワールドカップの開催地となり、試合当日はもちろん、試合当日前後にも多くのイベントが行われた。インバウンド受け入れに向けた様々なインフラ整備も進み、それらは現在も有効に機能している。
2020年は、新型コロナの影響により、3〜5月は人の動きがなかった。岩手県は感染者が最後まで出なかったことで、感情的な警戒心がかなり高まっていた。最近は、県内の学校の防災教育需要が高まり、春先にキャンセルが相次いだキャンプ場が県内客により盛り返すなど、マイクロツーリズムの動きが目立っている。
中村 緊急事態宣言解除後、県内各地の視察を行い、宿泊施設の対策や受け入れ状況、地域や観光資源の現状を調査した。感染症対策や地域との関係維持について、非常に慎重に対応していることが印象的だった。
今年の夏は沖縄県民による沖縄観光が行われたが、これまで沖縄県民がハイシーズンである沖縄の夏を体験することはあまりなかった。県民が沖縄観光の魅力に触れられたことは、有意義だったと感じている。
観光資源については、観光利用が減ったことで海の中が非常にきれいになっており、観光利用の影響の大きさを感じた。沖縄県を持続可能な観光地にしていくため、コロナ禍前に戻すだけではなく、ニューノーマルな新しい沖縄観光の価値として何を提案できるかを考えさせられた。
中島 最初のテーマは、人や個人としての動き、どのような思いを持ってお二人が関わっているかについて。まずは、釜援隊のメンバー、久保氏の取り組みの原動力について伺いたい。
久保 自身はUターンだが、半数以上は首都圏からのIターン。前職のキャリアは、新聞記者、銀行員、商社、ソーシャル系など様々。新卒採用も数名おり、年齢層は20〜60代と幅広い。当初はIターンが多く、2015年頃よりUターンが増えてきた。
自身の取り組みの動機としては、大きく二つ。一つ目は震災発生翌日、自宅に帰った際に見た祖母の悲痛な顔が忘れられないこと。二つ目は、復興とは何なのかという問い。釜石は数度にわたり津波の被害を受けその都度変化してきた土地であり、何をもって復興といえるのかと問い続けていることが大きな原動力になっている。また、釜援隊をはじめ、同じ志を持ってまちづくりに取り組む仲間が支えになっている。
中島 観光地域づくりでは、熱意をもって活動している個人の存在とともに、そうした個人が活躍できる場づくりも非常に重要。釜石の場合は、釜援隊が重要な存在の一つとなっている。
一般社団法人沖縄観光の未来を考える会は、危機が生じた際に行政との懸け橋になるとともに、平常時にも様々な取り組みを行っている。
中村 未来を考える会は、〝沖縄らしさを活かしたアジア随一の国際リゾートアイランド〞をつくることをスローガンとし、国、県、市町村、民間、大学などと連携・情報共有を図り、フラットに意見交換を行うなど、様々な取り組みをしている。
コロナ禍にあっては、アンケート調査による県内観光産業の現状把握や、各種情報交換会議を頻度高く開催している。また、沖縄県は2021年度から第6次観光振興基本計画が施行されるが、その計画検討にも参画し民間の意見を反映している。低所得や離島格差の是正、文化・自然資源の保全といった沖縄県の課題に対して、観光業界として何ができるかを考えている。
中島 コロナ禍の中で、業界が協力して助け合いながら、どのように生き残るかを考えている一方で、民間の業界団体としても、中長期的な視点で環境共生型やサステナブルなビジョンを検討し、県に持ち掛けていると受け取った。
釜石は、中長期的な観光ビジョンを描きながらサステナブルツーリズムを掲げ、一定の成果・計画を生みだし、日本のサステナブルツーリズムのお手本と言われている。
久保 釜石を含む三陸地域は、歴史的に津波が押し寄せてくる土地柄であり、自分たちの子どもや孫の世代に、どのような町を残していきたいかという視点は自然と持っていた。
観光振興ビジョンの策定がきっかけとなり、この視点が明確になった。観光振興ビジョンでは、釜石全体を生きた博物館(フィールドミュージアム)と見立てて、人の生きざまや自然・文化をありのまま見せていくことで、新しい観光交流をつくろうとした。暮らしそのものを観光資源として取り扱うからには、責任ある観光開発の姿勢が求められ、サステナブルツーリズムという考えに至った。
そのときにアプローチの一つとして出てきた方法が国際認証・国際基準の取得。釜石を支えてきた世界中の何十万人というボランティアたちは、責任ある観光者・旅行者に近しい属性の方だった。釜石から震災や復興の言葉が消えた後も、自分たちの持続可能なまちづくり哲学を伝えるメッセージツールとなり、そこに共感した世界中・全国からの責任ある方々に釜石に来てもらえればと考え、国際認証の取得に取り組んだ。
中島 最後に中村さんと久保さんから聴講者の方へのエールやメッセージ、お互いへのエールなど、一言ずついただきたい。
中村 多くの方に沖縄へ来てもらえるように、島として安心安全な観光地の形成に取り組んでいる。質をより高めたV字回復を新たな復興策とし、これからも精力的に取り組んでいきたい。話し足りなかったことは、皆さまに沖縄へ来てもらい直接話をしたい。
久保 昨年からの観光庁の政策や新型コロナウイルス感染症の流行がきっかけとなり、持続可能な観光について考える機運が醸成されていると感じている。震災を経験して、「生きていれば何とかなる」と感じている。生きていれば何とかなるとそう信じて、観光の回復と未来を目指したい。
※対談以外の各発表内容は、当財団ホームページ(https://www.jtb.or.jp/publication-symposium/tourism-symposium/)に掲載している当日の講演資料をご覧ください。
第30回旅行動向シンポジウム プログラム・講演資料
https://www.jtb.or.jp/publication-symposium/tourism-symposium/
『旅行年報2020』(公財)日本交通公社,2020年
https://www.jtb.or.jp/publication-symposium/book/annual-report/annual-report-2020/
報告:観光文化情報センター 企画室 副主任研究員 門脇茉海