活動報告
日韓国際観光カンファレンス2020を開催

2020年11月10日(火)、日韓国際観光カンファレンスを開催しました。同カンファレンスは、研究協定を結んでいる韓国文化観光研究院(以下、KCTI)と毎年共催しているものです。本来ならば今年度は日本で開催予定だったのですが、新型コロナウイルスの影響により、初のオンライン開催となりました。
当日は両機関の研究員4名による研究発表とディスカッションを行いました。当財団からは、五木田市場調査室長が2020年1〜9月までの調査データに基づき、コロナ禍における日本人旅行者の動向について、中野地域活性化室長がオンラインツアーを中心に、地域を支える観光地の取り組みについて報告しました。
KCTIからは、Song,Jeong Yeon氏がクレジットカード利用額データの分析を基に、新型コロナウイルスが韓国観光産業に与えた影響について報告した他、Choi,Kyeong Eun氏が各種統計から見る韓国観光の現状と韓国の観光政策について報告しました。
本稿では、各研究発表の要旨とディスカッションの様子をご紹介します。

 

各研究発表要旨

【発表1】コロナ禍における日本人旅行者の動向
五木田玲子 観光地域研究部 市場調査室長/主任研究員(JTBF)

● コロナ禍の影響による旅行のとりやめは、4〜5月がピークとなり、以降は減少した。旅行をとりやめた最大の理由は「自分自身や同行者の感染リスク回避」であり、緊急事態宣言発令中の4〜5月は、「政府による外出自粛要請」を理由に挙げる人が多かった。
● 日本国内の旅行者数は、3月に急激に落ち込み、4〜5月は前年同月比9割減、以降徐々に回復傾向にある。コロナ禍での旅行実施にあたっての気持ちをみると、不安は感じつつも「心配しても仕方がないと思った」という人が次第に増加し、6月以降は「観光地を応援したい」「値段が通常より安い」が急増した。
● 2020年8月と2019年8月を比べると、温泉旅行や自然・景勝地訪問の増加、まち並み散策・歴史文化名所訪問・都市観光の減少、1泊旅行の増加、近隣への旅行の増加、自家用車利用の増加、小規模旅館利用の増加、夫婦・家族旅行の増加、友人・知人旅行の減少、といった特徴がみられた。
● 7〜9月は、約7割がコロナ禍収束後に旅行に「行きたい」と答えた一方で、約1割は「行きたくない」と回答している。10〜20代は男女ともに積極的な旅行意欲を示しているのに対し、高齢者、特に女性60〜70代は旅行を控えがちになっている。なお、旅行意向は今後の感染状況に応じて変動する可能性が高い。
● 旅行の動機はコロナ禍にあっても大きな変動はなく、「旅先のおいしいものを求めて」「日常生活から解放されるため」は普遍的な旅行の動機と言える。行ってみたい旅行タイプは「自然観光」「温泉旅行」が上位に挙がっているが、これらはコロナ禍に関係なく、常に上位に挙がっており、普遍的に人気の高い旅行タイプ。
● コロナ収束後に行きたい地域の条件には従前と大きな変化はない一方、行きたくない地域として「公衆衛生が徹底されていない地域」「人が密集している地域」「感染者が多かった地域」が挙げられた。公衆衛生の徹底や密の回避は、旅行先として選ばれるための必須条件となっている。
● コロナ禍を経て、旅行先の選択や旅行先での行動にも、三密回避や衛生管理を意識した変化がみられる。
※本発表の詳細は、『観光文化247号』「新型コロナウイルス感染症流行下の日本人旅行者の動向2〜JTBF旅行意識調査結果より」(https://www.jtb.or.jp/tourism-culture/bunka247/247-09/)、第30回旅行動向シンポジウム発表資料「コロナ禍における日本人旅行者の動向」(https://www.jtb.or.jp/wp-content/uploads/2020/11/02-1_domestic_market_gokita.pdf)を参照ください。

【発表2】コロナ19の観光産業への影響に関する分析
Song,Jeong Yeon 主任専門員(KCTI)

● 2020年1月20日に韓国国内で初の新型コロナウイルス感染者が発生し、危機警報が「注意」に引き上げられた。韓国政府は、感染拡大状況に応じて飲食店利用や余暇活動の制限などのソーシャルディスタンスを保つ政策を段階的に実施しており、従来の消費パターンと余暇活動に多くの変化が生じている。
● 2019年から2020年10月3日までの、韓国国内における韓国国民と外国人のクレジットカードの取引承認実績を用いて分析を行った。
● 新型コロナウイルス注意段階以降(2020年1月20日〜10月3日)、観光関連のクレジットカード利用額は、対前年同期比22.2%減となった。クレジットカード全体の利用額は5.6%減であり、他業種に比べ、コロナ禍が観光産業に及ぼす影響が非常に大きいことが分かる。
● 注意段階以降の利用額は、対前年同期比で旅行業87.0%減、免税店78.2%減、航空会社74.1%減、公演場及び劇場53.6%減、観光宿泊業52.0%減となっており、特に、旅行と直接関係のある旅行業、免税店、航空会社の利用額が大きく減少している。これらの業種では、感染拡大が比較的落ち着いていた時期でも回復傾向が見られないことが特徴で、被害規模の大きさが分かる。
● こうした状況を踏まえ、韓国政府は国民の安全を担保すると同時に、各種割引券の発行を段階的に行うなどの観光業に対する支援を行っている。
● コロナ禍は既に長期化が見込まれており、一時的な支援のみでは観光産業の完全回復は難しいだろう。また、小グループ旅行や安全確保といったニーズが高まることが予想されており、観光産業の側でも様々な転換が必要とされている。

【発表3】コロナ禍に地域を支える観光地の取り組み(オンラインツアーの可能性を考える)
中野文彦 観光経済研究部 地域活性化室長/上席主任研究員(JTBF)

● 2020年4〜6月の日本全体の観光消費額は、対前年同期比83.3%減のマイナス約5兆円となった。費目別にみると、「バス・タクシー等の地域内交通費」、「宿泊費」、「飲食費」、「買物代」、「娯楽等サービス費・その他」も同約8割減となっており、地方における観光収入も大きく減少している。
● 観光地側では、日本政府による各種補助金や助成金の活用のみならず、様々な対応を図っている(図1)。


● 観光サービス強化・開発に分類される取り組みのひとつには、コロナ禍の中で移動・接触を伴わない観光サービスとして始まった、オンライン体験・ツアーが挙げられる。
● 文化・自然体験、まち歩き・施設見学、交流、飲食・買い物・クラフト体験、イベントなど、様々なツアーが商品化されている。観光事業者が中心となり、農家、漁師、寺社、美術館・博物館、芸能団体等、様々な団体と連携したオンラインツアーが見られることが特徴。2020年は多くの祭りが中止となったが、夏祭りをテーマとしたオンラインツアーもある。
● 修学旅行、社員旅行等の団体旅行の受け入れ、海外客の受け入れ等、オンラインツアーのバリエーションは広がりを見せている。
● タビナカ体験の予約サービスを提供している各社では、2020年2月頃からオンラインツアーの販売も手掛けるようになった。
● オンラインツアーの可能性として、
(1)オンラインならではの価値提供、
(2)新たなカスタマージャーニーの創出、
(3)市場拡大の可能性、
(4)観光地と観光客の結びつきの強化、
の4点が考えられる(図2)。

 

【発表4】コロナ19と韓国の観光政策の対応
Choi,Kyeong Eun 研究委員(KCTI)

● 2020年1〜7月に韓国を訪れた外国人観光客数は対前年同期比約78%減の約220万人、韓国人による海外旅行客数は同約78%減の約390万人となった。主要な観光地点24カ所の訪問客数は、同約48.2%減の約1409万人となった。テーマ公園・文化施設等に比べて国立公園や休養林の訪問客数は小幅減少にとどまり、大規模な観光地に比べて小規模な観光地の訪問客数も小幅減少にとどまった。
● 韓国政府は、観光産業に対する支援策として、まず、金融支援、雇用支援、税制支援、補償支援、経営支援等の直接的支援を行った。次いで、観光における内需拡大対策を打ち出し、第1段階として感染拡大防止対策の徹底による安全な旅行の拡大、第2段階として旅行商品の割引、休暇の活性化等による国内旅行需要の促進、商品開発や特別キャンペーン等の観光サービスの強化、第3段階として新たな日常に対応する観光戦略の樹立、を掲げている。
● コロナ禍により、旅行が危険なものとして認識される恐れがあるものの、ビジネスモデルを考え直す機会であると前向きに捉えることが重要。新型コロナウイルスへの対応には、中長期的に体系的な戦略が必要であり、単にコロナ前に戻すだけにとどまらず、コロナ禍を経て新しい観光への発展を図ることが重要。キーワードは、「安全」「イノベーション」「持続可能性」。
● ① 外部要因に脆弱な観光産業の危機管理対応能力の向上、② 新型コロナウイルスが観光形態および消費に及ぼす中長期的な影響への戦略的な対応、③ 持続可能で正常な観光産業生態系構築のための関連テーマ間ネットワークと協力基盤の構築の強化により、観光産業界の競争力を強化することが必要。
● 政府には、スタートアップ育成とスケールアップ、観光産業間の協業ネットワーク強化、観光人材育成、技術力・イノベーション力強化に対する支援が求められる。民間には、安全管理の強化、技術革新の受容、多様な観光商品の開発が求められる。そのためには、情報共有の促進等の課題が挙げられる。

ディスカッション

Cho(KCTI)…コロナ禍における日本人の国内旅行と同様の傾向は、日本人の海外旅行についても見られるか。
五木田(JTBF)…2020年1〜3月の海外旅行の取りやめ率をみると、日本国内旅行に先行して海外旅行の取りやめが増加していた。この他の設問については、今年は4月以降の出国が大幅に制限されていることもあり、調査はしたものの分析対象としてデータを扱うことは難しい状況。
Cho(KCTI)…感染者数が拡大する中、日本政府は7月にGoToトラベルキャンペーンを開始した。韓国でも同様の事業を予定していたが、感染拡大により一時中断され10月に再開となっている。日本では、感染拡大防止と観光促進の両面においてGoToトラベルキャンペーンに対してどのような評価がされているか。
末永会長(JTBF)…新型コロナウイルスに対する政策は、各国で最優先する事項が異なっている。韓国の場合、感染拡大の封じ込めを最優先してきた印象がある。日本は、封じ込めを最優先する局面から、5〜6月頃を境に、「新しい生活様式」の実践を前提として感染拡大防止と経済活動の両立を実現するという考え方へ移行した。
観光は非常に多くの産業に関連しており、経済に与える影響が大きいという理由で、7月からGoToトラベルキャンペーンが始まった。時期尚早ではないかという意見もあったが、9〜10月に関しては、GoToトラベルキャンペーン効果で、観光地は昨年同期並みまで観光客が戻りつつあるという状況。
その評価についてはもちろん賛否ある。観光産業側からは歓迎の声があがる一方、観光客が訪れることで不安を感じている住民も多い。どのような政策を実施したとしても、100%賛同を得ることは難しいだろう。
日本でも再び新規感染者が増えつつあり、一部地域については、GoToトラベルキャンペーンの対象から除外すべきではないかという意見も出ている。状況を注視し、柔軟に判断するより他ないだろうと考えている。
Kim院長(KCTI)…日本政府は、観光関連企業の雇用維持や資金調達等に関して、どのような政策を実施しているか。
中野(JTBF)…日本では、観光産業に特化した直接的な資金援助政策は取られていない。他産業と同じく、雇用補助金、休業補償、緊急融資策、臨時交付金等の形で支援を行っている。観光に対する支援策としては、需要喚起を目的としたGoToトラベルキャンペーンや、各都道府県が独自に実施している住民向け観光キャンペーンがある。
Kim院長(KCTI)…KCTIとJTBFの共同調査として自国民に対する旅行者調査を行い、両国の比較研究を行ってはどうか。日韓の国民が旅行に対して求めるものを明らかにし、共有することで、両国間の交流がさらに活発になることを期待したい。
五木田(JTBF)…日本と韓国の比較は興味深い。ぜひ共同調査の実施を検討したい。
末永会長(JTBF)…新型コロナウイルスがもたらす影響は世界規模に及んでおり、国を超えた共同調査は非常に意義深い。
Kim院長(KCTI)…韓国政府でも様々な観光政策を実施しているが、その結果に対する議論は十分行われていない。日韓両国の新型コロナウイルス関連の観光政策について評価を行い、その結果を互いに共有することで、今後の建設的な議論に活かしていきたい。
末永会長(JTBF)…今回の新型コロナウイルスが収束した後も、新たな感染症が発生する可能性は十分にある。GoToトラベルキャンペーンを含め、今回の観光政策に関する効果検証を行い共有することは、将来的なリスクに備えることにもなるだろう。
Kim院長(KCTI)…観光政策立案において難しいのは地域住民の所得増大の実現。オンラインツアーの場合、地域住民に対する経済効果はみられるか。また、オンラインツアーがリアルツアーに展開した際、経済効果の増大の可能性はあるか。
中野(JTBF)…従来リアル体験の提供を収入源としていた方たちは、コロナ禍において収入源が絶たれることになった。こうした事業者に対して、収入維持のための取り組みのひとつとして、オンラインツアーが始まったという経緯がある。
オンラインツアーのなかには、地元農家や漁師、飲食店、地場産業者等と連携してオンラインツアーを実施しているケースもある。こうしたケースでは、ツアー事業者だけでなく地域事業者・生産者にも経済効果がある。とはいえ現段階では取り組みが始まったばかりということもあり、経済効果よりも、地域外の人とのリアルなつながりが絶たれている中で、オンラインでつながることでモチベーションを維持するといった効果を重視しているものと思われる。
韓国では感染拡大を効果的に抑え込んでいるように思えるが、その韓国においても、消費者の行動変化や心理的な変化が生じていると思う。その変化をモニタリングしていくことが重要だと思うが、変化を捉えるために適切な指標はあるか。
Jeong(KCTI)…国連世界観光機関(UNWTO)は、国際観光の回復は2021年第3四半期に及ぶと見込んでいる。韓国国内では、より長期的に備える必要があるというレベルから、withコロナ、ニューノーマルを前提とした検討が重要という意見が主流になっている。
現在、観光産業における調査指標の選択は難しい状況。地域経済の動向を捉えるため、代替指標ではあるがクレジットカード利用額をモニタリング指標とし、業種の変化等に注目している。また、主要観光地の観光客数の変化にも注目している。
五木田(JTBF)…前年と比較して消費額が減っているということだが、利用人数減少の影響だけでなく、1人1回当たりの消費額も減っているのか。
Song(KCTI)…正確な数値は把握できていないが、全体額の減少に伴い、1人1回当たりの利用額も減少していると推測される。
五木田(JTBF)…日本では、たとえば、同じ宿泊業の中で小規模旅館のシェアが増加するという変化が起きている。韓国でも同様に同業種のなかでシェアの変化が生じているのか、あるいは業種全体の規模が縮小しているのか。
Song(KCTI)…韓国でも日本と同じく、同業種の中でのシェアの変化が見られる。宿泊業についていえば、外国人観光客が主に利用する特級ホテルの利用額が減少している。
Kim院長(KCTI)…コロナ禍においてもクレジットカードの支出額がそれほど減らなかったのがゴルフ旅行。また、最近は非接触の旅行が好まれる傾向があり、キャンピング関連の支出増がみられた。感染拡大がそれほど見られていなかった初期段階では、レンタカーの支出額も増加がみられたが、接触を伴う公共交通機関の利用を避けた出張需要だと推測している。
韓国国民による海外ハイブランドの支出額も増加していた。これは、行き場をなくした海外旅行需要が振り向けられたものだと考えられる。

 

おわりに

オンラインではありましたが、同時刻に海を越えて同じ課題意識を共有し、議論と連帯を深めることができました。
11月17日には、第5期目となる研究協力に関する覚書(Memorandum of Understanding on Research Cooperation、MOU)を締結しました。共同調査の実施など、ますます研究協力体制を強めていきたいと思います。