④ コロナ禍下の国内旅行市場の動向とオピニオンリーダー層の旅行意向
塩谷英生(理事・観光経済研究部長)

当財団では、2019年から2020年にかけての国内宿泊観光旅行市場の変化と旅行市場において重要な位置を占めるオピニオンリーダー層の2021年以降の旅行動向を把握するため、2020年12月下旬に「国内旅行市場におけるオピニオンリーダー層の意向調査」を実施した。この調査は、旅行頻度の低い人も含めた全国約4万人を対象とする一次調査と、一次調査から抽出した旅行好き層1412人(うちオピニオンリーダー層761人)を対象とした二次調査から構成されている(「調査方法」を参照)。
ここでは、一次調査結果から、1)旅行頻度別にみたパンデミックへの態度と旅行市場への影響について、二次調査の結果から、2)オピニオンリーダー層の今後の旅行意向と、コロナ以降に登場した新たな旅行スタイルへの評価、について紹介することとしたい。

1.旅行頻度別にみたパンデミックへの態度と旅行市場への影響

① GoToトラベルキャンペーンの効果と2021年の旅行意向

一次調査結果によれば、2019年(暦年)の観光を目的とする宿泊旅行回数は回答者平均で1.69回であったが、2020年(12月末の出発予定を含む)は1.13回と前年比で66.5%の水準へと減少している(カテゴリー中央値による加重平均で算出)。


しかし、「もしGoToトラベルキャンペーンが無かったなら」という設問では2020年の平均旅行回数は0.79回まで低下した。これは2019年の46.5%と半分以下の水準となる。なお、一次調査におけるGoToトラベルキャンペーンの利用回数は平均0.64回であり、このうち0.34回分(52.5%)がキャンペーンによって押し上げられた〝真水〞の効果と考えられる。
2021年の宿泊観光旅行を「何回すると思うか」との問いには、平均で1.55回(2019年の91.7%、2020年の137.9%)との回答があり、2019年が令和改元の連休効果もあり高水準であったことを考え合わせれば、今年の旅行意欲は決して低くないと言える。但し、回答者の26.3%が「わからない」と答えていることからも、パンデミックの収束状況やGoToトラベルキャンペーン等の施策如何では厳しい局面が続く可能性もある。

② 旅行頻度別にみた旅行動向

回答者の年間旅行回数の分布をみると、2020年は54.9%の人が旅行を実施しておらず、19年の39.9%よりも大幅に増加している。一方で、年間「4回以上」の人が7.9%と2019年の13.1%から減少している。
また、延旅行回数ベースの市場シェア(例えば年間3回の人は延べ3回として計算)をみると、2020年では年間「4回以上」が市場全体の46.6%のシェアを占めているが、2019年の51.0%に比べると減少している。しかし、2021年の予定では、「4回以上」のシェアは回答者数ベースで11.3%へ、延旅行回数ベースで48.1%へと回復するという回答結果になっている。


 

③ 旅行頻度別にみたコロナ禍下の旅行への態度

コロナ禍の下での旅行に関する10の考え方を示し、「そう思う」「ややそう思う」「どちらとも言えない」「あまりそう思わない」「そう思わない」の5段階で答えてもらった。
「そう思う」「ややそう思う」の合計を回答者全体でみると、「収束するまで外国人の入国を制限すべき」86.0%、「旅行者の地域への受入れには慎重であるべき」75.2%、「収束するまで国内旅行は控えるべき」71.5%の順で多くなっている。なお、このような旅行に対するネガティブな意見が回答者の大勢を占めた要因の一つには、この調査がGoToトラベルキャンペーンの中止が決まって間もない時期に行われたことを考慮する必要があると思われる。
旅行頻度別の回答傾向にはかなり違いがある。旅行頻度が高い人ほど、「国内旅行は控えるべき」との回答は減り、「ウイルス対策で景気が悪化することは避けるべき」「安全対策を十分にすれば旅行をしても良い」といった意見が増える傾向がある。一方、「収束するまで外国人の入国を制限すべき」「これまでは外国人観光客が多過ぎたと思う」などでは、旅行頻度による差が少なくなっている。

 

④ 旅行頻度別にみた今後の旅行への志向

今後の宿泊観光旅行への考え方について16の選択肢の中から自身の考えに当てはまるものを選んでもらった。
回答者全体では、「観光客が少ないオフシーズンに旅行をしたい」、「近場への旅行を増やしたい」、「観光客が密集しない観光地に行きたい」、「自家用車による旅行を増やしたい」の順で回答率が高く、新型コロナウイルスの感染予防を重視する回答結果となっている。
市場のコア層である「4回以上」は、高頻度で旅行をしている層であり、回答率が全般に高い。中でも、「GOTOトラベルキャンペーンが終わる前にできるだけ多く旅行したい」が42.6%、「海外旅行に行けなくなった分、国内旅行を増やしたい」が31.6%と全体に比べて目立って高くなっている。日本人の海外旅行消費額は2019年で4.8兆円に上るが(「旅行・観光産業の経済効果に関する調査研究」観光庁)、海外旅行に回る予定だった消費額の一部が国内旅行へ還流していることがわかる。

 

2.オピニオンリーダー層の今後の旅行意向と新たな旅行スタイルへの評価

一次調査から抽出した旅行好き層1412人の中から、旅行頻度、旅行情報の収集力及び発信力が高い層を関連する設問に照らして761人抽出し、これをオピニオンリーダー層として集計した。以下では、オピニオンリーダー層の回答結果の一部を紹介することとしたい。

① オピニオンリーダー層の旅行意向の変化

旅行で重視することとして20の選択肢を用意し、「コロナウイルス発生以前に重視していたこと」と「今後重視していきたいこと」の別にオピニオンリーダー層に聞いた。
今後重視したいこととしては、「気分転換、リフレッシュすること」「休養、リラックスすること」「美味しいものを食べること」「同行者と一緒に楽しむこと」の順で高く、これらはコロナ以前においても同様の順位となっている。
コロナ以降に順位を落とした項目は、「日常の人間関係から開放されること」「美しいものなどに触れて感動すること」などである。前者については、テレワークの普及なども関連している可能性がある。この他、「旅行先の人々とのふれあい」「旅行先の友人・知人に会いにいくこと」も減少が目立っている。


次に、旅行計画の立て方に関する10の選択肢について、コロナ以前の傾向と今後の傾向に分けて当てはまるものを答えてもらった(ある程度対照的となる選択肢を幾つか組み合わせて聞いている)。
コロナ以前に比べて減少が目立つ選択肢は、「観光に便利であれば宿泊施設にはこだわらない」「旅行計画では、先ず旅行先を決め、その後で宿を決める」である。感染リスクを抑えるため、周遊型から宿泊施設での滞在を重視する傾向が強まっている。

 

② オピニオンリーダー層の新興マーケットへの評価

コロナ以降に注目された旅行形態を幾つか挙げて、今後の市場拡大の可能性について聞いた。
拡大が見込まれる新しい旅行形態を「大きく拡大」と「少し拡大」の合計値でみると、「ステイケーション(近場の宿泊施設で滞在を楽しむこと)」65.7%、「ワーケーション(テレワークを活用し、観光地で余暇を楽しみつつ仕事を行うこと)」
61.5%、「二地域居住(都市部と地方部それぞれに生活拠点を持つ暮らし方)」51.9%、「ブレジャー(出張先等で滞在を延長するなどして余暇も楽しむこと)」49.8%の順で高くなっている。


次に、今後利用してみたい宿泊施設のタイプについて13の選択肢から選んでもらった。選択肢の中には、新しい形態の宿泊施設を幾つか含めてある。
回答結果は、「高級温泉旅館」「レトロな雰囲気のホテル・旅館」「施設やアクティビティの充実したリゾートホテル」「外資系や有名ブランドによる高級ホテル」「一棟貸しの宿泊施設」の順となっており、比較的高級な施設タイプが上位を占めた。その中にあって、新形態の宿泊施設の利用希望も、「グランピング」29.7%、「まち全体を宿に見立てた分散型ホテル」20.6%、「城泊」15.6%、「寺泊」13.5%などが一定の人気を集めている。

 

③ 市場拡大に今後必要と考える施策

今後の旅行市場の拡大のために必要性が高いと思う施策を、16の選択肢から選んでもらった。結果は、「休暇制度の充実や年休取得率の向上」46.8%、「高速道路割引率の拡大」46.0%、「LCC路線の充実」36.4%の順で、休暇の充実と高速交通の費用抑制に関する施策が上位となった。4位に「独自の世界観のある観光地の増加」30.1%、5位に「地方ローカル線の維持と魅力向上」28.6%が続いており、地域の魅力向上にも期待が寄せられている。