新刊案内
旅の図書館 蔵書から

『林苑計画書』から読み解く
明治神宮一〇〇年の森

明治神宮とランドスケープ研究会 著
上田裕文・水内佑輔・寺田徹・高橋靖一郎 編

B5判128ページ本体1200円+税
東京都公園協会2020年11月発行

 明治神宮は1920年に創建され2020年に100年を迎えた神社です。明治神宮といえば、森というイメージが定着していますが、このイメージと裏腹に、豊かな森のある場所に神社が作られたのではなく、神社のある場所に森が作られたという歴史があります。しかも全国各地からの約10万本の献木により森が作られています。これらのエピソードだけでも興味を覚えますが、それだけでなく林学者や造園者が結集し、「遷移」という生態系の仕組みを上手く用い、100年先の完成を見据えて「天然林」を「人工的」につくるという前代未聞の森づくりがなされた場所でもあります。この森づくりの計画は、『明治神宮御境内林苑計画』として明治神宮に伝わっています。『林苑計画書』を紐解けば、林苑全体を「天然林」にしようとしたわけではなく、参拝者の視線を意識した風景づくりや、当時最先端の技術を用いた芝生広場や、近代庭園など様々な仕掛けが施されていることがわかります。
 本書は、造園学・ランドスケープの12名の専門家が『林苑計画書』を読み解き、森の見どころや楽しみ方を、豊富な図版や、地図アプリとの連携によって分かりやすく紹介しています。明治神宮の森を訪れ、その場の歴史や未来を考えるような空間体験のための「森のガイドブック」としてご活用ください。
(文:水内佑輔)

日本旅行文化協会「旅」第1巻
公益財団法人日本交通公社旅の図書館 総監修

荒山正彦監修
A5判 528ページ本体22500円+税
ゆまに書房、2020年10月発行

 『旅』は、鉄道省の外郭団体として設立された日本旅行文化協会(後に日本旅行協会へ改称、当財団の前身であるジャパン・ツーリスト・ビューローと合併)によって、1924(大正13)年に創刊され、平成の時代まで長きにわたり刊行され続けた旅行雑誌である。ジャパン・ツーリスト・ビューローの機関雑誌『ツーリスト』とともに、『旅』は旅の図書館自慢のデジタルコレクションの一つでもある。
 このたび、ゆまに書房より、『旅』の創刊号から戦時下で発刊停止となった1943(昭和18)年まで全61巻(+別巻1)の復刻がはじまり、1924(大正13)年4月〜1925(大正14)年8月までの全4巻が刊行された。復刻版の監修・解説はわが国の旅行案内書の第一人者である関西学院大学の荒山正彦氏で、デジタルデータを提供している旅の図書館が総監修を行っている。
 大正末期に国内の旅行熱の高まりとともに誕生した『旅』の各号には、作家・評論家らの紀行文や随筆、観光地案内、観光事業を牽引した人たちの論説などが掲載され、大正〜昭和戦前期のわが国の社会と日本人の旅行・観光の姿が映し出された貴重な資料である。
(文:大隅一志)

※旅の図書館では、創刊から終刊まですべての『旅』の記事がデジタルコレクションとしてご覧いただくことができる。