ガイドという仕事…➓沖縄・国頭郡東村
ガイド業を、子どもたちの憧れの職業にしたい

島袋裕也(有限会社やんばる自然塾代表取締役社長)

 沖縄県の北部、東村で育ちました。建築関係の学校を経て設計事務所に就職したのですが、家の仕事を手伝う感覚で、父が代表を務める「やんばる自然塾」のガイドをしたことがきっかけとなり、今に至ります。この間、地域で生まれ育った人間が、地域のことを語ることの重要性をお客様から気づかされ、教わりました。
 やんばる自然塾は1999年の設立で、現在は私が社長を務めています。他にNPO法人東村観光推進協議会の理事とエコツーリズム部会長、慶佐次区代議委員を担当しています。エコツーリズム部会では東村ガイド条例を1年かけて作り上げ、今は行政と地域事業者とのあいだで調整しているところです。その他の活動もあわせて、活発な部会運営に奮闘中です。
 そもそも当社は、地域活性化をめざしてスタートした会社です。東村の慶佐次という集落での仕事は限られており、若い人たちは地元から離れ、過疎化が進む状況でした。その対策を地域の中で考え、カヌーツアーを始めようとしたのですが、そんな遊びみたいなものでどうやって本当にうまくいくのか、計画を立てるまでは、大きな投資はなかったが、実際に計画を進めようとすると、批判もあり地域で運用することが難しい状況でした。そうこう悩んでいるときに、数人の仲間がカヤックの購入を手伝ってくれることになり、個人で事業をスタートすることにしました。

満潮時にしか行けない、カヤックでなければ見えない景色がある

 人数を8人までに制限、満潮時のみ催行する環境に配慮したエコツアーとして『慶佐次川マングローブカヌー体験』(所要時間3時間)を開始しましたが、ツアー参加者どころか、当時はあたりに観光客の姿を見かけることすらありませんでした。
 ところが2、3年目になると県外高校の修学旅行や、県内の各種団体や小学生の体験学習などが少しずつ増えてきました。沖縄観光のスタイルが変化してきたのです。2003年7月に法人となり、体験プログラムは個人向け6コース、修学旅行・グループ向け10コース、合わせて16にまで拡大。こうした取り組みもあって、慶佐次川下流にある東村ふれあいヒルギ公園を訪れ、マングローブを楽しむ観光客は10万人余りになり、慶佐次地区は少しずつ活気にあふれるようになりました。
 今では常勤スタッフは私を含めて7人、非常勤は5人の体制です。
 現在、コロナ前に比べるとお客様の数は1/3以下に減りましたが、環境に対する興味や意識を持った方の割合は高くなったような気がします。少ないのですが、メールや電話で「応援しています」「頑張ってください」という声をもらい、それが励みになっています。
 やんばる自然塾の人気のツアーはマングローブカヤック体験です。満潮時にしか入っていけないところに、このツアーの価値があります。人間の都合ではなく自然に合わせる! 森や海に入る時にはその場所に住む生き物に配慮していきましょう! という具合にお客様にも協力を求めています。マングローブカヤックツアーは強制的に自然に合わせないといけないので、自然に優しいツアーだと言えます。そしてカヤックに乗らないと見えない景色、感じ取れない感覚があり、非日常感が味わえます。
 毎日同じ場所を案内していても、季節、時間帯、天気で変わる環境に対応し、時には自分の考えを話し、時にはお客様の考えに寄り添う。自分の芯を持ち、押し付けではなく、さりげなく共感してもらう。そんな想いで仕事をしています。お客様が何を求めてこの体験をしているのか。癒し、レジャー、学び。それを察知し、それに合わせた案内をするように心がけています。
 家族旅行や修学旅行では、大人の都合や、多数決で参加が決まり、必ずしも自然体験を希望しないのに参加した人が、体験終了後には生き生きした表情で、もっとやりたい! またやりたい! と言ってくれた時に、この仕事のやりがい(面白さ)を感じます。究極はセンスオブワンダーの物語のように、ガイドは何も語らず、参加者が自分で自然を感じ、自然と会話し、感動する。ガイドはそのお手伝い(演出)をする。そんなツアーやんばる自然塾のツアーは自然に優しいツアーができたらいーなー。
 4年前にオーストラリアに研修に行ったことがきっかけで、ガイド業をスポーツ選手やお医者さんのように子供たちの憧れの職業にしたいと強く思うようになりました。現状は地域貢献、自然保護に使命感を持った人、いわゆる「変人」の集まりがガイド業だと感じることもあります。

環境に優しく、安全で感動的な自然体験には、それなりの不便がある

 最近はSDGsやサスティナブルツーリズムという言葉をよく聞くようになりました。しかしガイド業の現実は、少しでも安いところ、インスタ映えするところ、どんなニーズにも応えてくれるところにお客さんが集中。安心安全や環境保全は後回し。それが低価格で、自然環境に配慮の足りないツアーの増加につながっています。自然に優しく、自分に厳しいルールを敷いて頑張っているガイドやガイド会社が、苦しい思いをしたり、立ち行かなくなったりしています。自然環境を守りつつ、安心安全を担保するにはそれなりの不便があるのです。
 東村では、エコツーリズム部会で、月に1回、レスキュー訓練とフィールド清掃を行い、昨年は県事業として外来種駆除作業を10回行いました。その他にも、村の祭りで無料カヤック体験をしたり、慶佐次レンジャーという名でフィールドの安全や自然環境に優しい活用を促す活動をしたり、環境協力金の制度を導入して参加者が支払う体験費の一部を地域や関係団体に寄付する活動を行ったりしています。今後はそれらの活動を促進するような条例を制定し、環境と地域業者を守っていきたいと思っています。
 自然環境やその土地に住む人々に配慮し、地域活動にも積極的に参加する。そして安売りせずに、参加者の心を動かす体験、お客様に感動を提供できる努力を続ける。そうしたことが業界内に広がり、さらに社会全体に自然体験ツアーに対する考え方が波及する。それが安定した収入につながり、若い人の目指す業種になっていけば…そんな風に思ってます。