観光研究最前線…①
新型コロナウイルスが外国人旅行者の海外旅行意向に及ぼす影響と今後の展望2
DBJ・JTBFアジア・欧米豪訪日外国人旅行者の意向調査(第3回新型コロナ影響度特別調査より)

公益財団法人日本交通公社観光政策研究部活性化推進室
主任研究員 柿島あかね

 公益財団法人日本交通公社では、2015年より株式会社日本政策投資銀行(DBJ)と共同で、アジア(韓国、中国、台湾、香港、タイ、シンガポール、マレーシア、インドネシア)、欧米豪(アメリカ、オーストラリア、イギリス、フランス)の12ヶ国・地域を対象に(一部設問についてはインド・ベトナムを含む14ヶ国・地域を対象に調査を実施)、海外旅行の嗜好の変化や訪日経験の有無によるニーズの違いを把握することを目的に、海外旅行経験者を対象としたインターネット調査「DBJ・JTBFアジア・欧米豪訪日外国人旅行者の意向調査」を継続的に実施している。
 2020年以降は、世界的な感染拡大が見られる新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)が外国人旅行者の海外旅行及び訪日旅行の意向に与えた影響を把握すべく、「新型コロナ影響度特別調査」(以下、本調査)として、第1回調査を2020年6月、第2回調査を同12月、第3回調査を2021年10月に実施した。
 本稿では本調査の第3回の調査結果を中心に、新型コロナが外国人旅行者の海外旅行及び訪日旅行の意向に及ぼす影響と今後の展望について考察する。

1.現在の感染リスクに対する不安と今後6か月以内(2022年3月まで)のレジャー実施意向

流行当初からの感染リスクに対する不安感の変化は国・地域によって異なる

 新型コロナの感染リスクに対する不安は、回を重ねるごとに低下しているものの、不安があると回答した人の割合はアジア・欧米豪ともに半数、特にアジアでは7割を超えており、依然として感染不安が強いことが明らかになった(図1)。こうした不安感の払しょくに作用するであろうワクチン接種状況と感染リスクへの不安の関係性(図2)からも、ワクチン接種率に関係なく、アジアの国・地域の感染不安が強い傾向が見てとれる。

 また、図3は、グラフの横軸が現在(第3回調査)の感染不安、縦軸が第1回調査(2020年6月)から第3回調査(2021年10月)までの1年半の不安度の変化をポイント数で示している。いずれの国・地域においても不安度はマイナスとなっているが、タイでは不安度の変化がマイナス2.7ポイントに留まっており、最も変化が小さい。また、現在の不安感も高いことから、1年半の間、高い感染不安が続いている。一方、フランス、香港、韓国では、不安感がマイナス20ポイント以上となっており、感染不安が弱まっていることが明らかになった。背景には長引くコロナ禍によるコロナ慣れや、第1回調査時点では普及していなかったワクチンや抗ウイルス薬の開発が不安感の低下に影響している可能性もあるだろう。しかし、調査結果が示すように、ワクチンが普及しても依然としてアジアの国・地域を中心に不安感は強い。

 未だ感染不安が一定程度存在している状況において、今後6か月以内(2022年3月まで)に実施するであろうレジャーは図4の通りである。アジア、欧米豪ともに、調査回を追うごとにレジャーの実施意向が高まっている。また、近場のレジャーから回復する傾向は第1回、第2回調査と同様である。海外旅行についてもこの傾向は同様で、飛行機の搭乗時間が短い順(5時間未満、5時間以上〜9時間未満、9時間以上)に実施意向が高い。

2.新型コロナ収束後の海外旅行

根強い日本人気を再確認

 新型コロナ収束後の海外旅行の実施意向は、アジア・欧米豪ともに8割以上と高く、さらに、調査回を追うごとに高くなっている。特に欧米豪では海外旅行をしたいと「思う」人の割合が増えており、前項のレジャー同様、長引くコロナ禍において、海外旅行マインドが上向いていることを示している(図5)。

 海外旅行の検討を再開するタイミング(図6)は、アジア・欧米豪ともに「渡航希望先の安全宣言後」の選択率が最も高く、第2回調査で最も選択率が高かった「抗ウイルス薬の開発など、新型コロナの脅威が消滅してから」が3位に転じている。こうした背景には、第3回調査時点では、世界中でワクチン接種の普及、抗ウイルス薬の開発・供給が行われており、回答者が感染に対してはワクチンの一定の効果を実感していると同時に、次々と変異株が登場し、世界各地でブレイクスルー感染が報告される等、未だ感染収束には予断を許さない状況となっており、回答者は、ワクチンや抗ウイルス薬が絶対的なゲームチェンジャーではないと認識していることが影響しているものと推察される。

 なお、新型コロナ収束後に海外旅行をしたいと「思わない」理由(図7)では、「新型コロナによる旅行のキャンセルリスクを背負いたくないから」の選択率が最も高く、こちらも第2回調査で最も選択率の高かった「旅行先での衛生面での配慮や、清潔・安全に不安があるから」は、3位に転じており、海外旅行を「再開する」理由と海外旅行をしたいと「思わない」理由の両者とも、順位に変動があった点は注目すべきポイントである。

 次に海外旅行したい国・地域については、過去の調査と同様、日本の選択率がアジア、欧米豪で1位となった。特にアジアにおいては2位の韓国を20ポイント以上引き離しており(図8)、根強い日本の人気が確認された。

3.新型コロナ収束後の訪日旅行

コロナ禍を経て、次の訪日旅行では嗜好の変化も

 新型コロナの流行収束後、観光のために日本を訪れたい人を対象にその理由を尋ねたところ(図9)、「以前も旅行したことがあり、気に入ったから」(88%)、「行きたい観光地や観光施設があるから」(84%)、「清潔だから」(83%)、「食事が美味しいから」(83%)、「治安が良いから」(79%)と続く。観光的な魅力のみならず、清潔さや治安といった受入環境の良さも評価されている。特に、「清潔さ」は新型コロナ流行以前よりも多くの消費者が重視するポイントであり、海外旅行の回復期においてはアドバンテージとなるだろう。

 また、コロナ禍を経て、調査回を追うごとに訪日旅行の嗜好が少しずつ変化している点がある。その1つが旅行形態である。新型コロナ流行以前の2019年まで、FIT(Foreign Independent Tour/Traveler=個人手配の海外旅行)は増加傾向にあったが、新型コロナ流行収束後の海外旅行では、旅行会社の利用意向が高まっており(図10)、従来FITの割合が高かった欧米豪でも同様の傾向を示している。また、旅行会社の商品別内訳では、「セミパッケージツアー」や「テーラーメイドツアー」の割合が高い。自由度や利便性に加え、海外旅行市場の回復期における「感染」や「経済」に対する不安やリスクを最小限に留めたいという消費者の嗜好が影響しているものと推察される。実際に韓国の旅行会社では、旅行前のサービスとして保険加入、高性能マスクの配布、海外旅行を実施するにあたっての相談、旅行後には、保険請求、万が一の新型コロナ感染の際の病院紹介等のサービスが付いた商品が販売されている。

 また、日本旅行で体験したいことについても新型コロナ流行前後で違いが見られる。図11は、グラフの横軸が現在(第3回調査)の各活動の実施希望率、縦軸がコロナ流行以前の2019年調査(2019年6〜7月)から第3回調査(2021年10月)までの実施希望率の変化をポイント数で示している。この結果から、コロナ流行前から実施希望率が最も上昇したのは、「アウトドアアクティビティ」(プラス13.1ポイント)となっており、屋外での活動への実施意向が高まっている。一方で、「温泉への入浴」(マイナス7.4ポイント)、「繁華街の街歩き」(マイナス4.7ポイント)等、密になりやすいと思われる空間での活動は実施希望率が低下した。

4.コロナ禍で注目されたレジャー

オンラインツアーはリアルな旅行の需要開拓等の他に新たなニーズに対応するコンテンツとしても注目

 海外旅行や遠方への旅行が困難な状況において、新たに登場した、もしくは、注目度が高まったレジャー需要の実施意向からも、アウトドア志向の高まりを確認することができる。本調査では、図12に示す13のレジャーの実施経験と実施意向を尋ねている。図12はグラフの横軸を実施経験、縦軸を実施意向としている。アジア、欧米豪とも大きな傾向は変わらず、アウトドアアクティビティやドライブの選択率が高いことから、3密回避、小規模で実施できるレジャーの実施経験、実施意向が高い結果となった。

 コロナ禍で注目されたレジャーの中でも、特に注目されたのがオンラインツアーである。本調査では、オンラインツアー参加経験者(N=1002)にオンラインツアーに参加した理由(図13)を尋ねたところ、「対象地域に興味があったから」(51%)、「旅行の下調べをしたいから」(48%)等、リアルな旅行に代わる手段としての期待が伺える一方で、「自分の体調等により旅行に行けないから」との回答が25%を占めることや、参加してよかった点(図14)について、「入場(入域)が難しいエリアを見学できたこと」(25%)や「自分の体調等により、実施が困難な旅行を体験できたこと」(16%)の一定程度の選択率が確認される等、消費者がオンラインツアーならではの需要を見出していることがうかがえる。また、アジア、欧米豪ともに、オンラインツアーの参加経験者の7割以上が新型コロナ収束後も「オンラインツアーを利用したい」と回答している。調査結果から、オンラインツアーは海外旅行が再開されるまでの需要維持や、再開されてからの需要開拓といった部分以外にも、新たなニーズに対応するコンテンツとして、新型コロナ収束後も一層の活用が期待される。

5.コロナ禍で注目された旅行に関係する価値観

(1)旅行先でのサステナブルな取組

 コロナ禍においては、消費者の「サステナブル」な意識が高まっており、旅行においても例外ではない。背景には、新型コロナの流行により、個人の一つ一つの行動が社会に影響を及ぼすことを実感する機会となり、地球環境や社会問題を他人事ではなく、自分事と捉える価値観が広がったこともあるだろう。そこで本調査では、旅行先でのサステナブルな取組について尋ねた。なお、旅行先でのサステナブルな取組に対する考え方については、先行研究や調査から、世代別の価値観を反映しやすいことを踏まえ、世代別(4区分)に分析を行った。
 調査の結果、海外旅行の訪問先や宿泊施設を選択する際、Z世代やミレニアル世代の若年層ではサステナブルな取組を重視すると回答した割合が高く、欧米豪でその傾向が顕著である(図15)。

 サステナブルな取組を重視すると回答した人を対象に、サステナブルな取組を重視する理由を尋ねたところ、「環境保全への配慮」はアジア、欧米豪ともに高年層ほど選択率が高い。また、欧米豪の高年層ほど「伝統文化の保護継承への貢献」、「地域の魅力や交流」、「地域経済活性化への貢献」等、コミュニティ貢献に関する項目の選択率が高い。若年層では、「補助割引制度が受けられるから」の選択率がアジア・欧米豪で高年層よりも高く、自己の利益に直結することが取組重視の理由となっている(図16)。

 旅行先で実施したいサステナブルな取組では、欧米豪においてはほとんどの項目で高年層ほど選択率が高い。唯一、若年層の選択率が高いのが「地域エコポイント等の取得・利用」である(図17)。

 また、サステナブルな取組による宿泊単価の値上げを「よいと思う」と回答した割合は、アジア、欧米豪ともに高年層より、若年層の方が高い傾向を示している(図18)。

 以上の調査結果から、欧米豪の若年層ではサステナブルな取組を重視すると回答した人の割合は高いものの、旅行先で実施したい取組の多くは高年層の選択率が高く、一見矛盾が生じているようにも見える。こうした背景には、若年層の意識の高さは、特に欧米豪各国で熱心な環境教育に依るものである一方、高年層の取組実施率の高さは、社会貢献への意識の高さや経済的余裕が行動に結びついているものと推察している。しかしながら、現段階では推察の域を出ず、今後の研究課題としたい。

(2)ワーケーション

 コロナ禍では、職場から離れた観光地等で仕事をしながら休暇を楽しむ「ワーケーション」が急速に浸透した。「ワーケーション」という言葉自体はアメリカで2000年代に誕生していたが、日本では、コロナ禍で感染リスクを避けるため、働く時間や場所の制約を受けないテレワークが拡大し注目されたことから、本調査では、ワーケーションについても尋ねている。なお、旅行先でのサステナブルな取組と同様、ワーケーションについても世代別の価値観を反映しやすいことを踏まえ、一部、世代別で分析している。
 休暇中の旅行先で仕事をすること=「ワーケーション」に対する考え方については、「休暇の旅行中でも、必要があれば書類作成やオンラインでの会議出席などをしても構わない」と回答した人の割合はアジア、欧米豪ともに各世代で約1割程度と大きな違いは見られない。一方、「休暇の旅行中は完全に仕事はしたくない」と回答した人の割合は、欧米豪で高年層ほど高くなる傾向が見られた(図19)。背景には、欧米豪、特に欧州の場合は、休暇を2週間程度取得し、1年前から旅行を計画する等、しっかり休暇を楽しむ文化が定着しており、オンとオフの境界線が曖昧なワーケーションという概念に高年層ほど抵抗があるのかもしれない。

 休暇中の旅行先で仕事をすることに対する考え方別に、「過去1年間に、出張業務以外で仕事を実施したことがある場所」(図20)や「旅行先で仕事をするうえで、地域にほしい設備」(図21)について尋ねたところ、業務をする意志を強く示している「休暇の旅行中でも、必要があれば書類作成やオンラインでの会議出席などをしても構わない」層では各項目ともに選択率が高い。旅行先で処理したいと考えている業務量によって、業務場所や設備ニーズは異なることが明らかになった。今後、ワーケーション需要を受け入れる地域や事業者においては、どのようなタイプのワーケーション希望者を受け入れるかを検討した上で、受入整備を行うことが望ましいだろう。

6.今後に向けて

 今回の調査から、海外との往来が困難な状況においても、海外旅行先として、日本は高い人気を維持していることが確認された。一方で、感染リスクを避けながら楽しむことができるレジャーに消費者の関心がシフトしてきていることや、「サステナブル」や「ワーケーション」といった新たな価値観が浸透する等、消費者の意識が少しずつ変化していることも明らかになった。こうした調査結果から、日本の自然を活かしたアウトドアアクティビティの充実や、地域の歴史・文化等と組み合わせたストーリー性のあるサステナブルな取組を伝えていく等、日本の魅力を発信する際は、消費者の意識変化も踏まえた対応が必要となるだろう。
 インバウンド市場の本格的な回復にあたっては長期化の様相を呈しているが、当財団では引き続き、外国人旅行者の海外旅行・訪日旅行に対する意向、行動を調査し、政策・事業立案に有用なデータを発信していきたい。
(かきしま・あかね)

第1回調査の結果詳細
https://www.jtb.or.jp/research/theme/inbound/asiaeuro-survey-2020/
第2回調査の結果詳細
https://www.jtb.or.jp/research/asiaeuro-survey-2021-covid19-2/
第3回調査の結果詳細
https://www.jtb.or.jp/research/asiaeuro-survey-2022-covid19-3/


オンラインツアー:観光地を実際に訪れなくても自宅にいながらオンラインで現地の案内を受ける旅行
バーチャル旅行:バーチャルリアリティ(VR)技術を駆使した旅行
アウトドアアクティビティ:カヌー、ラフティング、乗馬等、自然の中で楽しむスポーツ・体験活動
ワーケーション:テレワークの活用等により、リゾート地や地方等の普段の職場と異なる場所で仕事もしながら休暇取得等も行う旅行
ブリージャー:業務での出張の際に旅行日数を延長して、業務の前後で休暇を楽しむ旅行
ステイケーション:近場のホテルでの滞在
マイクロツーリズム:自宅から片道2時間圏内の地元または近隣地域を訪れる宿泊旅行や日帰り旅行
ワクチンツーリズム:ワクチン接種を目的とした旅行
グランピング:あらかじめキャンプ用品や食材・食事が用意されている高級な施設でキャンプの雰囲気を味わう活動
キャンプ:グランピング以外のキャンプ
民泊:1軒を借り切っての宿泊
航空機で自国周辺を飛行する旅行:飛行機で自国周辺を旋回し、どこにも着陸せず、出発地に戻る遊覧飛行