活動報告第24回「たびとしょCafe」
「ビジョンを共有するためのデザイン」を開催

 2022年2月18日(金)、「ビジョンを共有するためのデザイン」をテーマに、第24回たびとしょCafeを開催しました。ゲストスピーカーには、パラボラ舎のたなか みのる氏をお招きしました。
 住み心地のよいまちづくりや、訪れたくなる観光地づくりにおいて、デザインの持つ力は非常に強力です。
 近年、各地で作られている観光パンフレットや地域情報誌(いわゆる〝ミニコミ誌〞)には、デザイン性の高いものが多くみられ、そのメッセージ性豊かで洗練されたビジュアルがきっかけとなり、新たな土地を知ったり、実際に訪れたりしたことのある人も少なくないでしょう。さらに、こうした各種メディアのデザインだけでなく、まちづくりや観光地づくりの過程そのものにおいても、デザインはその力を発揮します。
 今回は、大分県を拠点に、様々な地域のプロジェクトにデザイン力を活かして取り組まれている たなか みのる氏をお招きし、デザインの視点からまちづくりや観光事業について考えました。

【第1部】話題提供

地域づくりに関わるようになったきっかけ

●大阪府に住んでいた頃、町の印刷屋さんが地域のミニコミ誌を自社出版するにあたり、取材・編集・デザインの全てに携わることになった。地域住民への取材を通して、何もないと思っていたところにもたくさんのものがあることに気づかされた。
●「マチオモイ帖」もきっかけのひとつ。初めは一出展者として参加し、2013年と2017年には大分県で自ら巡回展を企画して開催した。「マチオモイ帖」はその町にまつわるプライベートな内容や個人的な思い出を詰め込んだ1冊で、東日本大震災をきっかけに一人のクリエイターの地元の島への個人的な思いを綴った冊子がきっかけで始まったプロジェクト。自身が制作したのが「津久見セメントまち帖」。祖母が住んでおり子どもの頃の記憶に強く残っていたこと、セメント町という嘘のような町名が実在することが面白いと思ったことがきっかけ。若い頃はかっこよくしたり、きれいにしたりするのがデザインだと考えていたが、この「マチオモイ帖」の制作を通して、その場所の魅力を伝えるためには、かっこよさや美しさだけが正解ではないことに気付いた。
●大分市の市街地では、多くの地方都市と同様に、1階のテナント部分の賃料が高いことで借り手が付かず、空きテナントになっていた。若者に使ってもらいたいとの不動産会社の厚意で、人工芝や照明の設置などの改装を加えて、自由に活用できる広場をつくるプロジェクトを始めた。これも地域と関わり始めたきっかけの一つ。

具体的な取り組み

コミュニケーションを誘発する「道具」をつくる

●取材・編集・デザインをほぼ一人で担当した大分市府内5番街商店街の『Go( )gai』というフリーペーパーは、地域の人に商店街を知ってもらうだけでなく、昔と違って交流が少なくなっている商店街の店同士が連携するきっかけとなることを目的とした。朝すれ違う隣の店の人が載っていると、そのことをきっかけに会話やコミュニケーションが生まれるよう業種ごとに特集を組み、プロのモデルではなく商店街のお店の方に紙面を飾ってもらった。
●愛知県新城市作手の山村交流施設の事例は、コミュニティーデザイナーと一緒に進めたプロジェクト。この村は一般的な中山間地域と同様、公共施設を統廃合せざるを得ない状況にあり、小学校と公民館を合体させて、四つの小学校を一つに統合するプロジェクトが立ち上がった。施設の統廃合に対しては、学校が遠くなったり母校がなくなったりすることで、住民からネガティブな意見も出やすいため、建築チームは地域住民の思いをしっかりヒアリングすることをプロジェクトの前提とした。人を集めてヒアリングをすると、地域の代表者や発言力のある人、施設をよく使う人の意見だけが集まる傾向があるため、そうでない人にもどのような設備が欲しいか、どのようなことに活用したいかを聞きたいと考えた。そこで、仮装ありの楽しいポスター撮影を理由に各団体のメンバー全員に集まってもらい、その際に施設に関するヒアリングも同時に行った。プロジェクトの進捗状況は、ニュースレターの全戸配布やポスターの掲示で住民と共有した。
●行政がヒアリング等の際に使う資料はA4の紙に内容が羅列されているだけの味気ないものが多く、楽しそうに見えないことに課題を感じていた。そこで参加者の気持ちが高まることを意識したワークショップツールを作っている。京都市西京区役所のワークショップでは、意見があらかじめ書かれたおみくじ形式の資料を準備し、そこに書かれた意見に対してどう思うかを、左側に書いて壁に貼り付けていく形でワークショップを進めた。これにより、一歩進んだ意見出しにつなげることを考えた。

ビジョンを共有する

●スポーツ用品専門店のリブランディングを担当した際は、まず経営者が目指す方向をヒアリングした。それを言語化したキャッチコピーとロゴマークの制作経緯を紹介するポスターをスタッフルームに掲示し、社内で共有を図り、スタッフの気持ちを1つにした。
●津久見市の土木関連企業の新卒募集パンフレットも、デザインの力でビジョンを共有した事例のひとつ。この企業では市内では賃貸住宅が少ないという課題に、定住・就労の一つのモデルとして社宅をつくった。地域や地場産業への思いを伝える方法を検討し、会社案内とともに、会社内外に向けたコピー「ジモトをつくる仕事」を作成した。

外貨を獲得する仕組みをつくる

●津久見市では、大家族や法事向けの規格で菓子を販売する店が多く、観光客がお土産とするには大きすぎるものが多かった。そこで、観光客でも手に取りやすいサイズと価格に調整した個包装パッケージのリニューアルを、観光協会と共に行った。
●和歌山県の虎の子みかんは、ブランディングとECサイトの共同運営を手掛けている。生育方法にこだわった美味しいミカンとして市場や百貨店などで定評を得ていたが、百貨店などでは個別の商品名が表に出にくいため、ロゴやパッケージデザインを統一することとなった。各小売店で使うための広報ツールは、配送の費用や手間を抑えるために各店舗で使える形に整えたデータの形で準備した。ECには既存のウェブサービスを利用し、パラボラ舎が宣伝・問い合わせ・伝票入力を担当、生産者は自宅のプリンターで伝票出力・出荷を行うだけで商品を届けられるという仕組み。〝頑張ればなんとかできる仕組み〞ではなく、〝頑張らなくてもできる仕組み〞作りに力を入れた。通信販売を始めたことで消費者の声が店に直接届くようになった。たとえば、1人暮らしなので少量で売ってもらえないかという相談を受けたことをきっかけに小箱販売を始めたところ、常に新鮮なミカンを食べたいという人が、小箱を何度も注文するという新しい需要も生まれた。この経験から、過剰に宣伝しないこと、安売りしないこと、売り上げを追い過ぎないことが大切だと学んだ。また、問い合わせやメール対応など、地味なコミュニケーションも一つのデザインであることを再認識した。
●小さくてもお金が回ることが重要なポイント。そうすることで、消費者の声が生産者に直接届く、小売店の事情に左右されにくくなる、新たなチャレンジに踏み出すきっかけになり得る、小売りのノウハウや消費動向が分かる、小さな成功体験が次の展開への動機付けになる、といった良い効果を生み出す。

チームでつくる

●大分県豊後大野市にある朝地は、オルレというトレッキングコースのスタート地点になっており、多くの人が集まるにも関わらず、地域内でお金を落とすポイントがないことが課題となっていた。そこで、地元の食材を使った「あさじオルレ飯」というお弁当作りにデザイナーとして参加した。持ち歩いても崩れることなく雰囲気の良いパッケージとメニュー開発を経て、地元リサーチと実際に提供する店の検討を行った。このプロジェクトは「あさじDIYプロジェクト」と呼ばれ、地域プロデューサーのもと、建築家、フードディレクター、など様々な専門家の参画のもと、将来的には地元の人たちだけの力で展開していける仕組みづくりに取り組んでいる。
●「版フェス」は、紙漉きや印刷のプロセスを楽しむことが好きなメンバーと一緒に開催した自主イベント。イベントの主催を通して自分たちが大事にしている思いやビジョンなどを共有することで、いざという時にすぐに連携できる協力関係を作ることができた。コロナ禍で外食が難しかった時期、印刷屋さんと世間話をする中でテイクアウトできる飲食店が一目で分かるといいのにという意見が出て、「持ち帰りOKサイン」をデザイン・印刷し、各飲食店に配布したのはその一例。
●「こどもボウサイプロジェクト」は、「版フェス」で知り合ったデザイナー仲間と行っているもの。実際に大きな地震を経験していないと、ハザードマップや持ち出し袋の確認などは実行のきっかけがなかなかない。そこで、簡易写真館を設けて家族写真を撮り、家族写真入りの避難カードを作成、家族の存在を感じることで防災意識を高めてもらうことを企画した。
●「こどもボウサイプロジェクト」と同じメンバーで、大分市の郷土玩具である一文人形のワークショップも手掛けている。この人形はたった一人の職人さんが作っているもので、継承の危機にあることを残念に思い、職人さんの協力のもと、神社の境内で自分だけの一文人形を作る絵付け体験ワークショップを開催した。地域の人が地元文化を知るだけでなく、一文人形を観光資源の一つとして見直すプロジェクトとして実施している。
 このように、大事にしたい思いを共有できていれば、プロジェクト内容が変わっても共通のメンバーで取り組むことができると考えている。

デザインとまちづくりと観光事業と

●デザイナーとは、絵や形を描くだけではなく、内と外、ビジョンとディテールを往復して情報を編集する人。〝●●な会社・地域になってほしい〞という期待がビジョンで、たとえば、ざらざらした紙やつるつるした紙、看板の素材や大きさなどがディテール。その往復の中で抽出された〝エキス〞が情報を伝える方法となる。

●リサーチとひらめきの両方が大切。調べなければ分からないが、知り過ぎると逆に見えなくなってしまうこともある。外の目線は持ちつつ、地域の人と同じ目線にも立てることが重要。
●伝える際に、誰に来てほしいか、どのようなことをするかをビジュアルで正しく伝えることも重要。たとえば、行政が開催する催しでは、子どもが騒いではいけないのではと考えがちだが、岐阜県土岐市のワークショップでは老若男女問わず自由に情報交換を行うことが目的だったため、開催案内のチラシにも、子どもやおじいちゃん、おばあちゃん、話を聞いている人や聞いていない人など、様々な人がいることをイラストで表現し、誰でも受け入れるイベントであることを示した。
●また、伝え方のポイントとしてコミュニケーションの方法を変えることも重要。たとえば、大分県竹田市の婚活事業の事例では、「みんなが結婚しなきゃ、なんて思わない」というキャッチコピーをつけた。婚活が話題になると、結婚への圧力を感じさせてしまうが、目的はあくまで市民の考えを知ることであり、結婚を勧める意図はないことをビジュアルで伝えた。また、一般的に代表者だけが集まる会議では良い意見が出にくい傾向があり、少人数や一対一でヒアリングをするほうが本音やいいエゴが出てくると感じている。

まちづくりや観光事業へのデザインの力の上手な活かし方

●地域をデザインする際には、一目でその地域の文化や魅力が伝わるパッケージングに編集することが必要。
●一般的な受発注では既に仕様が決まっていて、これをいつまでに何部作ってほしいと言われることが多いが、最初のリサーチ段階からデザイナーやクリエイターを交えることで、その地域に本当に必要なものは何かを見極められる。大分県長湯温泉飲食組合の広報案件では、相談を受ける中で、広報の前段階として情報がしっかり届くように整理する作業が必要だと提案し、Googleマップの登録サポートを活用して各店の営業時間などの情報整理を行った。
●外のまなざしを取り入れることは非常に重要。外のまなざしには大きく分けて、有名な先生を呼ぶケース、様々な地域とつながるハブになる人をパートナーにするケース、一緒に伴走してくれるデザイナーなどと協働するケース、の3つの選択肢がある。大切なことは自分たちに合う相手を見つけること。遠くの有名人ばかりでなく、一山越えれば別のまなざしがあることも選択肢の一つとなる。
●諦めない地元の人こそ地域の宝であることも忘れてはならない。極端に言えば、デザイナーや予算を使って事業を実施する人は、事業が終わればいなくなるかもしれない人。こうした人たちに委ね過ぎるのではなく、地域にいる諦めない人を孤立させずに取り組んでいくことが大切。
●地域の魅力をデザインの力で伝える上で大切なことは、各個人のピュアなエゴを地域でどれだけ大事にできるか。自分が住んでいる地域を自分自身はどうしたいのか、自分は何が欲しいのかを具体的に思い描いて大事にしてもらいたい。ただのエゴでは誰の賛同も得られないが、ピュアなエゴであれば、同じ思いを持つ人や、内容は違っても同じ場所で活動しようとする人が集まる原動力となる。デザイナーの仕事はそのピュアなエゴを線でつなぐことであり、地域の魅力が見える形にパッケージングするのがデザインの役目。星として見ればただの点だが、線でつなぐと星座になるように、地域の輪郭のビジョンを提供し、地域内外の人にその魅力を伝えるのがデザインの大きな役割だと捉えている。

【第2部】意見交換

司会…各プロジェクトにはどのようなきっかけで関わることが多いのか。
たなか氏…関西の大学に通っていたこと、大学卒業後もしばらく住んでいたため、関西の仕事はその時に知り合った人がきっかけとなっていることが多い。あるプロジェクトに一緒に関わったメンバーから声がかかったり、実際に作ったツールを見た他地域の方から同様のツールを作りたいなど相談を受けることもあり、ネットワークの中で次々と新しい出会いが生まれている。なお、パラボラ舎のメンバーは自分一人。
参加者…苦労したことやうまくいかなかったケースについて知りたい。
たなか氏…尊敬するデザインプロデューサーは「われわれの仕事は成功を約束することではなく、成功の打率を上げることだ」とよく言っている。空き地を公園として整備するプロジェクトでは、民間の力の活用につなげることを目的にワークショップ開催とデザイン業務を担当したのだが、次第に民間の参加度合いが減ってしまった。デザインチームでビジョンを提案したものの、その先の具体的な行動やチームの枠組みまで提示できなかったことが失敗の原因。
参加者…同じメンバーで異なるプロジェクトに関わるようになった過程を詳しく知りたい。
たなか氏…「こどもボウサイプロジェクト」は全員デザインの仕事をしている3人のメンバーでスタートした。代表者に子どもが生まれた際、子ども連れの避難方法が分からないと感じたことをきっかけに、「版フェス」を共に手掛けたメンバーなら自分の悩みに共感してもらえるのではと考えて問題意識を共有したことから始まった。
 防災についてリサーチしていると、昔はどの海岸線まで津波が来ていたのか、なぜ神社が少し高い場所にあるのかなどが分かってくる。防災をきっかけに3人の目が地域や地域文化に向くようになり、その中で一文人形に出会った。一文人形の存続が危ういということを知り、どうにか残す方法がないかを調べるうちに、同じ3人のチームで一文人形プロジェクトも始めることになった。
 このように、共通している課題など、どこかでつながっている線を見つけられればチームも構築しやすいのではないか。
参加者…デザインを通して地域と関わる中で、住民と行政とで反応が異なることはあるか。
たなか氏…コミュニティーデザイナーに依頼するような先駆的な発想を持つ行政職員は、自分が責任を持つから自由にやってほしいというスタンスであり、ギャップを感じることはあまりない。
 一方、住民からは、デザインした様々なツールを不要なコストと捉えられてしまうこともある。「市役所内で普通のコピー用紙で作ればいいのに、こんなところにお金をかけるの」と言われたこともある。しかし、強めの意見を言う方ほど、そのプロジェクトに対して強い興味を持っているということであり、プロジェクトを通して頼りになる存在となることが多い。
司会…地域住民の意見を引き出すためには、参加者が楽しくなる雰囲気づくりもとても大切だと実感した。おみくじを模したツールはとても面白いと感じたが、こうしたアイディアはどのように生まれてくるのか。
たなか氏…複数人が集まる場では他の意見に流されてしまいやすい。一つの意見に誘導されることなく、小さな意見をきちんと拾うことが課題となっていた。おみくじはそうした課題への対応策として、コミュニティーデザイナーのひらめきで提案されたもの。
 手を動かして具体的な制作をする作業よりも、外に出てリサーチすることを重視している。初めて訪れた土地で見つけたもの等、広く物事を見ることを意識して、他の地域でも使えそうなアイディアのストックは常に持っておくようにしている。そうするとストック同士がつながりやすくなり、いざ形にするときに迷いなく良いアイディアになる。
参加者…アピールしたい観光要素がたくさんあり、それらをどのように発信したらよいか悩んでいる。近年よく耳にするシビックプライドの醸成においても、デザインの力が果たす役割は大きいと思うが、様々な要素を具体的なデザインにまで凝縮する過程は難しいと感じている。
たなか氏…デザイナーとして地域に関わるにあたっては、行政や地元ではない人間だからこそ拾える地域の声や地域の輪郭があると思って活動している。
 誰かがシビックプライドを一つに凝縮して表現したものを提示することよりも、「自分が住む町のなにか」がすこし褒められる嬉しさでシビックプライドが醸成されることが重要ではないかと感じている。個々の市民に「自分にとっての大切なもの」を持ってもらうことこそ大切なのではないか。
JTBF吉谷地…自身がたなか氏のことを知ったのは、2012年に東京で開催された「マチオモイ帖展」だった。その時の作品の印象が残っていて、数年後に連絡を取ったという経緯がある。コミュニティーデザインに関わるクリエイターの方たちの展示会などに足を運ぶと、つながりが生まれるかもしれない。
参加者…地方部の行政職員として観光地域づくり人材の育成事業を担当している。どのような事業であれば参加したいと思うか。
たなか氏…観光地域づくりの人材育成事業が、最終的に自分で事業化できるプラットフォームになっていれば、自分の力で頑張りたいという意欲のある人が参加するのではないか。組織の中で動ける人を育成することも重要だが、わざわざ地方に来てまで何かをしようとする人は、自分の力で取り組みたい人が多いイメージがある。一方で、自己資金だけで事業化を進めるのはなかなか難しい。そうした人の助走期間を行政が支えることも一つの手法ではないか。
参加者…コロナ禍をきっかけに何か変化はあったか。
たなか氏…コロナ禍で、対面でのワークショップが開催できず、オンラインでの開催とせざるを得ないことがあった。オンラインではお互いの反応が見えにくく話しづらい部分があるため、旗などのツールを作って事前に参加者に配布し、賛同する時にはその旗を振ってもらうように工夫した。オンライン会議のアイコンになった時にもその人や会社が一目で分かるように、シンプルでインパクトのある作品作りを意識するようにもなった。とはいえ、デザインや仕事への考え方そのものに大きな変化はない。
司会…これまでにかかわったプロジェクトの中で、最も印象深い出会いは何か。
たなか氏…作手のプロジェクトで、図書館を造ることに熱い思いを持っていた地域の方が最も印象深い。決して諦めることなく、地域の人たちからも愛されていて、行政側にも言うべきことは言える人で、その方がいたからこのプロジェクトが実現できたと思えるほど大きな出会いだった。
司会…自身もいい仕事ができたと思える地域には必ず顔が思い浮かぶ人がいる。そうした人たちのおかげでいい仕事ができている。それはデザインの現場でも共通しているのだと感じた。
JTBF吉谷地…たなか氏は、依頼案件の目的を明確にし、その目的に応じた最適なアウトプットの形は何かを常に考えている。一緒に仕事をしていると、〝何のためにこれをするのか〞〝誰に伝えたいのか〞〝どのような使われ方をイメージしているのか〞など、多くの質問をされる。こうした質問に答えるなかで、自分の考えが整理され、本来の目的を再確認できることが多々あった。デザインは単に仕事の仕上げではないことを改めて教えられた。
たなか氏…クライアントが何をしたいのか、地域をどのような形にしたいと考えているのかを、デザイナーの側が理解できなければ、理想的なアウトプットは出てこないため、なるべく初期段階から関わりたいと考えるデザイナーは多いだろう。地域にとって何が必要でそのベストな方法は何かということからさかのぼって一緒に考え、伴走してくれるパートナーは、地域にとって心強い味方となると考えている。

おわりに

 参加者の皆様からは、「具体的な事例に基づいた非常に刺さる内容だった」、「目的や意味といった〝そもそも〞の部分を考えることが、デザインをするためには非常に大切だということがよく分かった」といったご感想が聞かれました。
 地域の情報や人々の思いをつないで新しい何かに結びつけるという意味において、私たちコンサルタントの仕事とも重なる部分が大きく、とても共感しました。
(文:観光政策研究部 社会・マネジメント室 副主任研究員 門脇茉海)

Guest speaker
たなか みのる氏
電機メーカー勤務後、広報・デザインのパラボラ舎を設立。スモールビジネスを中心にデザイン業を行うほか、印刷物のできるまでを体験できる「版フェス」や「マチオモイ帖大分展」などを企画。防災の知識を楽しく学ぶワークショップ「こどもボウサイ(大分市エリア)」のサポートなど、暮らしを作るデザインを行う。