“観光を学ぶ”ということ ゼミを通して見る大学の今
第13回 筑紫女学園大学現代社会学部 コミュニティデザインプログラム
上村ゼミ
地域に根ざすことで見えてくるものがある。自然や文化の価値や意味、それらを継承する地域づくりの重要性だ

1.筑紫女学園大学現代社会学部について

 筑紫女学園大学は、昭和63年(1988年)に創設され、3学部8つの学科・コースからなる文系主体の大学です。その歴史は古く、浄土真宗本願寺派北米開教の責任者であった水月哲英が女子教育を行うために、明治40年(1907年)私立筑紫高等女学校を開校したのが始まりです。自然と文化の豊かな福岡県太宰府市にあり、太宰府天満宮や九州国立博物館から徒歩圏内に位置しています。
 本ゼミの属する現代社会学部は、筑紫女学園の伝統を受け継ぎながら、時代や社会のニーズにあわせた新しい学びを提供するために2015年に開設された学部です。社会が求める即戦力と人間力を備えた自律的な女性の育成を目標とし、社会学をベースに、「メディアデザイン」、「ビジネス」、「ポピュラー文化」、「地域デザイン」の4つの専門領域を学ぶ点に特色があります。
 初年次からゼミ形式の講義で段階的に学びを深め、3年次に16のプログラムからゼミを選び、研究やプロジェクトに取り組みます。専門性の異なる複数のゼミが協働するコラボゼミも開催し、幅広い視野を身につけ、多様な人々との協働を実践する力を獲得することが出来ます。

2.地域デザインと観光の関わり

 地域デザイン領域は、地域が抱える問題の解決に主体的に関わり、より良い地域の実現に貢献できる実践力のある女性を育成することを目標としています。デザインの対象は、私たちの生活する場、都市や農山漁村など多様な社会と環境です。地域に関わる多様な人々の立場を理解し、共感と協働により地域をデザインするための意識や知識、技術を獲得するため、企業や地域社会の課題解決を題材とした問題解決型の学習や地域コミュニティとの連携・協働などの実践的な学びの機会を提供しています。
 地域づくりを進めるには、地域資源の継承、地域の誇りの醸成、地域経済の活性化に貢献することが出来る「観光」は必要不可欠なものです。しかし、リゾートホテルの開発による環境破壊や地域社会への影響、オーバーユースによる自然環境への負荷の増加、地域社会と観光事業者、観光客との軋轢は、「観光」が地域に及ぼす残念な例とも言えるでしょう。地域コミュニティによる内発的な地域づくりと大手企業などが進める外発的な観光開発のトラブルを回避し、持続可能な観光地づくりを進めるためにも、生活者の視点から地域のビジョンと活動を組み立てる地域デザインのアプローチは有効であると考えます。

3.コミュニティデザインプログラムでの学び

 コミュニティデザインプログラムは、地域での暮らしが持続可能で、かつ楽しく充実したものとなるようなプロジェクトを学生自らがデザインし、チームで協力して実施することで、持続可能な地域づくりの進め方を体験的に理解し、身につけることを目的とするプログラムです。
 1年生の必修科目「現代社会と地域デザイン」では、太宰府の新たな資源の発掘とそれらを活用した散策ルートの提案を行います。太宰府は福岡有数の観光地ですが、天満宮と国立博物館に訪問客が集中していることが問題となっています。他のエリアへ人を誘導し、地域の活性化につなげる方策をグループでのフィールドワークとディスカッションを通してまとめることがこの授業の課題です。2年次の専門科目「観光学」「環境共生社会」では、観光と産業の関わり、ニューツーリズム、自然資源の保護への理解を深めます。3年次には、「地域資源論」「プロジェクトマネジメント」などを通じて、地域づくりのデザイン手法や地域資源とその活用法を学び、「地域プロジェクト演習」により、企画・実行・評価・改善のプロジェクトのサイクルを一通り体験します。
 3、4年次合同で行われる上村ゼミでは、沖縄県石垣島、鹿児島県喜界島、佐賀県鹿島市、大分県宇佐市安心院、長崎県対馬市、福岡県東峰村などの現場に足を運び、参与観察を通じて活動に取り組む人々の想いや考え方を学ぶとともに、学生が主体的に関わり地域の活性化や自然環境の保全に貢献するためのプロジェクトの企画、実践に取り組んでいます。
 その際、重視しているのは、地域の生活者の視点に立った地域づくりです。地域が受け継いできた固有の「自然」や「文化」、「産業」そして「人」などの資源を大切にし、持続可能な形で管理・活用し、その地域で人々が住み続けるための仕組みや仕掛けを考える力を身につけてもらいたいと考えています。

4.上村ゼミでの観光まちづくりへの取り組み

 2021年度上村ゼミでは、3つの地域での観光まちづくりに関わりました。ここでは、その内容についてご紹介したいと思います。最初の2つは、観光庁の「地域の観光資源の磨き上げを通じた域内連携促進に向けた実証事業」への参画になります。
 1つ目は、石垣島白保集落の「オーリミリ ムラニンズ」サブヌ村づくり事業(「来てみて 村の仲間」白保の村づくり事業)です。NPO夏花の集落散策プログラムの改良のための資源調査、白保青年会のガイド養成のためのモニターツアーに本ゼミの学生が参加しました。また、大正大学との協働によるオンラインツアーへも参加し、学生の目線からプログラムの評価を行いました(写真1)。
 2つ目は、環境省のサンゴ礁生態系保全行動計画のモデル事業として関わってきた鹿児島県喜界島での「喜界島のサンゴ礁文化を活かしたマイクロツーリズムの推進事業」です。NPO喜界島サンゴ礁科学研究所が実施主体の事業ですが、荒木集落の「荒木盛り上げ隊」のサンゴ礁文化を体験する観光プログラムの開発のための資源調査にゼミ生が参加させていただきました。島外の若者の視点から体験プログラムへの提案を行いました(写真2)。ガジュマルの木の下での昼寝やパパイヤの収穫体験と漬物作りなど学生のアイディアが取り入れられたモニターツアーが12月に催行されました。

 3つ目は、石垣市北部農村集落活性化協議会(ゆんたみ)が取り組んできた地産野菜の学校給食への提供を踏まえた次の展開について一緒に考える機会をいただきました。草編みや有機野菜の収穫体験活動への参加を通して、過疎化が進む北部農村集落では、農作業や地域づくりに大学生が継続して関わることが関係人口の拡大や地域づくりに関わる人々のモチベーションの向上につながることを確認することができました(写真3)。

5.学生が参画するその他の取り組み

 上村ゼミでは、学生が日常的に関わることのできる太宰府でも活動をしています。石垣島白保のNPO夏花が製造する月桃茶など月桃商品の販売です。これらの商品はサンゴ礁保全のために農地周辺に植えられた月桃を原材料とすることから、その販売の促進はサンゴ礁保全の拡大にもつながります。
 また、2020年の秋から太宰府市五条の新崎アパートでのDIYによるリノベーションに着手しました。太宰府天満宮エリアから少し外れた場所ですが、観光客などの新たな立ち寄り場所として地域の活性化に貢献することを目的にしています。2022年2月には学生が運営するワインショップ「Wine House やまつづら」をオープンしました(写真4)。様々な世代の人が足を運び、交流の輪が広がることを期待しています。こうした店舗を活用して、学生が繋がりを持った各地の物産を販売し地域活性化に貢献するプロジェクトにも取り組むこととしています。

6.まとめ

 地域での実践的な学びには、地域の皆さんの協力が必要不可欠です。学生が地域との良好な関係を維持し、地域に根ざす視点や価値観を獲得し、地域に貢献できる人間へと成長するとともに学生自身の人生を豊かにデザインすることを期待しています。
 2020年初頭から世界に蔓延したコロナ禍により、観光には逆風が吹いています。こうした状況だからこそ、持続可能な観光のあり方を地域で議論する必要があります。今後、ますます地域デザインのスキルや方法論が重要になっていくと言えます。
 最後に、2021年度の地域での活動に参加した学生の感想を紹介させていただきます。

 白保の集落散策をして気づいたことは、予備知識がいる歴史や文化は難しく感じ、その場で実際に見て感じることができるものの方により興味が惹かれたことです。例えば家々の庭には、バナナやパパイヤなど食べられるものがたくさん植えられていること、石垣は家ごとに高さや石の素材が違うことが興味深かったです。私たちが新鮮で面白いと感じたものを地域の皆さんに伝えることで、新しい集落観光のプログラムに活かしてもらえると嬉しいです。(4年・熊埜御堂 光里)

 石垣島白保集落を散策する中で知った伝統や自然、文化は私にとって目新しいものばかりでした。特に、植物は、日常で見かけることがないのはもちろん、それらの活用法にも興味が湧きました。白保の人にとっては日常の一部である伝統や自然、文化なども、私たち県外から来た者にとっては、新鮮で興味深いものです。解説や体験の方法を工夫することで、どこの地域でも観光地になり得ること、どんなものでも観光資源になり得ることを今回の参加を通して実感することができました。(4年・橋本 美桜)

 石垣島で印象に残っていることは、白保での「八重山上布のコースター作り体験」です。一般的な着物や浴衣が絹や綿から作られていることは知っていましたが、石垣島では麻から着物が作られていると知り、驚きました。さらに、染料も植物からとる環境に配慮した、持続可能な方法という点も魅力的でした。しかし、麻を紡ぐ作業は90代のおばあさんしかできないと聞きました。伝統として大切に残されてきた技術を後世に伝えることに協力することが、大学生が石垣島のためにできる最大のサポートではないかと思いました。(4年・名和 すず)

 石垣島白保のオンラインツアーに参加し、その2ヶ月後、実際に白保を訪問しました。オンラインツアーでは、月桃の葉やサーターアンダギーなどが自宅に届けられ、ツアー前から期待が高まりました。オンラインでの民具づくりやVRゴーグルを活用したシュノーケリング体験など、現地にいるような感覚で楽しむことができました。オンラインツアーは、石垣島に足を運ぶ動機付けにも繋がると感じました。また、オンラインツアーでの体験により、予備知識を得た上で訪問したことで、より深い理解につながりました。オンライン体験と現地訪問を組み合わせたプログラムは、観光の新たな可能性を広げると感じました。(3年・田中 希)

 石垣島伊野田集落での収穫体験に参加しました。椰子の葉でカゴを作り、無農薬で栽培したトマトやスナップエンドウをカゴいっぱいに収穫しました。自作のカゴに収穫することが満足感を高めていると感じました。〝ゆんたみ〞のアットホームな雰囲気は親しみやすく、安心して参加することが出来ました。若い世代の農業をしてみたい人を対象に、インターンシップを受け入れることで、北部地域の関係人口の拡大につながるのではないかと話が盛り上がりました。今回の活動に参加したことで、私にも地域を応援したいという気持ちが芽生えたことから、活動を知ってもらうことが協力者獲得など活動継続の原動力となると感じました。(3年・豊村 友梨)

 喜界島は古くからの文化がたくさん受け継がれ、自然が豊かで島の人々がとても温かい島でした。色とりどりの花や蝶、海がとても美しく、温暖で10月でもサップやシュノーケル体験ができることも魅力に感じました。郷土料理は、ゴマや黒砂糖、パパイヤなど普段食べることのないものが多く、とてもおいしかったです。荒木集落の散策では、石垣や家の庭にある石段や灯篭などにもサンゴが使われ、ここでの生活にはサンゴは無くてはならないものなのだと感じました。島の文化を若い人達が受け継いでいくことが、サンゴ礁文化や島の自然などの島の魅力を守ることにも繋がり、島外の人々を惹きつける「観光」資源ともなることが分かりました。(3年・増田 七海)

上村真仁(かみむら・まさひと)
筑紫女学園大学現代社会学部教授。神戸大学大学院工学研究科修士課程修了。博士(学術)神戸大学。1993年三菱総合研究所地球環境研究センター入社。2004年WWFサンゴ礁保護研究センター勤務のため石垣島白保集落に移住。サンゴ礁と調和した地域づくりとして、地産マルシェや農業・家業体験、文化財巡り、サンゴ礁保全体験プログラムを企画・実施。2016年4月より現職。NPO法人夏花(なつぱな)副理事長、石垣市北部農村集落活性化協議会アドバイザーを兼務。専門は環境計画、農村計画、持続可能な地域づくり。主な共著書は「地域環境学トランスディシプリナリー・サイエンスへの挑戦」東京大学出版会、「里海学のすすめ 人と海との新たな関わり」勉誠出版など。