視座
現場に問う、新たな市場の展望
〜魅力ある経験価値の創造と提案

公益財団法人日本交通公社 観光文化情報センター長 吉澤清良

はじめに

 本誌「観光文化」では、2号続けて「コロナ禍における観光地の現状と課題」を特集テーマに取り上げてきた。「246号(2020年8月)」では、コロナ禍にあって、持続可能な観光の本質についてあらためて考えた。また、「247号(11月)」では、コロナ禍だからこそ、ロイヤルティ、ブランドの重要性、新しいパラダイムに対応していくことの必要性を述べている。
地域の現場と丁寧に向き合いながら、その時々の現状と課題を抑えておくという編集方針は、当財団らしいものでもあり、またストック性の強い本誌の特徴を活かすものであったと、編集担当として感じている。
 夏の「246号」の発行の頃には、いわゆる3密(密集、密接、密閉)を避けた「新しい生活様式」も定着し、国や地方自治体による各種の復興支援策が講じられると、人々の往来も徐々に増え、地域によっては復調の兆しを見せ始めた。秋の「247号」の頃には、政府の「Go Toトラベルキャンペーン」等が効を奏したこともあり、旅行者が回復した観光地も見られるようになってきた。
 そうした中、観光・旅行分野においては、登山やトレッキング、グランピング、分散型ホテルなど、密を回避しながら楽しむ旅行スタイルやレジャーが注目を集めてきた。
 今回の「248号(2021年2月)」では、これらの旅行スタイルやレジャーの中から、① 野外レクリエーション(キャンプやトレッキング)、② グランピング、③ 分散型ホテル、④ オンラインツアー・体験、⑤ ワーケーション、⑥ ホテルステイを取り上げて、現状と今後の展望等を、地域や関係事業者への取材等を踏まえて取りまとめることとした。

新型コロナウィルス感染症と日本人旅行者の動向

 まず、日本人の旅行動向について概観したい。「JTBF旅行実態調査」、「JTBF旅行意識調査」で、夏休み期間中の8月を取り上げて、2019年と2020年の国内旅行の【実施内容】を比較したところ、「温泉や自然が豊かな場所への旅行(35.8%→47.6%)」、「1泊などの短期滞在や域内旅行(48.7%→64.4%)」、「自家用車での旅行(45.3%→69.7%)」、「小規模の旅館に宿泊する旅行(10.2%→18.1%)」、「夫婦(20.8%→24.8%)や家族(6.0%→9.5%)といった同居者との旅行」の割合が高まっている。不特定多数との接触を避けた旅行スタイルが選ばれていることが分かる。
 収束後の【国内旅行意向】では、69.8%が「行きたい」と答え、【旅行の動機】(「旅先のおいしいものを求めて(62.4%→64.7%)」、「日常生活から解放されるため(59.8→62.1%)」、「思い出をつくるため(54.7%→53.7%)」)や、【行ってみたい旅行タイプ】(「自然観光(49.8%→47.6%)」、「温泉(49.8%→46.9%)」、「グルメ(42.3%→41.1%)」)には、大きな変化は見られなかった。
 一方で、【旅行先の選び方や旅行中の行動】は、「公衆衛生の徹底(自由記述174件)」や「密の回避(自由記述172件)」を意識したものに変化している。
 旅行に対する欲求や意識は、コロナ禍であっても、ゆるがない本質的な部分と、影響を受け変わっていく部分とが存在することが分かった。
 なお、2020年11月下旬から12月にかけて行った緊急調査(JTBF旅行意識調査)の結果は、特集1(観光レクリエーションへの経験と意向の実態)としてまとめているが、ここ1年間の旅行の【参加経験】は、「ドライブ旅行」、「マイクロツーリズム・ミニマムツーリズム・ステイケーション」が多かった。また、トレッキングやキャンプに相当する旅行の経験率も比較的高いという結果となった。
 今後の【参加意向】では、密を避けやすい旅行への意欲が高かった一方で、現時点では、「オンラインツアー・バーチャルツアー」、「ワーケーション」、「ブリージャー」は、認知度も参加意欲も高くはなく、一般には浸透していないことが示唆された。

コロナ禍に注目された旅行スタイルやレジャーの動向〜特集2の振り返り

 前述のように、オンラインツアーやワーケーションはまだ一般的ではないものの、観光・旅行分野において注目を集めたことは、各種の報道等を見ても間違いない。ここでは、特集2(コロナ禍の最中に見いだした、明るい兆し)で取り上げた旅行スタイルやレジャーについて、特に利用者の動向や、観光事業者等の今後の意向等を中心に簡単に振り返っておく。
 なお、紙面の関係上、文章を文意が変わらない範囲で省略、変更等していることをご理解いただきたい。

① 野外レクリエーション(キャンプやトレッキング)

石井スポーツ
○ アウトドアでは、キャンプ関連商品の売り上げが伸びた。4、5年ほど前から登山時のプライベートテントの人気が急騰してきた。仲間でというよりソロがキーワード。このムーブメントは30歳代後半から40歳代の女性が先導している。
雷鳥沢キャンプ場(富山県立山町)
○ テントの張り数はこれまでにない数だった。山小屋利用者のテントデビューに加え、グループでも人数分のテントを張る。ソロテントブームも重なった。混雑に嫌気がさすかもしれないが、テントの中では一人、この気分は忘れられない。
乗鞍岳「五色ヶ原の森」の自然ガイドツアー
○ 完全予約制とした。感染対策としてガイド1人あたりの人数を少なくした。
○ 8月以降は徐々に利用者が増加し、9月以降は県外客も増えた。シーズンを通した利用者数はこの5年間で最多となった。
○ ガイドらの情報発信のような小さな取り組みの積み重ねが効いた。
上高地の自然ガイドツアー
○ 8月の来訪者数は例年の4割程度にとどまったものの、9月は5割、10月には8割程度まで戻ってきた。
○ 6月から7月にかけてバーチャルツアーを実施した。8月になると、現地に行きたいという気持ちが爆発した。10月には「地域共通クーポンを使い切るためにツアーに参加したという声があった。
○ 上高地全体の訪問者数に比べるとガイドツアーの売り上げはよかった。
信越トレイル
○ 実質的には7月から利用が始まった。9月になると例年にないほど利用者が増えてきた。夏以降は好調である。
○ ソロまたは少人数で歩く個人のハイカーが目立った。スルーハイカーが多く、トレイルのテントサイトが賑わった。
○ これまでは海外やアルプスなどの縦走に行っていた人、長期休暇が取りづらかった人が訪れたのではないか。
○ コロナ禍の落ち着きとともに減少すると懸念するものの、スルーハイクならではの出会い、ロングトレイル特有の楽しみの浸透と普及に期待を寄せる。

② グランピング

星のや富士(山梨県富士河口湖町)
○「より特別な経験をしてみたい」が「煩わしいことは避けたい」とする市場セグメントの人々の心を掴み、開業以来、高稼働を続けてきた。
○ 二食付きで利用する傾向が高く、また、現地での体験プログラム、エクスカーションに高い関心を持っていた。
〇 ハネムーンなど同行者との大切な時間を、安心して、楽しく過ごす場所として支持されてきている。
Snow Peak FIELD SUITE HAKUBA KITAONE KOGEN(長野県白馬村)
○ 快適な宿泊経験価値をアピールし、海外旅行を諦めていた高所得者層の心を掴むことに繋がった。
○ 利用者の多くは、アウトドア活動に対する経験値は低かったが、それでも自然を感じながら快適に過ごすことができると高い評価を獲得し、口コミで広がり、さらなる集客に繋がった。
○ 夕食時に、リラックスし、グランピングを楽しむ姿が印象的だった。
東急リゾートタウン蓼科「もりぐらし」(長野県茅野市)
○ ホテルのサービス水準を持ちながらも、屋外(もり)で過ごせることが顧客の心を掴んだ。
○ 利用の主体は、家族客、カップル、女性グループで、子供や女性でも快適に利用できる特性が反映されている。
○ 最初期の「フォレスト・アドベンチャー」と「グラマラスダイニング」に、テント泊が加わり、テント泊に関心のなかった人々の関心を集めることにもなった。

③ 分散型ホテル

バリューマネジメント本社、佐原商家町 ホテルNIPPONIA(千葉県佐原市)
○ マイクロツーリズムの注目により、近隣の方の利用が非常に増えた。
○ Go Toトラベルキャンペーンの実施により、若い方やアクティブシニアなど、客層の幅が広がった。
○ コロナ禍ということもあり、客室でゆっくりされる方が増えた印象である。
○ 今回のコロナ禍によって本来5年10年かけて少しずつ起こった変化が早まった。分散型ホテルの価値に気付いていただけるタイミングが早まったのではないか。
NIPPONIA 小菅 源流の村(山梨県小菅村)
○ Go Toキャンペーンの影響は大きく、客層も20代前半、逆にシニアが増えた。
○ 密を避けた新しい生活様式、自分の生活を見直している人たちの来訪があった。
○ コロナで人とのつながりが遮断され、より村の人とのふれあいが求められていると感じた。
○ 今回の体験がすごく印象的で、この暮らしがいいなと思ってくれた方がきっといらっしゃる。こうしたホテルでの滞在という選択肢が増えたのではないか。

④ オンラインツアー・体験

宇部観光コンベンション協会(山口県宇部市)
○ オンラインツアーの実施目的は当初からはプロモーションとしての活用であり、ファンづくりであった。一定の皆様に情報が確実に届く点が効果につながった。
〇 特に地域の「人」そのものが魅力であり、オンリーワンであると確信が持てた。
○ オンラインツアー単体ではなく、リアルツアーや特産品プロモーションの組み合わせによる活用を検討している。
琴平バス(香川県琴平町)
○ リアルなバスツアー同様に、お客様一人一人の表情を確認しながら相互のコミュニケーションを重視している。2020年11月1日時点で985名の集客、97本の催行、14種類の企画・コースを生み出している。
○ オンラインツアーは全国、世界から参加が可能。旅行に行きづらい高齢者、障害者の方の参加もあった。
○ オンラインツアーは「新しい旅の形の一つ」。リアルのバスツアーと相互に補完しながら観光の価値を高める手段と捉えている。
ベルトラ(東京都中央区)
○ オンラインであっても「心を揺さぶる旅の体験を提供する」というコンセプトで一貫している。
○ 現地ガイドと企画した「オンライン・アカデミー」には、7月の提供開始から5ヶ月ほどで1万7000人以上の参加者を得ている。
○ 人気は、普段行けない、体験できない、特定のテーマに特化したツアー。リアルではなかなか体験できない観光を楽しむ一つのきっかけとなっている。
○ 質の高いオンラインツアーを通して、日本各地の知られざる魅力を知り、現在の暮らしを体験し、人々と交流してもらうことは、安心感と来訪意欲を高める有効な手段になり得る。

⑤ ワーケーション

有馬温泉(兵庫県神戸市)
○ ワーケーションで滞在する方々が有馬温泉に増えたことで、「格好が違う」客層、いわば「普段着」の方が増えた。
○「暮らすように泊まる」というスタイルはあり得る。ワーケーションも宿泊需要獲得の切り口の一つとなっていく。
○ 企業との連携、また兵庫県や神戸市、周辺地域との連携での取組みも考えられる。
三菱地所(東京都千代田区)
○「WORK×ation Site 軽井沢」(長野県軽井沢町)は、様々な企業が利用。利用の仕方も、プロジェクトチームでの利用、役員クラスでの会議等、多様。
○ コロナ終息後は、リアルに集まって議論する場の価値が高まるのではないか。非日常的な特別な空間でディスカッションして、効果を最大限に発揮するという考え方である。
内閣府沖縄総合事務局
○ 個人客によるワーケーションプランの利用や、企業の研修や福利厚生面での需要も出てきている。
○ 人が集まる意味が見直され、場所に払っていたコストを人材育成や従業員同士の濃密なコミュニケーションに費やしたいというニーズも生まれてきている。
○ 最終的な目的を「県外企業の沖縄進出」として推進。ワーケーションを実施する意味を地域側も一緒に作っていき、地域との接点をもっと増やしていくことが必要である。

⑥ ホテルステイ

ホテル椿山荘東京(東京都文京区)
○ 比較的若い年代含めて幅広い客層に利用されている。一番多いのは家族。首都圏の1都3県からの来訪が圧倒的に多く、そのうち6〜7割が都内からの宿泊。
○ チェックインからチェックアウトまで、時間を目一杯使う人が多かった。想定を超えるルームサービスの利用があり、庭をじっくり散策する人も増えた。
○ お客様からは、「自粛で我慢している中で、非日常を味わえた」、「少し遠くに旅行に行った気分になれた」という声が聞かれる。
○ ホテルステイプランは、お客様それぞれにホテルの楽しみ方を見つけていただくきっかけになった。コロナ後も、一つの旅行の形として選んでもらえるように努力していきたい。
浅草ビューホテル(東京都台東区)
○ 客室での食事メニューを独自に開発。駐車場の無料サービスも付加。公共交通での3密を避けたいというお客様には訴求したかもしれない。
○ 中高年を想定していたが、Go Toトラベルキャンペーンの対象になったこともあり、若い年代、30代〜40代の利用も多い。
○ 1室2名のプランで、夫婦、カップルといった男女のペアでの利用が多い。
○ 利用される方の7割が東京都内から、2割がその他関東圏、1割が関東圏以外という比率である。
○「料理が期待以上だった」という声を頂く。スカイツリーの眺望を楽しめることも評価のポイントとなった。
○ ホテルステイプランは継続していく予定。お客様への新しい価値を掘り起こせたのではと考えている。定着のために、常に内容をバージョンアップしていく必要がある。

 これらの事例からは、「コロナ禍でも旅行をしたい」という人が確実に存在し、それを顕在化させる取り組みの重要性が伺える。
 このことは、筆者が取材した「③ 分散型ホテル」のバリューマネジメント松尾諒介氏の言葉、「お客様はコロナ禍でも旅行に行きたいというお気持ちは持っていらっしゃる。そこに対して、様々なご相談への対応なども含めて、どうやって安心感を持っていただけるかという点を非常に重視した。ハード面ばかりではなく、コンシェルジュをはじめとしたソフト面で、不安を解消できたことが大きなポイントだと思っている」に、よく現れている。
 そして、これらの事例を取材し執筆した研究員からは、異口同音に次のような趣旨の指摘がなされている。
 コロナ禍にあって、
・密が想定される環境の回避
・自然志向、健康志向の拡大
・外出自粛による在宅時間の増大
・ふれあい、対面の価値の見直し
・働き方の多様化、時間の自由度の高まり
・海外旅行の制限
・国や自治体による観光支援策の実施
・観光事業者の感染対策の徹底
・観光事業者による魅力ある旅行スタイルやレジャーの提案
・参加のしやすさ、手軽さ
といった様々な要因が相まって、新たな需要が顕在化した。
 例えば、特集4(コロナ禍下の国内旅行市場の動向とオピニオンリーダー層の旅行意向)では、Go Toトラベルキャンペーンが一定程度功を奏したことが示唆されている。
 また、今後の利用意向ではあるが、オピニオンリーダー層(旅行頻度、旅行情報の収集力及び発信力が高い層)が利用してみたい【宿泊施設】では、比較的高級な施設タイプのほかに、「グランピング」、「分散型ホテル」なども一定の人気を集めている。今後拡大しそうな【旅行の新形態】では、「ステイケーション」、「ワーケーション」が6割台の肯定的な評価を得ている。
 コロナ禍にあって、利用のきっかけは何にせよ、それぞれの旅行スタイルやレジャーの本来的な楽しさに、利用者が気づくといった状況が各地で垣間見られたことは、今後に繋がる明るい兆しである。

白馬村の取り組みに学ぶ

 今回注目した旅行スタイルやレジャーの具体化に、コロナ禍以前より取り組んできた地域として、白馬村を特集3(白馬村、オールシーズン・山岳リゾートへの挑戦)で取り上げた。
 白馬村は、1998(平成10)年2月に開催された「長野オリンピック」の会場のひとつになったこともあり、スキー場のイメージが非常に強く、実際、長らく冬場のスキーを中心とした経営が行われてきた。通年雇用も難しく、生産性やサービスレベルの向上も課題となっていた。
 しかし、座談会にご出演いただいた、福島洋次郎氏(一般社団法人白馬村観光局事務局長)、倉田保緒氏(八方尾根開発株式会社代表取締役)、和田寛氏(株式会社岩岳リゾート代表取締役社長)は、口々に、「山岳リゾートやオールシーズンリゾートとして、白馬村は日本で一番ポテンシャルがある。将来の目標は、〝世界水準の〞、もしくは〝世界で10本の指に入る〞、オールシーズンのマウンテンリゾート」と話した。
 特に和田氏は、次のように力強く語っった。
〇 スキー場に行ったらスキー、スノーボードというイメージをどう変えていくか。人口の4〜5%しかやらないスポーツだけよりも、95%を狙っていった方がマーケットが広がる可能性は高く、そのポテンシャルが白馬エリアにはある
〇 オールシーズンの意味では、冬はともかく、グリーンシーズンのアトラクションを増やすこと、リゾートの意味では、ノンスキーや登山をしない人が遊びに来られる場所を作ることが必要だ。
〇「2泊3日、3泊4日なら白馬が楽しいよね」と思ってもらえるコンテンツを、夏を含めて作っていく。
〇 アジアの人たちに、「ウィスラーや、ヨーロッパ・アルプスじゃないよね」とアピールするなら、インフラも、アクティビティも、サービスも世界水準のものにアップデートしなきゃいけない。
 筆者が、白馬村としての戦略や地域内のコンセンサス形成について聞くと、福島氏は、「コンセンサスは取れてなくても、突っ走ってものすごくいい結果になる場合もある。顧客の声を聞きすぎて、世論の後追いしているだけの観光地になってしまうケースはすごくある。でもそれって面白くない。住民が地域の観光アセットや自然資産をどのように楽しんでいるかに、一番注目していかないとと思う。」と話した。
 福島氏の発言は、消費者ニーズを調べてヒットを狙うという「マーケット・イン」的な発想が有効なのか、このような考え方で観光地を本当に魅力ある場所に変えていけるのか、との問題提起であると受け止めた。
 マーケティング分野では、マーケット・インの対義語として、自分が売れると考えた製品を世に問う「プロダクト・アウト」という言葉も使われる。観光地経営にあっても、自分が経営する際の考え(コンセプト)や心(マインド)をしっかり持つこと、このことの大切さをあらためて感じさせられた。
 現在、白馬村では、八方尾根開発のグランピング施設「Snow Peak FIELD SUITE HAKUBA KITAONE KOGEN(2019年7月開業)」や、白馬岩岳マウンテンリゾートが整備した北アルプスの絶景を一望できる山頂テラス「HAKUBA MOUNTAIN HARBOR(2018年10月開業)」など、冬以外の季節にも楽しめるコンテンツが充実してきている。
 グランピング施設について、倉田氏は、次のように話した。
○ お客様で圧倒的に多いのは40代、50代で、50%以上が東京都から。
○ キャンパーではなくて、海外旅行に行く感覚で来られている方がほとんど。
〇 素晴らしい環境の中で、ゆっくりと過ごしている。従来の観光とは違うニーズを見た。
 特集4(コロナ禍下の国内旅行市場の動向とオピニオンリーダー層の旅行意向)では、「年間4回以上」と高頻度で旅行をしている層を中心に、海外旅行に回る予定だった消費額の一部が国内旅行へ還流していることが指摘されている。同施設は、まさにこうした客層に選ばれたのであろう。
 倉田氏は、また、「お客様から『皆さんここが好きなのですね、熱い気持ちを感じました。ありがとうございます』という言葉を頂く」、「お客様は最大の営業マン、お客様のご紹介で来られる方もいる」と感慨深げに話した。
 ソーシャルメディア時代の消費者行動モデルに「SIPS」がある。「共感する(Sympathize)」から始まり、共感した情報が自分の価値観や感性に合っているかを「確認(Identify)」して、「参加する(Participate)」。そして、感性を「共有(Share)」し、それを「広めて(Spread)」くれる。ここではまさにこの好循環が生まれつつある。
 コロナ禍により一層注目を集めたということはあるものの、白馬村では、コロナ禍以前から、「世界水準の、世界で10本の指に入る、オールシーズンのマウンテンリゾート」といった揺るぎない目標に向かって、様々な取り組みがなされてきた。
 和田氏の「コロナ禍で今は苦しいが、やがて需要は戻ってくる。これまでやってきたことは本質的にはなんら変えなくていい。」との発言に、福島氏、倉田氏も大きく頷いていた。

まとめ

 我が国では、人口減少・少子高齢化などに伴い、日本人の国内旅行消費額は、将来的に大きな伸びが見込めない。そうした中、全国的に訪日外国人旅行者の誘致が活発化してきた。
 観光庁の統計によると、コロナ禍以前の2019年、日本国内計での旅行消費額は27.9兆円であった。内訳は、日本人の国内宿泊旅行17.2兆円(61.4%)、日本人の国内日帰り旅行4.8兆円(17.1%)、日本人の海外旅行〈国内消費分〉1.2兆円(4.3%)、訪日外国人の旅行4.8兆円(17.2%)であった。
 訪日外国人旅行者の旅行消費額は徐々に拡大してきてはいるものの、依然として日本人の旅行消費額が8割以上を占めている。コロナ禍前に全国各地で繰り広げられていた訪日外国人旅行者の誘致合戦はいささか行き過ぎた感があったのかもしれない。
 そうした状況に、奇しくもコロナ禍が立ち塞がり、改めて日本人の旅行を見直すきっかけになったのは皮肉なものである。しかし、これを前向きに捉えて、日本人マーケットに向き合うことが大切なのではないだろうか。
 その意味では、今回、特集2(コロナ禍の最中に見いだした、明るい兆し)で取り上げたそれぞれの取り組みは、コロナ禍にあって、日本人の需要を取り込もうと、安心安全に配慮し、蜜を避け、かつ魅力的な旅行スタイルやレジャーの提案を行ってきた先進事例であると言える。旅行者の旅行意欲を喚起し、実際の旅行行動に結びつけ、一定の成果を上げ、次に繋がる手ごたえが得られていることは、何よりも心強い。観光は、魅力ある経験価値を提案、供給することによって、需要を生み出すことができることを確信した。
 特集4(調査2:コロナ禍下の国内旅行市場の動向とオピニオンリーダー層の旅行意向)にも、2021年の旅行意欲は決して低くないとある。このコロナ禍で加速化、あるいは顕在化した旅行スタイルやレジャーが、今後、どのように社会に受け入れられていくのか、引き続き注目していきたい。

おわりに

 コロナ禍で、私たちは、これまで〝当たり前〞であったことが、〝当たり前〞でなくなるという、つらく厳しい経験を味わってきた。しかし、そうした中でも、観光・旅行分野では、創意工夫を凝らして、需要を創出してきた。
 今後、願わくは、もう一歩進めて、これまでかけ声ばかりで果たせなかった、「滞在」という需要を顕在化させたい。
 日本人の宿泊観光旅行は、旅行目的や旅行先での滞在活動は多様化しつつも、沖縄などを除けば、1泊2日の旅行が中心であることが、各種の調査からも分かっている。
 旅行日数の拡大には、市場(需要)側の意識や、休暇制度、有給休暇取得率の問題、観光地(供給)側の対応といった問題が存在するが、コロナ禍にあって、一部の業種では、リモートワークやワーケーションの導入により、働き方や休み方が変化してきている。
 そのためには、一泊旅行や周遊旅行に特化した受け入れの仕組みを滞在型に変えていくこと、例えば、宿泊施設の多様化や、その地域ならではの楽しみ方の提供などである。白馬村のように、2泊、3泊して、豊かな時間を過ごしてもらえるには何が必要かを真剣に考えることが、第一歩となる。
 旅行のあり方は、社会環境やその時代の価値観を反映して変化してきた。コロナ禍を経験した今だからこそ、滞在して楽しむという旅行スタイルを「新しい当たり前」として確立したい。
(よしざわ・きよよし)

資料
公益財団法人日本交通公社
「新型コロナウイルス感染症流行下の日本人旅行者の動向」
https://www.jtb.or.jp/research/theme/statistics/statistics-tourist/
https://www.jtb.or.jp/wp-content/uploads/2021/01/gallery-kikaku-2021-1-3.pdf
公益財団法人日本交通公社
「温泉まちづくり2012年度温泉まちづくり研究会ディスカッション記録」
(小林英俊、久保田美穂子、吉澤清良)
https://www.jtb.or.jp/publication-symposium/book/onmachi-report/onmachi-report-2012/