④ 「観光政策の動向」

 本年6月からの添乗員付きパッケージツアーでの外国人観光客の受入再開を皮切りに、政府として、観光の「再起動」に向けて様々な取組を実施してきた。
 現在も、インバウンドの復活に向けて様々な取組の可能性について模索している段階であるが、本稿では、特に本年5月以降にスポットを当てながら、今日に至るまでの本格的な観光の「再起動」に向けた直近の観光政策の動向について振り返る。
 なお、本稿に記載している内容は2022年9月現在の情報である。

外国人観光客の受入再開

 2020年3月以来、コロナ禍の影響により訪日観光は実質的に停止していた状況にあったが、再開に向けて必要な材料を収集するため、本年5月には感染状況を踏まえて昨年11月から実施を見合わせていた実証事業について、国内旅行会社が行動管理を行う少人数のパッケージツアー形式によって実施した。この事業では、外国人観光客の受入再開にあたり、旅行業者や宿泊事業者等が留意すべき点を整理するため、感染防止対策の遵守方法や緊急時対応等について検証を行った。本実証事業の実施概要は左記のとおりである。

 この実証事業において得られた知見や、ツアー参加者等からの様々な声を踏まえながら、感染拡大防止のために留意すべき事項や、陽性者発生時を含む緊急時の対応に関し、ツアーの造成から終了に至るまでの各段階で、旅行業者、旅行サービス手配業者、添乗員、宿泊事業者等の観光関係者が取るべき対応について、観光庁においてとりまとめを行い、本年6月10日からの添乗員付きパッケージツアーの受入開始に合わせ、同月7日に「外国人観光客の受入れ対応に関するガイドライン」を策定・公表した。このガイドラインについて、観光庁において旅行業者をはじめとした観光関係者へ広く周知をするとともに、関係者へ内容の十分な理解と遵守を求め、受入地域における理解と安心感の醸成に取り組んできた。こうして、およそ2年にわたって実質的に途絶していた訪日観光が再開し、我が国はインバウンドの復活に向けた第一歩を歩み始めた。

「地方における高付加価値なインバウンド観光地づくりに向けたアクションプラン」の策定

 このような外国人観光客の受入再開に向けた取組も実施しながら、観光庁では、コロナ後を見据え、本格的なインバウンド回復に向けた準備も進めてきた。コロナ前のインバウンドを振り返ると、訪日外国人旅行者数は2019年に3千万人を超えていたものの、旅行消費額は4.8兆円(2020年の政府目標:8兆円)であり、また、外国人観光客の地方部への誘客に向けた取組も十分とは言えない状況にあった。こうした中で、観光消費の旺盛な、いわゆる高付加価値旅行層(1人当たりの着地消費額100万円以上の旅行者を指す)は、訪日外国人旅行者全体の約1%(約29万人)に過ぎないものの、消費額全体の約11.5%(約5523億円)を占めていた。ただし、こうした高付加価値旅行層はこれまで大都市圏での買物消費等が多く、地方での消費が少ないことから、地方への誘客を促進することにより、地方創生への貢献も期待されている。
 このため観光庁では、高付加価値旅行層の誘致により、地域の活性化やコロナ前に政府目標の達成に向けた取組状況が不十分であった訪日外国人の旅行消費額の拡大を実現するため、地方への誘客にあたって必要な課題や取組を、ウリ(高付加価値旅行層のニーズを満たす滞在価値)、ヤド、ヒト(地方への送客、ガイド、ホスピタリティ)、コネ(海外の高付加価値旅行層とのネットワーク、情報発信)そしてアシの5つの観点から、「地方における高付加価値なインバウンド観光地づくりに向けたアクションプラン」を本年5月末に取りまとめた。現在は、高付加価値旅行層の誘致につながる観光地づくりに向けて、モデルとなる観光地の公募を本年8月から開始しており、観光庁では来年度以降、モデル観光地を対象としてアクションプランに基づき集中的に施策を実施していくこととしている。

外国人観光客の受入拡大

 本年6月の外国人観光客の受入再開以降、観光目的での我が国への入国者数について、6月は受入再開から間もないこともあり252人という人数であったが、7月には7903人、8月は1万826人と徐々に増加してきており、引き続きインバウンド復活に向けた歩みを進めている。一方で、受入再開以降も、旅行業界をはじめとした観光関係者からは、入国者数の上限や、出国前検査証明書の提出、ビザ緩和等、今後の外国人観光客の受入れのあり方について、様々な声や要望があった。観光庁では、こうした声や要望を受け止め、関係省庁とも連携しながら、外国人観光客の受入れのあり方について検討を進めてきた。
 こうした中で、水際措置の見直しが行われ、本年9月7日からは、①出国前検査証明書提出の見直し、②外国人観光客の入国制限の見直し、③入国者総数の引き上げの3点について実施されることとなった。それぞれ具体的には、①有効なワクチン接種証明書を保持している全ての帰国者・入国者については、出国前72時間以内に受けた検査の陰性証明書の提出を求めないこと、②旅行業者等を受入責任者とするパッケージツアーについて、添乗員の同行を伴わないものも認めるとともに、対象国・地域も全ての国・地域に拡大すること、③入国者総数の上限について、従前の1日2万人目途を、1日5万人目途に引き上げることとなった。これに伴い観光庁では、「外国人観光客の受入れ対応に関するガイドライン」の改訂を行い、添乗員を伴わないパッケージツアーにおいても、感染拡大防止の徹底や緊急時の対応体制が確保されるよう、旅行業者をはじめとする観光関係者がとるべき対応について改めて整理をするとともに、関係者へ広く周知を行ってきた。

今後の観光政策

 これまで振り返ってきたとおり、6月の外国人観光客の受入開始からおよそ3ヶ月が経ち、インバウンドの回復に向けた取組をこれまで段階的に実施してきた。10月11日からは、外国人観光客の受入れについて、パッケージツアーに限定する措置が解除され、個人旅行が解禁されることとなった。また、併せてビザ免除の措置も再開されることとなった。これにより、観光目的での入国については、コロナ禍より前と同様の体制となることとなり、インバウンドのさらなる回復が期待されている。
 観光庁としては、国内外の感染状況や各国のインバウンド再開状況を踏まえながら、他の観光先進国との競争に乗り遅れないよう、国際観光振興機構(JNTO)による国別・年代別のきめ細かなプロモーション等を通じて、観光の「再起動」に向けて引き続き取り組んでいきたい。


齊藤敬一郎(さいとう・けいいちろう)
観光庁国際観光部国際観光課長。1997年運輸省入省。観光庁観光産業課調査室長、国際観光振興機構(JNTO)北京事務所長等を経て、2022年8月より現職。