わたしの1冊
第28回

『となりのアルゴリズム』
篠田裕之・著
光文社刊

佐藤勘三郎
宮城県仙台市秋保温泉
株式会社ホテル佐勘 代表取締役社長

 キリンの首の骨(頸椎)は何本あるかご存じでしょうか。実はほとんどの哺乳類の首は見た目の長さにかかわらず7個の頸椎から成り立ちます。キリンの首の骨はヒトと同じく7個ということになりますが今から数年前、第一胸椎が高い可動性を持ち全部で8個の背骨が首の運動に関与していることが明らかになりました。ですから正解は8個ということになります。
 しかしキリンの首の骨が7個であろうが8個であろうが一般人としてはどうだっていい、という言い方もできます。一部の生物学者もしくは解剖学者にとっては重要な発見かもしれませんが社会通念上、それが実社会にどのような意義を持つのか考えてみると甚だ心もとなくもあります。しかし最近になってこの第一胸椎によりキリンの首の上下の可動域が50cmも広がる構造をパワーショベルやバックホー等の重機の構造に運用する研究が始められたそうです。自然科学が産業技術に与える影響は決して無視できません。
 さて、私事ですが昨年齢(よわい)61を迎え知力・体力の衰えをとみに実感するところです。特にAIやITは年を追うごとに複雑さを増し、知力の衰えた私にとっては用語レベルですらついていけない状態になってしまいました。しかし人生100年時代を迎えた現在、残り40年近くを「わからない」まま過ごすことになってしまって良いのか自問自答した末に心機一転、日本ディープラーニング協会が主催している「G検定」にチャレンジすることにしました。
 当方根っからの文系ですが「G検定には初級高校数学が必要」と言われ焦りまくり「サルでもわかる偏微分(高3レベル)」を購入。微分どころかΣも、そういえばシグマと読むのだったというレベルの超門外漢。しかもその成り立ちからか英語がバンバン出てきますが、白状するとそちらも門外漢(情けない)。危うく白旗をあげ、全面降伏するところでした。
 その現状を救ったのが今回ご紹介する篠田裕之著『となりのアルゴリズム』。副題には「自分で答えを出すためのデータサイエンス思考」とあります。そもそも私が生業としている観光業は労働生産性が低くDX化が立ち遅れている産業といわれております。そこでは既存するAIプログラムを機械的に当てはめるのではなく、業界問題解決に向けた「考え方」を実装する必要があると理解しております。将棋界のプリンス、藤井聡太竜王に代表されるいわゆるAI脳にシフトチェンジする必要がありそうです。
 本書では様々なIT用語「隠れマルコフモデル」「モンテカルロ法」「ベイズの定理」「サポートベクターマシン」等の意味ありげな、かつ初学者にとっては意味不明な言葉が頻出します。しかし当たり前ですがこれらの言葉には社会や個人の心理に裏打ちされた明確な「意味」があります。そのデータサイエンス用語と社会的実装を結び付けたものが本書になります。例えば「局所最適解」。これを言い換えるなら「一面の真実」となるでしょうか。本来あるべき「大正解」までたどり着けず「間違いではないレベルの正解」=「局所」にとどまり安住してしまう思考の足りなさを指しています。もう一歩進んだ「大域最適解」までたどり着く思索の深みが私たちの日常でも求められております。
 ところで、G検定はどうなったかですって?ポンコツながらセーフ、でした。すっかりディープラーニングにはまってしまった私ですが次なる獲物(?)を目指して「基本情報技術者試験」に挑んでみようかと思っております。


佐藤 勘三郎(さとう・かんざぶろう)
宮城県仙台市秋保温泉 株式会社ホテル佐勘 代表取締役社長
東北学院大学経済学部卒業。1988年4月株式会社ホテル佐勘入社。1990年2月専務取締役就任。2005年8月代表取締役社長就任、氏名を佐藤善也から佐藤勘三郎に変更(襲名)現在に至る。全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会 常任理事、宮城県ホテル旅館生活衛生同業組合 理事長、宮城県中小企業団体中央会 会長などを務める。2012年10月厚生労働大臣表彰、2018年11月藍綬褒章受章。