活動報告第32回
旅行動向シンポジウムを開催

「第32回旅行動向シンポジウム」開催概要
テーマ……コロナ禍からの再起動に向けて
開催日時…2022年10月27日(木)14:00〜16:30
     2022年10月28日(金)14:00〜16:30
開催方法…オンライン開催
参加者数…1日目…167名、2日目…143名

 2022年10月27日(木)・28日(金)の2日間にわたり、第32回旅行動向シンポジウムを開催しました。
 2022年は、10月から訪日外国人旅行客の個人旅行解禁やビザ免除措置の再開、国内旅行の需要喚起策である全国旅行支援の開始といった動きがあり、観光の再起動に対する期待が高まりつつある中で、テーマを「コロナ禍からの再起動に向けて」として、現在の旅行動向を市場編と観光地編に分けて報告しました。
 オンラインのみでの開催となりましたが、今年も多くのお申込みをいただき、2日間で延べ310名の方にご参加いただきました。

1日目(市場編)

 市場編では、当財団が継続的に実施している独自調査の結果などをもとに、「withコロナにおける世界・日本の観光のいま」を取り上げました。

1.withコロナにおける世界・日本の観光動向では、様々なデータや独自調査「都道府県・市町村の観光政策に関するアンケート調査」の結果を活用して、新型コロナウイルス感染症の動向や旅行・観光の動向、そしてコロナに対する諸外国・国内の対応について報告しました。

ポイント

○ 世界的には、ワクチン接種の進展、重症化リスクの低いオミクロン株の出現により、感染はするが重症化しない(死者数は少ない)という状況へ移行しつつある。
○ OxCGRTプロジェクトの「国際的な渡航に関する規制」指標からは、入国に関する規制の撤廃・緩和に関して、アジア・太平洋地域で特に慎重な対応を取る傾向にあることがわかる。
○ 独自調査「都道府県・市町村の観光政策に関するアンケート調査」の結果からは、我が国の地方自治体にとって、地域政策としての観光振興は引き続き重要度が高いものとして認識されている。
○ さらに、全国を対象とした需要喚起策やインバウンドの個人旅行受け入れが始まったことで、観光の再起動が期待される状況にある。

2.withコロナにおける日本人旅行者の動向・意識では、当財団の独自調査である「JTBF旅行実態調査」「JTBF旅行意識調査」などをもとに、日本人の旅行実施状況や旅行内容の変化、今後の旅行意向などについて報告しました。

ポイント

○ 新型コロナウイルスの感染状況が国内旅行実施に与える影響は徐々に弱まっている。自粛要請が国内旅行の実施に与える影響は大きかったが、まん延防止等重点措置の影響は限定的であった。コロナに対する不安も徐々に減少しており、2021年末を転機として国内旅行市場は回復期に移行した。
○ 旅行の動機は「日常生活からの解放」が増加し、10年ぶりに最大の動機となった。コロナ禍の長期化にともない、そろそろ解放されたいという思いが強くなっていることがうかがえる。旅行の内容は、コロナ禍の特徴であった〝密や接触を避け、短期間・同居の家族と〞は徐々にコロナ禍前に戻りつつある。〝域内旅行、分散して柔軟に行動できる形態〞は一定程度定着し、活動の厳選は続く。
○ 今後の旅行意向は、徐々に増加しているものの高止まりしており、特に70代女性で慎重な姿勢であった。行ってみたい旅行先はコロナ禍を経ても「温泉・自然」の人気が高かった。
○ 海外旅行意向は、次第に高まっているものの未だに低調で、円安などコロナ以外の影響も大きい。また、コロナ禍の長期化により、海外旅行への意識低下の可能性もあり、海外旅行から国内旅行へのシフトは今後もしばらく続くと考えられる。
○ コロナ禍で進んだ「旅行に行く人はより行く、行かない人は行かない」といった旅行市場の二極化のさらなる進行が懸念される。コロナ禍からの再起動に向けては、コロナ禍に観光以外に充てられていた時間とお金を固定化させずに観光に再び振り向けてもらうことが必要。また、地域住民の観光に対する思いも大切にし、地域社会と観光を調和させていくことが求められる。

3.withコロナにおけるインバウンド市場の動向・意識では、(株)日本政策投資銀行と共同で実施している「DBJ・JTBF アジア・欧米豪 訪日外国人旅行者の意向調査」などをもとに、外国人旅行者の海外旅行の回復状況や変化、本格的な受け入れに向けて取り組むべき事項などについて報告しました。

ポイント

○ 水際対策の大幅緩和により、欧米豪を中心に海外旅行先から除外されていた日本の海外旅行先としての人気回復が期待される。欧米豪市場は、既に2022年の夏の休暇は終わっている段階にあり、2023年の夏に焦点を当てたプロモーション、受入体制の整備が必要となる。
○ 本格的な訪日インバウンド市場の回復の観点からは、コロナ禍以前に市場の7割以上を占めていた東アジアの動向に注目。台湾や香港等をはじめとする高い訪日意向が訪日需要に結びつくのか、また、訪日需要の本格的な回復という観点では、人数、消費額ともに訪日市場へのインパクトが大きい中国市場がいつ海外旅行を再開し、訪日需要が回復するのかという点を注視する必要がある。
○ 円安は、訪日需要の追い風となっている。特に、国籍・地域関係なく期待が高い日本食、東アジアの訪日リピーターを中心に期待が大きい買い物等をフックにした消費促進が期待される。
○ コロナ禍においては、旅行者の嗜好が変化したことに留意する必要がある。例えば、サステナブル旅行やアウトドアアクティビティへの関心が一層高くなった。アウトドアアクティビティについては、雪、植物、フルーツ、動物、星空、農山漁村等、アジアでは地方部の地域資源を活用できるアクティビティへの関心が高い。コロナ禍以前から高い地方部への訪問意向を実際の来訪につなげるために、こうした嗜好は地方部誘客の機会となり得る。
○ 東アジアでは台湾や香港を中心に日本のモノ・サービスが拡充され、訪日せずとも、幅広い分野で質の高いモノ・サービスを消費できる環境がコロナ禍で進んだ。訪日需要が再開した際には、こうした消費環境の変化を念頭に置き、日本だからこそ〝購入できる〞〝体験できる〞価値をわかりやすく提供することが重要である。

1日目総括

 コロナ禍で長期にわたり一度途絶えた移動という習慣が元に戻りつつあるということは、観光が我々の生活に深く根差していて、重要な生活上の価値を生み出しているからこそである。そこに関係する我々は、いま、よりよい観光を生み出していく取り組みを再び始めるタイミングにある。エンデミックの世界では、過去を振り返ったうえで、賢く、観光を再起動していくことが必要となる。

2日目(観光地編〜地域社会と調和する観光〜)

 観光地編では、コロナ禍からの再起動にあたり不可欠な観点である「地域社会と調和する観光」に焦点を当て、観光地の現在の観光事情を報告するとともに、サステナブルツーリズム及びレスポンシブルツーリズムの観点から今後の観光地の在り方を考えました。

1.サステナブルツーリズムの視点では、サステナブルツーリズムの定義・系譜に触れながら参加動機(マインドセット)について事例を交え、サステナブルツーリズムをめぐる視点を整理しました。

ポイント

○ 1987年の環境と開発に関する世界委員会では、初めて持続可能な開発の定義がされた。以降、社会全体の持続可能性にとどまらず、観光分野でもサステナブルツーリズムについて定義づけがされてきた。2020年には、「観光地向けの持続可能な観光の国際基準(GSTC‐D)」に準拠した「日本版持続可能な観光ガイドライン(JSTS‐D)」を制定した。
○ サステナブルツーリズムの参加動機では、〝何を持続させるのか〞と〝取り組みの時間軸〞が主なルーツ・モデルの中心となっている。〝何を持続させるのか〞では、トリプル・ボトム・ライン(環境、社会、経済)の3つに、〝取り組みの時間軸〞には、中長期的な視点に基づく「ビジョン追求型」と短期的な問題解決に取り組む「問題解決型」の2つに分類でき、この組み合わせで、計6つのマインドセットに分類できる。
○ タイのマヤビーチでは、観光客の増加によってサンゴ礁や海洋生物の環境が悪化したという事例がある。タイ政府はこれに対し2018年から2021年まで観光客の立ち入りを禁止していた。これは、短期的収入よりも一定の資源回復を優先したケースとして、環境×問題解決型に分類できる。
○ 世界で最も高い炭素税を導入したスウェーデンの事例では、炭素排出量の減少と安定した経済成長の両立に成功しており、環境・経済×ビジョン追求型のケースといえる。また、アドベンチャーツーリズムや地域観光などの持続可能な観光戦略に力を入れていることから、国民の環境意識の高さも特徴である。
○ 様々な取組事例があるが、サステナブルツーリズムの概念は幅広く、取り組むべき内容の濃淡・バランスは、地域の状況・課題によって異なる。したがって、地域によって同じ取り組みにはならないことに留意しなければならない。

2.ポストコロナの欧州観光事情では、コロナ禍でいち早く国際的な往来を再開した欧州におけるコロナ禍からの再起動に向けた観光戦略や実際の取り組みについて、9月末から10月初めにかけて実施したデンマーク視察の様子を紹介しながら報告しました。

ポイント

○ コペンハーゲン・ボーンホルム島では、プラスチック不使用の既製品が主流で、自転車やレンタサイクルが普及している様子からみても、サステナビリティが生活に溶け込んでいた。また、消費者が環境配慮商品を選択できるよう品揃えも豊富だった。日本においてもサステナブル(環境対策)は、ポストコロナにおいて、社会全体に確実に訪れる大きなライフスタイルの変化となる。観光もそのような社会を見据える必要がある。
○ Visit Denmark、Destination Bornholmへのインタビューからは、彼らの役割がサステナブル社会において観光によって地域を成長させることであることがわかった。トップシーズンではなく閑散期の集客、市民生活への配慮や地域の中小企業支援に注力しながら、地域経済の活性化によって持続可能な地域とすることが重要なテーマである。また、サステナブルは訪れる理由にはならないが、再び訪れる理由として重要になるという点から、デンマークの主なターゲットである北欧やドイツなどのサステナブル先進国市場に対して、「サステナブル×本来の魅力、滞在の魅力(経験価値)」をブランド化してアピールしている。地産地消や滞在(散策・ローカルな体験等)、地場産業と連携した取り組みやイベント、企業研修・会議等は顧客の経験価値としても大切である。
○ 観光客に向けて環境にやさしく、楽しい時間を過ごす観光を発信し、楽しめる・選択できるといった伝え方や見せ方が必要。観光客が住民や地場産業と直接コミュニケーションをすることで、質の高い新たな体験を生み出すことに繋がる。

3.Mālama Hawai‘i:マラマハワイ〜ハワイが問いかけるレスポンシブルの視点〜では、ハワイ州観光局日本支局長 ミツエ・ヴァーレイ氏から、自然や文化、地域に「マラマ 思いやりの心」を持って接するレスポンシブルな観光地を目指す考え方について、事例や動画を用いてご紹介いただきました。

ポイント

○ パンデミックの中、ハワイ州ではロックダウンなどによって観光業が大打撃を受けた一方で、観光客の減少によってハナウマ湾の透明度が目に見えて上がるなど自然環境の改善も見られた。このことは、地域住民の意識にも変化を与え、自然回帰への意識が高まることとなった。そのような中で、今後、経済と環境保全のバランスをどのように保っていけばよいか、観光以外の産業をどのように活性化していけばよいか、条例や規定の強化も含め、様々な意見交換が盛んに行われた。

○ その結果、ハワイ州観光局(以下、HTA)は、〝ブランディングからマネジメント〞、〝プロモーションからエデュケーション〞へと方針を転換、啓蒙活動を通じたレスポンシブルな旅行者の誘致、関連機関と協力した住民参画型の観光の展開などを目指し、島ごとに3か年のデスティネーションマネジメントアクションプラン(以下、DMAP)を策定した。策定にあたっては、地元のコミュニティとの協議を何度も重ねた。
○ 新しく策定したDMAPでは、レスポンシブルで意識していた思いをさらに強め、我々の大切な資源を5世代先の世代に残していくことを強く意識した〝リジェネラティブツーリズム(再生型観光)〞を掲げている。具体的には、ボランツーリズム(ボランティア観光)による地域住民と訪問者が相互に交流できるプログラムや、made in Hawaiiのものを買うことでコミュニティに資源が還元されるようなプログラムなど、様々な取り組みを島ごとに検討し、実施している。
○ また、KPI(重要業績評価指標)の内容も大きく転換した。これまで「訪問者数」や「滞在日数」を重視していたが、「訪問者の満足度」や「訪問者の消費額」を追加しただけでなく、「住民の満足度」も指標に加えた。
○ それぞれの島にはプレッジ(地域住民が守り、気をつけていること)があり、その内容を地域住民が直接伝えるストーリービデオをHTAが制作、公開している。そして、旅行者と地域コミュニティを繋げるために宿泊税の一部を地域団体に還元し、HTAコミュニティサポートプログラムで、自然保護や文化継承、地域主催イベントのサポート、次世代教育に関する支援に繋げている。
○ コミュニティが守りたいものを、どのように旅行者と一緒に守っていけるか。そのためには長期的にマラマハワイのメッセージを流し続け、旅行者にハワイの方向性を理解してもらう必要がある。メッセージングや来島前のエデュケーションなどの啓蒙活動、プログラム開発を続けていくとともに、地元コミュニティとの対話、コミュニケーションを続けていく。

4.サステナブルとレスポンシブル〜おきなわサステナラボの活動を通じて〜では、関連用語の整理と沖縄の〝ちむぐくる〞を感じられる取り組み事例、パンデミックを契機とした意識の変化を土台に、コロナ禍後に国内で求められるサステナブル・レスポンシブルツーリズム推進のためのポイントを整理しました。

ポイント

○ 沖縄県では、「やさしくて、あたらしい島の旅」をテーマにおきなわエシカルスタイルを推奨しており、様々な分野でのエシカルな楽しみ方を紹介している。ポジティブな活動が行われている一方で、現場レベルでは空港構内でのレンタカーの違法貸出やダイビングでの餌付けなど、問題点を抱えたままの状態となっている。このように、問題を抱えたまま対外的にビジョンを標榜してよいのかという、理想(ビジョン)と現実(問題)のジレンマが発生している。
○ レスポンシブル(責任)という単語は、大きくResponsibility(遂行責任)、Accountability(説明責任)、Liability(賠償責任)の3つの意味に分けられる。前述の理想と現実のジレンマが発生している場合は、説明責任を果たせているかが重要であり、短期的な問題解決に取り組む「問題解決型」では、受動的でとにかく行わなければならないという賠償責任に基づいて取り組むものである。一方で、地域が能動的・自発的に最後までやり遂げる遂行責任を果たす場合は、「ビジョン追求型」であるといえる。ビジョン追求型の取り組みは、想いや信念、覚悟がなければ持続しないため、根本的な目的・姿勢が地域側に求められている。
○ 欧州やハワイの取り組みを見ても、先行して取り組む地域が拡大することで市場意識も変化している。加えて、脱炭素化・ミレニアル世代の台頭も含めて、社会全体の意識も変化している。その中で日本は、まだ進んでいるとは言いづらい状況かもしれないが、着実に動いてきていることが市場意識の変化として挙げられる。
○ サステナブルツーリズムに王道はない。地域の現況と課題によって、何から取り組むのか、何を目指すかは異なるため、すべて同じ取り組みにならないからだ。サステナブルツーリズムにおいて、地域内外の環境分析と優先順位の位置づけが必要である。短期的な問題解決型の取り組みは、対処療法として早急に必要だが、中・長期的なサステナビリティのためには、中・長期を視野に入れたビジョン追求型の取り組みも求められている。
○ 沖縄県のちむぐくる(人の心に宿る深い思い)を感じる取り組みでは、くるちの杜100年プロジェクトやガンガラーの谷の事例を紹介した。沖縄には「ぴとぅるぴきむーるぴき」という「一人が立ち上がれば、みんなも立ち上がる」という意味の言葉があり、実施しているひとから動き出そうとの意味が込められている。誰かが動き出せば変化する・仲間が増えるという意図である。その際に重要なのは、実践者を正当に評価することによって全体の質を引き上げていくことである。特に国内では、責任ある旅行者を呼び込む前提として、良い取り組みを広げて外部の共感に繋げることが重要だ。地域側のレスポンシブルや覚悟、遂行責任能力の向上が、いま非常に求められている。

2日目総括

 地域社会とどのように向き合っていけばよいかに対する答えの一つは、観光はそこでの暮らしにはなくてはならないものとして地域の中で広く認められることである。そのためには観光事業者と地域コミュニティとが話し合う場をつくり信頼関係を生み出し、協働で諸課題に対応するという枠組みをつくり、保ち続けることが大切である。そして、すべての人々が豊かな人生を送るには観光はなくてはならないという思いを新たにし、観光に携わる私たち一人一人が誇りを持って自分の仕事に取り組むという意識が大切であり、それこそがサステナブルツーリズムの礎になる。

 以上をもって2022年のシンポジウムは幕を閉じました。当財団は、今後も旅行・観光分野の実践的な学術研究機関として時代を見据えた調査研究に取り組み、その成果を社会に発信してまいりたいと思います。

※第32回旅行動向シンポジウムプログラム・講演資料
https://www.jtb.or.jp/seminar-symposium/doukou2022/
『旅行年報2022』(公財)日本交通公社2022年
https://www.jtb.or.jp/publication-symposium/book/annual-report/annual-report-2022/
報告:観光文化振興部 企画室