③…❼ 島根県立大学
地域に貢献する島根県立大学―連携の実例と見えてきた課題―

はじめに

 近年多くの大学で、地域連携による教育・研究活動が推進されている。2006年に教育基本法が改正され、大学の使命として社会貢献が位置付けられた。文科省は大学改革の一環として「GP事業」、その後継としての「地(知)の拠点整備事業(COC事業)」、「地(知)の拠点大学による地方創生推進事業(COC+事業)」を推進するなど、大学の社会貢献はますます重視している。
 本学も大学憲章で「『地域のニーズに応え、地域と協働し、地域に信頼される大学』を実現する」と謳っているとおり、地域連携を積極的に展開している。筆者は上記文科省事業のうち、本学「COC事業」の教育プログラムの開発・実施にかかわる一方、教員としても学生とともに取り組んできた。その過程ではもちろん多数の成果を上げたが、他方で課題も多く直面してきた。本小論では、そうした筆者の実体験としての側面から、大学の地域連携における課題を指摘したい。

地域づくりで期待される大学の役割

 大学の地域連携について地域づくりの側面からとらえてみよう。周知のように2008年に閣議決定された国土形成計画では「新たな公」が掲げられた。従来、「官か民か」といった二元論で各種政策が構築されてきたが、共助社会を実現するという理念のもとで新しいアクターがここに登場した。高等教育機関(以下、さしあたり「大学」という)は地域社会のステークホルダーの一角をなすものとして、地域づくりにおいて中心的な役割を担うと見做されるようになった。
 「新たな公」は、公共交通やまちづくりの分野では頻繁に出てくるキーワードで、交通不便地域において自治会等が主体となった輸送活動や、買い物弱者対策などの議論でよく登場する。これらの分野では、それを促す法的な枠組みも用意されている。具体的に、バスや鉄道などの公共交通分野では、2007年に策定された「地域公共交通の活性化及び再生に関する法律」ではまちづくりと連動して交通計画を策定する必要性を述べ、これに基づき地域の主体が交通計画の策定にかかわっている。
 空港も地域のステークホルダーがかかわることが求められている分野の一つである。特に地方では利用者が減少傾向にある航空路線も多い。これまでは事業者による自助努力を基本にしてきたが、国際的な航空競争の中でその自助努力にも限界がある。かつては国の政策配慮もなされたが、財政的な負担や国民的な合意も課題である。そうしたなか、地方では路線の利用者の多くが地方の地元であるため、地元が主体になって活性化に取り組むべきというわけである。
 このように、かつては事業者任せ・行政任せで済ませられていたものが、現代では地元地域があらゆる事柄に積極的に取り組まなければならなくなっている。その方が地域のニーズを反映した適切な取り組みがしやすいからである。その際、地元の大学が果たすべき役割は以前より大きいはずである。ところが、大学・地域の現場は今までにその経験がなかっただけに大学の地域連携に関して多くの課題が指摘されてきた。一般的には主に次のようなものがある。第1に、資金の継続性をどう担保するかという課題。第2に、組織的な対応の難しさ(教員の属人的なレベルでの地域連携は機動的である反面、組織としての蓄積は難しく、調整に手間がかかる)。第3に、教員や地域双方に連携する動機付け(単に資金的なことだけでなく、互いにニーズやシーズを把握できていないため、互いの資源が有効活用されないという問題)などである。
 このような一般的な課題は、本学の場合も例外なく直面し、試行錯誤を重ねてきた。筆者は本学に赴任してから10年間、学内に地域連携の窓口となる「地域連携推進センター」の委員および副センター長を務めてきた。以下では、本学における地域連携の若干の工夫と筆者の認識している課題について紹介したい。

本学における地域連携の特徴

 まず、その仕組みである。現在の本学における地域連携は、2013年度から5年間にわたって実施された文科省「地(知)の拠点整備事業(以下、「COC事業」)がベースになっている。COC事業で、本学は「縁結びプラットフォーム」という仕組みを用意し、地域課題の解決に向けた連携活動を支援する仕組みを設置した。地域からのニーズと本学の専門性(シーズ)をマッチングすること、地域の人々に学びの場を提供すること、さらに研究成果を地域に還元することを一元的に集約する仕組みである。
 次に活動の原資について。当初は文科省のCOC事業予算を充当した。COC事業終了後は大学の独自予算を充当し(「地域貢献推進奨励金」など)、引き続き大学として活動を支援している。実はこれ以外にも大学外の資金を原資とする連携事業が継続的に実施されている。上述のように、一般的によく指摘される活動資金の問題や連携調整の問題は、本学に限っては比較的恵まれているのかもしれない。
 学生に対する教育支援の側面ではどうか。本学では、COC事業採択から、地域で活躍する人材を育てる「しまね地域マイスター」認定制度を創設・実施してきた。地域の諸課題に対して向き合い、課題解決に向けた行動力のある人材を養成するもので、条件を満たした学生を「しまね地域マイスター」と認定する仕組みである(図1)。

 1年生の段階でこの認定制度を活用して履修をするかどうかを決め(エントリー)、プログラムがスタートする。学習上欠かせない科目を指定し、学問的な知識を深めるとともに分析スキルを向上させる。2年生以上の学年で、PBL型の研究プロジェクトを学生の関心に応じて設定する。そしてプロジェクトの成果を年度末に開催される「KENDAI縁結びフォーラム」で報告するという流れである。
 なお、「KENDAI縁結びフォーラム」は、本節冒頭で述べた「縁結びプラットフォーム」の機能を具体化する一大イベントである。ここでは、大学関係者の成果報告だけでなく、翌年度の地域連携のマッチングの場としても活用できるよう、地元側からの発表も歓迎している。また、活発に意見交換できるよう、学食を活用してコーヒーを飲みながら気軽に意見交換できるポスター・セッションも設けている(写真1)。学会のようなプレゼンテーション・スタイルは緊張感もあり、それはそれで良い面もあるが、実質的な連携・交流の促進を考えると、気軽なスタイルのほうが効果的であるように思われる。コロナ禍の影響で2020年度はオンライン開催としたため、大規模な交流はできなかったが、技術的な面さえクリアできれば取り組みを再開したいところである。

ゼミの取り組み例

 では教育・研究に当たる現場の教員はどのように地域連携を進めているのか、実例を紹介したい。筆者の担当するゼミでは毎年、交通・観光政策を題材に取り上げて取り組んでいる。例年、大学が立地する浜田市役所、および隣接する自治体の益田市と共同で調査を実施している。たとえば、浜田市役所とは筆者が市の地域公共交通の計画策定・運用を担う「浜田市地域公共交通活性化協議会」の委員を担当していることもあり、その計画立案にかかる基礎調査を行なっている。以前は市内のすべての路線・全便に学生が調査員として乗り込んでバス停ごとの乗降人数や乗客の意見、さらに交通量も調べた上でバス路線の経路変更を提案し、実際に経路変更に至った。一年限りの場当たり的な調査ではなく、その後も市役所やバス会社と共同で、バスの「乗り方教室」も開催したり、継続的に政策立案にコミットしている(写真2)。

 益田市役所とは、おもに地元にある萩・石見空港の利活用をめぐって調査に取り組んできた。航空の利用者はビジネス・観光というまったく異なるニーズを抱えた旅客が同じ路線の飛行機を利用する。しかも、イン・アウトの違いもある。それだけ複雑なニーズを掴む必要があるが、そのための基礎調査を行なっている。首都圏在住者を対象にしたウェブアンケートに基づいてニーズを分析し、観光プランの提案も行なった。残念ながら、即採用・商品化というわけにはいかなかったが、我々の活動に関心を寄せてくれる関係者もおり、のちに株式会社読売旅行の強力な力添えにより商品化が実現した。エアラインや地元関係者も共催者としてかかわっていただき、「学生が盛り上げる!観光プランコンテスト」を実施し、そこで優秀賞に選ばれたプランを実際に商品化・販売したのである(図2)。それ以外にも、空港の取り組みを学生が取材し、YouTube動画を作成するような取り組みも行なった(写真3)。


 もちろん、これらは筆者が東奔西走して機会を見つけたというよりも、県立大学ということで一定の信頼をいただき、引き立てていただけているものである。大学としての地域貢献の姿勢がなければ、地方の小規模な大学でこれほどの機会は得られないだろう。大学組織としての対応と、教員の取り組みはいわば車の両輪のような関係で、どちらかに任せておけばよいというものではない。
 学生らはこのような活動を通して、自分たちの取り組んだ成果が実際に地元の町の政策立案に反映されている事実や、形となって残る実績に自信を深めているように見受けられ、これは教員として頼もしい。もちろん、そこに至るまでに学生の苦労も多い。プロジェクトの実施に想定外のことはつきもので、そのたびに学生は意気消沈してしまうのである。ただ、その苦労も含め、ものごとを計画・実行し、成果を出すというのは社会人になっても必要なスキルであり、多少なりともそのトレーニングにはなっているだろう。地域にとっても、学生が参画することに対して非常に好意的に受け止めてもらっている。リップサービスの部分も多いだろうが、大学という中立的な立場、かつ学生という若さから多少現実離れした提言・指摘でも、しがらみの多い大人とは違う若い人の本音を代弁しているからなのかもしれない。

今後の課題

 このように、地域連携は比較的、成果を上げているが、目下、課題もある。第1に、地域連携の質的なレベルアップである。中塚・小田切(2016)は大学と地域では、本来的にミスマッチが生じやすいと指摘している。それは、大学の教育・研究という目的と、地域側が追求する経済・社会的な活性化という目的は必ずしも一致していないからである。ある意味で同床異夢にある両者を結び付け、効果をもたらすための動機付け、及びその源泉となる適切な評価方法が必要である。現在、地域連携の評価は「地元就職率」や「連携の数」であることが多い点は課題である。なぜなら、そこに質的な評価の目線が入っていないからである。何のための連携かという基本的な視点は忘れてしまうと、形式に目を奪われ本質を見誤る。その意味で、今後は教育・研究の質や地域の主体性向上に働きかけるエンパワーメントをどういう形で計測すべきか議論を進めてよいように思われる。
 第2は、学生の主体性をいかに引き出すかである。フィールドワークは想定通りにはいかないばかりか、本来は座学以上に負担のかかる学びである。この負担は学生だけではなく、教員や地域のステークホルダーにとっても同じである。何をどのように進めるかという詳細を事前にすり合わせなければならないからである。さらに学生にとって、PBL型の学びは座学での学びと同時並行となるがゆえに、本来は相当な負担を強いるものである。しかし、往々にしてフィールドワークを遠足と勘違いしている学生もいる(遠足も教育目的を持っている!)。PBL型の学びは重視されるようになっているが、すべてお膳立てされたうえでの「体験」ではなく、学生が主体的に考えるような機会や仕掛けについて、より深く考える必要がある。
 第3に、何といってもコロナ禍による対面の難しさをどう克服するかである。オンラインでは相当的確な言葉で意思疎通しなければならない。これは、上で指摘した主体性や考える機会を与えるということからすれば、筆者の場合は真逆になってしまったところがある。ただ、オンラインでの対応が社会的にも急速に浸透したことから、かえって大学外関係者との接触はしやすくなったというメリットも見逃せない。大規模かつ親密な交流は難しくとも、気軽に何度も交流できるというメリットは評価してもよさそうである。
 地域連携は負担も大きい。しかし、学生に成長の機会を与えること、研究面でも教員が新たなフィールドを見出しその成果を出すこと、それが地域に対するエンパワーメントにもつながるのであれば、連携の価値は大きい。教育・研究・地域が「三方よし」となるよう、その仕組みのブラッシュアップを続ける必要がある。

西藤真一(さいとう・しんいち)
島根県立大学総合政策学部 准教授。1977年京都市生まれ。2000年関西学院大学経済学部卒業、2005年関西学院大学大学院経済学研究科博士課程後期課程単位取得満期退学。財団法人運輸調査局(現・一般財団法人交通経済研究所)を経て現職。著書に『交通インフラの運営と地域政策』成山堂書店(2020年、単著)、『航空・空港政策の展望―アフターコロナを見据えて』中央経済社 2021年(共編著)などがある。


1)たとえば深沼(2010)、野澤(2016)、桑田(2017)などがある
2)桑田(2017)
3)たとえば、野澤(2016)p.5.

参考文献
1.飯塚重善(2018)「大学教育における 地域連携活動のあり方に関する一考察」『国際経営論集』 No.55,97-111ページ.
2.桑田但馬(2017)「農山村の再生に向けた大学の継続的な地域連携ー岩手県での活動にもとづく課題提起ー」『季刊地理学』Vol69, 19-33ページ.
3.中塚雅也・小田切徳美(2016)「大学地域連携の実態と課題」『農村計画学会誌』 Vol.35,No.1,6-11ページ. 
4.野澤一博(2016)「大学の地域連携の活動領域と課題」『産学連携学』Vol.13,No.1,Vol.13,No.1,1-8ページ。
5.深沼光(2010)「大学と地域の連携-継続の効果と課題-」『日本政策金融公庫論集』 第7号,21-47ページ。