観光振興に貢献する地方公立大学/コラム
福島県立テクノアカデミー会津

地方創生は地域の総力戦だ。地域に貢献する人材の輩出という点において、いわゆる大学等の位置づけではないが「福島県立テクノアカデミー会津」での学びは特徴的で、非常に興味深い。

 会津盆地のちょうど中心、喜多方市塩川町に位置する福島県立テクノアカデミー会津は、福島県が設置する職業能力開発施設である。学校教育法に基づく大学、短大(文部科学省系)とは異なり、職業能力開発促進法に基づく教育訓練施設(厚生労働省系)である。本校の前身である会津高等技術専門校を改組し、2010年4月、短期大学校を併せ持つ総合的な職業能力開発機関として「テクノアカデミー会津」が誕生した。
 設置科は、短期大学校としては新設の観光プロデュース学科1科のみ、従来からの普通職業訓練の課程として電気配管設備科、自動車整備科の2科があり、いずれも修業年限は2年である。各科とも定員20名(電気配管設備科は30名)の少人数制により、一人ひとりに寄り添った指導を行っている。

観光プロデュース学科設立以前の経緯

 ものづくり・製造等の人材育成が主眼である学卒者訓練にあって、本県が独自に観光系の科を設置した経緯としては、やはり会津を中心に「観光」が基幹産業として着目されていたことが挙げられる。前身校の時代においても、リゾート法による開発が盛んに行われていた1991年4月、会津磐梯エリアの宿泊業従事者を養成するため新設した高卒1年課程「観光ビジネス科」を皮切りに、2001年4月には宿泊需要の多様化、高度化に対応するため2年課程「観光サービス科」へと拡充、その時どきに応じた観光人材育成に取り組んできた。

観光プロデュース学科の特長

 観光プロデュース学科では、短大校以前より養成してきた旅館・ホテル等で求められる接客サービス技術に加え、観光商品の開発・販売、イベントの企画など観光産業を総合的にプロデュースできる人材の育成を目指している。
 カリキュラムとしては、1年次においてサービスやビジネスの基礎となる知識及び技術を習得し、2年次において地域課題に対応した観光企画の提案やビジネスを実践する技術を習得する。
 教育の柱として、次の3つを掲げている。

① プロデュース

 多様なフィールドワークにより地域資源や文化を学ぶとともに、経営・会計等のビジネススキルを習得する。
 また、関係団体等と連携して、学生によるツアー・イベント等の企画やPR動画・WEBサイト作成等ICT機器を活用した実践的なプロデュース技術を身に付ける。

② コミュニケーション

 外国人旅行客に対応できる会話力を身に付けるため、英語(ダブルティーチング形式)、韓国語、中国語の3つの言語をネイティブの先生から実践的に学ぶ。
 また、海外研修では現地旅行会社を訪問して、学生自身が考えた福島の旅行プランを提案する。

③ ホスピタリティ

 サービスの現場では、お客様のニーズを正しく理解して臨機応変に対応する「おもてなしの心=ホスピタリティ」が重要であり、その基礎となる他者理解、ビジネスマナーはもちろん、日本文化に根付いた作法(茶道等)やレストランサービス等の実践技術を習得し、幅広い対応力を身に付ける。

現地で学ぶ/フィールドワークの充実

 カリキュラムの大きな特長として、フィールドワークの充実が挙げられる。日々変化する地域観光の現場に直接出向き、校内では習得することが難しい知識や技術を身につけることを目的として、2年間で50日に及ぶ日数を校外での実習に充てている。
 まずは身近な地域の学習からはじまり、観光イベントへの企画参加、企業での実習(インターンシップ)、巨大市場であるアジア方面での海外研修など、様々な観光現場での経験を通じて、「地域資源の魅力を肌で感じ、その商品化を考え、発信し、売り出していくことのできる人材育成」に取り組んでいる。

地域に根差した特徴ある実習

 本学科のカリキュラムは、地域の方々との連携や協力の下で成り立っており、特徴ある実習をいくつかご紹介したい。

① 地元公民館主催「学生と訪ねる旅」

 ツアー企画のノウハウを実践的に習得する実習として、地元の塩川公民館主催「学生と訪ねる旅」の企画及び案内を実施している。
 地元住民をターゲット顧客として、満足のいく日帰りバス研修について旅行先の選定から企画の手配までを学生自身の手で行い、ツアー当日は自分たちが実際に案内することにより、総合的なプロデュース能力の向上を目指している。
 参加者からは毎年高い評価をいただいている人気企画となっている。

② 喜多方市小田付地区まちづくり活動への参画

 歴史ある蔵の街並みにより「重要伝統的建造物群保存地区」に選定された喜多方市小田付地区。その素晴らしい財産を分かりやすく伝える案内標識を皆で作り上げるプロジェクトに本校学生が参画している。標識デザインのヒントとなるような、建物や暮らしに関する思い出やエピソードを調査するため、プロのライターの方から取材手法について指導いただくとともに、地域住民にリモートも活用したヒアリング調査を行った。

③ 口コミ高評価店で成功の秘訣を学ぶ

 観光において「食」の魅力は不可欠であることから、口コミサイト高評価の地元人気店「郷土料理・籠太」に実際に赴き、そのノウハウを学ぶ特別授業を行っている。

 本校設立時の学科長で、非常勤講師の菅原由美子氏が会津に繰り返し訪れる中で、いわゆるチェーン店でない個人経営の魅力ある飲食店が多数存在することに魅了され、「居酒屋学」を提唱したことから始まったユニークな研修で、その模様は地元テレビでも紹介された。
 カウンター越しのご主人から店舗オペレーションの極意を伺ったり、契約農家の畑に出向いて地場食材の魅力を理解することで、魅力ある店舗を運営していくために必要なスキルや考え方を実践的に学ぶことが出来る密度の濃い実習となっている。

コロナ禍において求められる取組

 本県観光は、原発事故による風評被害からの脱却を目指し、徐々に旅行客数の回復が図られてきたところであるが、今般の新型コロナウイルス感染症の影響により、業界は再び苦境に陥っている状況にある。
 そのような中、本学科ではコロナ禍において特に求められる技能として、①当面直接来られない方々へのPR手法としてデジタル技術(VRなど)を駆使した情報発信技術、②マイクロツーリズム(土地勘のある住民による近距離旅行)の旅行者を満足させられるだけの地域への深い理解に基づいた観光企画技術の2点を掲げ、デジタル・アナログ双方の能力向上を図っていくこととしており、県の重点事業も取り入れて、これらの技能を習得するための機器整備やカリキュラムの充実を図っていくこととしている。

おわりに

 本学科は今年で設立12年目を迎え、卒業生は1期生から今春卒業した10期生まで、全員就職を達成している。その就職先は、県内の旅行・交通・宿泊業はもとより、地域の観光団体のほか、飲食・食品製造業など多岐に渡っており、責任あるポジションで活躍する人材も育ってきている。
 一方、会津地域の少子化が顕著となる中、ここ数年は定員割れが続く状況が続いており、地域で求められる人材を地元で育てていく難しさも露呈してきている。本学科の特長や課題を見据え、不断に改善していくことで、新型コロナをはじめとした逆境下においても力強く「観光ふくしま」を牽引していくことのできる人材の育成に努めていきたい。

小泉大輔(こいずみ・だいすけ)
福島県立テクノアカデミー会津観光プロデュース学科教務主任。茨城県水戸市出身。立教大学経済学部(社会学部観光学科溝尾ゼミナールにも所属)/早稲田大学芸術学校都市デザイン科卒業。都市計画コンサルタントを経て長野県の飯山市観光協会に勤務し着地型旅行業の立ち上げ、観光局設立等の業務に携わる。東日本大震災直後の2011年4月、福島県に移りテクノアカデミー会津に着任、2016年より現職。