宿泊税を前提に運営されている
オーストリアの観光地の視点
- レッヒ・ツュルス・アールベルクの事例 -

【概論】
 オーストリアでは、観光税はしばしば“Ortstaxe”(地方税)と呼ばれ、宿泊施設に滞在する観光客の拠出金として運営されている。この税金は自治体によって様々で、通常は滞在期間に基づいて計算される。宿泊サービスの提供者が自治体に代わって税を徴収する。
 観光税で得た資金は、主に地域のインフラ、観光関連施設、文化的取り組みに充てられる。市町村は税収が観光体験の向上と地域社会全体の幸福に確実に貢献しうるようにその税率と使途を決定する。
 旅行者は通常、チェックインの際に観光税について知らされるが、オーストリアでの滞在を計画する際には、この追加費用を知っておくことが不可欠である。この制度は、地域で実施される各種プロジェクトの資金調達に役立つだけでなく、旅行者自身がそこで楽しみを享受する観光地への支援に参加することで、持続可能な観光開発を促進する。
 オーストリアには9つの州があり、それぞれの州が独自の観光法を有している。レッヒはフォアアールベルク州に属する。集められた観光税の使途は「その共同体における観光を促進し、支援するための方策に使用されねばならない」と条文中明確に記述されている。
【利点 ❶】
 観光地としてのサービス提供を推進し、インフラ、イベント、ブランドの開発をサポートするには、それらの成果が発現するには時間を要することから、長期的な予算が必要である。
 長期予算は、持続可能なイニシアチブを確保する上で最も重要な戦略的意義を持つ。これは財務的なロードマップの役割を果たし、安定性を促進し、環境配慮型の取り組みや革新、責任ある資源管理を維持するための財源が一貫して配分されることを保証する。このような積極的なアプローチは、環境を保全するだけでなく、経済的な環境変化に直面した際の組織的なレジリエンスを強化し、長期にわたるプラスの影響に対するコミットメントを強化する。
【利点 ❷】
 観光税とも呼称される宿泊税は宿泊客が支払うもので、売上税のような古典的な所得税ではない。
 外国人宿泊客は宿泊税を払うのが普通だが、特にアメリカではかなり高い。
 オーストリアでは、宿泊税は1泊1人平均2 ~ 5ユーロである。レッヒ市の宿泊税収入は年間約350 ~ 450万ユーロで、レッヒ観光局は毎年その47%(2020年/2021年 ‐ 約164万ユーロ)を得ている。実際の宿泊税は4.80ユーロである。
【利点 ❸】
 宿泊税は公平な制度である。観光地と宿泊客にとってWin ‐ Winの関係である。より多くの投資やサービスが実施・提供されれば、より多くの好意的なフィードバックが得られ、宿泊客の料金や税金に対する支払い意志が高まる。さらに、宿泊客は地域で行われる投資や「自分たち自身のリゾート」の評判の向上に関与しうることになる。
 宿泊税は、観光地がすべての利害関係者を公平に扱うための基本的な手段である。宿泊税を賦課することで、地域社会は公的な観光サービスやインフラ整備に必要な収入を得られ、すべての観光関係者が必要な資源や機会に接することができる環境を育むことができる。
 さらに、公正な宿泊税制度は、各個人がその手段に応じて拠出することを確実にすることで、経済的な公正さを促進する。
 すなわち、コミュニティによる宿泊税の賦課は、公平性、平等性、観光に関連した経済的結束の原則を守るためのメカニズムである。これは、すべてのホテル、レストラン、スキーレンタル企業、スキー場運営企業などが、自分たちが属する観光社会の幸福に利害関係を持つという考えを強化することで、集団責任と利益共有の基盤を確立するものである。        
(編集担当訳)


ヘルマン フェルヒャー(レッヒ・ツュルス観光局 局長)
オーストリア北部のヴェルスでプロジェクトマネジメントを学んだ後、マネジメントセンター・インスブルック(MCI)で観光地マネジメントを専攻し、マーケティングの修士号を取得。キッツビュール観光局やキルヒベルク観光局等を経て現職。