特集① “MICE“とは何か
〜基本的な理解と都市・地域が誘致・開催する意義〜


跡見学園女子大学
観光コミュニティ学部
観光デザイン学科准教授
守屋邦彦(もりや・くにひこ)
民間シンクタンク研究員を経て、2006年に(公財)日本交通公社入社。観光による地域活性化のための計画・戦略づくりやMICE関連の調査・コンサルティングを多く手がける。2023年より現職。専門は観光政策、観光地づくり、ビジネス・ツーリズム(MICEほか)。

はじめに

 本稿では、MICEとはそもそもどのようなものなのか、その概要を整理するとともに、MICEを誘致・開催することで、国や都市・地域にとってどのような効果が期待できるのか、また、コロナ禍を経ての今後のMICE誘致・開催を考える際の視点などについて述べることとしたい。

1.MICEとは

(1)「MICE」という言葉

 「MICE(マイス)」を正確に定義することは難しいが、観光庁はMICEについて「企業等の会議(Meeting)、企業等の行う報奨・研修旅行(Incentive Travel)、国際機関・団体、学会等が行う会議(Convention)、展示会・見本市、イベント(Exhibition/Event)の頭文字のことであり、多くの集客交流が見込まれるビジネスイベントなどの総称」と説明している。
 我が国では2002年の小泉内閣総理大臣(当時)の施政方針演説において、海外からの旅行者の増大とこれを通じた地域の活性化を図るとの方針が示されたことで観光が内閣の主要政策課題となり、その後の観光立国推進基本法成立(2006年)、観光庁設置(2008年)へと続いていくが、その段階で、従来国際会議を中心に行われてきたコンベンション・イベント事業が「MICE」と称されることになった。
 なお、このMICEという言葉は、世界で通じるものではあるが、90年代初頭にシンガポール政府観光局(STB:Singapore Tourism Board)が使い始めたとされている こともあり、アジアを中心に用いられている。欧米では、例えばスペインに本部のある世界最大の観光分野の国際機関であるUN Tourism が発行する各種レポートをみると、MICEに関係する産業は「Meetings Industry」と総称されている。また、アメリカでは、例えばMICE産業関連の30以上の組織がメンバーとなっている協議会はEIC(Events Industry Council)と称されている。このように欧米では「Meetings」や「Events」で総称されることが多い。

(2)M、I、C、Eの概要

 先に述べた通り、MICEは多くの集客交流が見込まれるビジネスイベントなどの総称であることから、M、I、C、Eそれぞれに分類することができる。MICEの定義同様、それぞれについてもその正確な定義は難しいが、一般的には以下のように整理されている。※2・4・5

❶ ミーティング Meeting

 主に企業や団体が行う会議、大会、研修会等の会合を指す。コーポレートミーティングという呼称で、グループ企業やパートナー企業などを集めて行う会議等を指す場合が多く、海外投資家向けセミナーやグループ企業の役員会議などが該当する。単に一堂に会する会議等を行うだけでなく、役職・部門・エリア等に分かれた分科会が開催されたり、視察等も含めたプログラム構成となったりすることが多く、会期が数日間となることもあり、滞在期間が長い。地方部での開催例としては、アメリカに本社のあるIT関連企業により、アジア圏(シンガポール、オーストラリア、韓国、日本)の社員100名超と本社アメリカの社員数名との社内交流と各部署のミーティングを目的として開催された社内キックオフミーティングなどがある。※6

❷ インセンティブ Incentive (Travel)

 企業が従業員や代理店等の表彰や研修などの目的で実施する報奨旅行を指す。例としては営業成績の優秀な者に対する本社役員によるレセプション(宴会・パーティー)などがあり、企業としては販売促進の意味合いが強い。会期中には、例にあげたレセプションのほか、役員や関係者との会合や視察等も含まれ、会期が数日間となることも多く、滞在期間が長い。また、ミーティングとは異なり会期中に移動を伴うこと、表彰という目的があることから消費単価が高く、地域への経済効果が高いとされている。地方部での開催例としては、日系メーカーのトップ社員を対象に、東京、静岡、愛知、広島、京都と国内複数都市をめぐるインセンティブツアー(8日間、50名) などがある。※7

❸ コンベンション Convention

 学協会等の学術団体や国際機関等が主催する会議を指す。統計が整備されていることもあり、一般的には国際会議を指すことが多いが、国内の団体・機関による全国規模あるいは地域ブロック単位の年次大会・総会・研修会なども含まれる。地方部での開催例としては、日本における洋上風力の未来を考察することを目的とした国際会議「Global Offshore Wind Summit-Japan 2023」(開催時期:2023年10月11日〜13日、開催都市:北九州市、参加者:約700名(海外22ヵ国から約100名)などがある(図1)。※8
 なお、国際会議については統計及びその基準がいくつか存在するが、最も広義な基準となっている「JNTO国際会議統計」(日本政府観光局)では、以下の4点を全て満たすものを「国際会議」として集計・公表している。※9
1)主催者:「国際機関・国際団体(各国支部を含む)」又は「国家機関・国内団体」(各々の定義が明確ではないため、「公共色を帯びていない民間企業」は全て。)

2)参加者総数: 50名以上
3)参加国数:日本を含む3居住国・地域以上
4)開催期間:1日以上

❹ エキシビション/イベント Exhibition/Event

 エキシビションは、見本市、展示会、博覧会等を指す。商品等を展示する形式が多く、ある程度の面積を持った展示施設・展示会場が必要となる。主催者はグローバルに展開する展示専門会社から、産業団体で構成される公益的な民間団体組織まであり、展示施設が単に会場を貸すだけでなく主催者となる場合もある。地方部での開催例としては、海事関連企業や団体が最新製品や技術・サービスを紹介し活発な商談が行われる展示会「バリシップ2023」(開催時期:2023年5月25日〜27日、開催都市:愛媛県今治市、参加者:約19000名(出展社数351社)などがある(図2)。
 イベントは、伝統行事、文化、スポーツ、音楽、映画など幅広い「催し物」を指す。規模もオリンピックやワールドカップのような世界的なものから、各地域単位で開かれるお祭りのようなものまでが含まれる広範な概念である。

(3)観光政策におけるコロナ禍後のMICEの位置づけ

 2023年3月、観光立国推進基本法に基づき、観光立国の実現に関する基本的な計画として新たな「観光立国推進基本計画」が閣議決定された。この基本計画においては、観光立国の持続可能な形での復活に向け、観光の質的向上を象徴する「持続可能な観光」「消費額拡大」「地方誘客促進」の3つをキーワードに、持続可能な観光地域づくり、インバウンド回復、国内交流拡大の3つの戦略に取り組むこととしている。※10

 MICEについては、同基本計画の中で「コロナ禍により世界的に滞っていたMICEの実地開催はコロナ前の状況に戻りつつあり、各国の誘致競争は激しくなっていることから、大阪・関西万博の機会も捉え、我が国のMICE開催地としてのプレゼンスを改めて向上させる」と指摘した上で、同基本計画で掲げられた9つの基本的目標のうちの一つとして、「アジア主要国における国際会議の開催件数 に占める割合を、令和7年までにアジア最大の開催国(3割以上)にする」とされた(実績値は、2019年がアジア2位( 30・1%))。
 また、2023年5月、観光立国推進閣僚会議(主宰:内閣総理大臣)において、「新時代のインバウンド拡大アクションプラン」が決定された。同アクションプランは、従来の観光にとどまらず、ビジネス、教育、文化芸術・スポーツ・自然といったそれぞれの分野における取組によって人的交流を拡大させ、またそれらの取組の相乗効果を発揮させることで、インバウンドの着実な拡大を図ることを目的としており、観光庁では、観光立国推進基本計画とともに同アクションプランに定める施策を着実に力強く実施するとしている。

2.目的、開催地からみたM、I、C、Eの違い

 1.で示した通り、MICEはM、I、C、Eそれぞれに異なる特徴があるが、その目的(ビジネス目的であるか否か)および開催地(開催地が移動するか否か)という軸で区分することができる。
目的から分類すると、ミーティング、インセンティブ、コンベンション、エキシビションはその主たる目的がビジネスであるが、イベントはレジャーがその主たる目的となるものが多い。また、開催地から分類すると、ミーティング、インセンティブ、コンベンションは開催地が移動するケースが多く、日本更には世界中の開催地候補は、これらの主催者に対して誘致活動を行って獲得していくこととなる。一方でエキシビションは、開催地が移動しない(同じ場所で固定される)ため、各都市・地域においては自都市・地域の特性を活かし生み出していく活動を行っていくこととなる。なお、イベントについては、オリンピックやワールドカップ、コンサートなどのように開催地が移動するものもあれば、お祭りなどのように開催地が移動しないものもある(図3)。

 MICEについて語られる場合、「ビジネス目的のMICE(ミーティング、インセンティブ、コンベンション、エキシビション)」を対象とすることが多いが、その中でも「開催地が移動する(=誘致することが可能である)MICE」に焦点があたることが多い。
これは、世界あるいは日本の取組の経緯をみても、元々が「コンベンションを誘致する」ことに焦点があたっていた影響が大きい。国や都市・地域にとっては、開催地が毎回変わるコンベンションをいかに自国及び自都市・地域で開催してもらい、多くの参加者に訪れてもらうかが重要となっている。
 なお、我が国においてはMICE全体としては観光庁所管ではあるものの、個々にみると観光庁所管はミーティング、インセンティブ、コンベンションのみであり、エキシビション/イベントは経済産業省、更にイベントの中でも文化系のものは文化庁、スポーツ系はスポーツ庁や文部科学省の所管となっている。

3.MICE開催による主要な効果と特性

(1)MICE開催による主要な効果

 MICEを開催することで開催国・都市には様々な効果が生じる。主要な効果としては以下のようなものがあげられる。※11

❶ 高い経済効果

 MICEを開催することで、主催者や参加者、出展者による各種の事業支出、消費支出は、MICE開催地域を中心に大きな経済波及効果を生み出すこととなる。特に消費支出については、MICEの場合はビジネスパーソンが参加者の中心であるため、一般の観光客に比べて消費額が高い傾向にある。

❷ ビジネス機会等の創出

 世界から企業や学会の主要メンバーが国際会議や展示会に参加するために日本に集うことは、企業と研究機関の共同研究や研究者間の交流の創出、企業間のネットワークの構築や販路の拡大の機会となり、新たなビジネスのアイディア創出やイノベーションへつながる。またインセンティブ旅行により海外から日本を訪れることで、日本の製造現場の視察・体験を通じて、日本の技術力や商品・サービスに対する認知・理解を深め、日本製品の購入や地域の産業振興にもつながる。

❸ 都市ブランド・競争力向上

 MICEの開催による人・情報の流通、ネットワーク構築などはビジネスや研究開発の向上につながり、都市の競争力、ひいては国の競争力につながる。特に、サミット(主要国首脳会議)やオリンピックなどに代表されるような大規模なMICEは、開催国・都市の名称を冠した行事(○○宣言の採択等)が行われるケースもあることから、注目度・認知度の高まり、更にはブランド力の向上へとつながる。

❹ 交流人口の平準化

 ビジネス目的のMICEの場合、開催期間が平日に設定されることが多いことから、レジャーを目的とした主に土日祝日や連休の旅行者とは訪問時期が異なり、開催地にとっては交流人口の平準化につながる。

❺レガシー効果

 MICEを開催するためには、単に主催者と会場となる施設で対応すれば良い訳ではなく、幅広い関係者によって様々な対応を行うことが必要になる。それにより①で示したような経済効果が生まれることとなるが、経済効果以外の効果も幅広く生じることとなる(図4)。また、MICE開催のために作られた施設、構成された組織、関係する人に与えた意識変化などは、当該MICEの終了とともに消えるものではなく、それ以降も受け継がれていくものとなる。こうした効果は「レガシー効果」と呼ばれ、MICE開催による効果において近年注目されているものである。

(2)ビジネス目的のMICEの需要特性とその重要性

(1)において示したMICE開催による主要な効果「④交流人口の平準化」は、レジャー目的の需要だけでなく、ビジネス目的の需要に着目し取り組むことで生じる効果であり、地域の活性化を考える上で重要なポイントとなる。開催地側からみた際の「ビジネス目的のMICE」の特性は次の通りである。
●主に平日開催であること
 レジャーを目的とする旅行者は、週末や長期休暇期間の来訪が多くなるが、ビジネス目的のMICEは平日に開催されることが多いため、開催地にとっては対応するタイミングが異なる。これは、空いている日・時間を埋められることを意味し、宿泊施設や飲食施設の雇用の安定化にも寄与する。
●開催地側でコントロールも可能であること
 主催者との調整によっては、開催日やプログラムの時間帯を多少変更することが可能なため、参加者が来訪するタイミングを開催地側でコントロールすることも可能となる。
●来訪する期間、人数が事前に把握可能であること
 来訪する期間はもちろんのこと、人数についても早ければ数年前から、間際となったとしても数週間前には来訪する人数がほぼ明らかとなっているので、輸送量の調整や人員配置などの準備がしやすい。
●消費額が大きいこと
 ビジネスを目的とした旅行者であるため、レジャーを目的とした旅行者に比べ消費単価が高く(宿泊費用が会社負担であることも寄与)、また、通常は何日間かにわたって開催されるため、レジャーを目的とする旅行者に比べ滞在日数が長いため、開催地での消費機会も多くなり、全体としての消費額が大きくなる。
 こうした特性を持つため、開催地側としては、宿泊等の受入容量に余裕がある時期に、レジャー目的の旅行者以上に経済効果の高い旅行者を受け入れられることとなる。このため、地域全体としての稼働を高めていく(地域に対する需要を平準化させていく)視点から、ビジネス目的のMICE需要を取り込むことの重要性の高さが認識されている。

4.ビジネス目的のMICEへの対応プロセスと対応組織

(1)対応プロセス

 ビジネス目的のMICE、特に「開催地が移動するMICE」への開催地側の対応プロセスは一般的には次の通りである。※12

❶ マーケティング・誘致活動

 まずは、どのような主催者によるMICEがあるのかをマーケティングし、その結果を受け、自地域で開催の可能性があるMICE主催者へ働きか
けを行う。主催者がどのような内容のMICEを開催したいのかを把握し、自地域がそれを実現することができる場所であることをアピールする。なお、この段階でメインとなる会場や宿泊施設の空き状況などの確認・調整も必要となる。

❷ 実施準備

 誘致活動の結果、無事に自地域での開催が決まったら、次は具体的な開催計画の作成となる。この際には関連する各種施設・事業者(会議施設、宿泊施設、飲食施設、輸送機関、旅行会社等)や行政機関との様々な調整が必要となる。

❸ 運営

 そして各種準備を終え、MICE本番を迎えることとなる。開催中は計画が円滑に進むよう各種確認・調整を行うことはもちろんだが、不測の事態が起きたときの対応も重要となる。

(2)対応組織

 ビジネス目的のMICE、特に開催地が移動するMICEの代表的なものであるコンベンションの誘致・運営を担う開催地側の組織として誕生したのがコンベンションビューロー(CB:Convention Bureau)である。人類の歴史が始まって以来、人々が集まり話し合いをする、いわゆる「集会」が存在したが、宗教拠点や流通拠点、行政拠点などを中心として都市が形成されると、都市は政治活動、宗教活動、事業活動など様々な活動に関わる団体が集まり、団体会員の共通の関心に係わる事項を話し合う場所にもなった。
 アメリカではこうした各種の団体の活動が拡大するに従って、「集会」開催の必要性が高まり、集会を「誘致」するための委員会が各地に生まれた。
1896年、デトロイト市の事業家グループは、このような団体の通常の活動や会議、見本市などの「集会」開催が、デトロイトに相当な経済的利益をもたらすことに着目し、各種の団体の集会を誘致することを目的とした組織であるCBを設立した。デトロイトでは、当初はホテル経営者が自らの施設やサービスに加えて、「デトロイト」を売り込んでいたが、「集会」開催の経済的な利益が認識され始めると、「デトロイト」を売り込むための営業マンをフルタイムで雇用し活動を展開した。つまりCBは、デトロイト市の経済振興のために「地域」そのものを売ることを目的として活動を展開したのであり、現在のDMO(Destination Marketing Organization)の始まりといえるものと捉えられる。
 デトロイトのCBの手法は瞬く間に広まり、その後、アメリカの他都市で次々とCBが誕生した。その後、CBが「誘致」する対象として、一般の観光旅行者(Visitor)の重要性が高まってきたことから、組織名称にも「V」が加わり、コンベンション&ビジターズ・ビューロー(CVB)と呼ばれるようになっていった。更に90年代終盤から2000年代初頭にかけて、観光地そのもののマーケティングやブランディングの重要性が高まり、いわゆるDMOとしての役割を担う組織へと変化している。

5.対面(リアル)開催が回復する中でのMICE

 2020年からの新型コロナウイルス感染症拡大により、各種MICEが中止やオンラインでの開催を余儀なくされ、一時期はMICEはこのまま消えてしまうのではないかとも思われた。
しかし、国際会議の開催件数は回復傾向にあり、今後さらに増加していくことが見込まれる。今後、各都市・地域が上手くMICEを誘致・開催していく際の視点を、MICE自体(会議やイベントそのもの)とMICE開催地(会議やイベントを開催する都市・地域)の2つの面から整理しておきたい。

❶ MICE自体

 まず、MICE自体(会議やイベントそのもの)についてみると、一時期は対面(リアル)開催がこのまま無くなっていくのではといった雰囲気もあったと思うが、むしろリアルで会うことの価値が再認識され、対面開催もまた着実に回復している。リアルで会うこと、またMICEにリアルで参加する価値については、相手の雰囲気、また会場内の雰囲気を五感で感じられること、また、様々な場面で様々な人とコミュニケーションができることに加え、「偶然の出会い」も期待できることなどがあげられる。
 恐らく今後のMICEは対面開催が主流になると考えられるが、コロナ禍により主催者、参加者ともにオンラインでの各種MICEを経験したこともあり、ハイブリッドやオンラインは今後も上手く活用されていく(べき)であろう。例えば、参加者が限定されるビジネスミーティングはオンラインで気軽に開催することが可能であるし、逆に新たな参加者を集めたいコンベンションやイベントであれば、対面とオンラインを組み合わせたハイブリッド形式により、まずはオンラインで参加してみる、といった形で参加のハードルを下げることも可能となる。
リアルとオンライン(バーチャル)はそれぞれ異なる価値があるため、相反するような捉え方ではなく、どう組み合わせて相乗効果を生み出し、参加者にとっての当該MICE自体の価値をどう高めていくかが今後は重要になると思われる。

❷ MICE開催地

 一方、MICE開催地についてみると、対面開催が主流となり徐々に開催件数も回復してくるとはいえ、ハイブリッドによりオンライン参加も可能となれば、今後は、件数は増えても規模は拡大しづらくなる可能性も考えられる。これは参加者数の減少にもつながることであるため、開催地にとっては大きな課題となる。そうした状況の中でも、対面での参加者を増加させていくためには、MICE自体の「わざわざリアルで参加する価値」を高めることはもちろんであるが、MICE開催地の「わざわざリアルで赴く価値」をどう高めていくかがポイントであると考える。こうした価値を高めていくためには、MICE会期中でいえば、その会議等のイベントにリアルで参加し、その場所に行かなければ体験できないものを生み出すこと、すなわち、魅力的なテクニカルツアー(特定の産業の企業や工場、研究所などを訪問し、その分野の最新技術などを直接学ぶ機会を提供するツアー)やエクスカーション(開催地の観光スポットや歴史的な場所の訪問、文化体験などを提供するツアー)などの創出や、ユニークベニューの活用(歴史的建造物や神社仏閣、美術館・博物館などの独特な雰囲気を持つ会場で、会議・レセプション・イベントなどを実施すること)が更に重要となってくるだろう。
 また、MICEの会期前後のブレジャー(Bleisure)を促進していくこともポイントになると考えられる。ブレジャーとはBusiness とleisure を組み合わせた造語で、出張等の機会を活用し出張先等での滞在を前後に延長するなどして余暇を楽しむことであるが、欧米では今後もこうしたビジネス旅行とレジャー旅行の組み合わせが増加していくものと見込まれている。日本を訪れたい外国人は、円安基調も背景として今後も更に増加していくと見込まれていることから、日本でのMICEにリアルで参加することでBleisure を楽しめるのでぜひ、といった誘客の切り口も考えられるだろう。

おわりに

 2023年に閣議決定された「観光立国推進基本計画」では、「地方誘客促進」がキーワードの一つとなっており、外国人旅行者に地方部を訪れてもらう、またそこでより多くの消費をしてもらうことは政策的な課題である。
このため、各地で整備が進められているMICE施設もより積極的に活用し、東京をはじめとする大都市だけでなく地方都市でのMICE誘致・開催を今後増やしていくことは、観光立国推進基本計画や新時代のインバウンド拡大アクションプランの目標達成にも寄与すると考えられる。
 外国人旅行者の日本への訪問意欲は引き続き旺盛と見込まれることから、日本の様々な都市・地域で開催される各種MICEに参加してもらうとともに前後で余暇の旅行も楽しんでもらうべく、受け入れる側の都市・地域においてもレジャー観光の関係者とMICE関係者が連携した取組が展開されること、また、国によるそうした取組の積極的な後押しが展開されることを期待したい。

<参考文献>
※1……観光庁「MICEとは」、https://www.mlit.go.jp/kankocho/seisaku_seido/kihonkeikaku/inbound_kaifuku/mice/micetoha.html、閲覧日2024年6月3日
※2……田部井正次郎「観光MICE 集いツーリズム入門」(古今書院、2017年)
※3……浅井新介「マイス・ビジネス入門」(一般財団法人日本ホテル教育センター、2015年)
※4……観光庁「MICE推進関係府省連絡会議 観光庁説明資料」(2016年)
※5……十代田朗編著「観光まちづくりのマーケティング」(学芸出版社、2010年)
※6……JTB法人サービス「日本で対面開催!コロナ禍で開催したアジアパシフィックエリアの社内キックオフ」
https://www.jtbbwt.com/business/case-study/solution/meeting-event/detail/id=2653、閲覧日2024年6月6日
※7……日本政府観光局(JNTO)「Japan Incentive Travel Awards 受賞案件」、https://mice.jnto.go.jp/about-jnto/incentive-awards/previous-awards-winners/、閲覧日2024年6月6日
※8……観光庁「国際会議の開催効果に関する調査」、https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/001733825.pdf
閲覧日2024年6月6日
※9……JNTO「2022年国際会議統計」、https://mice.jnto.go.jp/assets/doc/survey-statistical-data/cv_tokei_2022_1shou_2.pdf、閲覧日2024年6月6日
※10 …「観光立国推進基本計画」(令和5年3月31日閣議決定)
※11 …観光庁「MICEの意義」、https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/810000969.pdf、閲覧日2024年6月6日
※12 …「イベント&コンベンション概論(第3版)」(株式会社JTB総合研究所、2016年)
※13 …佐藤哲哉(2002年)「世界のコンベンション市場の動向」立教大学観光学部紀要、No.4、pp.19-32
※14 …「Convention Tourism」(Kaye Sung Chon,Karin Weber 2014年)