特集③ 米国フロリダ州オーランドのMICE戦略とDMO設立の経緯


セントラルフロリダ大学
ローゼンホスピタリティ経営学部
テニュア付准教授
原 忠之(はら・ただゆき)
UNESCO CSA、ICAOASA(文化、航空の国連統計サテライト勘定)の技術諮問委員会委員。上智大学法学部卒。日本興業銀行、外務省を経て、米国コーネル大学ホテル経営学部博士号取得。
他、ホテル経営、経営、地域科学の3修士号を持つ。
専門は観光の経済効果計算、ホスピタリティ・マネジメント。琉球大学、一橋大学、京都大学、早稲田大学、山口大学、広島大学、九州産業大学など、毎年日本のいくつかの大学で集中講義を行っている。観光学の分野では大規模公開オンライン講座(MOOC)の先駆者でもある。米フロリダ州在住。

 全米の市区町村で最大の年間訪問客(レジャー客とビジネス客)数である74百万人を2022年に計上したのはフロリダ州オーランド(行政区域はフロリダ州オレンジ郡)である。同年ネバダ州ラスベガスが39百万人、ニューヨーク市が56百万人であり、オーランドは2019年に記録した75百万人をほぼ回復している。また州としての観光客数でも2023年の年間訪問客数はハワイ州が9・6百万人に比較してフロリダ州は135百万人と、地理的に近い日本から見るとハワイ州の観光行政事例がよく観察対象になるのに対し、米国本土ではほぼフロリダ州の観光行政事例が引用・模倣の対象になるのは規模の差が圧倒的だからである。
 オーランドにおける観光産業の発展と歴史的経緯を振り返ると、DMO(当時はCVB:Convention and Visitors Bureauの名称だった)設立とMICE戦略が密接に関連している事が理解できる。今回は何故にオーランドがMICE分野を戦略的に開発せざるを得なくなったのかの経緯と、観光を主要産業として育成する観光地経営におけるMICEセグメントとの関連について述べたい。

1.オーランドの観光産業発展の経緯

 フロリダ州オーランド(行政区域はフロリダ州オレンジ郡)の1972年人口は38万3567名であったが、2022年には145万2726名と50年で278%の人口増を計上している。同時期の米国全体の人口増が59%、フロリダ州の人口増が195%である故、米国平均及びフロリダ州平均の人口増加率を大きく上回っている。
 オーランドは元々NASAのロケット打ち上げ基地であるケープカナベラルから直線の高速道路で30分程度の距離であり、戦略爆撃機B・52が同時に離着陸できる大規模なマッコイ空軍基地が市の東南部に位置するため、ロッキードマーティン社等の軍需産業が冷戦時初期に発展した経緯がある。フロリダ州は半島であり、1819年にスペイン領から米国領となり、1860年代、日本が明治維新の頃に臨海部を中心に鉄道が敷設されて、半島の東西両海岸沿いが米国北東部や中西部の冬季に寒い地域からの避寒者向けに開発されて、発展してきた歴史的経緯がある。その分、内陸部はワニの住む湿地帯というイメージもあり開発は遅延しており、軍需産業の研究拠点としての可能性を淡く信じるような地域であった。

(1)1971年のウォルト・ディズニー・ワールド・リゾート開業

 オーランドが大変貌するきっかけとなったのは1971年のウォルト・ディズニー・ワールド・リゾート開業である。ディズニー社は多くの代理人を使い、匿名で農地や沼地、湿地帯を土地所有者から低額で買収し、最終的には東京の山手線の内側に匹敵する面積の土地を取得し、そこに巨大なテーマパークを開業した。当時はまだ現在のLCC(格安航空会社)が存在しない時代であり、家族連れは自家用車やステーションワゴンに子供や荷物をのせて長距離を運転して来訪したが、多くの観光客流入によりオーランド地区では地元企業がホテルを複数建設しても十分に需要が確保出来る状態ではあった。

(2)オイルショックによる宿泊業界の経営危機

 ところが、1973年にイスラエル建国1948年から数えて第四次中東戦争がエジプト軍を主体とするアラブ側の奇襲攻撃で勃発し、アラブの大義を支持するという観点で前線を接しないアラブ産油国複数がイスラエルを支持する米国や西側諸国に対し原油禁輸措置を取ったことで、原油価格は300%上昇し、遥かに距離の離れた米国もその影響でガソリン小売価格が急騰し、オーランドへの旅行客が激減してしまった。
 産業界から税金制度を提案・陳情したという経緯が理解し難いが、それがオーランドでの宿泊税導入の経緯である。
 自分達の観光地の「レジャー客は元々季節性が高く、学校の休みに来訪が集中し、学校の授業が行われている時期には来訪しない」に加えてオイルショックでレジャー客の絶対数が減少してしまい、タックスペイヤー(納税者)である現地ホテル協会が、未曾有の危機に追い込まれて、苦悩の中で現地政府に対して陳情を行った。

(3)宿泊業界による地元政府への陳情

 陳情の内容は二つあり、それはどちらもオーランド来訪客の季節変動を平準化する事が目的である。
●レジャー客のような季節変動の少ない新しい訪問客層となるMICE関連客を誘致する観光の公共インフラとなる国際会議場を建設してほしい。
●そのMICE関連客を実際に招聘するための観光庁奨励組織であるCVB(Conventions and Visitors Bureau:現在はDMOと呼称されている組織)を創立して誘致活動を行ってほしい。
 つまり、オーランドでは今から50年前に既に「MICE需要には、レジャー客とは異なり季節性が少なく、且つレジャー客の低需要期に観光需要を能動的に積み上げる事が可能な来訪客セグメントである」と認識して、観光地の将来と持続性を見越してMICE客セグメントを積極的に誘致しようという戦略があった。
 さらに業界団体がそれらの陳情を行うだけであれば、日本を含めて世界中でもよくある話であるが、オーランドのホテル業界の陳情の特筆すべき点は、明確な財源に関する提案を含めて陳情した点である。
 「国際会議場建設資金の返済とDMOの運営資金原資として、我々ホテルに宿泊する宿泊客に地方特別目的税たる宿泊税を導入して、その税収を活用し、且つ我々宿泊業界がその税収の代理徴税まで行う」
 米国の場合は、市区町村民に「居住者」(residents)という感覚よりも「納税者」(taxpayer)という感覚が強く、故に自分たちの生活の質を上げるために新税を導入してほしいという提案が宿泊業界という納税者側から出てきた点の理解が重要である。税金に対して、江戸幕府260年、明治維新後160年という400年を超えて「お上が一方的に申し付ける年貢という意識が世代を超えて植え付けられている日本人」にとっては、「観光業界の中心たるべき宿泊業界が観光地を良くするために、自分達のために、地域成長のために税金を導入しよう」という意識が希薄、又は理解出来ない構造的な差異がある点と感じる。
 この、業界が自分達の経営環境、地域の経済成長のために新たな地方目的税導入を要請するという動きが50年前のオーランドのケースであった点をきちんと理解すれば、東京都の石原都知事時代の宿泊税導入時に宿泊業者団体が反対するという事はあり得なかった訳である。現時点で少なくとも認識する
範囲内では沖縄県の宿泊税導入に際し沖縄CVBと宿泊業関連団体が一緒に定率制の宿泊税導入を提案している点では、ついに米国同様の意識での地方特別目的税としての導入を唱道する動きが出てきた事は素晴らしい事であると拝察する。
 この章でのポイントは、観光地オーランド発展の歴史的経緯としてレジャー客層主導の発展が外的ショックにより季節変動の脆弱性を露呈し、それを補うためにMICEとDMO導入が唱道された点である。次章でその点をより深く観察する。

2.観光地経営戦略の視点から見たオーランドのDMOとMICE施設設備投資の必然性

(1)観光地経営の危機から導き出された国際会議場建設・DMO創生と宿泊税制度

 オーランドの場合は、DMOが出来て、そこがMICE招聘を必要としたという順番ではなく、レジャー客依存の観光需要がもたらす季節変動に外的なショックが加わって、観光産業界が総崩れになるほどの状況で
(i)季節変動を緩和しないとビジネスの持続性に懸念がある、故に
(ii)季節変動を緩和するためにレジャー客以外の客層を観光地として確保する必要がある、それはMICE客獲得である、
(iii)そのためにはMICE客獲得のための観光インフラ設備投資たる「国際会議場建設」と実際にMICE客層誘致活動を行うDMO(当時はCVBと呼ばれていた)を設立する必要があるというロジックでの陳情が宿泊産業界から地元政府に対してなされた。そして更に、上記(iii)の財務的実現可能性を高めるために、
(iv)国際会議場建設には地元政府(フロリダ州オレンジ郡)が地方債を発行して投資家から借り入れた資金を国際会議場建設資金に充当するが、その元利金返済には新規に導入する宿泊税収を優先的に充てる。
という部分まで詰めて提案された。特にこの(iv)に関しては、地元政府にも宿泊業界にも手持ち余剰建設資金が無い点を考慮し、地方債発行で建設資金調達をし、その元利金返済原資には将来発生する特別地方税収を充てる事がきちんと描かれている点が重要である。
そのスキームには「一般財源から建設資金を割り当てて、開業後の運営赤字補填も政府一般財源から充当する」という世界各国の中央・地方政府にある甘えた構造を排除し、「観光インフラ建設資金は地域納税者が支払った一般財源を利用せずに地方債発行という外部調達で確保し、その地方債元利金返済資金も地域納税者が支払った一般財源に依存せずに、地方特別目的税である宿泊税収から優先的に充当する」というスキームを組んでいる。
 更に金融的観点で補記するならば、オレンジ郡の地方債はTourism Revenue Bond という名称で、通常の地方債発行でよくある地元政府の偶発債務保証を排除し、発行体たる地元政府保証無のOff-Balance Sheet Financing(地方自治体のバランスシート負債側に偶発債務の記載が出てこない形態)での資金調達を実施している。では一般投資家からのリスク判断への対処をどうしているかと言うと、Fitch 及びStandard Poor 社から地方債格付けを取得して、個別リスクの懸念を低減するという、まさに金融市場の王道としての資金調達方法を活用しているため、比較的に低利率での資金調達が可能となっている。発行主体である地方政府への請求権(Recourse)が無いという意味ではNon-recourse、請求権が将来の宿泊税収に限られており、地方政府に元利金返済金不足時の肩代わりを請求できないという意味ではLimited Recourseと言えよう。
 オーランドの場合は宿泊代金に6%を課税する定率制で、日本と同時期の2020年4月にパンデミックが直撃し、12か月後の2021年4月に観光需要の回復が始まったオーランドの場合は毎月の宿泊税収を記録・公開しているので、2020年4月の税収と2020年の年間税収が激減しているのが一目瞭然である(表1)。
 一方で米国観光需要が本格的に戻ってきた2022年の年間税収額の前年比増加分は強烈な増収を記録しており、観光産業のレジリエンス(マイナスのショックに耐えて復興する能力)については特筆・引用できる程の数値を出している(表2)。市場復興時には稼働率と平均客室単価が同時に上昇する環境であり、前年比90%の税収増収は定率制でないと不可能な数値と言える。

(2)季節変動を低減させる目的:地域住民の生活の質の維持・向上

 観光地を上手く、観光客の消費で地域経済を回していくのが観光地経営であるが、観光奨励の目的は「地域住民の生活の質の維持又は向上」である点は、米国の場合、オーランド(オレンジ郡)、フロリダ州、そして全米組織でいうとBrand USAでも共通して各組織の目的に含まれている。オーランドでも地域住民の生活の質の維持又は向上が地元政府、地元DMOの共通の目的であり、これを「観光産業の成長」「観光経済の拡大」のような狭義の目的としてしまうと、観光産業に従事していない地域住民から「それは自分には関係がない」と思われて、地域住民の小さな不満が歯止めなしに増幅していく過剰観光問題に繋がってしまう。
 観光産業における構造的な問題が観光地経営での大きな課題となるが、それは「季節性」である。文字通り、自然資源に完全に依存した屋外スキー場や富士登山のような年に数か月のみハイシーズンの観光地では、シーズン内には大きな観光消費が起こるが、シーズンを過ぎると観光消費額は年間を通じて一定に発生する固定費(固定資産税、投資資産の減価償却&修繕費積立、負債に派生する毎月の元利金返済)をもカバー出来ない額しか発生せず、結果として運営費用の最大項目である人件費は不足し、非正規雇用・アルバイトしか雇用できない構造的な問題を抱えることになる。
 また日本では四季よりも短い週単位の季節性問題(週末の稼働率が高く、平日の稼働率が低い、または一部ビジネスホテルでは逆の問題)及び日本人の休暇取得パターンから派生する日本特有の高需要期問題(ゴールデンウイーク、お盆、年末、正月等)もあり、経営者はピーク時需要に合わせて設備投資をすると低稼働で年間の多くの日数で損益分岐点割れの売上しか確保できず、逆に平常時需要に合わせた運営体制を確立すると、ピーク時の客室や食堂の受入容量不足、或いは臨時非正規職員の確保困難による運営体制不備となり、年間を通じて安定した運営体制が構築できない問題が発生する。地方政府・地域DMOともに、観光地経営の目的が「地域住民の生活の質の維持又は向上」であるならば、季節性を低減して年間を通じて安定した観光消費が発生するならば、地域観光産業、特に宿泊産業での福利厚生もより充実した正規雇用者採用余力が拡大することとなり、それは住民目線で見れば「地域住民の生活の質の維持又は向上」に繋がる。

 現在の日本の宿泊産業統計を見ると、国際問題にならないのが不思議な程の低収入であり、とてもキャリアパスどころか人生設計も不可能なレベルの低年収で、且つ男女格差を示唆するデータが存在する(表3)。
 これに加えて、正規職員と非正規職員の年収差も存在する(表4)。
 非正規雇用中の女性の占める割合は70%程度で高止まりしており、観光産業、特に宿泊産業ではハウスキーパー職を例にとっても高止まりの状況が存在する(表5)。
 観光産業の待遇改善を目指すには、正規雇用を増加させる事が必要だが、経営者がそれを決断するためには、観光地経営として、地域の観光需要の季節性を減らす事が重要であり、そのためにはMICE客という季節変動を受けにくい訪問客層を観光地として確保することが有効な対策の一つである。

3.MICE客誘致について

 世界のMICE市場規模は、2022年に9040億ドル(135兆円:@US$1=150円)と想定され、2024年の9707・6億ドルから2032年には1兆9327・3億ドルに年間成長率9%程度で成長すると予測されている。Source:https://www.fortunebusinessinsights.com/mice-market-108653

(1)オーランドの事情

 オーランドDMOの場合は直近の2023年予算を見る限りは年間10百万ドル強を国際会議や展示会等のMICE誘致予算として計上している
のがわかる(表6)。つまり発足時のMICE客層誘致がメインの状況からは変貌し、いわゆるインバウンド客向けの予算が多く、その次の予算規模である。
 オーランドの場合は国際会議場の総床面積が210万sqft、約21万平米であり、売上規模別でいうと、財務諸表には記載公開されていないが、MICEのうちのE-Exhibitionが全体売上の半分以上、6割前後を占めている。

(2)Exhibition 市場の特殊性

 大規模な展示会の特徴としては、ミーティングプランナーから予約照会が入るのが開始実施年月の数年前からというのは通常であり、また一回分だけでなく、数年間分の予約がまとめて入るという特殊な商慣習がある。また展示会でもB toCと言われる一般顧客も含めての大規模展示会(例:全米住宅建設業者協会:7万人参加、メガコン: 10万人参加)となると、展示物設営業者から音響会社、DMC(着地型旅行会社)等含めて多くの地元企業が雇用され、施設にとっては膨大な宿泊・飲食・交通移動需要が発生するため、街全体が数日間ピーク時稼働状態が続く。大規模な展示スペースは柱の無い広大なスペースが必要であり、国際会議場では代替できず、開催可能都市も限られてくるため、同じような都市間での競争となる。
 また各展示会に向けての現地での臨時労働力確保が必須であるが、観光地で定期的に展示会やイベント需要がある場合は、それら雇用を正規職員として人材派遣会社やDMCで確保し、人材派遣することで、正規職員職としての雇用が確保されることが可能となる。設営や音響の専門会社では正規職員を抱えて、それら人材が各展示会主催者の委託を受けて設営から職員派遣で対応するという形が取れ、それら専門会社では、筆者の大学の学部生が正規採用及び有給インターンシップ派遣されており、グローバル米国系ホテル会社への就職と遜色ない条件での待遇を受けている。
 この市場は参加者ではなくミーティングプランナーが開催地を決める権限があるため、普段からミーティングプランナーとの信頼関係を構築しておくことで巨額の展示会を複数年確保できる。

(3)Meeting, Incentive、Conference、Event市場について

 この中で比較的に特性が異なるのがIncentiveである。こちらはIncentiveを専門に扱うミーティングプランナー達がいて、個人企業や小規模組織が基本的に口コミで顧客を獲得している色彩が強い。例えば、プライベートジェット予約とIncentiveを同時に行っているプランナーの場合、各国の空港入国管理制度や空港からホテル等滞在先まで如何に隠密にVIP客を移動させることが出来るかという過去の個人的な知識やコネクションで、大口顧客を紹介ベースで取っていくというビジネスモデルであり、ゲストスピーカーとして来訪した事業主の話では、映画俳優や歌手のお忍びツアーで米国西部カリフォルニア州から米国東部に立ち寄ってからカリブ海の滞在先4泊程度で、30万ドル(45百万円)を払えるような顧客を複数抱えており、そのノウハウが企業の優秀成績者報奨旅行の手配時に使えるというビジネスモデルで、展示会ミーティングプランナーとは全く異なる特殊な観光需要である。故に単価は高いものの、人数が大きい会議・会合の形態ではない点、富裕層対応と類似な点がある。
 Meetingは企業の国際会合、例えば世界展開するグローバル企業の業務会合や販売・マーケティング等の会合の手配であり、数千人から数百人、それ以下まで多くの会合がある。これも社内でミーティングプランナーを抱える場合やそこを外部のミーティングプランナーに委託する形もある。大きなMeetingだと1万人単位のものもあり、グローバル企業だと予算も潤沢な分、夕食会や公式ツアー等の手配等も実施されて、比較的に大きな資金が地元経済に落ちる。Conferenceは典型的なのが学術会議であり、世界中のある特定分野の研究者が最新の研究成果を発表しあったり質疑応答を行ったりして、学会の知見を前進させる事が目的であり、医学医療系やIT系は別にしても、通常の学術会議は民間企業のMeetingほどの大きな予算を持つことは多くない。こちらは大学の研究者が主催者となることが多く、その意味ではミーティングプランナーがコーディネートする余地は大きい。また年次会議のように定期的に反復する場合が多く、主催者や協賛の企業や地元政府がある程度のプレステージを感じる場合には後援として入ることもある。

4.DMO、会議場、宿泊事業者などとの関係について

 当方は過去にMICE業務が観光地に存在する事で起業との相関関係はあるのかという調査を行ったことがある。結論を言うと、MICE系業務が観光地に存在すると、多くのサービス供給需要が発生し、オーランド地区及びもう一つの米国中堅都市のデータでは、200業種程度の各種サービス業務、そしてそれらが観光地に存在しない場合は、同数の起業機会が発生するという点を報告した事がある。その報告書では、MICEの業態をWedding, Exhibition, Meeting,Incentive, Conference/Conventionの5つに分け、それぞれの業態でどのような外部業者のサービスを必要としていたかについて調査を行った。
 各業態において100項目を超える物品サービス供給が必要とされており、また必ずしも各業態において要求される物品サービスが同一ではない。
例えば、「ヘリウムガスを使用した風船」はウエディングやインセンティブにおいては必須であり、現地居住者が必要とする機会は多くないが、この手のイベントをミーティングプランナーが企画する際には、地元業者で必ずこの物品サービスが必要となる、というような例である。プロのデザイナーが作成したサインボードは展示会では大量に大型版が必要になるが、ウエディングや会合だとさほどの必然性はないだろうという類いのきめ細かいニーズを考えると、MICE需要が存在する観光地故の必要な物品サービスが存在するのが理解できるだろう。展示会の展示物設営業者や展示会場の音響と照明設備担当の企業は、訪問客需要、しかもレジャー客でないMICE関連ニーズに起因する売上が過半数を超えている事は想像できよう。
 ある地域があったとして通常は居住者人口数に応分の各種企業やサービス供給者が存在する。ところが観光地となると、その分に上乗せして、一過性の消費者達から発生する需要に見合ったサービス供給が必要となる。
 例えばレストラン産業でいうと、通常の人口140万人都市で要求されるレストラン数のほぼ倍のレストラン数が存在するのがオーランドといえる。
それはオーランド(オレンジ郡)で支払われる売上税(消費税)の51%が訪問客、49%が地元居住者から支払われているという統計データが存在する事からも言えることである。
 また地元人口が1・4百万人のオーランドに、その50倍以上の年間74百万人が訪問客として来訪する観光地であるが故に、タクシー及Uberのようなライドシェアビジネスも地元住民が必要とするより遥かに高い水準で訪問客からのサービス需要が発生することは理解できよう。

5.MICE展開による観光地経営の強靭化

 今回のオーランドのケース結論部分になるが、観光地でMICE展開をすることで、自然体での弱点であった季節性(需要変動)に対して自らの努力で閑散期に需要を作り出し、広範な観光関連産業セクターで正規雇用を生み出す事ができるようになったのが最大の強靭化への貢献である。またMICE展開をすることで地域住民の人口規模に応じた産業規模以上の物品サービス需要が発生して、そこに雇用機会が生まれるだけでなく、起業機会が発生する。

(1)米国経済復興のきっかけ:観光需要復興

 米国は2020年4月という日本と同時期にパンデミック勃発による観光需要の激減が起こったが、観光需要復興は日本より早く12か月後の2021年4月には個人給付金で手元流動性が高まった個人消費が外食・芸術・エンターテインメント・宿泊産業という観光関連セクターに流れ込んだ。急速な労働力不足によりオーランドでは非正規雇用者時給が60%、正規雇用者年収も30〜35%上昇が4か月程度で実現できた。

(2)米国観光需要復興モデルを日本観光産業に導入する

 この米国経済復興が観光産業需要復興に先導された点を鑑みると、日本の場合も同様な観光産業主導の経済復興の可能性はあるが、それは個人給付金による日本人個人によるリベンジ消費という内需ではなく、むしろインバウンド客の急速回復・急成長による外需主導の観光経済復興となる可能性の方が高い。その場合は、現在の非正規女性収入を米国の60%ではなく100%上昇による年収倍増を実現させて労働力を確保し、米国同様にオーナーは人件費増加分は全て小売価格に転嫁する事で経営危機を乗り越える方向性に向くべきである。正規職員にも米国同様年収ベースで30〜40%の増加を実施し、小売価格に転嫁して売上が前年比20%強も増加すれば全ての営業費用増を吸収して当期利益同額は確保できるのは米国ホテル統一会計基準でシミュレーションすれば明白である。
 同時期にMICE受け入れ可能な市区町村や都道府県では、自分の地域の観光インフラを俯瞰してMICEのどの分野ならば追加設備投資無しに招聘可能かを判断し、地域DMOを利用して、MICE特定分野の誘致活動を開始し、海外からのインバウンド客が参加するイベント獲得の実績を少しずつでも積み上げていくのが未来に繋がる先行投資となる。2‐(2)で指摘した日本固有の非正規女性待遇問題は日本人国内需要では何ら解決は出来ないが、インバウンド客による需要増による労働力不足状況を正しく「職場の魅力不足問題」という待遇面の劣悪さで捉えて、インバウンド客観光消費によって、40年間放置されてきた低賃金の構造的問題を急速に是正する事が地域観光経済を力強くする事に直結する。

(3)世界情勢を俯瞰した機会を掴む戦術

 2024年、パンデミック後の世界学術会議・展示会情勢を見ると、実は日本には未曾有の機会が存在する。それは北米諸国が軒並み敵対国認識している国(イラン、シリア、ベネズエラ、北朝鮮、中国、ロシア、ベラルーシ、キューバ)だけでなく、カリブ諸国やアフリカ諸国に対しても入国ビザの発給を遅らせている事が顕在化したことである。その結果として従来北米(カナダ・米国)にて開催していた年次国際会議の参加者が目に見えて減少しており、米国・欧州系の出版社や学術誌発行元が北米以外での国際会議開催を好むようになったのである。欧州大陸(オランダ、フランス、ドイツ)等でも十分それら会議は開催できるが、欧米以外で政情が安定し通信も行動も自由な先進国は日本が筆頭である。ロシアのウクライナ侵攻と中国の台湾海峡への脅しが継続する限りは米国大統領に次の選挙で選ばれた政権が任期満了するまでの今後5年程度は、日本での学術・国際会議や国際展示会、MICE分野には追い風が吹く環境が継続するであろう。
 もちろんシンガポールや韓国も当然、このような傾向は把握していると思われるが、香港でさえも敵対国の関係で少なくとも米国をベースとする研究者は往訪を躊躇うし、中国本土入国は論外という状況で、シンガポールや韓国と比較しても、会議後に国内観光をしてみたい魅力度の観点では圧倒的に日本は有利な立場にある。今後5年間、2030年までの間にアジアでのMICE市場シェアを意識した国家戦略を打ち出せば、世界に吹く追い風に助けられてより成果が出やすい時期にいる世界情勢における日本の立ち位置を理解したい。