伊那市立高遠町図書館
地域の情報と人のつながりを再構築する
伊那市地域おこし協力隊 諸田和幸
諸田和幸(もろた・かずゆき)
伊那市立高遠町図書館勤務時代に「高遠ぶらり」プロジェクト事務局や高遠ブックフェ
スティバル企画・運営など、図書館と地域をつなぐプロジェクトに参加する。
2019年から、伊那市地域おこし協力隊とし伊那にUターン。 現在は伊那市の教育の魅力の発信をミッションとして活動中。 また、引き続き地域プロジェクトの企画・運営などでも活動中。

 伊那市立高遠町図書館は1986年にオープンした。2006の合併により伊那市立図書館は伊那・高遠町の2つの中央館と8つの分館で、地域情報拠点として運営している。
伊那市立図書館では「伊那谷の屋根のない博物館の屋根のある広場」をキャッチフレーズに、目の前に広がる自然の中に残された歴史資産や自然遺産を活用する活動を行っている。
この活動のベースには、高遠町図書館に所蔵されている高遠藩時代の古文書や絵図などの資料を自由に活用・表現する人々を増やしたい、さらには情報を発信することの重要性を実感する
〝場〞を提供したい、との思いがある。
これらの資料や自然を活用したプロジェクトの中から、「高遠ぶらり」「高遠ブックフェスティバル」「高遠文芸賞」について紹介したい。

図書館所蔵の古書を活用した「高遠ぶらりプロジェクト」
このプロジェクトは、2011年に伊那市立図書館と市民団体が共同制作した、携帯端末用アプリケーション(以下:アプリ)「高遠ぶらり」の公開を目指したのが始まりだ。
このアプリは、古地図や観光地図などの上にGPSの現在地情報を表示させ、その上に表示されるランドマークピンをタップすると、史跡に関する記事や写真、観光情報が表示されるセルフガイドツールだ。
だが、このプロジェクトは、単にデジタルツールを制作することを目標にしていない。参加者が街歩きをしながら地域を〝知る〞ことに重点を置き活動している。
プロジェクトのオーナーは図書館だが、アプリの制作・改定に向けた街歩きワークショップや情報追加などの企画運営を担うのは、市民団体「高遠ぶらり制作委員」である。この委員会が、誰もが情報収集や編集に参加できる〝場〞を用意している。制作を通して情報リテラシー向上、地域課題の掘り下げ、二次利用できるプログラムを提供しているのだ。
現在、ワークショプの参加者は600人ほどにのぼり、アプリは2018年末の段階で8万件、54カ国でダウンロードされている。
アプリのコンテンツは「高遠ぶらり」のほか、江戸時代に高遠藩下屋敷があった新宿御苑周辺を案内する「内藤新宿ぶらり」や伊那谷文化園の情報を収めた「伊那谷ぶらり」などが追加され、関係地域の情報を多面的に知ることができるアプリとプロジェクトに発展している。

 

地域住民と図書館が主催する「高遠ブックフェスティバル」
2008年に第一回が開催されて今年で11年目を迎える高遠ブックフェスティバル。当初は、地域外の人々が始めたものだが、2012年からは地域住民主体の実行委員会方式となり、高遠町図書館が企画や出店者の調整を、実行委員会と共に担当している。
9月の3連休に開催しているこのフェスティバルは、3日間で来場者数1500人規模と決して大きなものではないが、地域内外の出店者や来場者と地域とつなぐことで、商店などとの関係人口を醸成し通年で訪れる人を少しずつ増やしている。
また、このフェスティバルを通して古書店と図書館が繋がり、古書市場の情報や資料の紹介を受けたり、散失の恐れがある地域資料の保存へ向けた活動を広げることができている。厳しい予算の範囲内ではあるが、これまで見逃されていた古書などの補完につながる活動にもなっている。

まちの再発見につながる「高遠文芸賞」
2018年に、高遠ブックフェスティバル10周年を記念して創設されたのが、高遠をテーマとした文学作品を募集する「高遠文芸賞」だ。それまでは本を買うことやワークショップに参加するといったインプットの多い企画であったが、そこに文芸賞というアウトプットプログラムを追加することにより、観光で訪れ方々に自分の感じた高遠を表現してもらう手段ができた。地域にとってありふれた風景が観光と繋がり、訪れた人々との関係を維持し、地域外への露出増を目指す取り組みでもある。第一回の文芸賞への応募は46作品。県外からの応募も多く見受けられた。
また、このプロジェクトは、文芸賞作品を含め、地域のオーラルヒストリーをアーカイブし、「まちのほん」を制作することもミッションのひとつに置いている。本自体は販売せず、地域を代表する製本会社との連携により製本ワークショプとして自分で製本してもらう。そうすることで、地域への興味を増やしてもらうことも狙いのひとつだ。
高遠町図書館の関わるプロジェクトは、本やデータをまとめ、〝情報〞とすることで、これまでの「情報と情報」「情報と人」「人と人」の繋がり方を再構築しようとする試みだ。こうした活動は図書館をハブとした人や団体、施設などの交流を促し、地域観光資源発掘にも寄与できるものと思っている。