“観光を学ぶ”ということ ゼミを通して見る大学の今

第11回立教大学観光学部
羽生ゼミ
パンデミックという、これまで経験したことのない状況下でも、学生達の中には様々な活動に工夫して参加しているものも現れている。教員側の模索も続く。

立教大学観光学部におけるゼミの位置づけ

 立教大学観光学部ではゼミは2年次から履修が可能となっており、現カリキュラムでは「演習(2年)」「演習(3年)」「卒業研究指導」という科目名となっている。科目の位置づけとしては「学部自由科目」に含まれており、必修科目や学科選択科目と比較すると卒業の要件単位としてどうしても取得しなければならないものではない。しかし、2年次には全学生の8割程度が履修する、学部の教育において重要な科目の一つである。観光学部に所属する教員の専門は多くの分野にまたがっているが、ゼミにおいては各教員の専門性や独自性が大いに発揮され、また学生にどのような学びや機会を与えていくか、個々の考え方によって運営が大きく異なってくる。本学部には観光学科・交流文化学科の2学科がある。筆者は観光学科の所属であるが、ゼミはいずれの学科からも参加可能である。学部には一学年370名程度の学生が在籍し、それが20数名の教員のゼミに分かれていくことになるため、ゼミの一学年は10数名程度が所属している(この人数はゼミや年度によっても異なる)。学生数が多くどうしても講義が大人数となる本学部において、ゼミにおける学生一人一人と対話は、筆者にとって、本学の学生がどのようなことに関心を示すのか、またどのような行動スタイルを持ち、社会との接点をどう考えているのかについて理解する重要な機会になっている。

ゼミテーマ
「地域の課題発見と解決方法の提案」

 本ゼミでは特に「地域」側に着目し、観光を通じてより良い地域づくりにつながるための「課題発見ならびに解決策の提案の視点を学ぶ」ということをテーマに掲げている。そのために、調査や研究の方法を自ら考え実施していくことや、観光の現場で自らものを見る・考えるといったことを身につけるとともに、もっとも重要なこととして、ゼミ生同士の共同作業を通じて自らの考えを相手に伝えることや、議論の進め方を学ぶということを目指している。2年、3年次には文献調査と現地調査、個人作業とグループ作業を織り交ぜながら年間を通じて複数の課題に取り組んでもらっている状況である。また、地域の課題発見と解決策の提案に向けて、2年次では基本的に「観光地の魅力要素について調査」を、3年次では「対象地についての課題発見、解決策の提案」を課題としている。その対象地としては、例年は夏季休暇中に実施するゼミ合宿の訪問先であるが、別途、日帰りで訪問が可能な地域を指定し、グループで日程調整し調査を実施してくることもある。
 特にゼミ合宿では、対象地についてのおおよその調査テーマを定めた後、グループ別に調査計画を立案し、先方に連絡を入れ、実施するところまでを学生に行ってもらっている。日程的な制約もあり、なかなか深い調査まで行えないのが実状ではあるが、それでも準備から調査実施、成果とりまとめまでを行うという経験はゼミの活動ならではと言える。こうしたグループ作業を通じて行った活動を踏まえ、4年次は個々にテーマを設定し、卒業研究を行っている。
 観光学科の教育目標は、観光が現代社会に果たす役割とあり方を理解し、ビジネスや地域社会において活躍する人材を育てることであるが、自らが「よき観光者」となり「責任ある観光」の実践に貢献することも重要なことである。そのため、ゼミ活動においても、他者の関心や行動を理解し、さらにはそれがどのような場で行われているのかについても目を向けてもらうことを心がけている。夏季や春季の長期休暇の後には、一人一人にどのように長期休暇を過ごしていたかを報告してもらっている。もちろん、話しづらそうだったり、ごく簡単な紹介で終わらせたりする学生もいるが、中には非常にユニークな経験を紹介してくれるものもいる。こうした経験談の「面白いポイント」を深掘りしていくことが休み明けの恒例行事である。筆者にとっては学生ら世代を理解する上で重要であるが、それだけではなく、互いの価値観に深く掘り込もうとしない学生達にとって「異なる価値観を理解する」「俯瞰的に現象を掴む」ということに接する機会となればと思い続けている。

コロナ禍におけるゼミ活動

 さて、本稿は筆者のゼミで通常行っている活動を報告するのが趣旨ではあるが、この2ヶ年にわたる新型コロナウイルス感染症の影響下でのゼミ活動や、学生の動きについて記録に留めておきたいと思う。
 2020年度、本学では春学期が3週間遅れで、全面オンラインでのスタートとなった。他学も同様であろうが、感染拡大の状況に応じて制限が緩和されたり厳しくなったりしながらも、2021年度もほぼ同様の状況が続いている。前述の通りゼミにおいては学生同士の議論や、実際の観光の現場に赴き、そこで見聞きし考えることを重視してきたが、こうした活動が大幅に制限されることになった。こうした中で、まずオンラインでどこまで調査研究が行えるのかを様々な課題を通じて学び取っていくことを促し、さらにオンラインでグループワークも行ったが、成果としてはやはり教室での議論にはるかに及ばないものであったと考える。大人数で行動ができないことから、2020年度、2021年度のゼミ合宿は実施できておらず、また親睦の機会がほぼ無い状態である。学生個々を見ると、キャンパスに来られないことに不満を有しているであろう学生がいる一方で、オンラインでの受講に慣れむしろキャンパスへの来学を負担に感じるような学生も生じてきたように思う。現3年次生の中にはゼミに所属した当初からオンラインが長く続いてきたことから、ゼミ活動への参加意欲を低下させていったものもいた。パンデミックというこれまで経験したことのない状況下で、それでも学生の学修に最善を尽くす義務がある教員として、十分な対応をできなかったことは大変申し訳ない思いである。また、改めて、ゼミ活動は学問の知識や調査研究の方法を取得するだけではなく、二十歳前後の感受性が豊かな時に多くの人々と交わることで、自己を確立し、社会人として巣立っていくための基礎的な力を身につけていく重要な役割を有していることも再認識している。
 こうした状況下ではあるが、学生達の中には様々な活動に工夫して参加しているものも現れている。部活動やアルバイトはもちろんのこと、その他にも、企業が主催する観光に関する学生コンクールへ有志グループで参加するもの、旅館業に興味を持ち住み込みで働きながら活性化策を模索するもの、コミュニティカフェの運営に携わろうとするもの、友人同士で地域のPR動画作成を行ってみるもの、パラリンピックのボランティアに参加するものなどがいた。また、感染予防を心がけながらの旅行や余暇活動ということで、流行りのキャンプに参加してみるもの、徒歩で東海道を制覇するもの、一人旅を試みるもの、ジムでひたすら体を鍛えるものもいた。コロナ禍により観光や消費活動がどう変化し、今後どのように推移していくのかは社会の大きな関心事であるが、ゼミ内で学生個々の話を聞いていることで、若者の嗜好の変化の一端を知ることができたと思う。
 この間、文献購読の他に課題としたのは、「コロナ禍の下での観光地の実状と対応策」「緊急事態宣言下での人々の余暇活動」「東京の水辺の空間整備と利用状況」といった内容である。一点目、二点目については、観光業が苦境に置かれている、人々も制約の中で困難な目にあっている、という一般的表層的な理解ではなく、観光や余暇の現状についてできるだけ正確な情報を入手し消化するということに努めてもらった。まだ制約下ではあるのでコロナ禍に関する総括は行えていないが、学生達がこの逆境の中でここから先に向かってどのような「学び」を得たのか、ゼミの中でもぜひ確認したいと思っている。

これまでにゼミで参加したプロジェクト
 最後に、これまでゼミ活動の中で地域と連携して行ったプロジェクトのいくつかを紹介したい。

① 「#たいとう愛」キャンペーンに対する提案

 2020年、コロナ禍で区内の商業施設が苦境に立たされている中、台東区が始めたインスタグラムでの情報発信について、SNS世代である学生達に使い勝手や改善点についての意見を求められたものである。ちょうど感染状況が落ち着いていたこともあり、グループごとに「#たいとう愛」に掲載されている情報を見ながら実際に現地を訪れて、店舗を周りながらキャンペーンの効果を高める方策提案を行ってもらった。
 普段からツールを使いこなしているだけあり、非常に具体的な提案がいくつも出された。例えば、インスタグラムの機能の一層の活用(ストーリーの通常投稿、広告投稿、リールの活用、質問・アンケート・クイズ機能の活用)、現地における地名度アップのための方策(ポスター作成、観光マップ等への掲載、協力店舗でステッカー掲示等)、さらには本キャンペーンのターゲットに合わせた情報の発信や、「台東区」ではなく著名なエリア別の情報の発信などである。すぐにでも対応可能なものも多い、ということでキャンペーン担当者には提案を活用していただけたものと思う。

② 陸前たかたコミュニティ大学への参加

 岩手県の陸前高田グローバルキャンパスにおいて、立教大学の主催により地元市民の方々へ提供されるプログラムにゼミ合宿の一環で参加したものである。本学は2003年以降、陸前高田市と林業体験プログラムを通じて交流を続けてきたが、東日本大震災後に同市を重点支援地域とし、災害復旧ボランティア、スポーツ交流、スタディ・ツアーなどの交流事業を行ってきた。2017年10月には岩手大学と共同で、同市の廃校を活用した「陸前高田グローバルキャンパス」を開設し、本学関係者の活動拠点として、あるいは一般団体の研修の受け入れや市民の活動の場として提供している。2019年の市民向けプログラムは、新座市内の企業の方を講師に迎え、太陽光発電パネル付LEDを用いた発光装置を工作し、クリーンエネルギーやSDGsの重要性に触れるというものであった。学生もこれに加わり、地元の方々との交流を深めた。また合わせて施設運営を委託されているNPO法人の職員にヒアリングを行い、施設利用の実際や課題を明らかにし今後の有効活用について検討を行った。

③ 立山町インターカレッジコンペティションへの参加

 富山県立山町が主催する大学生による地域活性化策を競うプレゼンテーション大会へ2016年にゼミとして参加した。同コンペは2012年から立山町が力を入れて実施しているものであるが、ゼミ合宿を兼ねて全員で町内のフィールドワークを行い、立山町の地域活性化策を練っていった。主な課題として「町に活気がない、人通りが少ない」「メインとなる魅力がない」を指摘し、活性化策として「サイクリング×グランピング〜昼の静閑 夜の囁き〜」と題して、町内サイクリングや星空の下でのグランピングを中心とする提案を行った。参加した9大学13チームの中で上位7チームに選ばれ優秀賞を獲得したものの、残念ながら最優秀賞とはならなかった。表彰された他の発表と比較すると、実現性の観点での検討が不十分であることと、大学として立山町へ参与していくという面が弱かったものと考えられる。しかしながら、立山町が年々力を入れて取り組んでいる大学との連携の一端に触れられたこと、また他学の学生の成果と自らのものを比較することができたことは学生にとっての良い経験となった。

羽生冬佳(はにゅう・ふゆか)
立教大学観光学部 教授。東京工業大学工学部社会工学科卒、同大学院理工学研究科社会工学専攻修士課程修了。博士(工学)。(財)日本交通公社、東京工業大学大学院情報理工学研究科助手、国土技術政策総合研究所研究官、筑波大学大学院人間総合科学研究科准教授等を経て、2012年立教大学観光学部准教授、2015年より現職。専門は観光計画、地域計画。著書に『観光の事典』(共著、朝倉書店、2019年)、『観光の新しい潮流と地域』(共著、放送大学教育振興会、2011年)など。公益財団法人
東京都公園協会理事、公益財団法人日本交通公社専門委員の他、自治体の観光振興に関する委員を歴任。