特集③-❶ 京都信用金庫 地域の価値創造を目指す「おせっかい バンカー」

「あたたかい金融」で目前の課題を柔軟に解決

―約3年に及ぶコロナ禍も収束してきたと言われますが、その間、取引先の観光関連の事業者に何か変化は見られましたか。それに対し、どんなサポートをされてきたでしょうか

 当金庫は地域に寄り添う「あたたかい金融」を目指しています。旅館やホテルは設備の減価償却が毎年必要ですが、コロナ禍で売上げが激減したところが大半でした。この3年、苦境に面した多くの事業者様を、私たちは実質金利ゼロ、保証料ゼロのいわゆる「ゼロゼロ融資」で下支えしてきました。
こうした金融サービスを提供するだけでなく、私たちは「おせっかいバンカー」と自称し、一人一人の職員が汗をかいて地域の課題解決に向けて取り組んでいます。
 例えば、京都市内のある蒲鉾を取り扱っているお客様は比較的年配のお客様が多く、年齢層の偏りについてのお悩みを職員が聞いていました。若者に人気のチーズ入り商品を増やしたいけれど店主自身はチーズが苦手で商品開発がうまくできない、という話を聞いて始まったプロジェクトです。融資の相談だけでなく、情報や人をつないでサポートしようと店舗職員でチームをつくって取り組んだ結果、誕生した新商品がSNS映えする形であり、狙い通り若いお客様の来店も増え、非常に感謝いただくこととなりました。
 九条支店ではまさにコロナ禍中にグルメガイドブックを作成しました。同支店が位置する京都駅の南側は、ホルモンがおいしいお好み焼き屋さんなどユニークな飲食店が多いのですが、コロナの影響で客足が遠のいたとのお話をお聞きし、立ち上がったプロジェクトです。店舗職員全員でお店への訪問や取材を行い、グルメガイドブックが完成しました。飲食店さんからは、お客様が増えたのはもちろん、飲食店同士の横のつながりもできて嬉しいというお声が届いています。 
 祇園祭を支援するクラウドファンディングは、祇園祭の運営を担う公益財団法人様から当金庫の朱雀支店が融資の相談を受けたことがきっかけで始まったものです。近年観光客が増えるほど警備費が巨額になり、「持続不可能」なお祭りになっていました。融資するだけでは抜本的な課題解決にはならないと考え、地域にとってより持続可能な形をとクラウドファンディングをご提案したのです。思い切って始められたところ、「娘が京都の大学でお世話になって」などと共感くださる人の志が続々と集まり、2023年の寄付総額は約1600万円に上りました。そのリターンの一つとして、当金庫では河原町御池にあるビル「QUESTION」(2020年築)を山鉾巡行の観覧席に提供したほか、山鉾の曳き手や、辻回し(山鉾の方向転換)のお手伝いにも職員が参加しています。

サステナブルな事業とまちのあり方を地域で見出す

―コロナ禍前後に京都信用金庫様のなかでの変化はあったのでしょうか。新たに導入したことや、逆にやめたことは?

 おかげさまで2023年9月に当金庫は創立100周年を迎えました。リモートワークの導入やペーパーレス化は加速したと思います。機械ができることは機械に任せ、人にしかできない「お節介焼き」により他の金融機関にはない価値をつけようという方向性が、鮮明になってきたと言えます。
 一番大きな動きは、先ほども話に出たQUESTION のオープンです。この施設は8階建てのビルに「お節介焼き」のコミュニティマネージャーが常駐しており、地域のネットワークを生かし様々なジャンルの人が力をあわせ課題解決にあたろうという共創施設です。
 地域にとってソーシャルグッド(地球環境や地域コミュニティなどの「社会」に対して良いインパクトを与える活動や製品・サービスの総称)なことに挑む事業者様をもっと知ってもらおうと、京都北都信用金庫、湖東信用金庫、龍谷大学と協同で、「ソーシャル企業認証制度 S認証」を創設しました。またアートの街・京都で、コロナ禍によるアーティストや小劇場の危機的状況を打破するため5団体と共にB A S E(Bank for Art Support Encounters)も立ち上げています。
 社内ではチャレンジ副業制度を2022年1月に開始しました。僧侶やサッカーチームの監督、中小企業診断士など、社会貢献をしたり、自らのスキルを上げたりするための副業を認めるようにしています。
 そして「京信人材バンク」という複業人材シェアサービスも始めています。まちをまるごと一つのオフィスと捉え、例えば元・客室乗務員で語学力を活かせる人、普段は企業のIT開発者で地域の中小・零細企業のためにも役立てる人など様々なタレント人材と、人材不足で困っている会社をマッチングしています。
 ただよく話を聞くと、人手不足が問題の本質ではないこともあります。例えば、これまで手書きだった経理作業に最新のソフトを導入するといった業務の効率化で課題が解決することもあり、デジタル化支援の部署につなぐケースも多いですね。

―お金を貸すだけでなく、事業者が目指すサステナブルのあり方を分析し、人材バンク活用やデジタル化支援など、多様な提案をされているのですね

 こういうことができるのも、営業ノルマがなくなったおかげです。当金庫も以前は月末となれば〝お願い営業〞をしているケースが多かったのですが、2017年に営業ノルマを廃止しました。オーバーバンキングと言われる時代、地域に必要とされる金融機関であり続けるためには、お客様の暮らしや事業、地域の社会課題を解決する金融の実践が必要だと、私たちは考え、「職員一人一人が地域の皆様に寄り添い、人と人、事業と事業をつなげるコミュニティマネージャーとして、地域の新たな価値の創造とコミュニティの更なる発展に貢献する」という理念を掲げています。まだまだ道半ばですが、とくに若い職員はお客様のお話を自主的に聞いて支店内で共有し、チームで動くことが自然とできるようになってきています。

未来を拓く具体的な方策をともに練る

―現在、主に取り組まれていることはなんでしょう

 国の「事業再構築補助金」の申請や採択後の支援に多く取り組んでいます。例えば旅館がグランピング施設を開くなど、コロナ禍で苦境に立たされた事業者様が、業態を少し変えたチャレンジを支える補助金で、申請書類では業態変化で期待できる具体的な改善点をロジカルに説明する必要があります。中小企業の社長さんだけで補助金の計画書を策定するのは困難ですので、それを私たちが支援しています。
会社の未来の話を社長としっかり行って、進むべき方向性を共有する―それができてこそ、私たちもご融資できますから、当金庫にとって大切な営業活動でもあります。

―今後の京都観光のあり方や、地域経済における観光の位置づけはどう捉えられていますか

 オーバーツーリズムのイメージが大きくなっていますが、逆にこれだけの観光客が来るほど、京都が世界に誇る観光都市だというのも事実です。私たちはこの魅力を大切にしつつ、観光課題の解決につながるDXやサービスを開発するスタートアップ企業などとも連携し、経済を育んでいきたいと考えています。
 文化財の継承もしにくい昨今ですが、高台寺でのねね(豊臣秀吉正室)が住んだ小方丈再建プロジェクトでは、クラウドファンディングを祇園支
店の職員が提案し、若い僧侶と職員が一緒に取り組んで、無事成立しました。
 京都は変わらないのがいいところだと言われますが、継続するためにはやはり変わっていく部分も不可欠だと思います。持続可能な京都のまちづくりに、当金庫も地域の「おせっかいバンカー」として、一層力を注いでいきたいですね。

○聞き手:門脇茉海(JTBF)・福永香織(京都市観光協会)


企業成長推進部課長
満島孝文(みつしま・たかふみ)